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「本当に痛くないんですね、すごいなあ」
「喋ると数字が増えちまうぞ」

それはさすがに困る、のか笑顔ながらも口を噤んだ。

メモをこまめに確認しながら小刀の先を軽快に入れる。

「………よし、終わった。見てみろ」

手鏡を見るなり驚く被験者。

「2510?!」
「いやいや、鏡だから。逆だ。ちゃんと17だろ」
「あ、そうでしたね!」

ローマ数字の17であるXVⅡを頬に刻まれた男はにこやかに答える。

「VIXIって彫ろうか一瞬悩んだけど真面目に注文通りにしたぜ?」
「ありがとうございました、ところでそれは
どういう意味が含まれているんです?」
「ある国の忌み数をもじったもんだよ。」
「忌み数ですか、なるほど。
貴方は物知りですねえ!」

忌みと言われて尚この笑顔。
こいつは大物か或いはただのアホなのか。

「末尾No.17は今は最新とは言えよぉ
それともお前は箱入り息子的な扱いかぁ?」
「ええっ?!そんな事は。
僕はむしろ外出ばかりで家はありませんよ。ここは仮住まいですし」

ここは高い高〜い階層に位置し
山のように積まれた贈り物で部屋中溢れているVIPルーム。
これが間借りとは驚きである。

「お前な、外っつったって外は広いんだ。
定められたエリアにしか動いてねえならそれも箱さ。」
「貴方は自由にお過ごしで?」
「そりゃあもう。
だって決まった所に彷徨いていたらすぐに捕まっちまう。」

額に貼っていた札を剥がす。

「この商売道具のせいで、自由も不自由もしてるのさ。」
「あ、ちょっと頬がじわじわ痛んできましたね!」
「おっと、ちょっと剥がすの早かったか?」
「大丈夫です、我慢できる痛みなので!」
「ふふ、食屍鬼はそうじゃないとな。」
「ところで、ラピスラズリさんは
ナンバーおいくつ何でしょうか?」
「14だ。不完全さを表す、な」
「わあ、じゃあ僕の3つ先輩なんですね!
ところで不完全ってどういう事ですか?
お仕事を完遂したじゃあないですか!」

思わず吹き出す。
眼鏡のブリッジを鼻に食い込ませんばかりに強く指を当てながら……

「く……くく……なんかお前、クセになるな。」
「?」
「まあいいや、その程度で先輩だなんてかた苦しい事は言うな。
さん付けもしなくて良い。
ルチル、酒はあるか?
なんかお前と無性に飲み交わしたい気分なんだよ。
金は出すからよ。」
「ええ、お酒ならたくさんありますよ!
所で僕はすぐに飲んでも大丈夫なんでしょうか?!」
「飲んで確かめてみようぜ。」

忌まわしい存在同士
まるで昔からの仲のように
すぐに打ち解け合い
その日からルチルとラピスラズリは友人関係となったのだった。
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「お前、ガタイ良いけど何処で喰ってきたんだ?
やっぱり戦場か?」
「え?食事なら屋内でしますよ?」
「そ〜〜〜じゃなくてっ
肉だよ、人肉!
どんだけ喰ったんだ?」
「はあ、人のお肉ですか?
どうでしょう、わかりませんねえ。」

どうやら本気のようだ。
間食以外の飲食物は管理されているらしく
様々な手のこんだ料理を差し出されるが
例えば肉が何の肉かは説明がないし
得体のしれないペーストの塊を出された事もあるそうだ。

「なんでも美味しかったんで
何を食べてるかは気にしていませんでしたねえ」
「留めろよそこは、やれやれ…」

と、酒のアテが欲しくなった所である事を閃いた。
というよりただの提案なのだが

「ちょっとツマミを持ってくるかな、私のオススメだぞ」
「何でしょう?是非お願いします」

にこにこと見送るルチルを尻目に愛剣片手に外に出た。

……ほんの20分もかからないうちに戻った。
空いていた方の手に持っていたのは
それはそれは真っ赤な風呂敷である。
赤過ぎて最早黒ずんでいる。

ルチルの目の前で落とした風呂敷は
ぐちょりと鈍い音を立てながら、ゆっくり広がった。

「これがおつまみですか?」
「そうだ、レバ刺し」
「へー!初めて聞きました、どうやって食べるんです?
ぬるぬるしていそうだからフォークが良いですかね?
それともお箸が良いですか?」
「フォークだな、これは脂身も多いから滑っちまう」

麦の風味が強い高級感ビールを片手に
もちもちとレバ刺しを喰らう男2人…
味の感想は好評であったが
そもそもルチルは否定的な意見を出せるか怪しい所ではある。
だが今は、そんな些細な事はどうでも良かった。
楽しませる事が楽しかった。

お互い、新たに得た感覚に酔いしれていたのだ……
「ところで、あの御札は何処でご購入されているんですか?
素晴らしい物ですから、さぞかし入手困難なのでしょうねえ」

当然の疑問を投げかける。
普段なら適当に流すのだが、気分が良いので答えてやった。

「そりゃあな、安くはないぜ。
さっきも言ったがこれは私の商売道具だ。
だが費用と言えば紙代だけさ。技術代はタダ。
何故だと思う?」
「もしや貴方がお作りに?」
「当たり〜。そうだ。」
「それは素晴らしい!
画期的な性能じゃあないですか!
一体どうやってお作りになられているのです?
字が難しくて読めはしませんが
この青い字が達筆な事だけは僕でも判りますよ!」

判らないのも無理はない、古代由来の字を
私の癖の強い書体で書き殴っているのだから
有識者でも読めるのはほんの一握りだ。

愛剣を取り出し、その刃を徐に腕に食い込ませる…
皮膚を裂き、筋を絶つ。
当然出血をするが、其処から後は常人とは異なる。

「青い、液体…?」
「血だよ。私の異能でこうなる。
青いだけじゃあない、これで書いた札が
苦痛を忘れさせる札となる…」

懐から取り出した紙に、青い血塗れの指を走らせる。

「『蒼い心臓の護符(ハートフルハームフル)』だ。
お前に一枚サービスしてやろう」
「わあ、ありがとうございますっ」

喜んで呪いの札を受け取るルチル…

「……で、……なんですが…」
「え?聞こえねえぞ」
「え?ですから…………」

妙だ
ルチルが急に声が出なくなったわけでもなさそうだが
声がこちらに届かない。

「………と思って、如何でしょうか?」
「何を………あ……」

段々激しくなる耳鳴り
徐々に狭くなる視界がフェードアウトすると
意識も同様にフェードアウトした。



ラピスラズリは失血による貧血を起こして、その場で気を失ったのだ。
加減と切る箇所を誤り、急激な失血をしてしまった結果である。

訳も判らず、声を掛けたり揺さぶったりもしたが
応答のない相手に対してルチルが出した答えは………

「寝ちゃったんですね!
ベッドまでお運びしましょう!」

止血というよりかは
血が周囲を汚さぬようにといった感じに大雑把に腕に布を撒いて
ベッドに横たわらせた。

「おやすみなさい、ピース。」
目が覚めたら其処には

「ぎゃー!!目玉妖怪?!」

ルチルではなく、この世で一番目を合わせたくない奴が何故かいた。

「貴様、普段から私をそう呼んでいたのか?」
「あ〜…あぁ、言葉のアヤってヤツ?
真に受けんなって……あ〜頭痛え…」
「それは受け手側の表現だ」

頭を抱えるふりをして視線を伏せる。
とにかく目を合わせたくない。
目玉妖怪とは言ったが、奴も食屍鬼だ。名はアイアゲート。
先に造られた個体で、異常な目の数と目力を備えた奴…
目を合わせたら終わり、体の自由を奪われる呪いに掛かる。

「……で、なんであんたがいるんだ。」
「いるも何も、此処は『いつもの』医務室だ。
貴様がいつまで経っても戻らんから、夜鬼に回収させた。
危うく失血死する所だったんだぞ」
「失血〜?」

そういえば、腕に刺さった見慣れた管で輸血を施されている。

「らしくないミスをしおって、ルチルの呪いが早速作用したようだな」
「ルチルの?そういやあいつ、どんな呪い持ってんだ?
あんたも呪術師って以外に前情報ろくに寄越さなかっただろ」
「かなり特異な呪いだ、術というより現象に近い。」

誰が名付けたか
『倹しい者への脈動(スプラージルチルス)』という
異能を、呪いを、無自覚で放ち周囲を巻き込む。
最高の富や最大限の力を齎し
一瞬の幸福や大勝利を与える替わりに
後に永続的な不幸をドン底まで与え続けるという。

「とんでもない能力だな。
言われてみれば私も専門家でもないのに
巧く事が進んだり饒舌になったな…」
「ああ、だからもうルチルに近づくな」
「……は?」

睨み合う。
こいつはいつもこうだ、勝手な事をほざく。
私がいつ何処で誰と何をしようが自由だ。
「ラピスラ〜ズリ」

間の抜けたような声で呼ばれた。

「いやあ、病床以外で会うなんてねえ。相変わらず顔色が悪いねえ。」
「スーさんには敵いませんね」

事実、青白い顔で腰曲がりで益々爺臭くなってきた。
スーさんこと大先輩スーパーセブン、相変わらず気持ち悪い笑顔で迫ってくる。

「鉄分足りてるかぁい?」
「レバー食ったばっかですから」
「や~っぱりまた人を無闇に襲ったな〜??」
「ぐぎゃー?!たんまたんま!!」

貧血上がりにヘッドロックはキツい。
古株食屍鬼の腕力は強く、この人も同様。
病み上がりでなくとも恐らく敵わない。

意識がトぶ寸前で解放してもらった。

「んもう、駄目だぞう。
アイちゃんに心配させちゃあ」
「ふん、スーさんが言ったって今回は特に譲れないですよ」
「君はルチルくんが相当気に入ったんだねえ。」
「そりゃあ、もう」

と、乗せられるように話し込んでしまった。
確かに、たった一夜飲み交わしただけなのに
この想い入れ様は何なのだろうか?
大先輩はうんうん頷き相槌を打ちながら静かに聞いてくれた。

「彼の事をよ〜く見ていたんだねえ」
「いちいち反応するから、見るのが面白くて
つい話題を振りたくなるんですよ」
「ふふ、良きかな良きかな…」

にちゃあ、と粘り気の強い笑み…
この人のこの表情は極めて愉快な気分の時の顔だ。

「彼の事を尋ねてもね
だいたい呪いの恐ろしさにしか触れられないんだ。
彼自身の事はあまり聞けないの。
でも良い子そうじゃあないか」
「良い奴ですよええ。
ちょっとズレた所もあるけど、でもアホなわけではなくて
情報や常識を与えられてない感じでしたね。」

思い返してみれば、あれだけ物に溢れた部屋だったのに
テレビや端末等といった情報媒体らしき物は見当たらなかった。
暇を持て余しそうな…いや実際持て余していたのだろう。

「彼も喜んでいたと思うよ。
戦の合間に絡んでくれる人もろくにいなかったみたいだしい」
「……戦?」
「あら、聞いてなかった?
まあ規模自体は大した事ないんだけどねえ
どちらかと言えば内輪モメが厄介な勢力に雇われてるんだ、ルチルくん。」

本人が言ったような言ってないような、その時は聞き流していた。

「もしかしたらあ、危ないかも」
「………どういった意味で?」
「ルチルくんの身が」
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