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【混合結晶に困惑する石膏】


「やあ、始めまして。君達が会頭エニア様からの御推薦の」
「どうも、お呼びがかかって光栄だ。『真赭の尾』のオパールだぜ、末尾は16」
「始めまして、『真赭の尾』のカルメルタザイトです。末尾は0」

賑わう街道、その一角。テーブル一つを占領していたのは食屍鬼達。
各自個性的な装いだが青肌と銀髪そして黒白目は同じ。
二人を人伝に呼び集めた個体はジプサムという者で特殊な環境下で生活…

「なんというか、俺の立場が災いしちゃったんだろうねえ。気楽に引き篭もれる〜と思ったらよ。
研究や生産に使う化合物とかがたまに届かない事があってさ。
一度や二度ならまあバイト君のかわいいミスだと思って見逃していたけど、2桁やられちゃったらもう、ね。」
「つまりぃ?」
「つまり、秘匿の存在である貴方だからこそ発生した人為的ミス…或いはミスに見せかけた横行の可能性が?」

ご名答。
ジプサムは鉱山の所有者にて、製造非公開の個体。末尾は53。
だから宛名を間違えるのは普通ありえなく、それが2桁も続いたらうっかりでは済まされないのである。
だが、うっかりさんを殴り飛ばすだけならジプサム本人でも出来るのだがそうもいかない理由もある。

「費用が嵩むだけなら別に構わないけど、相場が偏るイコール資源も偏るだからよろしくないし、犯罪があったとしてもぶっつり商売を切らせるわけにはいかんのよ。」

アザルシスの商売はひたすら自由。だが自由の中にもある程度の秩序は要る。
つまる所、今回の依頼は原因究明をしてやんわり鎮められないかという内容だ。

「経費も報酬も会頭がたっぷり出してくれるよ。頼める?」
「お任せください、動向を探るのは得意ですから」

片や犯罪者の気持ちが判る者、片やフラグ(個人情報)を覗ける者。
探偵顔負けの異能力者コンビは同胞の頼みを承知。


…………そして今に至る。
ここは国境が絶妙な位置にある鉱山。

「…の所有者である末尾No.53、ヒーラーズゴールド」
「誰だよ、思い出して噴いたら化けてても怪しまれちまうじゃねーか」
「それをこれから探りに行くのでしょう?手筈通りに行きましょう」

新米食屍鬼カルメルタザイトが先輩個体への挨拶を兼ねた見学を頼み込む間に、オパールが架空の坑夫や事務員に化けて事務所やらで物証探しをする。
アポ無しでも堂々入れるのはアザルシスの邑楽かさ抜きにしても、セキュリティの雑さが伺える…

「んん?誰だお前」

お前等、と言わない辺り化けが通用したのはまず判った。
所有者たるヒーラーズゴールドは極めて巨躯。
顔は、青肌と銀髪に黒白目と確かに同胞の特徴はあるが果たして。

「私はカルメルタザイトと申しまして…」
「あ!そうか新入りだなあ!
なんも聞いてねーけど、真っ先にオレの所に挨拶しに来たんだな!
気に入った、顔も良いが器量も良い!
よし付いて来い、オレの縄張りを案内してやろう!」

新入り?の肩を掴んで上機嫌で奥へ行く……


「あーあー、あったあった。明らかに此処で採れる物じゃねーから俺でも判ったわ。
でももう全部売約済み、しかも元値の4割増で横流し。ひでえ話だ」

あっさり事務所に侵入して端末から情報を色々盗み見ていたオパール。
パスワードは一番上の引き出しに入っていた合成紙にしっかりメモ書きしてあったのであっさり突破できた。此処は鉱山の収入と従業員の給与が伴っていないのだろう。
もうこれだけでもジプサムの荷物を盗み出した証拠になり得るのだが……
とにかく、日を跨いでから二人は鉱山を後にした。


「ゴールドさんがどうも私を気に入ってくださったらしく、色々と面白い事を聞けましたよ」
「セクハラ王の話か?それとも成金王か?」
「真面目に聞いてください、あと王と付ければ私が何にでも興味を示すと思ったら大間違いですよ」

ヒーラーズゴールドという名は製造番号含めて偽物。
黒人種の人間で『食屍鬼の顔を利かせりゃどんだけ金が動かせると思ってんだ。奴等判ってないのがムカつくぜ。だから俺は話に乗ったんだよ!』

「『白い境界に』と」
「げー、歯糞絡みかよ〜。まあ食屍鬼の嫌がらせするっつったら妥当か」
「そう、そして証言通りなら他の非公開の方も利用されていると」

食屍鬼は計65人いてうち6人が非公開の存在だ。

「許し難いですね。後の5名も暴いてやりたいです…!」
「おいおい、今回はともかく見返りも無いのに何か熱くなってんだよ…」
「兄弟達も話を聞いて疼いてますよ!」
「ああ…はいはい。とりあえずジプサムに報告な」

カルメルタザイトは、5人分の食屍鬼のなりそないをその身に宿して肉体と能力を得てやっと食屍鬼として認められた異形。
食屍鬼に対する想いはどの個体よりも熱い。
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【魅惑された魅惑石】

成果はあったらしく、やんわりと相場が戻ってきているようだ。
金銭のみならずジプサムと友好な関係を結べた事が何よりの収穫…

「あの方、すごい潔癖症なんですよ。外に出てくれただけでも信頼してもらえたのが伺えますね」
「ははーだからか、俺のがリーダーだっつってんのにお前としか握手しなかったの」

談笑をしながらまたテーブルを囲んで人待ちをしていた。
失礼の無いよう予定より一時間早くから…

「実績を経たとはいえ会頭エニア様から直々お越しくださるのは本当にすごい事ですよ。どんな方なんでしょうかね?」
「なぁにタダの色物ババアさ。でも下手な人外より長生きしてるしメンタル強いし…」
「あーらよく御存知ね★」

豪快に椅子から転げ落ちるオパール。
ご機嫌な星型サングラスの老婆…いや熟女が現れた。
彼女がアザルシスの商会の頂点であるエニアである。

「貴方達はモーちゃんからの推薦だったんだけどね、でもちゃんとジプちゃんの頼みを叶えてくれたみたいね。さすがだわ〜」
「モーちゃん?」
「モーシッシさんですよ、特殊な条件下で未来予知ができてその精度は私の異能を遥かに凌ぎます。凄い先輩からの御推薦ですよ!」

ご名答。モーシッシの主でもあるエニアは上機嫌だ。
今回もその愛する食屍鬼からの推薦である依頼となる。

「芸能商会の中心になってるトルネンブラ族は御存知?」
「音を生業にしてるんだっけか。楽器や楽譜作りが中心で『音』による暗号生成も売りにしていたとかなんとか」
「あら貴方詳しいわね。そうなの、正しく音を売っていたんだけどどうも最近妙に売れすぎてる楽器に苦言を出しているみたいでね」

売れてるなら良いではないか、と言うのは素人考え。
異形たる彼等は儲け度外視で生産をしている職人肌でもあり、それ故か許し難い事実に直面している。

「楽器を弾きもしないのに大量に買って、中には道中でバラバラにして捨てちゃった輩もいるんですって!」

アザルシスにおいて芸能を娯楽や生業にできる者はかなりの富裕層であり品位も期待できるのだが、それなのに確かに違和感がある。

「客もアレだが、売り子の方で問題ありそうだな。異形は作るだけ作るが、それを売って金に替えて且つ顔を立てるのが人間の役割のはずだ。それが人妖の信頼関係じゃねーのか?」
「そのとーり、それに黒い真似させるわけにはいかないのよね。『そっち』はギベちゃんの管轄だからあまり波風立たせたくないのよ」

顔色を変える二人。
ギベちゃんことギベオンは、あまり聞きたくも関わりたくもない大悪漢である。
つまる所、ギベオンの逆鱗を避けながら楽器の妙な売れ筋を調査してくれとの事。
トルネンブラ族は手先は器用ではあるが交渉においては不器用、そんな彼等に代わって打開策を見出さねばならない。


……というわけで売り子を捜してみて廻った。
オパールは購入者であるセレブな熟女に化け中。

「…あっ見てください、あの方!」

眼鏡を掛けた顔色の悪い食屍鬼がいた。
そして彼と談笑している売り子も顔色の悪い食屍鬼……

「いえ、売り子は食屍鬼ではありません。
ですが仲が良さそう?どういう事でしょう…」

少し揺さぶればわかるさ、と早速オパールが向かった。
やんわり割って入る形で、小話も挟み、小さめの楽器を選んで購入。
弦楽器、打楽器、管楽器…いづれも見事な造り、それをザイトに持たせすぐに退散。
顔色の悪い巨漢達は良い客を見送った事だろう。

「眼鏡の方はラピスラズリさんでしたね。経歴からしてトラブルメーカーのようで…
挨拶出来なかったのは惜しいですねえ」
「ろくでなしで一部界隈じゃ有名だ、関わらなくていい。あっちからもアクション無かったし仲間以外に興味無いんかも。
それはそうと俺はもう違和感に気づいてしまったぞ。
封を空ける際は密室で使い捨ての服装にしようぜ」

というのも、よく消臭は出来ていたが楽器からも売り子からも『薬物』特有の酸味の強い不快な臭みをオパールは瞬時に嗅ぎとっていたのだ。

「たまに公衆便所でよ、残り香がクソの臭いに混じっていたってのが何度かあったから俺には馴染みのある臭いだね。値段も中毒性も程々だったから広い層で使われて流行っていたが、取り締まったのか在庫がなくなったんだかいつの間にかフェードアウトしていたな」
「それがどうして楽器に…」
「どうしてって、内部や隙間に仕込んだ上で『吸う』動作を極自然に出来るから合理的じゃねーか。…まあそんな顔すんなって、お前の言いたいこたぁわかる。こりゃ職人や商人への冒涜だよ。」

持ち帰って検査を掛けた結果、すぐに反応が出た。
想定外の濃度にザイトは愕然とする。
人外基準の強い濃度で、人間が吸い続けたら即中毒、命に関わる。

「なんて事…!」
「ところで、ラピスラズリは共犯者だったりしなかったか?」
「いえ、彼は臓器売買のみで薬物には関与していません。耐性はありましたけど」
「あ、そう。んじゃひょっとしたら商売は偽物同士でやっていたかな。
…実はよ、先日見た鉱山の横流しリストの中に化合物以外にも色々あって、薬物や楽器もあったんだ。あいつぁそんな趣味無かっただろ?グルなんじゃね?」
「可能性は高いですね……」

さらなる調査のために後日再度訪ねたが、二人はすぐに引き返した。


引き返した理由含めてエニアに全容を報せた。

「まあルチルちゃんが来たの!」
「何ヶ月か前からラピスラズリが連れてきたみてえだ。まあダチをダチに紹介したんだろうな」
「そして、というかやはりというか、呪われていましたね……」
「あらあら、大変だわ。ちょっと奥まった所にいたから他の商人が少ないのが幸いだけど、彼には申し訳ないけど彼以外にはやんわり退避させないとね」

ラピスラズリにはルチルという親友にて同胞がいる。
頬にⅩⅦと掘った食屍鬼だ。
彼は近くの者に無自覚に呪いを掛ける異能力者でその内容は『瞬間的な多大な儲けと幸福感の後に、永続的な膨大な貧困と不幸に陥らせる』。
小悪党も大悪漢も呪いには敵わない。アザルシスの呪いは特別強い。

「食屍鬼チャロアイトと名乗る白人種の男性。末尾No.54を謳っていますが当然偽りです、何せ私達はその方を既に知っていますからね。チャロアイトみたいにバイトがてらに薬物を売ってるチンピラとは違います」
「で、売れだしたのは呪いのお陰か。んでもって多分連中は気づいてない、ドギツい栄枯盛衰劇だなこれは。化けの皮どころかケツの毛も亡くなるわ、なっはっは」
「ほっといても成敗されるみたいだし前以て知れて助かったわ〜、貴方達良い仕事するわねえ。顔も良いけど。私もモーちゃんも今後より一層推させてもらうわ。」
「『真赭の尾』をご贔屓に!」



【藍玉に圧倒される原石達】
トルネンブラ族達から感謝のメロディをオルゴールという形で受け取った二人。
聴き入りながら雑務に戻る事数週間…
突然の訪問者に意表を突かれる事となる。

「バーナクルさん?!」
「どこのダゴンかと思ったじゃねーですかい」
「食屍鬼だって。で、食屍鬼についてあんた等に尋ねたい事があってよう」

他の個体と大きく違い、脇腹に魚のような鰓、背中からは魚のような背ビレと尾が伸びている不思議な体型の食屍鬼である。
海域が彼の縄張りなのだが、アザルシスの海は汚染水域も水棲の異形も多い険しい領域だ。険しいからこそ外敵もまずいなかったのだが…

「見慣れない小舟がしょっちゅう行来しているって報せを聞いて見に行ったらよ、確かにいたんだ。何者か訪ねに行ったらめちゃめちゃ攻撃してきて近寄らせてくれねーんだ」
「鮫と間違われたんじゃね?」
「そう思って何度も叫んだり信号出したんだけどよ、そしたらなんて返したと思う?『こいつは食屍鬼、末尾No.55のアクアマリンだ!』って。本人じゃなくて銃持った白装束野郎が答えたんだ」
「はあ?水族館が動くわけねーしな?」
「わざわざ名乗って非常に怪しいですね。
しかしプロフェッショナルである貴方を近寄らせない実力者ですか…」

つまる所、『自称No.55の正体を探ってくれ』との依頼だ。
会頭エニアからの紹介でやってきたバーナクル、なるべく海の事は海の者だけで済ませたかったがそうもいかない危機感を肌で感じたようだ。

「せめて得体の知れない存在にはしないと、なるほど。調べてみましょう」
「頼むわー。俺調べ物苦手でよー」

二人は判っていた。彼は海から離れる時間が惜しいだけだ。
止血や痛み止め等の医薬品が衣服の下から若干匂う。
それでも海は見張っていたいし脅威は取り除きたいのだ。
彼に代わって陸地で思考を張り巡らせる二人…


「陸の物がルール違反したら益々海を利用できなくなっちまう。」
「それだけではありません。水棲の異形の下、深淵には邪神がいます。癇癪に触れて浮上されて津波でも起こされたら一大事ですよ」
「それは大袈裟だろ……と言いたいがそもそも当のNo.55って誰だ?」
「…実は言うと心当たりがあります。ルビーさんの手伝いをしていた時に偶々聞いた記憶がありましてね」

同胞ルビーの証言とザイトの記憶が正しければこうだ。
末尾No.55はウォーレン博士から造られた食屍鬼で、名はヘリオドール。闘うためだけに生まれてきたような存在で地下闘技場から出た事がないし出たがらない。地下闘技場の格闘王的存在でバトルジャンキー。

「地下闘技場を知らんのか、偽物ども…」
「お互い名が知れてない今の内に鎮めた方が良いですよ。闘技場の選手にもお客様にも困惑させてしまいますし、何よりヘリオドールさんを気に入っている博士が耳にしたらどう思うやら…」

どうも思わんだろ、と言いかけたが黙っておいた。


別の国も関わるので念の為、捕獲の大義名分として罪状を調べたが…
小船の窃盗、傷害或いは傷害致死…合わせてもほんの数件しか見当たらなかった。

「妙だな、実力者のくせにやってるこたぁセコい」
「言われてみれば……」
「もしかしたら特定の目的があるかもしれねえ。先日の偽物どもとは毛色が明らかに違うぞ。出現場所の範囲を定めようぜ」

目撃情報含め辿っていった結果……

『縢りの手』近海を中心に航海しているのが明らかになった。
その国は一度は滅び、名を改めた発展途上国だが、凄まじい早さで再興しており『赫怒の牙』とも協力体勢のある友好国である。
つまり国自体に悪い噂はなく、ましてや『白い境界』を泳がすような緩さもない硬派な国柄なのだが…


埒が明かないので直接会ってみようと、端末越しにバーナクルに協力を求めたが丁重に断られた。

「そもそも俺が頼まれたのそこからなんだ。
だけどな、画質は粗いがあれから数枚撮った画像があんだよ。あんたらの端末にコピー送っとくからよく見てくれ。参考になりゃ良いな」

送られた画像は数枚あったが、よく判らない内容が半分を占めていた。
というのも、画質が粗い原因でもあるのだが水飛沫が飛び交い、波紋で生じた振動によるブレだったりと、激闘が繰り広げられていたのがよく判る凄まじい光景ばかりだったからだ。

「水飛沫に血が混じってんな。相当な痛手食らってやがるぞ」
「相手は水を操る異能力者…?だとしても異様な強さですよ、この流れや勢いは……
神格とまではいきませんが非常に高度…!」

画像越しにフラグを探るのは難しいが、対象の写りの小ささ・粗さ、そして何より格の違いで困難を極めた。

「お前の異能でも探るのが難しいか、画見てフィーリングで推測するしかねえな。
…この白装束の後ろに立っている青いのがそうだとして〜
…なんか黄色い丸いの持ってるな。
……んん?なんか緑色の尻尾みてえのあるなこいつ??」
「確かにありますね、しかも複数本?……尾じゃなさそうですよ。触手です。
ほら、よく見ると船に巻き付いてしがみついてます。」
「異形か?!」
「なんとも…言えませんね…」

体型こそ異形だが食屍鬼であるザイトからの微妙な返事。
後天性の可能性も無きにしも非ず。

「とにかく、ヘリオドールと無関係の野郎ってことだけは判った。中間報告だけ済ませて保留にしとこうぜ。他にも偽物がいるんだ、回り道して調べ続けようや。きっと辿り着く」
「根拠は…?」
「決まってんだろ、勘だよ勘。テンション下がってんじゃねーぞ、世の中わけわかんねー奴と強え奴ばかりで一筋縄じゃ行けねえもんなんだよ。」



【黝方石を射止める透輝石】
招待された酒場で待機する二人。
狭い店内、常連の酒飲みがテーブル席を占領しているため、カウンター席の一角に座るのが精一杯。

「待たせたね」
「お冷がただの水になるとこだったぜ」
「失礼ですよ、まったく…!
初めまして、『真赭の尾』のカルメルタザイトと申します。末尾No.は0です」
「『真赭の尾』リーダーのオパールだ。末尾No.16」
「ほう、僕の直後に造られたのだな。初めまして、『縢りの手』の斥候ブラックスターと言う者だ」

目深に被っていた黒いキャスケット帽を取るとあらわになった顔は確かに食屍鬼だった。挨拶を済ませたらすぐに被り直し着席。

「噂はかねがね聞いてるよ。そこで君達に協力を頼みたいのだが、これは僕の頼みでもあり王の頼みでもある」
「おいおい、個室じゃなくて良いのか?」
「此処で酔ってないのは僕達とマスターだけだから大丈夫さ。」

頼みというのは『No.56ノゼアンを自称する輩の捕獲』。
聞けば、『縢りの手』の王の側近こそが真のNo.56である。
側近であり親友であり愛弟子であり…

「溺愛してんじゃねえか、やべー…」
「うむ。非常にやべーぞ。元々せっかち…いや気早なものだから逸早く存在には気付いたが、彼ももう王になったのだ。政務に専念してもらいたい。しかし般若の様な顔を毎日されては自他共に集中できん。そして何より、彼は僕にとっても大事な仲間なのだよ。蛮行を野放しにするわけにはいかない」
「事情は判りました。ところで犯人、というか偽物の目星は…」
「もう特定している。」
「さすが、元探偵ですね」

微笑む二人に挟まれ置いてけぼりにされるリーダーであった。


今回は先ず単身で接触を試みるザイト。
彼は、自身の異能で相手が人間である事を、そして悪人である事を把握済である。

「もし……」
「ぅん?…お?ひょっとして噂の新人ちゃん?ジェ…じゃなくてゴールドから聞いてるぜ。へへへ」

そう、異能によるフラグ(情報)チェックがなければ判りにくいくらい彼は顔立ちも体躯も食屍鬼によく寄せた人間であった!

「毛深い腕、あれは地毛に見せかけた仮装だな。よくできているが毛のテカリが人工物のそれだ。頭のてっぺんをよく見ると地毛っぽい黒髪が出ちまってるし、ツメが甘いわ」
「その通りだ、観察力があるな君は」
「まあね、しかし青い肌はどうやって再現してんのか未だにわかんねーな。魔術かな」
「だろうな。だが、奴の鍛え上げられた体はまやかしではないんだ。だから僕でも手を焼いている」

会話が聞き取れない程離れて隠れ見ていた二人。
只者ではない気配は確かにあった。あの棒状の武器、恐らくはトンファーと呼ばれる物だがそれを護身に選ぶセンスと力量はやはり只者ではない。
どうにかしてザイトにスキを作ってもらうしかない…
ちなみに罪状は把握済のため、逮捕するための大義名分はなりすまし以外にも十分ある。

「基本的に巡察官を装って好き勝手にしていた。恐喝、窃盗、性暴行、傷害致死暴行など。殺人も何件かあるそうな」
「なんで他のサツは黙ってんだよ」
「暴力と金と食屍鬼の顔で黙らせているからだ。……しっ、動きがあったぞ」

過剰なスキンシップが目立ち始めたかと思えば、今度はザイトの方が掴み掛かるように激昂し、狭い路地裏で巨漢同士の格闘が始まった!

「おや、もっとクールビューティーかと思ったが意外と熱いのだな」
「か、関心してる場合か!打たれ強い方だがあいつぁ殴り合いはした事ねえぞ!」
「大丈夫、僕が射止める」

徐に偽物を指差す。刹那、指先から瞬く一閃が偽物の後頭部に命中。
貫きはしないが衝撃で倒れるくらいには頭部を激しく揺さぶった事だろう。
同時に我に返ったザイトは、すかさず倒れた偽物の脈や息を確認する。

「生きてはいますが完全に気を失っていますね…」
「牢屋の中で起きてもらうとしようか」
「あんた強えじゃん…協力要たか?」
「なんだって当たれば強いさ。だが僕は近距離戦が得意ではない。素早くもない」
「足止めが要ると。でももう少しスマートに済ませたかったもんだな?」

よく見れば格闘の応酬か、ザイトは痣をいくつか作っていた。顔にまで。
分が悪い闘いに持ち込んでしまったのは、抑制が効かなくなったから。
異能で悪行の数々を把握した上で堪えていたが、身体に触れられ化け物扱いされてから、もう無意識で手が出てしまった。

「私もまだまだですね…私情を挟んでしまいました」
「『兄弟』をバカにされたからだろ?まあ堪えた方じゃね?」
「ふ………そう気に病むな。嘗て僕もそうであった。スマートに済んだ方さ」

オパールは察した。彼は因縁が、差し詰め『白い境界』辺りとあったのだろうと。

偽物の身柄は確保され、『縢りの手』の元で収監された。
というのもそもそも巡察官という立場も偽装であり、国籍も特に無い浮浪人で、腕っ節は強いが社会的地位は弱い男であったのだ。

「今日まで狡賢く過ごせたのは、どうも師からの受け売りもあるそうで…」
「へえ、どんな詐欺師なんだか」
「コー・リナイと言っていましたが、わざわざ言うからには実力者でしょうかね?」
「………マジか?おい、ひょっとしてこいつグェイスっていうのか?」
「なぜ判ったのです?」
「はあ、やっぱり…。強いて言えば俺が孤独になったきっかけさ。でかくなったもんだ、国賊級になるたあな…」


【偽蒸着水晶は珪質片岩の糧になる】

「そいつぁ伝説的詐欺師でな、俺も嘗ては組んだ事あんだ」
「どうなったのです?」
「へっ。ある時赤ん坊を拾ってよ、父親の顔になっちまったんだ。んで、窮地を境に俺を囮にしてどっか逃げちまったよ、糞野郎さ。生きていたとしてももう爺だろうな。……ん?なんかルビーから着信が来てるな。よう、俺だ……はあ?!見てほしい物があるから『肉叢厨』に来てくれって??」

顔を見合わせる二人。わざわざ呼びつける理由、それは

「もしや、残りのナンバリングの方…の偽物でしょうかね?」
「だろうな。だとしてもえらいトコまで紛れ込んだな…」

そこは食屍鬼にとって最重要施設であり、氷河地帯に位置する所で経路も限定的ですぐに行ける場所ではない。

…あれから2日後にようやく辿り着いた。
元軍基地だけあり厳つい外装だが、内部はもう…面影もない、不気味な寒気と血肉の香りに包まれた加工場である。訪問はこれが初めてではないが、未だにこの空気に慣れない。

「あ、お二人とも!こちらです!」

顔に赤筋の走った同胞が二人を見つけるなり誘導してきた。
彼こそが呼んだ張本人にてザイトが敬愛しているルビーだ。
穏和で心優しく仕事熱心で、常に誰からも慕われ且つ頼られる、そんな印象。

「出迎えたい所だったのですが、事情が事情なものでして…」
「構わねえや、どうせ『あいつ』に代わってモノを見張っていたってとこだろ?」

まさしくその通り、今のルビーは真の依頼人の代理にすぎない。
招かれた個室に入ると、台の上に一枚布で覆い隠された物が目に入った。

「何者か御検討が欲しいという、シリシャスシストさんからの頼みです」

シリシャスシストはオパールの言う『あいつ』にて、この加工場を仕切る責任者にて、どうしようもないくらい豪傑であり…

「こ、これは……!!」

布を捲ったらあらわになった氷漬けの者は、彼の犠牲者である。
氷河地帯に似つかわしくない軽装。銀髪、青肌、黒白目………

「何処にいたんだ?何者か名乗ったりしたか?」
「それが、信じられない事に流氷交通路にいたようでして…
末尾No.58のオーロラオーラと名乗っていたようです」
「ザイト、そっちはどうだ?」
「こ、この方人間です。しかも99歳の老人…そして名は、コー・リナイ=コン?」

大して驚きもせず、やはりと言った顔をしながら氷漬けを見詰める。

「最近、施設周辺で迷惑行為が頻繁になったため外部警備を強化した際に警備員接触したようで…。
あ、No.58の名誉の為に言っておきますが本物であるゲーサイトくんは、異能こそ周囲への影響力は大いにありますが、人懐こいのにそれを自覚してヒトを避けてる純朴で良い子で…!!」
「判った判ったよく判ったから。で、偽物がやらかした事はなんなんだ?」

迷惑行為というのは陸地側からの訪問者への妨害阻害、施設まで招かれざる客を誘導した件等…。目撃情報から犯人に辿り着くも、返り討ちに遭って引き返すばかり。氷…大きいのだと氷河の一片まるごと操作して放つような術者であった。
例によって偽のナンバリングを名乗りながら…

「それがシリシャスシストさんが直々出る理由にもなってしまいまして…」
「同胞疑惑と来たらそりゃそうだわな」

対峙したのが偽物の運の尽き。
シリシャスシストという個体、生半可な寒さも衝撃もものともしない。氷河が来た所で素手でかち割る。そして…

「偽物を捕まえると、彼の異能である極寒の吐息であっという間に冷凍したのです」
「氷使いを冷凍」
「凍らせる寸前にこれを取ったようです」

半円が付いた長いマフラーを持ち出す。
恐らくはマジックアイテム。あれば圧倒的だが無ければ…

「落ちぶれたもんだな。マジックアイテムに頼った挙げ句に力押しで負けちまうなんてよ」
「……もしかしてお知り合いで?解凍や加工対象外の許可を貰う事も出来ますよ?」
「ルビー、そりゃしなくていい配慮だ。こいつは詐欺師だがバカじゃねえ、此処まで人間が勝手に割り込んだらどうなるか覚悟は出来てるはずだぜ。シリシャスシストに判断を託すよ」
「オパール……」
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