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【魅惑された魅惑石】

成果はあったらしく、やんわりと相場が戻ってきているようだ。
金銭のみならずジプサムと友好な関係を結べた事が何よりの収穫…

「あの方、すごい潔癖症なんですよ。外に出てくれただけでも信頼してもらえたのが伺えますね」
「ははーだからか、俺のがリーダーだっつってんのにお前としか握手しなかったの」

談笑をしながらまたテーブルを囲んで人待ちをしていた。
失礼の無いよう予定より一時間早くから…

「実績を経たとはいえ会頭エニア様から直々お越しくださるのは本当にすごい事ですよ。どんな方なんでしょうかね?」
「なぁにタダの色物ババアさ。でも下手な人外より長生きしてるしメンタル強いし…」
「あーらよく御存知ね★」

豪快に椅子から転げ落ちるオパール。
ご機嫌な星型サングラスの老婆…いや熟女が現れた。
彼女がアザルシスの商会の頂点であるエニアである。

「貴方達はモーちゃんからの推薦だったんだけどね、でもちゃんとジプちゃんの頼みを叶えてくれたみたいね。さすがだわ〜」
「モーちゃん?」
「モーシッシさんですよ、特殊な条件下で未来予知ができてその精度は私の異能を遥かに凌ぎます。凄い先輩からの御推薦ですよ!」

ご名答。モーシッシの主でもあるエニアは上機嫌だ。
今回もその愛する食屍鬼からの推薦である依頼となる。

「芸能商会の中心になってるトルネンブラ族は御存知?」
「音を生業にしてるんだっけか。楽器や楽譜作りが中心で『音』による暗号生成も売りにしていたとかなんとか」
「あら貴方詳しいわね。そうなの、正しく音を売っていたんだけどどうも最近妙に売れすぎてる楽器に苦言を出しているみたいでね」

売れてるなら良いではないか、と言うのは素人考え。
異形たる彼等は儲け度外視で生産をしている職人肌でもあり、それ故か許し難い事実に直面している。

「楽器を弾きもしないのに大量に買って、中には道中でバラバラにして捨てちゃった輩もいるんですって!」

アザルシスにおいて芸能を娯楽や生業にできる者はかなりの富裕層であり品位も期待できるのだが、それなのに確かに違和感がある。

「客もアレだが、売り子の方で問題ありそうだな。異形は作るだけ作るが、それを売って金に替えて且つ顔を立てるのが人間の役割のはずだ。それが人妖の信頼関係じゃねーのか?」
「そのとーり、それに黒い真似させるわけにはいかないのよね。『そっち』はギベちゃんの管轄だからあまり波風立たせたくないのよ」

顔色を変える二人。
ギベちゃんことギベオンは、あまり聞きたくも関わりたくもない大悪漢である。
つまる所、ギベオンの逆鱗を避けながら楽器の妙な売れ筋を調査してくれとの事。
トルネンブラ族は手先は器用ではあるが交渉においては不器用、そんな彼等に代わって打開策を見出さねばならない。


……というわけで売り子を捜してみて廻った。
オパールは購入者であるセレブな熟女に化け中。

「…あっ見てください、あの方!」

眼鏡を掛けた顔色の悪い食屍鬼がいた。
そして彼と談笑している売り子も顔色の悪い食屍鬼……

「いえ、売り子は食屍鬼ではありません。
ですが仲が良さそう?どういう事でしょう…」

少し揺さぶればわかるさ、と早速オパールが向かった。
やんわり割って入る形で、小話も挟み、小さめの楽器を選んで購入。
弦楽器、打楽器、管楽器…いづれも見事な造り、それをザイトに持たせすぐに退散。
顔色の悪い巨漢達は良い客を見送った事だろう。

「眼鏡の方はラピスラズリさんでしたね。経歴からしてトラブルメーカーのようで…
挨拶出来なかったのは惜しいですねえ」
「ろくでなしで一部界隈じゃ有名だ、関わらなくていい。あっちからもアクション無かったし仲間以外に興味無いんかも。
それはそうと俺はもう違和感に気づいてしまったぞ。
封を空ける際は密室で使い捨ての服装にしようぜ」

というのも、よく消臭は出来ていたが楽器からも売り子からも『薬物』特有の酸味の強い不快な臭みをオパールは瞬時に嗅ぎとっていたのだ。

「たまに公衆便所でよ、残り香がクソの臭いに混じっていたってのが何度かあったから俺には馴染みのある臭いだね。値段も中毒性も程々だったから広い層で使われて流行っていたが、取り締まったのか在庫がなくなったんだかいつの間にかフェードアウトしていたな」
「それがどうして楽器に…」
「どうしてって、内部や隙間に仕込んだ上で『吸う』動作を極自然に出来るから合理的じゃねーか。…まあそんな顔すんなって、お前の言いたいこたぁわかる。こりゃ職人や商人への冒涜だよ。」

持ち帰って検査を掛けた結果、すぐに反応が出た。
想定外の濃度にザイトは愕然とする。
人外基準の強い濃度で、人間が吸い続けたら即中毒、命に関わる。

「なんて事…!」
「ところで、ラピスラズリは共犯者だったりしなかったか?」
「いえ、彼は臓器売買のみで薬物には関与していません。耐性はありましたけど」
「あ、そう。んじゃひょっとしたら商売は偽物同士でやっていたかな。
…実はよ、先日見た鉱山の横流しリストの中に化合物以外にも色々あって、薬物や楽器もあったんだ。あいつぁそんな趣味無かっただろ?グルなんじゃね?」
「可能性は高いですね……」

さらなる調査のために後日再度訪ねたが、二人はすぐに引き返した。


引き返した理由含めてエニアに全容を報せた。

「まあルチルちゃんが来たの!」
「何ヶ月か前からラピスラズリが連れてきたみてえだ。まあダチをダチに紹介したんだろうな」
「そして、というかやはりというか、呪われていましたね……」
「あらあら、大変だわ。ちょっと奥まった所にいたから他の商人が少ないのが幸いだけど、彼には申し訳ないけど彼以外にはやんわり退避させないとね」

ラピスラズリにはルチルという親友にて同胞がいる。
頬にⅩⅦと掘った食屍鬼だ。
彼は近くの者に無自覚に呪いを掛ける異能力者でその内容は『瞬間的な多大な儲けと幸福感の後に、永続的な膨大な貧困と不幸に陥らせる』。
小悪党も大悪漢も呪いには敵わない。アザルシスの呪いは特別強い。

「食屍鬼チャロアイトと名乗る白人種の男性。末尾No.54を謳っていますが当然偽りです、何せ私達はその方を既に知っていますからね。チャロアイトみたいにバイトがてらに薬物を売ってるチンピラとは違います」
「で、売れだしたのは呪いのお陰か。んでもって多分連中は気づいてない、ドギツい栄枯盛衰劇だなこれは。化けの皮どころかケツの毛も亡くなるわ、なっはっは」
「ほっといても成敗されるみたいだし前以て知れて助かったわ〜、貴方達良い仕事するわねえ。顔も良いけど。私もモーちゃんも今後より一層推させてもらうわ。」
「『真赭の尾』をご贔屓に!」
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