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「私を差し置いて終結はあり得ないですね」

高圧的な態度。
片眼鏡越しとはいえアイアゲートに対し
堂々視線を合わせながら問い詰める男もまた食屍鬼である。

「私が想定していたより遥かに行動力のある奴がいたようでな…」
「私を差し置いて終結はあり得ない」

どう説明しようが納得がいかないようで、一点張りである。

「はあ……では本人に直接聞いてみるといい。
今ならスーパーセブン氏も居られる、面会に差し支え無いだろう…」

遺憾の意が溢れるように、思わず漏れ出る溜め息。

「初めからそうしてくだされば良いのに。
ユークレースとの記憶を一分一秒でも多く鮮明に残っているうちに
尋ねておきたいのです。」
「無茶言うな、一歩間違えれば死にそうだったのだぞ。
それに対処が非常に困難な呪いが……」
「ユークレースを侮った酬いでしかありません。」

ぴしゃりと言い切る。

「………お前はそれ以外無いのか」
「ありませんね。私の全てです。」
「潔いなと言いたい所だがターフェアイト。
言葉選びには気をつけろよ。
貴様が何をどれ程予測しているか判らんが。」

動じる様子がない。
言葉に偽りなく彼にはユークレースが全てであり
それ以外には感情のブレは無い。

ターフェアイトは、ユークレースの片割れ的な奇形の生まれである。
そのせいか何なのか、彼の事しか頭にない。
彼の記憶力と引き換えに分離してもらった身であるのに
それともそれ故なのだろうか。
ユークレースの関連となると無敵の存在である。

出生からして呪われている…
常日頃そう思いながらアイアゲートは
1つ上の先輩を医務室に案内するのであった。
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「No.10、分離して蘇生させようって推してばかりで…面倒だな」
「片割れなんて一向に目が覚めないし脆そうだし
解放した所で使えるのか?分離して処分が妥当そうだが」
「ま、最終的にはウォンド博士の采配に掛かっているがな」

頭部で繋がって生まれてしまった俺達だが
俺は自由を与えたいだけなんだ。
なかなかどうして判ってもらえない。
……博士が取り掛かってくれてるようだが
打ち合わせと現状と合わないだと?
待て、待ってくれ、今はそれあああああああ













「ぎゃー?!来やがったな?!
もう夜鬼に囲まれてるうううひいいい」
「ユーちゃん拐いめ!」
「ユーちゃんを返せ!」

何故か俺をよく知る暴力団のガキ達『愚落』が
何故だが放っておけなかったし居心地良いから
宛もなかったのを良い事に用心棒として居着いていたが…
な、なんなんだあいつは?!陣形にスキがない、逃げ…
られねえうおおお?!
片眼鏡の男を筆頭に、10人の夜鬼に囲まれて捕まった。
て、手詰まりだ……俺はこれから何をされるんだ……













「ユークレース氏、何をあんなに躊躇うんだろう?
最善の策じゃないか」
「時間が惜しいのに…
早く『ワールドイーター』を使ってもらわないと
侵食が深刻化するぞ?別世界に飲まれるぞ?」
「あいつも積極的なのにな。
あれぐらいしか出番もないだろうに」

違う、アイトが笑顔で別策を拒んだのは
情でブレる俺に踏ん切りを付かせる為であるし
俺の策を完全再現するのも良い意味で想定外を齎すのも
アイトの力があっての事。
アイトの異能がなければ俺はこうして即時復帰もできない。

ああ、解っているのに。
あの形容し難い神性生物は、苦しみ悶ながら
自分に都合の良いように世界の理を書き変えようとしている。
俺達は奴が持ち出す別世界を
異能『行かずの駒は神座を食いちぎる(ワールドイーター)』を持ってして消す。
俺の組んだ式を、アイトが相手の心身に刻み込み成す儀式だ。
…最善にて唯一の手札だが
最大の欠点は時空間を糾す際に発生する負荷を
アイトが一身に受けなければならない点。
それだけでなく、異能を確立させるまでの間
あの異形に心身蝕まれるのは回避不能…
最小の被害ではあるが、最悪の手段だ。

俺は竜王で、自分は奔王だから、駒だからと。
俺が停まれば、あいつは動く…
俺が提案すれば、あいつは愚直になって実行する…
自由を与えたはずなのにお前を縛り付けてしまっていると言えば、
私は貴方に尽くすという自由を行使すると言い…
ヒトは天の邪鬼だと言うが
あいつは俺にできない事を代行してくれているんだ。

ほら、思った通り。
異形の魔の手に蝕まれながらも陣を完成し異能を確立させた。
アザルシスが元に戻る状態に巻き込まれた異形は消滅していく…
同時に、巻き込まれたアイトも、歪んでいっている。
全身の骨と、筋肉と、臓物が、悲鳴を上げている。
異形は消え、アザルシスは元に戻った。
戻っていないのはアイトだけだ。
歪みの二次被害に合わぬよう回収までに186秒と定めたのは
俺の方なのだが、コンマ一秒でも、早く、早く触れて安否を確かめたい。

離したのは俺の方からなのにな。
今度はすぐ会いたいと願っている。
俺は俺であることを忘れている間に
アイトにしてやれた事はあっただろうか?











「目が覚めましたか?」

言った側が、寝台に磔になっている。

「今までの経緯をお教えしましょう。」

辛うじて動いている右腕、そして俺の額に指先を当てる。
光の波紋が微かに波打ち、記憶が注がれる。
異能『永遠の祘(メモリスタート)』。
ターフェアイトはそう言った。

「………そうか、俺はまた」
「お陰様で世界は救われて74回目となりました。」
「お前が救われていないよ」
「貴方がそう思うならそうなのかもしれません。」
「どうしてそう、尽くせるんだお前は…」
「貴方と対面する為ですね。」
「分離を決めたあの日から、俺の一存が始まっていた。
俺を恨んでも良いのに…」
「顔の皮膚を勝手に頂きました。
それで十分。私は不自由した覚えもありません。」
「時が進めば俺以上俺以外に頼れる豪の者が現れるはずだ…」
「貴方を差し置いて終結は有り得ませんね。」

終始、慣れた風にしかし嫌味のない
柔らかい笑みで返される。

「俺は大事な事も何もかも、忘れて逃げて
進歩もないのにお前ときたら…」
「いいえ、ユークレース。
貴方は毎回しっかりアップデートなされています。
当初は私は目覚めるのも遅く、貴方と会話もままならなかった。
世界は回り廻るものです。貴方は逃げてなどいない。
常に前進しています。私は常に貴方の後ろを追う側。」
「俺は……お前と話したかったのかもな………」

だから離したのか俺は?














「ぎゃー!また来たー!!」

ま、また?!どういう事だ?!
あの片眼鏡と夜鬼10人がいつ来たってんだ?!
まあいい、数は多いが奴等の動きは読めた。
フェイントを混じえて攻撃の射程に納めて
一人一人叩き落としてやるとするか!


……
………






「実のところ、どうなのです?」
「何が?」
「覚えていた事や思い出せた事はありますか?」

やっと静かになった所で今度は返答に困る尋問が来た。
いつ眠りにつけるやら……

俺の名はユークレースというらしい。
らしい、というのは情けない事に何も覚えていないからだ。
当然、帰る場所も。
だからこの見知らぬ大所帯の見知らぬ家で軟禁…
いや監禁状態だが体裁を整えている間は大人しくしている。

ターフェアイトとかいうこの男
きっちりこちらの世話を焼いてると思いきや
突然どうしようもなく強引になり強制を迫ったりと
無表情なのも相俟って機械的で奇妙この上ない。

ヒトの寝床にまでいつまでも居座って
尋問してきたのもこいつだ。

「覚えていた、かは判らんが
大体目的に添った場所には滞りなく辿り着けてるな。
この家、バカでかくて部屋数も多いのに
表示もなくてトイレどうしようかと思った瞬間もあったが。」
「すぐに処理しますから安心なさってください。」
「そういう問題じゃねえだろ?!
俺が漏らす前提で考えんな!!?!」

恐らく本気で言ってるから恐ろしい。
それは俺の尊厳が死ぬ。

「はあ、全く……それで
思い出せた事、なあ………
無いというか思い出せないというか
思い出そうとするともやもやしだして
頭痛やら吐き気を催したりやらして、思い出したくなくなる。
結果何も残らない、だから過去の話は判らん。」
「なるほど。」
「………これで納得したか?」
「ええ、それが答えならば。」
「何の参考になるんだか、ったく。」
「大いに参考になります。
貴方から発せられる物は全て私の生きる糧となります。」
「お、大袈裟な。
なんでお前の糧になんなきゃならねえんだっ」

………
…?
今まで即答してきたのに、不可解な間を置いてきた?

「私の務めです。」
「な、なんだ。思ったよりシンプルな……
誰かに俺の情報でも垂れ込むのがお前の仕事か?」
「ええ。」
「ええって、マジか……」

糧ってそういう事なのか?
俺の身にどんな価値があるか判らんが
脱走を決意させるには十分な問題発言だこれは。

「…ならもう言う事はねえな。」
「そうですか、ではおやすみなさい。ユークレース。」

眠れるわけないだろう、こんな会話交えた後に……
それでもあいつが潔く退室したのが幸いか。

…一日中あいつの顔を見ていた気がするが
あいつの本職は一体何なんだ?
隙がないが、なければ作らねば。
でないと此処で搾り尽くされる。

「…にしても、実のところってなんだよ。
俺が忘れたふりでもしてると思ったのか?
ったく……」

俺は本当に何も覚えてないし
お前の事だって何も判っちゃいないのに。
こんな中身の無い奴の何が糧になるんだか……
「実のところ……どうなんだ?」
「何がです?」
「俺を嫌になったり…それこそ恨んだりしていないか?」

不安な顔で尋ねるのも最早3桁回。
眠る前に最も多く投げかけられる問いの
なんとか弱く愛らしい事か。

ユークレースはおよそ72時間しか記憶が保たない。
記憶障害のせいではあるが
それを私が含む周囲が完治させないのは
その繊細な性格故に生じる鬱のリセットにも貢献しているから。

なので彼の不安と知識を埋め合わせる事こそ
この私のターフェアイトの使命。
彼から自由と命を与えられたのだから
他を投げ売ってでも全てを捧げ支えるのは当然のこと。

今日もとっておきの笑みと答えを返してやる。

「恨むなんてとんでもない、私は貴方に尽くせる事に
最大の歓びを感じているのです。」
「ええ……?そう、なのか?」
「そうですよ、嘘偽り無く。」
「だとしたらどうしてそういう感情が湧くんだい…?」
「どうしてでしょうかね。
貴方の喜怒哀楽を拝めるだけで楽しくて仕方ないのは確かです。」
「喜楽はともかく怒哀も…??
俺はお前を困らせているだけだろうに、なんか、むず痒いな。」
「困った事もありませんよ。」

なんて愛しい。
ころころと変わる表情と
逆に歪みないその想いやる気立てがなんて愛しい。
昂ぶる気持ちを堪える必要がない今、私は存分に口角を歪めている。

「ふふふ、すいませんね。
つい顔が綻んでしまいます、不快に感じたら申し訳ない。」
「ふ、不快だなんてとんでもない。
俺はともかくアイトみたいな美人こそ
どんな顔しても良いんじゃないか?
それでも、悲しい顔だけはさせたくないけどな……」
「悲しませたくないのは私も同じなのですよ、ユークレース。」

そう、泣きそうな顔も愛しいが
泣かせたいかと言われたら別である。
むしろそんな輩が現れたらその輩を泣かせる。

「ごめんな………いや、ありがとう。
いつもありがとう、アイト。」
「いいえ、どう致しまして。」
「お陰様で眠気が来た気がする…」
「そうですか、ではおやすみなさい。ユークレース。」

安らかな顔になったのを確認し、私は部屋を後にした。
彼が目覚める頃にはもうこの楽しい一時も『また』終わる。
その一時という糧のために、私はまた
同じ日々を送りつつ新たな情報を記憶していく。
「よぉ、あんたは服着てんだな」
「おい、止せよ…」

黒スーツの男二人組。
不躾に話しかけてきたのは肌色からして人間だが
制止している方は人外。
彼等は見た目だけならベテラン風の
日の浅い『貪』マフィアの組員である。

「なあ、食屍鬼って変態ばかりか?
『愚落』にいた奴も相当だよな?」
「だから止め…」
「っ?!」

男の頭を鷲掴む。
『物理的な』力は入れていない。

「あびっ?!ぃひっ?!」

腕を振り払おうとはしているがまるで力が入っていない。
焦点の合わぬ目、だらしなく泡を吹く。

ターフェアイトは大量の記憶を注入したのだ。
男はそれに堪えきれず精神崩壊を起こした。

「待たせたね、ターフェアイト。」
「本当に待ちましたよ。」

現れたのは一糸纏わぬ堂々たる佇まいの食屍鬼デザートローズ。
『貪』のドンだ。

「私の部下が無礼な真似をしたようだね。
……棄ててこい、その廃人はもう使い物にならん。」
「は、はい!」

人外組員は廃人と化した者を抱えて立ち去った。
残されたのは、食屍鬼二人。

「遥々遠方からようこそ、して何用かな?」
「デザートローズ、貴方薔薇が一つ増えていますね。」
「流石だね、判ったかい?」

衣服は無いが
青薔薇の入れ墨が左肩側を中心に大輪が彫られており
記念事がある度にその数を増やす。

「『薄墨の角』で900人死傷者を出した、その献花さ。」
「少し数が合いませんね。貴方が雑に勘定するのはあり得ない。
死傷者総計896人、4人の行方不明者はどうなさいました?」
「ふふふ、ユークレースに頼まれたのかね。」

双方動じる事もなく、片や無表情で片や笑顔のまま探り合う。

「如何にも、正確には896人。
二人は奴隷として既に売り飛ばしたし、一人は私が抱き潰した。」
「もう一人は?」
「今さっき君が駄目にした。
彼も『それなりに』経歴のある男だったから期待していたのだがね。
私が思っていたより品位も知識も無かったようだ。」
「ふむ、だから棄てたと?」
「愚図ばかり増やしてもユークレースも困るんじゃないのかい?」

社会に外れた者の末路は大体決まっているが、それでも匿う者も存在する。
ユークレースもその一人。

「棄てた人間をどう扱おうが貴方の勝手ですが
ユークレースの真意を勝手に汲み取るのは頂けませんね。」
「ふふ、これは失礼。
しかし直に関係が薄い段階であろうに意外だな。
彼は何が気に掛かったのかね?」
「貴方が騒動を起こした地域はちょうど地質変動が控えている。
部分的砂漠化の可能性が高い地域での無闇な行動は
敵対勢力を大いに刺激するので
均衡を保ちたいなら大人しくするよう勧めていました。」
「なるほど、地殻変動。」

この世界の砂漠は点在した地も含め
デザートローズ等『貪』マフィアの公認の領土。
わざと砂漠化を狙った行為であると誤解を受けようものなら
最寄りの敵対勢力との抗争は避けられないだろう。

「私は誤解されようと一向に構わないが
まあ慌てる必要も無いし要求を呑むとするか。
少々暴れ過ぎた自覚もこれでもあるのだよ?」
「ふん、自覚があるなら定刻に来れたはずでは?」
「興に乗ってしまってついね。
余力があるなら君も相手をしてくれないかい?」
「貴方に割く余力はありません。」
「それは残念。私はまだ世界に届かないか。」
「砂漠が精々です。」
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