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「アイト、尋ねたい相談事があるんだけど良いかな?」
「何なりと、なんでもお答えしますよ。」
とてもとても珍しいが、揃って私服姿で寛いでいた。
貴重な憩いの次官を割くのも申し訳ないとは思いつつも
尋ねずにはいられなかったのだ。

ユークレースというこの顔の皮膚面積が少ない巨漢が
記憶を保てるのは約72時間。
溜まった仕事の消化や生活習慣で大いに削られ
自由時間はあってないようなもの。
いや、常に思考を張り巡らせてる彼に
自由自体無いのかもしれないが……

「『愚落』の若者達はグラーキ氏の名を借りて奮起しているが
それは許可も信仰もない。」
「はい。」
「それについてグラーキ氏御本人に謝罪を……
と思ったけど、俺は過去に氏と接触したことはあったかな?」
「はい、44回提案し17回謝罪のため訪問しました。
近年だとちょうど2ヶ月前に謝罪に行きましたね。
私も同行しましたよ。」

あちゃ〜やっぱり……と言わんばかりに頭を抱える。
今やっと決心が着いたと思ったのに
既に複数回同じ事をやっていたのか…

「2ヶ月前…ならかなり最近だな。
というかまさしく俺が謝るきっかけにした異変があった日だな。
ならしつこいのも悪いしいいか…」

それでもアイトは微笑みながら淡々と答えてくれている。
44回も同じ話をしてしまったのに申し訳ない。

「………と、あともう一つ。
今度は提案なんだけど良いかな?」
「何でしょうかね、何なりと。」
「その、俺がこの調子だから毎回捜索も大変だろう?
俺に発信機を付けたらどうかと思うんだけど………
俺は過去にも同じ提案はしたかな?」
「はい、今ので10回目となりました。」

ああ〜何ということだ…と言わんばかりに頭を抱える。
が、ふと気になった。既にそんなに?

「発信器はどこに?」
「もう付けていませんよ。」
「もう失くしたとか?外付け?」
「失くしていませんでしたよ。
私は貴方の提案を受けて
発信器付きのピアスを装着させていただいたのです。」

耳に触れるが何も付いていない。
ピアス痕も。
「ですが検診の際ピアスが外された時に貴方が
『いつの間にこんな綺麗なのを付けていたんだな
俺が買えるわけないし贈り物なんだろう。
失くしたら贈り主に悪いからとっておいてくれ』
と、私に託したのです。」
「な、な、なんて事だ…
提案した俺が自ら返却しただなんて。

……ね、ねえちなみにピアス選んでくれたの誰かな?」
「私です。」

頭を抱えて激しく悶る。

「提案10回、実行1回となりました。」
「ご、ごめんな本当に……
俺は物にはとことん執着がなかったのか…?」
「選んだ甲斐はありましたよ。
良い物だと認めてもらえました。」
「良い物……いいもの……
違いないけど……」
「ユークレース。
貴方が託してくれた物、与えてくれた物、残してくれた物
たくさんあります。全てが尊い。
ですが失敗が許されぬ場面も時にはあるでしょう。
なのでこうして私に一先ず相談するのは対策として叶っているわけです。
全てに無駄が無い。
引き続きどんどん提案して相談もしてください。
お応えしますから。」
「ああ……お前は本当、良い奴だよアイト……」

感極まって抱き締める。
この細身に掛けてる負荷は
想像を絶するほど多いのだろうなと思いながら……
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「ギベオンは遠征したばかりだし
報復するにはリスクが多過ぎて見返りに合わない。
それに嵐が今西から東に向かってゆっくり横断している。」
「ふむ、では動きたくとも動けないわけだな。なるほど。
では此方側に武力を割く必要はなさそうだ。
まあ三日間の祭典を凌げれば良いだけだが
百年に一度の催しだからと張り切ってる富裕層が多くてね。」
「用心するには越したこと無いけど君なら大丈夫だよ」
「ふふふ、ユークレースのお墨付きとはこれは光栄だね。
どれ今夜は………」

他国の軍制について語り合っていた二人の会話を
黙って聞いていたターフェアイトが
鬼の形相で睨みつけてきたところで話は終わった。

竜王ユークレースはこうして知恵を与えているが
それは勢力に関係なく分け隔てない。
今回偶々、相手が砂漠域の象徴たる者デザートローズだっただけのこと。

悪路を抜けた疲れも相まって
竜王ユークレースは一足先に眠りにつく……



「彼が彼でいられるのはあとどれくらいかね?」
「およそ6分。」
「寝顔は拝まなくても良かったのかい?」
「寝息は確認出来ました。」

現状のシチュエーションが最も安泰と捉え
二人で酒を飲み交わしていた。

「ところでユークレースに関する事で一つ気になったのだが
君の意見が聞きたいな」

尋ね方が巧妙な奴だと、眉間にシワ寄せた顔が物語る。 

「君達、愛称で呼びあわんのだな。
彼は君をアイトと呼んではいるが」
「愛称というと?」
「ん、名前の略称だが」

ターフェアイトは愚直である。
言葉そのまま記憶はするが、内容への理解は
実は常人よりも劣っている。
今こうして会話が叶っているのは
想像がつかないほどの自他の努力の積み重ねの賜物だろう。

「そうだな……ユークレースだ、ユーとか呼んだ事は?」
「ありますね。あれが愛称でしたか。」
「どうやら私が想定していた場面とは違いそうだな」
「ユークレースをユーと呼んだのは
彼から言葉を学んでいた時に遡ります。」

それは二人が分離を終え、意識を取り戻し、初めて対面した時に遡る。
熱く巻かれた包帯の隙間からユークレースの歪んだ表情が見えた。
激痛だったのだろう。
それでも身振り手振りで、懸命にアイトに学びを得させたのだ。
「私が初めて発した言葉がユーでした。」
「彼から感想は聞けたかい?」
「それが声になっていませんでしたね。
ただ、とても嬉しそうなのは伝わりました。」
「まるで赤子からの呼び声のようだね。」
「赤子のような格好をして何を言いますか。」
「ふふ、とにかく君達が丹念に知恵を回し記憶をし続ける理由が
少しばかり判った気がするよ。
特別感も一際強いのだな。」

上機嫌に酒を煽る。
氷も入れていないそれは透き通った渦を見せながら飲まれた。

「もしもですが。」
「もしも?」
「同じような場面が来たら、ユーと呼ぼうとは思っていました。」
「もしも、が来ないのだね?」
「おおよそが想定できてしまうのです。」
「世界は廻り続けている、未知が君達と縁がないだけさ。
君達の初心な愛らしいやりとり、私も拝んでみたいものだね。」
「ふん、ユークレースにしか見せませんよ。」

酒をちび、と喉を潤す程度に飲むに留めるアイトであった。
祭典に向けて空気が張り詰め緊張感が増していたそんな時期。
空気の読めぬ訪問者が来た。

人身を生業にしていたデザートローズにはすぐに判った。
いつまでも副院長の座を譲らず、歳を重ね過ぎた
複製魔族製造スタッフ・カッセが
手土産にしては大き過ぎて強固過ぎる金属製の箱が
『何か』を潜ませた檻であると。

「何用ですかな?そちらから来られるとは珍しい。」
「お前に、助力を受けたくてなあ…
なあ、研究所と資金、わしに投資するか貸してくれんかあ…?」
「カッセ氏、それはどちらも意味に大差はありませんな。
ですがまあ話は聞きましょうか?
…研究対象は『これ』ですかな?」
「あっ!ちょっ…」

箱に手を掛け、力任せにこじ開けた。
狂った機械音声が響いたがそれもすぐに鳴き止む。
そして中から這い出てきたのは……
デザートローズよりも更に巨体の、青肌の男。
薬剤と思わしき液体の入った筒が幾多も体に刺さっており
何より特徴的なのが頭部を覆うように撒かれた布。
男が抱える『塊』も布に撒かれて、頭部を合わせているように見える。

「…名前は?」
「ぅ……あうぅ…………」
「ツイン、ツインというんだそいつは」

知性を感じられないうめき声を上げるだけのツインに代わり
カッセが答えたが、デザートローズは首を横に振り…

「『どちら』が?
カッセ氏、交流だけでなく親交深い(と自分では思っている)私には判る。
彼等はユークレースとターフェアイトを模した生命体だろう?」

シワの深い顔に焦りの色が見え始めた。
ツインだけでなくこの老体もまともに舌が廻るか怪しいので
デザートローズは淡々と、壊した箱の内部を観察する。

「生命維持装置も兼ねていたのかこれは。
しかし装甲に対して内部の作りは老朽化も良い所だ。
私が手を掛けなくとも今日にでも壊れていただろう。
…だから彼のため、いや貴方自身のために私の財力・権力をアテに?」
「お、お前に何が判る…!
歳を重ねる毎に追いやられるわしの何が判る…!
複製物に…!!」
「だがその複製物を造り、頼り、縋るしか能が無かった。」
「だ、だまぁれえええ!!」

声を上げ、細腕を振り上げた。
其の様子に驚いたのか、防衛心でも働いたのか、或いは…?

「ひっ?!
は、はな…ぃぎ?!」

心情は定かでないが、ツインは老体を掴むと
頭から丸かじりをして口に押し込む様に
あっという間に、跡形も無く、喰い尽くした。

「ははは、長旅で腹を空かせていたかね?
衣服まで丸呑みするとは………ん?」

激しく苦しみ悶え始めた。
その場で周囲の物を破壊散らして暴れる。
屋内いっぱいに響く絶叫。瓦礫と吐瀉物が飛び散る。
騒ぎを聞きつけた組員が兵器片手に続々集まってきたが
デザートローズはそれを制止。
死相がもう、見えていたのだ。

思った通り、数分でツインは事切れた。

「………ああ、腹が突き破れているな。他にも諸々。
消化しきれず、臓物が傷付いて亡くなったか。
巨体に反して中は非常にデリケートだね。」

丸で誰かさんのよう…





「………という事が先日あってだね。」

一連の録画映像を鑑賞していたのは
ユークレースとターフェアイト当人である。
防犯目的でいくつもの隠しカメラを設置しており
精巧な解像度で惨状を鮮明に映し出していた。

「アイアゲートから不穏な動きがあると聞いてから
胸騒ぎがしていたけど、まさか…想像以上だった…」
「気分はどうかね?
話の続きは休んでからでも良いのだよ?」
「ありがとう、でも今のうちに状況整理したいんだ。」

その強い意志に応えるように、一連の出来事を
ターフェアイトはしっかり胸に、頭に、刻んでいた。

カッセは、『二人』を製造した当時のスタッフの唯一の生き残り。
人間ではあるが、外法で寿命を伸ばし続け生き長らえていた。
しかし世間は彼の技術力と熱意に関心を示さず
副院長という肩書きしかもう新世代に敵わなず
その肩書きすら窓際族の象徴と化し
追いやられ、落ちぶれていた。

「外法にも違法にも触れ、挙げ句糧にすらなれなかった者の末路。
なんと憐れな。
棄てる手間が省けたとも言うが。」
「所で、ツインの遺体はどうしたんだい?」
「棺に納めている。
死亡解剖なりしてしまったがまだまだ原型は留めているよ。
何せ6人…いや12人分
一度に調査対象が大量に現れたものだから手間が掛かってね。」

さり気なく、いやわざとらしく、判りやすく
察するには虫酸が走る数字を出してきた。

「同じ博士から造られた個体の遺伝子情報が
一人除いて使われていた…?」
「その通り。12/13人分、私も含め使われていた。
ではこれから説明するとしよう。」
No.10ユークレースとNo.11ターフェアイトの遺伝子情報検出。
故カッセ発言から名称引用、『ツイン』
体長と重量は食屍鬼シリーズを凌ぐが
反面、器官諸々の機能が非常に弱く、脳も極小。
頭部で繋がった別の肉体は脳こそ大きいが
他臓器や骨は僅かしかなく血も通わぬミイラ状態。
死因は消化不良による臓器の損傷。

No.12ラピスラズリとNo.30エレスチャルの遺伝子情報検出。
白衣に付いていた名札から名称引用、『アメトリン』
食屍鬼未成熟個体並の小さい体長。
車両助手席で遺体確認。
ドライブレコーダーの記録と合わせて検証した結果
死因は(食屍鬼特有の人肉摂取不足による)衰弱死。


No.12アイアゲートとNo.18フリントストーンの遺伝子情報検出。
端末記録より名称引用、『ケセラストーン』
両目眼球は無いが額に大きめの眼球。
背中に巨大な口はあるが本来の口は機能しておらず背骨も無く
四肢の微弱な筋肉量からして這いずっていたと推測される。
箱内で既に息絶えていた。死因は酸素供給不足による酸欠。

No.19クンツァイトとNo.40バーナクルの遺伝子情報検出。
端末記録より名称引用、『K2ブルー』
魚を思わせる鰓が備わっていたが
肺構造や組織情報と統合した推測によると機能も魚類同様。
箱内で既に息絶えていた。死因は水不足による酸欠。

No.13レピドクロサイトとNo.28ラルビカイトの遺伝子情報検出。
端末記録より名称引用、『アベンチュリン』
後頭部に向かって脳が肥大化しており
その長い頭部を隠すように頭髪の毛が多量に発達。
下半身が巨大な芋虫で、発見時壁に張り付いていた事から
虫のような機能と高い筋力が推測される。
死因は長時間屋外にいた事による体温上昇と脱水。

No.20カーネリアン(ジェムシリカと改名)とNo.39デザートローズの遺伝子情報検出。
本人より名称確認引用、『インカローズ』
体組織的には食屍鬼シリーズ同等だが
外観はほぼ無関係の女性に整形されていた。
施設内で関係者に成りすまして潜んでいたが捕獲。
死因は殴打による激しい打撲傷と下腹部の激しい損傷。




以上が現時点で回収できた情報である。

「アベンチュリンとインカローズは箱から抜け出して逃げていた?」
「そのようだね。」
「ちなみに、インカローズのこの死因は……」
「私がやったものだよ。
娘の服を盗み着して逃げ回っていたからついね。」

彼は複製魔族であるがマフィアのドンであると同時に
一族の父でもある。

警備に尽力しようと努めていたのは
表向きは祭典のためだが
実のところここ最近音信不通であった
娘を迎え入れるためでもあったのだと。



帰路に入っていた二人は話を纏めていた。
嘗ての製造スタッフが、合成された同胞を引き連れて
現れたというショッキングな出来事も
デザートローズの圧倒的暴力の前では
些細な狂気で終えてしまった事実を……

「溺愛していた彫師の娘、例の薔薇を彫ってから
相当経っていたけど行方知れずじゃ確かに不安だね。
行方が知れなかったら帰る場所を徹底させようと。
祭典に乗じて戻ってくれると思ったんだろうな。」
「なるほど。」
「…アイト、俺も君をそういう風に待たしてしまっていたかな。
それに『ツイン』を見ていたら複雑な気持ちになったよ…」
「複雑な気持ち、ですか。」

分離して良かったと思う一方で
こうして二人揃っても辛辣な記憶を覚え続けているのは
アイトだけなのだという苦悩である。

「ユー。」
「………え?そ、それ俺の事?」
「ええ、ユークレースのユーから取った略称、ニックネーム。
貴方がはなしてくれなければ、私は何も出来ないままでした。」
「アイト…」
「はなしてくれたからユーと呼べるのです。」

『ツイン』は、分離しなかった場合の未来の姿であったのかもしれない。
だが分離した自分達には個々があり、向き合い、助けあえている。

「ただ、貴方は帰る場所が複数あるのです。
それはどちらが欠けてもならない。
どちらも大事な物であると。
そのために奔走する事は、貴方の『自由』だし『優しさ』です。
私もそれを承知で過ごしています。」

膨大な情報、知識、経験…
いずれもアイトは負担ではなく糧として蓄えてくれていたのだ。
そして、答えを導き出してくれる……

「複雑な気持ち、解消されましたか?」
「ああ…とても…。いつもありがとう、アイト…」
これは後日に判明した事実だが
最新型の地雷の威力・精度等性能を確かめるべく
周辺住民にすら危険域を伝えなかったのだという。
つまり、誘導した上で踏ませたがった愚かな依頼者がいたのだ。
その者自体は既にアイアゲート支持の下、処刑済である。

起爆させられた者と言うと……



何やら落ち着かない様子、遠方に立ち昇る煙を指差し
揉めていたのは『愚落』の者共である。
少し遅れてから青肌の巨漢が現れ
事情を尋ねながら現場に近寄る。

進行方向を前にして爆音が響いたらしい。
そこまではよくある話。
その音の大きさと飛散物の量からして
威力の高さも伺え脅威的に違いないのだが
肝心の……踏んだか起爆させたかまでは判らないが
爆心地にいた者は

「あれは……食屍鬼か?!」

長身長髪の青肌の男が倒れていた。

「食屍鬼かって言ってるけどあいつって……」
「やっぱりあいつだよなあ?」

正体が判っていないのは一人だけである。

「…あっ?!ゆ、ユーちゃん?!」

その一人こと青肌の巨漢ユークレースが
真っ直ぐ駆け込んでいった。
他に地雷が埋められている可能性も高く
普段なら一帯に踏み込まないよう率先して注意を促す側なのに。
案の定別の地雷を起爆させてしまったが
直撃は免れたようで直進を続行している。

「おい!えーと……お、お前!」
「ぅ………」

息だけは確認できた。
フレームしか残っていない片眼鏡。
腹部を中心に衣服だけでなく皮膚も爆ぜ裂けていた。
腹這いに爆破を受けたのが伺える。
状況こそ判らないが、打たれ強い食屍鬼でも
これは重傷であるというのだけははっきり判った。

駆け込んだものの後はどうするか悩んでいた時に
虫の羽音のような物が微かに聴こえたのが判った。
超小型飛行機が複数機飛んでいたようである。
こちらに接近しない辺り救助目的ではないのは明確。
規則的に小さな光を放つ、偵察機であろう。

魔法陣を展開、手を入れ、鎖鉄球を一振り。
瞬く間に偵察機を粉砕…一連の行動は無意識下のものだ。
何故自分はこんな親身になっているのか?
機体から何処の勢力か察する事も出来ないくらい
破壊してしまったのも相俟って
ユークレースは困惑していた。

…落ち着きを取り戻す合間に
地雷の爆発力について考えてみた。

「人一人が覆い被さって
あの距離からぎりぎり爆音が聴こえて悲惨物が見えて
それでこのクレーターの深さ大きさ……」

人間の集団が此処でこれをまともに受けていたら
車両装甲込みでも大量の犠牲者が出ていただろう。
それこそ壊滅状態に。

「…………身を呈する意味だけが判らねえ…」

自身が『愚落』の若者に寄り添う理由も巧く説明出来ないが。
………此処まで駆け込んでしまった様に躊躇する必要ももうない。
男を抱えてもと来た道を引き返す。

「………ぅクレース……」
「っ?!」

此方の名を何故知っていて、そして何故呼び掛けたのか?
この男、不明瞭な点があまりにも多い。

『愚落』の集団の下に戻ってきた。
困惑する周囲を差置き、男を降ろして安静にさせる。

「……なあ、こいつが何者かお前達は知ってんのか?」
「し、知ってるも何もなぁ」
「何てぇいうんだ……?」
「何てって、名前の事?名前は……」
「お前達が知ってる事を俺は知らないのか?
それとも忘れてんのか?
忘れていたとしたら最低だな俺は。」
「ユーちゃん…」

閉口する周囲。
それを伝えるのは自分達ではないと感じたから。

「でもどうしちまったんだろうな、俺。
最低だって言った割に、何故だか少し気が晴れてもいるんだよ。
…とにかく、こいつの目が覚めれば全部判るんだろ?
進行は中断して最寄りの廃墟を拠点にして匿う。
その間情報収集して進路も改めて決める。
待機していればこいつの関係者が現れる可能性もありそうだしな。
異議はあるか?」

異議は無し。
あまりに色々な異変が同時に起こりすぎて
乱れた足並みを揃えたかったのは皆同じだった。

………男を匿ってから翌日。
たまに血を吐くやや危険な状態であったが
体力は取り戻したようで、目も覚ました。

「思ったより早く起きたな。
お前、名は?」

不思議そうな眼差しでユークレース達を
見渡してから徐に口を開く。

「ターフェアイト、です。」
「そうか、じゃあ少し長いからアイトと呼ぶか。
お前から聞きたい事は他にも山程あるから
しばらくはこの状態が続くぞ、良いな?」
「なんなりと。」

弱々しいが、とても優しくて穏やかな笑顔を見せた。

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