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【黝方石を射止める透輝石】
招待された酒場で待機する二人。
狭い店内、常連の酒飲みがテーブル席を占領しているため、カウンター席の一角に座るのが精一杯。

「待たせたね」
「お冷がただの水になるとこだったぜ」
「失礼ですよ、まったく…!
初めまして、『真赭の尾』のカルメルタザイトと申します。末尾No.は0です」
「『真赭の尾』リーダーのオパールだ。末尾No.16」
「ほう、僕の直後に造られたのだな。初めまして、『縢りの手』の斥候ブラックスターと言う者だ」

目深に被っていた黒いキャスケット帽を取るとあらわになった顔は確かに食屍鬼だった。挨拶を済ませたらすぐに被り直し着席。

「噂はかねがね聞いてるよ。そこで君達に協力を頼みたいのだが、これは僕の頼みでもあり王の頼みでもある」
「おいおい、個室じゃなくて良いのか?」
「此処で酔ってないのは僕達とマスターだけだから大丈夫さ。」

頼みというのは『No.56ノゼアンを自称する輩の捕獲』。
聞けば、『縢りの手』の王の側近こそが真のNo.56である。
側近であり親友であり愛弟子であり…

「溺愛してんじゃねえか、やべー…」
「うむ。非常にやべーぞ。元々せっかち…いや気早なものだから逸早く存在には気付いたが、彼ももう王になったのだ。政務に専念してもらいたい。しかし般若の様な顔を毎日されては自他共に集中できん。そして何より、彼は僕にとっても大事な仲間なのだよ。蛮行を野放しにするわけにはいかない」
「事情は判りました。ところで犯人、というか偽物の目星は…」
「もう特定している。」
「さすが、元探偵ですね」

微笑む二人に挟まれ置いてけぼりにされるリーダーであった。


今回は先ず単身で接触を試みるザイト。
彼は、自身の異能で相手が人間である事を、そして悪人である事を把握済である。

「もし……」
「ぅん?…お?ひょっとして噂の新人ちゃん?ジェ…じゃなくてゴールドから聞いてるぜ。へへへ」

そう、異能によるフラグ(情報)チェックがなければ判りにくいくらい彼は顔立ちも体躯も食屍鬼によく寄せた人間であった!

「毛深い腕、あれは地毛に見せかけた仮装だな。よくできているが毛のテカリが人工物のそれだ。頭のてっぺんをよく見ると地毛っぽい黒髪が出ちまってるし、ツメが甘いわ」
「その通りだ、観察力があるな君は」
「まあね、しかし青い肌はどうやって再現してんのか未だにわかんねーな。魔術かな」
「だろうな。だが、奴の鍛え上げられた体はまやかしではないんだ。だから僕でも手を焼いている」

会話が聞き取れない程離れて隠れ見ていた二人。
只者ではない気配は確かにあった。あの棒状の武器、恐らくはトンファーと呼ばれる物だがそれを護身に選ぶセンスと力量はやはり只者ではない。
どうにかしてザイトにスキを作ってもらうしかない…
ちなみに罪状は把握済のため、逮捕するための大義名分はなりすまし以外にも十分ある。

「基本的に巡察官を装って好き勝手にしていた。恐喝、窃盗、性暴行、傷害致死暴行など。殺人も何件かあるそうな」
「なんで他のサツは黙ってんだよ」
「暴力と金と食屍鬼の顔で黙らせているからだ。……しっ、動きがあったぞ」

過剰なスキンシップが目立ち始めたかと思えば、今度はザイトの方が掴み掛かるように激昂し、狭い路地裏で巨漢同士の格闘が始まった!

「おや、もっとクールビューティーかと思ったが意外と熱いのだな」
「か、関心してる場合か!打たれ強い方だがあいつぁ殴り合いはした事ねえぞ!」
「大丈夫、僕が射止める」

徐に偽物を指差す。刹那、指先から瞬く一閃が偽物の後頭部に命中。
貫きはしないが衝撃で倒れるくらいには頭部を激しく揺さぶった事だろう。
同時に我に返ったザイトは、すかさず倒れた偽物の脈や息を確認する。

「生きてはいますが完全に気を失っていますね…」
「牢屋の中で起きてもらうとしようか」
「あんた強えじゃん…協力要たか?」
「なんだって当たれば強いさ。だが僕は近距離戦が得意ではない。素早くもない」
「足止めが要ると。でももう少しスマートに済ませたかったもんだな?」

よく見れば格闘の応酬か、ザイトは痣をいくつか作っていた。顔にまで。
分が悪い闘いに持ち込んでしまったのは、抑制が効かなくなったから。
異能で悪行の数々を把握した上で堪えていたが、身体に触れられ化け物扱いされてから、もう無意識で手が出てしまった。

「私もまだまだですね…私情を挟んでしまいました」
「『兄弟』をバカにされたからだろ?まあ堪えた方じゃね?」
「ふ………そう気に病むな。嘗て僕もそうであった。スマートに済んだ方さ」

オパールは察した。彼は因縁が、差し詰め『白い境界』辺りとあったのだろうと。

偽物の身柄は確保され、『縢りの手』の元で収監された。
というのもそもそも巡察官という立場も偽装であり、国籍も特に無い浮浪人で、腕っ節は強いが社会的地位は弱い男であったのだ。

「今日まで狡賢く過ごせたのは、どうも師からの受け売りもあるそうで…」
「へえ、どんな詐欺師なんだか」
「コー・リナイと言っていましたが、わざわざ言うからには実力者でしょうかね?」
「………マジか?おい、ひょっとしてこいつグェイスっていうのか?」
「なぜ判ったのです?」
「はあ、やっぱり…。強いて言えば俺が孤独になったきっかけさ。でかくなったもんだ、国賊級になるたあな…」
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