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この世界のこの時代、まだまだ開拓が甘い。
縄張り争いと言う名の戦は常日頃発生している。
だが、ルチルが関わった戦は正直出来レースのようなものだ。
というのも相手が廃墟資源を根城にして居座っていた
暴力団『愚落』で、そんなアホの集まりに苦戦する弱小軍隊がいた。
弱い理由というのが、トップが4分割されてる上に
互いに小競り合いをしていて連携が取れていないからだ。
出来レースといったのは資源があるとはいえ
廃墟にしか過ぎないから、籠城するにもほんの数ヶ月しか保たない。
仕掛けるまでもなく退散するのが目に見えているから。
でも軍隊は攻め続けている。

「ルチルくんがいる編成時の快勝ばかりが噂に立って
いなくなってからの惨敗の解析が成されてなかったようだねえ」
「惨敗って、具体的にどんなです?」
「あのねえ、快勝と言っても
それは燃料が尽きる位相手を追い込んで
弾がなくなる程過剰に撃って廻った結果なんだよ。」
「文字通り尽力したんですね…
そりゃ次は負けるわ…」
快勝と惨敗を与えながら部隊を転々とし
もう武力は四分の三が失われているそうな。

「…で、ルチルの身が危ないってのは?
まさかそんな雑魚軍隊と最期を共にするとか?」
「あり得そうでねえ。
そもそも彼を雇ったのが、今でも残ってる部隊のトップでさあ。
ああいやだいやだ、まるで蠱毒だねえ」

何が言いたいかようやく判った。
その軍隊のトップとやら、ルチルの特性その他を知った上で
使い尽くしてから『愚落』相手に相討ち、最悪戦死させるつもりだ。
呪術師その物を死なせて呪いを解消させる魂胆だろう。
そして自分だけ生き残って、名誉を独り占め……

「私が詳しいのはあ
関係者各位から相談を持ちかけられたからなんだよねえ。
犠牲者ばかり増えるし、可視化できない呪いに不安が募ったみたいでえ。
というわけで、舞台の近隣に行く用事がこれからあるんだよねえ」
「スーさん、そこまで私も乗せてくれませんか?」
「停めに行くのかな?」
「そりゃ勿論。
くそくだらねー小競り合いに巻き込ませた奴と会わないと
私の気が済みませんのです」
「そうかいそうかい、んじゃバイクの燃料代は後払いねえ」

にちゃあ、と粘り気の強い笑み。
スーさんも一見中立に見えて結構過激で、話が判る人だ。助かる。

『愚落』は社会から弾かれた者だが地力は強い。
しかし素人集団には変わりはなく
じゃあ弱小とはいえ軍隊を追い払う
統率力と決定的な武力はどこから来ているのか?
と聞かれたら私は答えられる。
食屍鬼なのだと。
しかも現状私が知る中で一番強い個体だ。
ルチルを殺す事も、恐らく容易…
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「しょ、少尉!大変です!襲撃です!」
「なんだと?侵入を許したのか?相手は何人だ?」
「一人だよ」
「!!」

セキュリティシステムのある施設屋内という点から
こいつ等は油断しきっていた模様。
目標の目の前で私は伝令を切り捨てた。
断末魔もないのは、斬られた実感が無いから。
札の効能ばかり注目されがちだが
私の愛剣『七下がり』は完全に痛みを感じさせずに斬れる
暗殺向けの呪いの剣だ。

「き、貴様何者だ?!奴等の刺客か?!」
「判ってねえな、奴等ゴロツキだがヒトに依頼なんかしねえよ」
「では一体何だ…此処まで来てただで済むと思うなよ?!」

取り巻きと共に銃口をこちらに向ける。

「そりゃこっちの台詞だ。
そんな鉛玉よお、もう何発も受けてんだ。
今更脅しになると思ってんのか?えぇ?」

そう、既に相当被弾を許している。
歩く度に血の足跡が付いてる実感はある。
私は食屍鬼の中でも打たれ弱い方でお陰様で血が出やすい。
だが倒れずにひたすら前進出来ていたのは
やはり札の力あってのこと。

「い、一体何が望みだ貴様…?!」

気迫に押されたか、相手は後退りしながら交渉を持ち掛ける。


「決まってんだろ、あんたのクビだよ」




こうして、私は部隊の指揮者であり首謀者である
少尉の首を刈り取った。
ただし、札のサービス付きで……

「さあもう一仕事だ、ルチルがいる所まで案内しな。」
「おおお俺は今一体どうなってるんだ?!
死んでいないのか?!」
「死んでない。そういう効能の札付けてやってんだ。
大人しく言う事聞いてりゃ、用が済んだ後蘇生措置してやるよ」

というのは半分事実で半分嘘。
技術次第では分離した頭と体を繋げて助けられなくもないが
私はそこまで面倒を見る気は微塵も無い。

こうして、生首片手に戦場舞台となってる廃墟に改めて向かった。
「見てみろ」

戦場は惨状だった。
挽き肉みたいになっている遺体が大量に転がっている。
衣類でどちら勢力か辛うじて判別出来る程度だ。

「相手の重い一撃が兵士をミンチにした。
で、ルチルはそれを見て
『これくらいしないと倒した事にならない』
と思い込んでゴロツキをミンチにする。
相手は報復されたと思い報復返し……」

小脇に抱えた少尉…の頭に現実を突き付ける

「でも判っていて仕掛けさせた可能性もあるか?
屑行為と判っていてやる屑だっているからなあ、私みたいに」

嘲笑いながら突き進むと

「………おやっ!貴方は!」
「よう、良いの持っているじゃないかルチル」
「天魔の刀という素晴らしい物です!」

服はボロボロ、服の下は更にボロボロだろう。
素晴らしい物を活かしきれずに片腕は折られて
立ち上がれないくらいに足は折られていた。
爽やかな笑顔も、折れた歯とあちこち切れた口元で台無し。
これで生きているのは額に貼った札の力のお陰だろうけども…
心が折れてないのはルチルの芯の強さだ。

「呪いの弱点が見事に突かれてんな。
近づかないと大概効果も届かん。」
「困りましたねえ
あの方とても遠い所から攻撃しなさるのですよ」
「魔法陣展開しながら鉄球振り回すからな
あいつを中心に近づけないのは当然……
だが2つ届くモノがある。
…おい!ユークレース!!」

遠方にいる巨漢に向かい、叫んで名を呼ぶ。
一つは声、もう一つは『これ』だ。

「受け取れ、こいつが元凶だ!!
煮るなり焼くなり好きにしな!!」
「なっ?!き、貴様約束が違……」
「あ!少尉、いらしたのですね!
小さくなっちゃって判らなかったですよ〜」
「今はそんな………
ああああぁぁぁぁ…………!!」

投げられた頭は放物線を描いて飛んでいき
ユークレースはロングパスを受け取る。
しばし見つめ合う……

「あっ、引き返していますよ!」
「あいつも迎え討っていただけってわけだ。
さて私達も引き返すか。
札はよ、無敵というわけではなく
あくまで死ににくなるだけだから
効能が無くなる前に治療しないと私達も死ぬぞ。」
「それは困りましたねえ、では引き返しましょう!」

こうして、無駄に血を流していた意味のない戦は終わりを告げた。
見慣れた医務室に見慣れた輸血の管
だがいつもと違うのは横にルチルがいる事。

「歯の治療は慎重にするんだぞ、食屍鬼の命だからなあ。
というのも生え変わるたあ言え個体差がある。
ほっといて再生させんのが一番だが
あえて専属の医師付けて投薬治療やらなんやらさせて
徹底管理させる手とかもある。
あ、間違っても入れ歯差し歯はするんじゃねーぞ。
生え変わりの邪魔にしかならねえ。
あのスーさんだってオール自前だしなあ」
「へえ、歯の扱いについては初耳ですよ。
教えてもらえて良かったです。
ところでスーさんとはどなたでしょうか?」
「私の事だよお」

タブレット片手に入室してきたのは
患者でもないのに私達よりも顔色が悪い
スーさんこと大先輩スーパーセブン。
粘り気の強い笑みから見える歯並び…というか
牙は強靭そうで、肉に喰らいついたら離さなさそうだ。

「ルチルくんはじめましてえ
君がいるとラピスラズリもいいこになるねえ」
「はじめまして!お会い出来て光栄です!」

うんうん頷いてから…
ルチルへ向けていた視線が徐にこちらに変わる。

「『愚落』は完全に撤退したみたいよ。
物分りの良いヒトで良かったねえ。
あの辺はすぐにでも開拓されて、居住区に変わるってさ。」
「へえ、居住区ね。今度冷やかしに行くか」
「冷やかしに行く前にい
燃料代と入院費用二人分と経費対象外行為の罰金支払いとお………」

つらつらと金の請求が始まった…!

「おいおいおいスーさん?!
私は活躍したから免除にならないんです?!
あと入院費二人分ってどういう事?!」
「活躍した以上にやんちゃしちゃったって事。
燃料費は私との約束だし最近バカ高くて
ドライブも渋っていた程だったんだよねえ。
入院費はあ、アイちゃんも言っていたけど
『お前の札のせいでルチルの無謀な進行を招いたからお前が払え』
だってえ」

あの目玉妖怪め、私の懐が冷える…
しかしだが、私には札が……

「あ、お札と言えばあ、君だいぶ撃たれたじゃない?
銃痕と血糊で紙が8割くらいダメになっていたよ」
「マジかよおおお?!」
「アイちゃんさんってどなたでしょうか?」
「ケチな目玉妖怪だよちくしょー!!」
「こらこら、そんな事言うならお札剥がしちゃおうかな」
「うわああああ?!」

この人に逆らえない最もたる理由がこれ。
解呪の異能力者なので本来は術者である私以外剥がせない札も
この人は強制的に剥がせてしまう。
あらゆる数値が最底辺で半身も起こせない現状、札無しは死を意味する…!

「はあ全く…
まあいいか、2割残ってるんなら時間は掛かるが持ち直せるか…」
「ピースの異能は素晴らしいですからね!
良ければ復旧活動のご助力、僕にもさせてください!」
「る、ルチル…助力はありがたいが
なんだその、私への愛称なのか……?」
「え?あの時言ったじゃあないですか。
貴方の素晴らしい能力は平和を齎す物だから
それに肖ってピースとお呼びしますねと」

なんてえネーミングセンスしてんだこいつは!
恥ずかしすぎて死ぬ、死にたい、私を殺せっ……!!!!
ああ悶える私を見てスーさんが
いつにも増して気持ち悪い笑みしているし
ペットならしいよくわからねえ蟹まで飛び出してやがるし……

「なんにせよ、ルチルくんとは長〜い付き合いになると思うなあ」
「上がまたなんか勝手な構想でも始めましたかい?
まあ一緒にいると面白いから構わんですけど」
「僕も、ピースといる時が一番楽しいですね!
頼もしい親友ができて僕も鼻が高いです!」
「うおおおお殺せえええ!!!!」
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