忍者ブログ
「マスター、あの雑魚追っ払ったぜ〜」
「細かく言えば逃げた先に下水道に落ちて流されちまった〜」
「あすこなら、ゴミが詰まらんようにってカッター設置してあるからよ〜」
「以上、オチはあったけどつまらない話だぜ〜」
「ハイわかったありがとう。」

髪も爪も伸び放題、隙間から覗くギラついた牙で笑われると一層不気味で、それが浮いていて、それが何人も同じのがいるわけである。
食屍鬼クンツァイトによる分身能力だ。
彼の『足は無い』。

「ご褒美は何が良いかな?」
「えー」

欲も無い。生前からこうだった。
同胞のためになる事をやり、称賛されるのが彼にとって既にご褒美。
今では『外の事故で済ませたい事』を担ってくれている。
それは大変ありがたいのだが…

「思いつかない?」
「んじゃ、はい。エール。」
「エール」

泡で蓋をされた小麦色の酒を差し出した。

「後処理をする彼に代わって呑んでやって?」
「はは〜、そゆこと!
じゃあいただかないといけねえな!」




「点検終わりましたよ。異常無しっ」
「ご苦労様。一杯やる?」
「そのために今日最後に訪ねたんじゃないですか〜♪」

待ってましたと言わんばかりに着席したのは、やや大柄な食屍鬼のビスマス。
空間移動のための出入り口を管理するのが主な仕事。世界や時空を跨ぐ事も度々あり、多忙。だいたいこの酒場で仕事に区切りを一旦つける。

スパイシー赤ワインと、赤みが強く太いソーセージ数本を盛り付けた皿を差し出した。
ここのソーセージが一番旨いと食べ歩きをする彼には好評である。

「最近、新しい住民も増えたもんだから需要も増えて大忙しですよ」
「嬉しい悲鳴ってやつ?」
「んん〜俺自体には出会いが無いから恩恵が…
肝心な会いたい人には弾かれたし」
「おや、言っちゃって良いのかな?
別の大先輩が聞いてるかもよ?」
「ははは、そんなわけ……
いや冗談でもやめてくださいよ、あの時マジで生きた心地しなかったし…」

目もカラフルだが、顔色がころころ変わって面白い後輩であった。




「なるほど、そう言った解釈もあるか……」
「ところで、此処は酒場なんだけど」
「ああ、もう一杯貰おう」

タブレット片手に、茶の代わりのように酒の追加を頼んだのは、髪を短くして清潔感のある食屍鬼リビアングラスである。

信仰について、他神ではあるが信者としては先輩信者であるダイオプテーズに色々学んでいたのだ。
授業料は、酒。

「信仰を示す為に血染めの衣装を纏っているようだが、やはり効果はあるのか?」
「なんかそう言うと急にファンタジー感出るなあ。効果ねえ、特攻服みたいなもんさ。侠気をモル様に視認してもらいたいみたいな、お気持ち程度。」
「だが複数人揃ってそうしているのだから、正しく信仰の様に思えるが…」
「効果あったとしても、見た目じゃ判らない程度なのかも?」
「ふむ、威光を戻すというのは難儀な事なのだな。」
「ところで…」

グラスに手を伸ばしたがまだ空ではない。
条件反射が出る程同じやり取りを繰り返したせいだ。

「そのカクテルもちょっと宗教絡みなんだよねえ」
「俺はビール以外初めて呑んだと言ったはずだが」
「酒言葉が『無償の愛』のカクテルなんだ。甘めで君にぴったりかと。でも君はどっちかというと父性の強い偉大な人にも思えるからあちらも良いけど、あっちはマフィアの酒だしなあ」

イマイチ話が見えず困惑するが、シェイクも要らずに出来上がるこの簡単なカクテルの名は『ゴッドマザー』であった。

武骨なマザーを信者にした神は、きっと赤子のように小さくも内なる力を秘めているに違いない。




「おや、これはまた随分珍しいお客様だ」

特徴的な特徴がないのが特徴の食屍鬼がやってきた。
レコードキーパー、彼は異世界で食屍鬼シリーズ創始者の護衛を務めている……がしかし単独でやってきたのだ。

「ゴッチェはあるか?
ゴッチェ・インペリアル。」
「あるよ、はい」

ショットグラスと共にボトルを差し出した。

「博士はお元気?」
「そりゃあもう」

注ごうとしたら、自らボトルを取って注ぎ、舐めるように呑む

「どちらかと言えば退屈に殺されそうな感じだった?」
「マジものの殺しは来たぞ」
「博士殺しのままなのは違いないかな。」
「そうだな。博士はあいつに夢中だよ。
いい機会だし、一旦戻ってきた。何十年ぶりになるかもう忘れたが。」
「多分一桁足りてないよ。」

淡々と語らいながら呑み、少しずつアザルシスの味に体を慣らしていくのであった。




「マスター、スコッチウイスキーを。ラフロイグがあったらそれでお願いします。氷は要りません。」
「はいよー」

注文がきっちりしていてマスターは大助かりである。
きっちりしていないのは目の数だけくらいの、食屍鬼でも優等生なアイアゲートが多忙の合間を縫って酒場にやってきたのだ。

「ここに来るまでに注目されなかったかい?」
「されぬように軽度の幻術を掛けながら移動しましたから。」
「怖っ」
「殴り飛ばすよりは平和的だと思いましたが?」

しれっと言いながら着席。
差し出されるボトルとグラス。

「外で酒呑みたくなる日もあるんだねえ」
「ええ。人目を避けたくて引き篭もりたくても、なかなかそうもいきませんからね。」
「人気者はつらいねえ」
「人気者に向ける眼差しはもっと異なるかと」

酒を煽る。丸い氷が音を立てる。

「……ところで、スーパーセブン氏の嗜好は御存知で?」
「君が出してくれる物じゃないかな?」
「………参ったな、当人と同じ事を言われるとは。
………猫の嗜好品は…?」
「猫じゃないから判らないにゃん。」
「マスター」

調子は狂うが不快感は特になかった。
スーパーセブンとダイオプテーズは、同胞同士なのは確かだが特に同じ香りがしなくもない。
だからこそ贈答用の嗜好品を尋ねてみたかったのだが、この有様である。




「マスター、魚!」
「はい」
「肉じゃん!」
「肴だよ」

まるで4コマ漫画である。

「まあいいや、ハムもうまいから好き。
ちょっと塩が強いけど」
「酒に合う塩気にしたからね。」

生ハムを摘んでぺろりと平らげる。

猫を思わせる仕草の、赤目の食屍鬼キャッツアイは、愛する猫達のためにあまり酒は飲まない。

では何故ここに来たかと言えば

「野良は最近いない?」
「お陰様でいないね。猫も人の子も」

彼は孤児院で勤めており、同時に猫を始めとした小動物の保護も行っている。

「そうなんだ、カラスが割と騒ぐっていうから気になっちゃあいたけど」
「カラスが突いてるのは私達の餌だよ。」
「そうか、なら安心。」

保護対象外は意外とドライであった。

「君、捜し人いなかったっけ?
もう大人でしょ」
「ああ、ネヴィなら……
逞しく生きてるよ、きっと。
だって生きるために危険から逃げる選択ができた、賢い奴だもん。生きてるよ。」
「そっか〜」

自分に言い聞かせるように同じ事を何度も言う。
逃げた子には逃げた先のベストプライスがあると、キャッツアイは信じているのだ。

酒をあまり飲まぬ彼は少々お調子者ではあるが、常に正気を保ち、常に現実を受け入れる体制は整えてはいる、根っこは真面目な男だ。




「面白い事考えたね、覚えとくよ。」
「マスターの知恵も必要になるかもしれねえから、まあ頭の端に留めておいてくれ」
「私は注文が欲しいなあ」

苦笑いするのは、右目に特異なモノクルじみた物を付けた食屍鬼コスモオーラである。

「あ〜、んじゃコニャックでも貰おうかな。」
「はいよ。」

四角いグレーのスライムみたいなのが皿に乗って現れた。

「それは!蒟蒻!!
べったべた過ぎッ………!!」
「とぅるんとぅるんだよ。」
「蒟蒻の食感じゃなくて……!!」
「それにしてもマニアックな食材まで知ってるんだね。
で、銘柄指定とかある?」
「へ、ヘネシーリシャールで…」

ようやく、目当ての酒を出してくれた。
濃い琥珀色の酒がストレートに注がれたグラスを差し出され…一気に煽ぐ!

「わぉ、強いね。」
「……っか〜、これもなかなか…!」
「元からなのか、呑める口になるまで鍛えられたのか。」
「そりゃあもう、酒にも毒にもなんだって耐性は付けたい。」
「おやおや、王様に気に入られたくて頑張っていたのかな。」
「そりゃあ、もう………。」

切実そうだ。
この男、なんでもこなせる万能でエリートで優等生に違いないが、大胆なのか小心者なのか判りにくい。テンションの妙な尖りぶりはヲタクそのものだが。

「何したら気に入られるんかなあ……はぁ。
マスター、何か判る?」
「うん。」
「えっ、マジ?!何??」
「弱みも見せる事。」

『それは、難しすぎるなあ……』と、天を仰ぐ彼に黙って酒を追加した。




来店してきたその男は…鬼札柄のアイマスクを付け、酒を求める手は無く畝る触手で、呑む口は背中のぱっくりでかい口…ではなく普通の口の方。
この異形こそ食屍鬼フリントストーンである。

「おい」
「なんだい?」
「何でもいい、気付けの酒を寄越せ」

お望み通り余らせ気味の酒を人便差し出すと…歯で蓋を開け、一口二口喇叭飲みし、後は頭から被った。
彼は、細かい傷だらけであった。何かに突かれた様な貫かれた様な。……銃痕だ。
滴り落ちていた血は酒に混じって流れていった。

「随分な呑み方で。」

だが気の利いた返しもなく、退店していった。ちなみに酒代の返しも無い。またツケだ。

背中の口が半開きで、中から舌と目が此方を覗いていた。臨戦態勢だ。
背中を向けた彼を深追いするのはお勧めできない、あれは全てのものを拒む意思表示。
酒場を吹き飛ばされるわけにはいかないので、フリントストーンには『なるべく』好きにさせていたのだ。

翌日………近所で潰れてミンチになったヒトや車両がいくつか見つかる怪奇現象があったらしい。ラジオの報せがソースである。

「リンってばもう。……なになに、『白い境界』の者らしき衣装が見つかったって?」




「一悶着あったみたいだけど、現世の者だけで解決出来た事なら良かったよ。
まあ、ナンバーを使われた個体は複雑そうだったけどね。」
「どうせ使われるなら格好良くしてもらいたいもんだね。」
「ははは、クォリティが低くて舐め腐ってる感強くて煽ってきてる気満々だったらしいもんな。」

談笑しながらエールと揚げじゃがを堪能していた食屍鬼がいた。

「まあ、しばらくはマフィアどもと遊んでいると思うんだ。
組員増やし始めたタイミングが此方を狙い始めるタイミングになるかと。」
「おや、それは怖いねえ。」
「ははは、他人事じゃないんだけど?
マスターも不戦勝貫き続けるのはそろそろ厳しいんじゃないかな?」
「えー、モリオンだったらどうするんだい?」
「貴方が俺に聞くんかい!
そうだな……おっと、もう来るね。
ごちそうさま、マスター。」

モリオンと呼ばれた食屍鬼は出された物を平らげると、姿を消した。

「やあ、マスター。来ちゃった♪」
「やあカンちゃん、今出すよ。」

来店してきたのは眼鏡を掛けた傷面の食屍鬼カンゴームである。やや肉付きが良い。それと、帽子の下は地肌以下まで抉れた傷がある。
彼が着席するなり、エールと揚げじゃがを差し出す。

「えっ、なんで僕が頼もうとしたの判ったんだい?!」
「好物なの判ってるからさ。」
「僕言ったっけかな?
まあいいや、ありがたい〜」
「ところで、私が人間から襲われたらどうしたら良いかな?」
「急にどうしたの??
しかも貴方が僕に聞くんかい!そうだなあ……」
PR
Comment
Name
Title
Mail(非公開)
URL
Color
Emoji Vodafone絵文字 i-mode絵文字 Ezweb絵文字
Comment
Pass   コメント編集用パスワード
 管理人のみ閲覧
カレンダー
04 2024/05 06
S M T W T F S
1 2 3 4
5 6 7 8 9 10 11
12 13 14 15 16 17 18
19 20 21 22 23 24 25
26 27 28 29 30 31
フリーエリア
最新CM
プロフィール
HN:
せるぶ
性別:
非公開
バーコード
ブログ内検索
P R
Copyright ©  -- せるぶの落書帳 --  All Rights Reserved
Designed by CriCri Material by 妙の宴
powered by NINJA TOOLS / 忍者ブログ / [PR]