蟹〜
シフトを詰めに詰めてようやく設けた長期滞在期間。
上司から睨まれ舌打ちもされたが
成果を果たせば気が変わる…事に望みをかけつつ
大先輩サニディンの行方を掴むため
ビスマスは単身、異世界『アルカナ』に降臨した。
「ああ、今日も眩しい…暑い……」
常に曇天の世界から来た身としては
此方の世界はただでさえ眩いのに…
強い日射し、虫の輪唱、夏季に来てしまった。
「北の都ならもう少し穏やかだったかな…」
「大差ねえよ。ていうかあっちは行くな。
豊かじゃああるけど他個体が残した爪痕は深い。」
「ああ〜、やっぱり…?」
やはりこの館に身を寄せて正解であった。
此処には食屍鬼への理解者と同胞が居る。
この人は大先輩レコードキーパー。
サニディンさんと同期であり同行者であり
そして唯一の生存者…当時を知るキーパーソンでもある。
「とは言っても進展が無いんですよねえ。
当時の現場には確かに『切り取られた痕』はあるけど
其処には何も無さそうで…」
「死ぬ間際にそんな細工する事がそもそも可能なのか?
空間や時空に触れる行為はいまいち理解できんな。」
「サニディンさんが生きている時に聞けば…
あ〜そうか…」
あの人は自分が理解できた所で人には説明を省く。
恐らくだが理由は面倒臭いの他ない。
気持ちは判らなくもないが、せめて
何が起きてるかくらい説明するべきだと俺は思う。
「理論上じゃあ可能です、が
死ぬ事を悟った上で実行できるかは
サニディンさんの技量もしくは別因子に関わりますね。」
「お前が追究してんのがその別因子ってわけか?」
「そ、そんな所です。」
歯切れが悪いが此処までようやく結論付けれたのは
とある知識人の助力があったからであり
それが断定できる程に自身もまだ理解が及んでいないからだ。
今は恐らく、式を解くための理論というレールに乗っている段階…
「ようするに暇なわけだ。」
「どう解釈したらそうなりました?!」
「カコが出張しに行くから付いて行ったらどうだ?」
どうしてそう行き着くのだろうか?
カコとは同胞のカコクセナイトの事であり友人である。
口は悪いが、医療の腕前と愛想が良い医師見習いと評判。
出張要請はその実力が遠方にまで伝わっている証拠だ。
だが同行を勧める理由が判らない。
こちらは血肉を見たら腹の音を聴かれるだけなのに。
「出張先はそこそこの規模の集落なんだが遺跡がある。」
「観光スポットです?」
「そして『俺達』がシャンタク鳥に乗って
境目を超えて初めてアルカナに現れた地点でもある。」
「えっ」
「地点とはいったが上空だがな。
広がる森の中で遺跡が目に入ったから間違いない。
超高速で飛んでいたが野鳥にしてはデカくておかしいからと
微かに当時の目撃情報も残り伝わってるから間違いないぞ。」
「め、め、めちゃめちゃ重要な情報じゃないですか!
なんで黙っていたのおおお?!」
「最近思い出したし、素人が関連付けれると思うか?」
最もである。
わからないが判らない、不知から情報を導き出すのは難儀。
有識者が情報を収集するしかない
其れこそがこの俺に今課せられている使命…
「OK判りました、それでいつ行きます?」
「3日後には発つ。
デカい馬車数台出すからお前が一人増えた所で問題はない。
ゲロ吐かずに大人しく出来るのが前提なくらいで。」
「山超える感じかな…
俺が苦手なのは船の横揺れの方だから多分大丈夫…
許可取ってきます、情報感謝します。」
「ブレた存在のあいつを正せんのはお前くらいだ。
しっかり果たせよな。」
期待されているかはともかく大先輩から託されるくらいには
信頼を得ていたかな?気合が入った。
アルカナは機械文明がまだない。
一部にかろうじて蒸気やらの機関が存在する程度か。
遠距離移動のための車両は馬車に限る。
当然飛行機などない…鳥や竜等の搭乗用生物はいるにはいるが
それは集落とは縁のない都会や大国での代物だとか。
そんな中小型機サイズの巨鳥シャンタク鳥を見たら
それは驚き伝わるに決まっている。
……揺れに支障が無いと今度は暇が現れる。
友人に話題を振ってみた。
「カコは異能を使って境界越えしたんだよな?
よく辿り着けたな。」
「そんな難しい事なのか?
俺は行けそうな所を夢中で駆け込んだから
細かいこたぁ判らねえよ。」
運と勘が良いのが伺える。
理(ルール)が切り替わる瞬間である世界と世界の境界線跨ぎは
危険が伴うどころではない。
様々な非常識な事故・異変が発生したり
脱出を試みて半端に裂け目でも作ろうものなら
ティンダロスの猟犬に見つかり、無限に追いかけられる始末。
…のはずだが、それらを掻い潜り境界跨ぎを本当に果たした?
「『行けそうな所』って言ったけど何か目安でも?」
「あ?だから細かい所はわかんねえって。
色々建物があったり、おかしな野郎もいたけど
直感的にどれも触れたらやべーと思って。
で、『あっち』から『こっちの光景』が見える所を
見つけたから飛び込んだ。」
「待って、そんな具体性のある空間があったのか?!」
「いやだから難しい事はわからん。
俺は鏡写しの向こう側に潜む異能で辿り着いただけだから。」
レコードキーパーさんといい、身近に重要な情報があったなんて。
異世界アルカナには裏側に空間があった。
いや、アルカナには元から裏側もあった、が正しい。
なんせ『アルカナ』なんだから。
此方が表側とすれば、あちらは裏側差し詰め『アルカナの逆位置』。
思えばカコは童話と絡むあの世界でも『赤の女王』と縁があったりと
ヒントは散りばめられていたのだ…
「そろそろ着くぞ。」
小屋や家屋が点々と見えてきた。
「俺は此処で散策したことないから地理もろくにわからん。
遺跡だとか色々聞きたかったら案内人に聞きな。」
「案内人がいるなんて観光が栄えてるってこと?」
「栄えていたらもっと若い奴がいただろうな…
ボランティアでやってる物好きだよ。
スフェーンって奴、タッパもお前と同じくらいですぐ判る。」
それは人間なのか?
身長222cm重さはまだ成長中の俺は訝しんだ。
上司から睨まれ舌打ちもされたが
成果を果たせば気が変わる…事に望みをかけつつ
大先輩サニディンの行方を掴むため
ビスマスは単身、異世界『アルカナ』に降臨した。
「ああ、今日も眩しい…暑い……」
常に曇天の世界から来た身としては
此方の世界はただでさえ眩いのに…
強い日射し、虫の輪唱、夏季に来てしまった。
「北の都ならもう少し穏やかだったかな…」
「大差ねえよ。ていうかあっちは行くな。
豊かじゃああるけど他個体が残した爪痕は深い。」
「ああ〜、やっぱり…?」
やはりこの館に身を寄せて正解であった。
此処には食屍鬼への理解者と同胞が居る。
この人は大先輩レコードキーパー。
サニディンさんと同期であり同行者であり
そして唯一の生存者…当時を知るキーパーソンでもある。
「とは言っても進展が無いんですよねえ。
当時の現場には確かに『切り取られた痕』はあるけど
其処には何も無さそうで…」
「死ぬ間際にそんな細工する事がそもそも可能なのか?
空間や時空に触れる行為はいまいち理解できんな。」
「サニディンさんが生きている時に聞けば…
あ〜そうか…」
あの人は自分が理解できた所で人には説明を省く。
恐らくだが理由は面倒臭いの他ない。
気持ちは判らなくもないが、せめて
何が起きてるかくらい説明するべきだと俺は思う。
「理論上じゃあ可能です、が
死ぬ事を悟った上で実行できるかは
サニディンさんの技量もしくは別因子に関わりますね。」
「お前が追究してんのがその別因子ってわけか?」
「そ、そんな所です。」
歯切れが悪いが此処までようやく結論付けれたのは
とある知識人の助力があったからであり
それが断定できる程に自身もまだ理解が及んでいないからだ。
今は恐らく、式を解くための理論というレールに乗っている段階…
「ようするに暇なわけだ。」
「どう解釈したらそうなりました?!」
「カコが出張しに行くから付いて行ったらどうだ?」
どうしてそう行き着くのだろうか?
カコとは同胞のカコクセナイトの事であり友人である。
口は悪いが、医療の腕前と愛想が良い医師見習いと評判。
出張要請はその実力が遠方にまで伝わっている証拠だ。
だが同行を勧める理由が判らない。
こちらは血肉を見たら腹の音を聴かれるだけなのに。
「出張先はそこそこの規模の集落なんだが遺跡がある。」
「観光スポットです?」
「そして『俺達』がシャンタク鳥に乗って
境目を超えて初めてアルカナに現れた地点でもある。」
「えっ」
「地点とはいったが上空だがな。
広がる森の中で遺跡が目に入ったから間違いない。
超高速で飛んでいたが野鳥にしてはデカくておかしいからと
微かに当時の目撃情報も残り伝わってるから間違いないぞ。」
「め、め、めちゃめちゃ重要な情報じゃないですか!
なんで黙っていたのおおお?!」
「最近思い出したし、素人が関連付けれると思うか?」
最もである。
わからないが判らない、不知から情報を導き出すのは難儀。
有識者が情報を収集するしかない
其れこそがこの俺に今課せられている使命…
「OK判りました、それでいつ行きます?」
「3日後には発つ。
デカい馬車数台出すからお前が一人増えた所で問題はない。
ゲロ吐かずに大人しく出来るのが前提なくらいで。」
「山超える感じかな…
俺が苦手なのは船の横揺れの方だから多分大丈夫…
許可取ってきます、情報感謝します。」
「ブレた存在のあいつを正せんのはお前くらいだ。
しっかり果たせよな。」
期待されているかはともかく大先輩から託されるくらいには
信頼を得ていたかな?気合が入った。
アルカナは機械文明がまだない。
一部にかろうじて蒸気やらの機関が存在する程度か。
遠距離移動のための車両は馬車に限る。
当然飛行機などない…鳥や竜等の搭乗用生物はいるにはいるが
それは集落とは縁のない都会や大国での代物だとか。
そんな中小型機サイズの巨鳥シャンタク鳥を見たら
それは驚き伝わるに決まっている。
……揺れに支障が無いと今度は暇が現れる。
友人に話題を振ってみた。
「カコは異能を使って境界越えしたんだよな?
よく辿り着けたな。」
「そんな難しい事なのか?
俺は行けそうな所を夢中で駆け込んだから
細かいこたぁ判らねえよ。」
運と勘が良いのが伺える。
理(ルール)が切り替わる瞬間である世界と世界の境界線跨ぎは
危険が伴うどころではない。
様々な非常識な事故・異変が発生したり
脱出を試みて半端に裂け目でも作ろうものなら
ティンダロスの猟犬に見つかり、無限に追いかけられる始末。
…のはずだが、それらを掻い潜り境界跨ぎを本当に果たした?
「『行けそうな所』って言ったけど何か目安でも?」
「あ?だから細かい所はわかんねえって。
色々建物があったり、おかしな野郎もいたけど
直感的にどれも触れたらやべーと思って。
で、『あっち』から『こっちの光景』が見える所を
見つけたから飛び込んだ。」
「待って、そんな具体性のある空間があったのか?!」
「いやだから難しい事はわからん。
俺は鏡写しの向こう側に潜む異能で辿り着いただけだから。」
レコードキーパーさんといい、身近に重要な情報があったなんて。
異世界アルカナには裏側に空間があった。
いや、アルカナには元から裏側もあった、が正しい。
なんせ『アルカナ』なんだから。
此方が表側とすれば、あちらは裏側差し詰め『アルカナの逆位置』。
思えばカコは童話と絡むあの世界でも『赤の女王』と縁があったりと
ヒントは散りばめられていたのだ…
「そろそろ着くぞ。」
小屋や家屋が点々と見えてきた。
「俺は此処で散策したことないから地理もろくにわからん。
遺跡だとか色々聞きたかったら案内人に聞きな。」
「案内人がいるなんて観光が栄えてるってこと?」
「栄えていたらもっと若い奴がいただろうな…
ボランティアでやってる物好きだよ。
スフェーンって奴、タッパもお前と同じくらいですぐ判る。」
それは人間なのか?
身長222cm重さはまだ成長中の俺は訝しんだ。
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「カコ君の御兄弟が来るなんてびっくりしたねえ。
ようこそ、三葉村へ。賑やかになって嬉しいよ。」
爽やかに歓迎してくれた彼こそが案内人スフェーン。
正確には兄弟ではないけど、文化レベル的に複製は通用しないし
同じ顔をした者がいる以上そう誤魔化すしかない。
…この人はこの人で、エルフの割に恵まれた体型なのが気になるが。
「遺跡について調べたいんですけど…
現場には入れましたかな?」
「まず現場を案内しよう。
立入禁止にはしてないけど何せ古い建物だからね。」
見るだけなら自由。
中まで入ってじっくり観たい観光客
或いは詳しく調べてみたい探索者達からは
破壊行為をしない事と『御気持ち』を約束してもらう、とのこと。
「遺跡には遺物がそれなりにあった。
硬貨や聖杯なんてあったけど、ほとんど盗み出されたんだ。」
「罰当たりだなぁ」
「そう、罰が当たった。
盗人は皆不幸に遭い、亡くなり、遺物も行方知れず。
規制線は張ってないけど多少規制が設けられたのはそれからさ。」
風評被害を防ぐ為、そんな所であろう。
だが遺物を搾取された事に関しては咎めない欲の無さよ…
遺跡に到着した。
石造りの間取り的に、小城の廃墟といった所か。
屋根はないが天井が残った個室も少数ながら点在している。
「名前が無い、というか判らない。
文献も少しは遺されてるのにこの建物の名だけは何故か無いんだ。」
「文献とやらも後で見せてもらおうかな。」
「役場に行けば見れるよ、図書館と兼用してるんだ。
もっと詳しく此処を調べたくなったら
さっき言った『御気持ち』をその役場に出してね。」
つまり何にせよ今はまだ深入り出来ないと。
スフェーンも多忙の身、付きっきりにさせるわけに行かない。
『御気持ち』で誠意を示す事が互いの為になるというわけだ。
村へと引き返し、役場を目指す。
此処で今度こそ手応えがあったら良い…
そんな思いから、文献は隈なく目を通す。
築き上げられた本の山に役員は驚いていたが
作業をする時手元に関連する物がないと
落ち着かない性分故に…許してほしい。
『大昔から存在していた無名の小城』
『野盗に入られてから益々風化が加速、今に到る。
様々な宝飾品があったようだがほとんど消え失せた』
『天井の残る部屋には入ってはいけない。
何せ野盗ですら破壊より脱出を選んだのだから』
『人を見たとの噂もある。
火の点いていない松明を片手に歩く人だった。
でも顔が青くて人間と言い切り難い』
曖昧な記述が多いが辛うじて関連性が高そうな物を抜粋してみた。
内容もそうだが時系列も其々微妙に噛み合っておらず…
祟りによる記憶のぶれだろうか?
それとも(苦手な)あの先輩みたく記憶操作の類か?と疑う。
巨鳥騒ぎがここ最近の明確な異変。
あとは平和一投。スフェーンの武勇伝しかない。
やはり現場に行く必要がある。
「天井の残る部屋…出入口があれば立体空間化するもんな?
なあサニディンさん……」
大量の本をしまい、多額の『御気持ち』を納めて役場を後にした。
地道な作業が続く…だが無駄足でないのは確かだ……
というのもその『顔が青くて人間と言い切り難い人』と
カコが似ていた気がして驚いた
なんて曖昧な世間話にも辿り着けたから。
ようこそ、三葉村へ。賑やかになって嬉しいよ。」
爽やかに歓迎してくれた彼こそが案内人スフェーン。
正確には兄弟ではないけど、文化レベル的に複製は通用しないし
同じ顔をした者がいる以上そう誤魔化すしかない。
…この人はこの人で、エルフの割に恵まれた体型なのが気になるが。
「遺跡について調べたいんですけど…
現場には入れましたかな?」
「まず現場を案内しよう。
立入禁止にはしてないけど何せ古い建物だからね。」
見るだけなら自由。
中まで入ってじっくり観たい観光客
或いは詳しく調べてみたい探索者達からは
破壊行為をしない事と『御気持ち』を約束してもらう、とのこと。
「遺跡には遺物がそれなりにあった。
硬貨や聖杯なんてあったけど、ほとんど盗み出されたんだ。」
「罰当たりだなぁ」
「そう、罰が当たった。
盗人は皆不幸に遭い、亡くなり、遺物も行方知れず。
規制線は張ってないけど多少規制が設けられたのはそれからさ。」
風評被害を防ぐ為、そんな所であろう。
だが遺物を搾取された事に関しては咎めない欲の無さよ…
遺跡に到着した。
石造りの間取り的に、小城の廃墟といった所か。
屋根はないが天井が残った個室も少数ながら点在している。
「名前が無い、というか判らない。
文献も少しは遺されてるのにこの建物の名だけは何故か無いんだ。」
「文献とやらも後で見せてもらおうかな。」
「役場に行けば見れるよ、図書館と兼用してるんだ。
もっと詳しく此処を調べたくなったら
さっき言った『御気持ち』をその役場に出してね。」
つまり何にせよ今はまだ深入り出来ないと。
スフェーンも多忙の身、付きっきりにさせるわけに行かない。
『御気持ち』で誠意を示す事が互いの為になるというわけだ。
村へと引き返し、役場を目指す。
此処で今度こそ手応えがあったら良い…
そんな思いから、文献は隈なく目を通す。
築き上げられた本の山に役員は驚いていたが
作業をする時手元に関連する物がないと
落ち着かない性分故に…許してほしい。
『大昔から存在していた無名の小城』
『野盗に入られてから益々風化が加速、今に到る。
様々な宝飾品があったようだがほとんど消え失せた』
『天井の残る部屋には入ってはいけない。
何せ野盗ですら破壊より脱出を選んだのだから』
『人を見たとの噂もある。
火の点いていない松明を片手に歩く人だった。
でも顔が青くて人間と言い切り難い』
曖昧な記述が多いが辛うじて関連性が高そうな物を抜粋してみた。
内容もそうだが時系列も其々微妙に噛み合っておらず…
祟りによる記憶のぶれだろうか?
それとも(苦手な)あの先輩みたく記憶操作の類か?と疑う。
巨鳥騒ぎがここ最近の明確な異変。
あとは平和一投。スフェーンの武勇伝しかない。
やはり現場に行く必要がある。
「天井の残る部屋…出入口があれば立体空間化するもんな?
なあサニディンさん……」
大量の本をしまい、多額の『御気持ち』を納めて役場を後にした。
地道な作業が続く…だが無駄足でないのは確かだ……
というのもその『顔が青くて人間と言い切り難い人』と
カコが似ていた気がして驚いた
なんて曖昧な世間話にも辿り着けたから。
何かあってもスフェーンには無理して捜索に来ないように。
逆にカコにはレコードキーパーに報せてから来てほしいと
其々に言い残してから単身遺跡に向かった。
何が正解になるかは判らない…だが
内部から出入口を異能により蓋をしたというか扉を設けたというか。
サニディンさんは『直方体』空間を操ると同時に
其処にしか居られないという特性があるようなので
関連する動作の試行したまでである。
すると広間の空気が変わったではないか。
俺が生じさせた異能の『平面』は
異次元への出入口孔ではあるが物理的影響はなく
通気や光を遮断するのは本来ではあり得ない。
そんな違和感を実感しながら周囲を見渡していたら…
…その肌や毛色には馴染みがあり
服装も複製魔族特有の制服のようである。
65人いる食屍鬼の誰にも当てはまらないのは確かだが
一体何者なのだろうか?
「…ど、どうも。中に人がいただなんて気づかなかったなあ。
俺は遺跡の調査に来たビスマスっていう者で………」
「そう、ビスマスっていうのね。」
「えっ」
我が目を疑った。
『平面』は設置した後は細工でも施さない限りは
自発的な縮小・隠蔽・消失はあり得ない。
だが今となっては堅く閉ざされた石扉……
いや石壁しか見えないではないか。
再び異能を発揮しようにも手応えがない。
「ま、まさかさっきの人に……?!
やられた…!!うわぁなんてこった!」
移動は勿論だが『平面』には武器諸々収納をしていたので
密室で孤立した上に完全無防備となった。
破壊行為も御法度、最も腕力が通用する状態か怪しいが。
とにかく暗闇に消えたあの人を捜すしかない。
………奥に、地下に、誘われる。
分かれ道があったとしても短く、ほぼ一本道。
…と、思った矢先に大広間に出てしまう。
片手では数えるに収まらない数の行き先。
総当りで行くのはあまりにもリスクが高い。
のんびりしていられないのは酸欠や食糧問題以前に…
「何………??」
不気味な青い肉塊がいくつか漂っている。
肉腫に臓器が飛び出たようなそれは
どうにも此方に近寄っている気がしなくもない。
後が無い以上襲撃されるわけにはいかない。
此方も腐っても食屍鬼、迎撃のため
格闘で追い払うも噛みちぎるも構わないが
「ねえ」「ねえ」
悩んでいたそのときに重なる幼い声が突如響く。
振り向くとそこにいたのは…
その肌や毛色には馴染みがあり
服装も複製魔族特有の制服のようである。
65人いる食屍鬼の誰にも当てはまらないのは確か…
「どういう事?!」
説明無く足の無い双子に誘われるまま奥に行く。
高台の上に見えた長椅子。いや、玉座か?
其処に腰掛けていた者は………
女性型が存在しているあたり
食屍鬼の肉体の皮1枚を被って
形成されているような、そんな特異な存在なのだろう。
世界の裏側とも言える逆位置。
此処には原初から規定量ある情報が不変に詰まっていたが
サニディンさんが『死んだ事実』を変えるために
切り込み分けた空間により
規定量を超過し、その影響が逆位置にまで及んでしまった…
本来肉体を持たぬ者達が
彼の肉体情報を参照してしまい
青肌銀髪黒白目の人型もしくは青い肉塊と化したという。
「………随分ご存知みたいですが、何故?
貴方も俺達と同系統の異能力者かな?」
「君の大先輩が教えてくれたんだと思う。
肉体を得たと同時にそんな話がふわりと沸いてきてね。」
始終ふわついているような気もするが
そもそもサニディンさん自身が説明下手な節があり
むしろこの人はまだ言語化できている方だ。
「いやそれより、サニディンさん本人もしくは遺体に会いました?
俺はあの人を回収しに此処まで来たんです。」
「遺体ならあるよ。」
「!?」
逆にカコにはレコードキーパーに報せてから来てほしいと
其々に言い残してから単身遺跡に向かった。
何が正解になるかは判らない…だが
内部から出入口を異能により蓋をしたというか扉を設けたというか。
サニディンさんは『直方体』空間を操ると同時に
其処にしか居られないという特性があるようなので
関連する動作の試行したまでである。
すると広間の空気が変わったではないか。
俺が生じさせた異能の『平面』は
異次元への出入口孔ではあるが物理的影響はなく
通気や光を遮断するのは本来ではあり得ない。
そんな違和感を実感しながら周囲を見渡していたら…
…その肌や毛色には馴染みがあり
服装も複製魔族特有の制服のようである。
65人いる食屍鬼の誰にも当てはまらないのは確かだが
一体何者なのだろうか?
「…ど、どうも。中に人がいただなんて気づかなかったなあ。
俺は遺跡の調査に来たビスマスっていう者で………」
「そう、ビスマスっていうのね。」
「えっ」
我が目を疑った。
『平面』は設置した後は細工でも施さない限りは
自発的な縮小・隠蔽・消失はあり得ない。
だが今となっては堅く閉ざされた石扉……
いや石壁しか見えないではないか。
再び異能を発揮しようにも手応えがない。
「ま、まさかさっきの人に……?!
やられた…!!うわぁなんてこった!」
移動は勿論だが『平面』には武器諸々収納をしていたので
密室で孤立した上に完全無防備となった。
破壊行為も御法度、最も腕力が通用する状態か怪しいが。
とにかく暗闇に消えたあの人を捜すしかない。
………奥に、地下に、誘われる。
分かれ道があったとしても短く、ほぼ一本道。
…と、思った矢先に大広間に出てしまう。
片手では数えるに収まらない数の行き先。
総当りで行くのはあまりにもリスクが高い。
のんびりしていられないのは酸欠や食糧問題以前に…
「何………??」
不気味な青い肉塊がいくつか漂っている。
肉腫に臓器が飛び出たようなそれは
どうにも此方に近寄っている気がしなくもない。
後が無い以上襲撃されるわけにはいかない。
此方も腐っても食屍鬼、迎撃のため
格闘で追い払うも噛みちぎるも構わないが
「ねえ」「ねえ」
悩んでいたそのときに重なる幼い声が突如響く。
振り向くとそこにいたのは…
その肌や毛色には馴染みがあり
服装も複製魔族特有の制服のようである。
65人いる食屍鬼の誰にも当てはまらないのは確か…
「どういう事?!」
説明無く足の無い双子に誘われるまま奥に行く。
高台の上に見えた長椅子。いや、玉座か?
其処に腰掛けていた者は………
女性型が存在しているあたり
食屍鬼の肉体の皮1枚を被って
形成されているような、そんな特異な存在なのだろう。
世界の裏側とも言える逆位置。
此処には原初から規定量ある情報が不変に詰まっていたが
サニディンさんが『死んだ事実』を変えるために
切り込み分けた空間により
規定量を超過し、その影響が逆位置にまで及んでしまった…
本来肉体を持たぬ者達が
彼の肉体情報を参照してしまい
青肌銀髪黒白目の人型もしくは青い肉塊と化したという。
「………随分ご存知みたいですが、何故?
貴方も俺達と同系統の異能力者かな?」
「君の大先輩が教えてくれたんだと思う。
肉体を得たと同時にそんな話がふわりと沸いてきてね。」
始終ふわついているような気もするが
そもそもサニディンさん自身が説明下手な節があり
むしろこの人はまだ言語化できている方だ。
「いやそれより、サニディンさん本人もしくは遺体に会いました?
俺はあの人を回収しに此処まで来たんです。」
「遺体ならあるよ。」
「!?」
ようやく、ようやくこの手で回収が叶いそうだ。
だが先日のミスもある、正確に慎重に対応せねばならない。
そのためにも……
各自に名前がしっかり与えられていたのか。
それはそうと、何故急に現れたあの人の元に
二人は行ってしまったのだろうか?
直前の動作で何かを拾い上げていたのが関係していそうだ。
「異能がないと、回収どころか帰れもしないんですよ。
此処がどういうカラクリで出来ているかはともかく
嫌でも前進しないと……」
「一人で来たのかい?」
「侵入したのは俺一人。
中に入る事は一応仲間に伝えておいてました。」
「なるほど、賢明だ。」
うんうん頷く。仲間の存在に何か思う所があるのか?
「その賢明さを買って助言しよう。
住民を勝手に募ってる首謀者はアノーソクレースだ。」
「まだヒトがいたんで?!」
「アノーソクレースは中でも一番の野心家でねえ。
僕は平穏を望んでいるのだが
彼はそうもいかず外に出たがっている。」
「で、出るくらい良いんじゃ?」
「我々はアルカナの性質を抱きし者。
配下達は『塔』『悪魔』『太陽』『月』であったし
アノーソクレースは『運命の環』だ。
何を企んでいるかまでは判らないが
環境や運命をまるきり逆転させる力があるのは確かだよ。」
背中に悪寒が走る、嫌な予感がする…
俺の知り合いに『歴史を読み或いは変える』異能力者がいる。
同様の、しかし悪質な力の使い方をするのでは?
「不変性により保たれていた平穏。
アノーソクレースはいつも変えたがっていた。」
「その不変性によって保たれていたのは
うちの大先輩も同じなんですよ。
ヤバそうで行きたくないけど
放っておいたらもっとヤバいなこりゃ…」
「大変だねえ。」
「他人事のように……
ああ〜…もう、行ってきます。」
更に奥へと行くはめになった。
威厳の無い長は玉座から動く気配がない。
なるほど、あれでは離反が起きても
本心か異能か判りにくいな…
だが先日のミスもある、正確に慎重に対応せねばならない。
そのためにも……
各自に名前がしっかり与えられていたのか。
それはそうと、何故急に現れたあの人の元に
二人は行ってしまったのだろうか?
直前の動作で何かを拾い上げていたのが関係していそうだ。
「異能がないと、回収どころか帰れもしないんですよ。
此処がどういうカラクリで出来ているかはともかく
嫌でも前進しないと……」
「一人で来たのかい?」
「侵入したのは俺一人。
中に入る事は一応仲間に伝えておいてました。」
「なるほど、賢明だ。」
うんうん頷く。仲間の存在に何か思う所があるのか?
「その賢明さを買って助言しよう。
住民を勝手に募ってる首謀者はアノーソクレースだ。」
「まだヒトがいたんで?!」
「アノーソクレースは中でも一番の野心家でねえ。
僕は平穏を望んでいるのだが
彼はそうもいかず外に出たがっている。」
「で、出るくらい良いんじゃ?」
「我々はアルカナの性質を抱きし者。
配下達は『塔』『悪魔』『太陽』『月』であったし
アノーソクレースは『運命の環』だ。
何を企んでいるかまでは判らないが
環境や運命をまるきり逆転させる力があるのは確かだよ。」
背中に悪寒が走る、嫌な予感がする…
俺の知り合いに『歴史を読み或いは変える』異能力者がいる。
同様の、しかし悪質な力の使い方をするのでは?
「不変性により保たれていた平穏。
アノーソクレースはいつも変えたがっていた。」
「その不変性によって保たれていたのは
うちの大先輩も同じなんですよ。
ヤバそうで行きたくないけど
放っておいたらもっとヤバいなこりゃ…」
「大変だねえ。」
「他人事のように……
ああ〜…もう、行ってきます。」
更に奥へと行くはめになった。
威厳の無い長は玉座から動く気配がない。
なるほど、あれでは離反が起きても
本心か異能か判りにくいな…
此処は常人には辿り着けない領域。
丸腰の単身で進むのは無謀にも程がある。
だが賭けるしかない、『交渉のために異能を奪った』という一言を。
俺の異能『眼界色の扉(オポジットサイド)』は
出先の位置を設定した上で利用をする
異次元への出入口である『平面』を発生させる能力。
此処に侵入するため蓋の役割として出したのは特殊例だ。
「使いこなすのに相当苦労したからね〜……………
価値があると見做されるのは
そりゃ喜ばしい事だけども〜………」
「喜べ、お前も俺の力となる。」
手荒い歓迎であった。
人型住民が勢揃いの中、先頭に立っていたのは…
その肌や毛色には馴染みが…
いや、あまりにも馴染みがありすぎた。
服装も複製魔族特有の制服のようであるが
胴回りと両肘が虚無。
その風貌は正しく語り継がれた死因を思わせる…!
前情報が無ければ訳の判らぬまま
言いくるめられ、運命を変えられていたかもしれない。
妙な説得力の他、何か異様な力を感じる。
逆転させようという『運命の環』の力。
もしもアノーソクレースを外に出してしまったら…
『初代の遺体』として在るようになり
サニディンさんは消滅こそしないが『逆位置の住民』となり
他64人いる同胞の存続にも関わる。
ただ立ち位置が交代するわけではないのだ。
皆サニディンさんをベースに進化や変異をし
64の個性を出して生きてきた。
「世代の違うお前が、過去の亡者に未練があるのか?
職務の一環で遺体を回収しに来ただけだろう?
俺なら彷徨う事も無いが?」
「そんな過去でも無いんだなこれが…
それに彷徨うって事は死後尚
仕事しているって証拠なんだよ。」
切り取ってしまった時空間に引っ張られつつ直し続けている。
それがサニディンの現状。
「色々と大雑把で無責任で困らされたものだけどなあ
死後尚あの人が周囲に与えた影響は多く、広く、深い。」
「それはお前達の空想と偶像だとしてもか?」
「もしかしたら信仰だったりしてね?」
「奴は神ではない。」
「それはあんたもそうだ。
見た目通り、あんたはスカスカだ。
横の繋がりや侠気も無い………」
うっかり口を滑らせた事に今になって気づく。
後ろ盾の存在を匂わせてしまった…!
それ即ち、俺の価値を下げた事を意味し…
「ならばあの亡者のように
孤高の侠気とやらを見せてみよ。」
突如現れた鈍色の剣。
アノーソクレースの千切れた手は
それをしっかり握り、振り回す。
関節が無いため正しく縦横無尽。
かといってこの風を切るような速さと
質量を感じさせる低い音は確かなものである。
『君が死んだらどうなるかな?』
フェルドスパーの無情な一言を思い出す…
まるで動きを誘導されたかのように
一瞬生じた無防備な状態をすかさず突かれ
右腕を切り落とされた。
痛いと感じるのも惜しみ
即座に脇下を強く締め付け止血。
結果的に両腕が塞がる形となった。
異能…異能さえ戻れば片腕がなくても
この場を返せるのだが…
丸腰の単身で進むのは無謀にも程がある。
だが賭けるしかない、『交渉のために異能を奪った』という一言を。
俺の異能『眼界色の扉(オポジットサイド)』は
出先の位置を設定した上で利用をする
異次元への出入口である『平面』を発生させる能力。
此処に侵入するため蓋の役割として出したのは特殊例だ。
「使いこなすのに相当苦労したからね〜……………
価値があると見做されるのは
そりゃ喜ばしい事だけども〜………」
「喜べ、お前も俺の力となる。」
手荒い歓迎であった。
人型住民が勢揃いの中、先頭に立っていたのは…
その肌や毛色には馴染みが…
いや、あまりにも馴染みがありすぎた。
服装も複製魔族特有の制服のようであるが
胴回りと両肘が虚無。
その風貌は正しく語り継がれた死因を思わせる…!
前情報が無ければ訳の判らぬまま
言いくるめられ、運命を変えられていたかもしれない。
妙な説得力の他、何か異様な力を感じる。
逆転させようという『運命の環』の力。
もしもアノーソクレースを外に出してしまったら…
『初代の遺体』として在るようになり
サニディンさんは消滅こそしないが『逆位置の住民』となり
他64人いる同胞の存続にも関わる。
ただ立ち位置が交代するわけではないのだ。
皆サニディンさんをベースに進化や変異をし
64の個性を出して生きてきた。
「世代の違うお前が、過去の亡者に未練があるのか?
職務の一環で遺体を回収しに来ただけだろう?
俺なら彷徨う事も無いが?」
「そんな過去でも無いんだなこれが…
それに彷徨うって事は死後尚
仕事しているって証拠なんだよ。」
切り取ってしまった時空間に引っ張られつつ直し続けている。
それがサニディンの現状。
「色々と大雑把で無責任で困らされたものだけどなあ
死後尚あの人が周囲に与えた影響は多く、広く、深い。」
「それはお前達の空想と偶像だとしてもか?」
「もしかしたら信仰だったりしてね?」
「奴は神ではない。」
「それはあんたもそうだ。
見た目通り、あんたはスカスカだ。
横の繋がりや侠気も無い………」
うっかり口を滑らせた事に今になって気づく。
後ろ盾の存在を匂わせてしまった…!
それ即ち、俺の価値を下げた事を意味し…
「ならばあの亡者のように
孤高の侠気とやらを見せてみよ。」
突如現れた鈍色の剣。
アノーソクレースの千切れた手は
それをしっかり握り、振り回す。
関節が無いため正しく縦横無尽。
かといってこの風を切るような速さと
質量を感じさせる低い音は確かなものである。
『君が死んだらどうなるかな?』
フェルドスパーの無情な一言を思い出す…
まるで動きを誘導されたかのように
一瞬生じた無防備な状態をすかさず突かれ
右腕を切り落とされた。
痛いと感じるのも惜しみ
即座に脇下を強く締め付け止血。
結果的に両腕が塞がる形となった。
異能…異能さえ戻れば片腕がなくても
この場を返せるのだが…