蟹〜
此処は●百年後のアザルシス……
常闇に閉ざされ…
奈落が広がり…
異形と恐怖で満ち溢れ…
此処はもう、深淵が支配している。
ヒトは少ない。人間はもっと少ない。
絶滅危惧種認定されてから
『一望の塹壕』という、日常生活には困らないが
獣の檻と大差ない施設に保護という名の監禁をされている。
だがハーブウォーターだけは違った。
彼には知恵と仁義と希望があり
『一望の塹壕』管理者という立場が証明していた。
亜人種もいる中で抜擢された人間……
とは言っても、亜人種を隠れ蓑にする為
肌の色も顔も変えてしまったが。
整形は他の人間もやっている事だし常套手段だが
彼はよりにもよって食屍鬼シリーズの顔を使っている。
もう●百年前に絶滅した人食い種…
彼は彼等を愛して止まない。
肌を青くし、銀毛に変えて、コンタクトで黒白目を再現し
体の至る所に薔薇の入れ墨……
長身も相俟って厳つい外観だが
それでも周囲から慕われていたし、又彼も応えていた。
衣食住には困らない。
遥か向こう側にある『基地』からこまめに支給品が来るから。
まるで不便がない……なんとなく過ごす日々。
大量の鍵と認証コードをぶら下げて
今日も人を茶化しながら施設内の巡回をしていた。
いつもと変わらぬ陽気が返る。
ハーブウォーターに知らない顔と部屋は無い。
……はずだった。
『一望の塹壕』内部では
幾多ものパイプやケーブルが埋蔵されていて
あまり縁のない部屋は大概その制御室だろうと
そう思い込んで大概専門家に任せきりだった。
扉だって別室と同じデザイン…
なのに、ある一室の違和感に、気づいてしまったのだ。
匂ったわけでも煙が立ったわけでもないが
誘われるかのように……総当りで鍵を使用し、解錠を果たす。
開けた室内。
想定外なのは、部屋の広さだけでなく
知ってはいるが配置の報せのない物があった事。
通称『母胎』と呼ばれる其れは
女性を想わせるフォルムをした兵器の一種であり
生物種を内蔵し保管をするのが主な役目である。
人間の種を宿すつもりか?と一瞬勘繰ったが
だがその予定ならば此方に一報無いのは妙だ。
そう、そんな妙な状況下であるのに
ハーブウォーターは『母胎』にある鍵穴に釘付けになっていた。
実は大量にある鍵の中には、鍵かどうかも疑わしい鍵があり
鍵穴とその鍵が一致しそうだと、直感が訴える。
強いて言えば原動力は好奇心の他なかった。
作動させてしまったり破損したりだなんて考えもせず
ハーブウォーターは無意識で鍵を挿す。
凄まじい力が生じたのが手に伝わり、思わず手を離すが
鍵は独りでに回りながら吸い込まれた。
異様な事態を前にようやく理性を取り戻してから
もうどうしようもない焦燥感に駆られた。
これは『母胎』が起動した合図。
既に内蔵されていた『何か』の種が
内部で合わさり、排出される···!
停め方は知らない。破壊行為の正否も知らない。
見守るしかなかった彼が目の当たりにしたのは···
青い肌、銀色の髪と尾、異形の翼が背から生えてはいたが
薄っすら開けた目蓋から見えたのは黒白目で
その外観はほぼ間違いなく
あの絶滅した、あの憧れの人食い種族の、『食屍鬼』···!
ハーブウォーターは生まれたての食屍鬼に釘付けになる。
生まれたてとは言っても長身であるが
培養槽の中で身を丸めているその様は胎児の様。
そして次に決意した。
彼を護ろう···何があっても、自分は彼の味方になろう、と。
常闇に閉ざされ…
奈落が広がり…
異形と恐怖で満ち溢れ…
此処はもう、深淵が支配している。
ヒトは少ない。人間はもっと少ない。
絶滅危惧種認定されてから
『一望の塹壕』という、日常生活には困らないが
獣の檻と大差ない施設に保護という名の監禁をされている。
だがハーブウォーターだけは違った。
彼には知恵と仁義と希望があり
『一望の塹壕』管理者という立場が証明していた。
亜人種もいる中で抜擢された人間……
とは言っても、亜人種を隠れ蓑にする為
肌の色も顔も変えてしまったが。
整形は他の人間もやっている事だし常套手段だが
彼はよりにもよって食屍鬼シリーズの顔を使っている。
もう●百年前に絶滅した人食い種…
彼は彼等を愛して止まない。
肌を青くし、銀毛に変えて、コンタクトで黒白目を再現し
体の至る所に薔薇の入れ墨……
長身も相俟って厳つい外観だが
それでも周囲から慕われていたし、又彼も応えていた。
衣食住には困らない。
遥か向こう側にある『基地』からこまめに支給品が来るから。
まるで不便がない……なんとなく過ごす日々。
大量の鍵と認証コードをぶら下げて
今日も人を茶化しながら施設内の巡回をしていた。
いつもと変わらぬ陽気が返る。
ハーブウォーターに知らない顔と部屋は無い。
……はずだった。
『一望の塹壕』内部では
幾多ものパイプやケーブルが埋蔵されていて
あまり縁のない部屋は大概その制御室だろうと
そう思い込んで大概専門家に任せきりだった。
扉だって別室と同じデザイン…
なのに、ある一室の違和感に、気づいてしまったのだ。
匂ったわけでも煙が立ったわけでもないが
誘われるかのように……総当りで鍵を使用し、解錠を果たす。
開けた室内。
想定外なのは、部屋の広さだけでなく
知ってはいるが配置の報せのない物があった事。
通称『母胎』と呼ばれる其れは
女性を想わせるフォルムをした兵器の一種であり
生物種を内蔵し保管をするのが主な役目である。
人間の種を宿すつもりか?と一瞬勘繰ったが
だがその予定ならば此方に一報無いのは妙だ。
そう、そんな妙な状況下であるのに
ハーブウォーターは『母胎』にある鍵穴に釘付けになっていた。
実は大量にある鍵の中には、鍵かどうかも疑わしい鍵があり
鍵穴とその鍵が一致しそうだと、直感が訴える。
強いて言えば原動力は好奇心の他なかった。
作動させてしまったり破損したりだなんて考えもせず
ハーブウォーターは無意識で鍵を挿す。
凄まじい力が生じたのが手に伝わり、思わず手を離すが
鍵は独りでに回りながら吸い込まれた。
異様な事態を前にようやく理性を取り戻してから
もうどうしようもない焦燥感に駆られた。
これは『母胎』が起動した合図。
既に内蔵されていた『何か』の種が
内部で合わさり、排出される···!
停め方は知らない。破壊行為の正否も知らない。
見守るしかなかった彼が目の当たりにしたのは···
青い肌、銀色の髪と尾、異形の翼が背から生えてはいたが
薄っすら開けた目蓋から見えたのは黒白目で
その外観はほぼ間違いなく
あの絶滅した、あの憧れの人食い種族の、『食屍鬼』···!
ハーブウォーターは生まれたての食屍鬼に釘付けになる。
生まれたてとは言っても長身であるが
培養槽の中で身を丸めているその様は胎児の様。
そして次に決意した。
彼を護ろう···何があっても、自分は彼の味方になろう、と。
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