蟹〜
真っ白、窮屈、冷たい。
頭と体をそれ等で支配されたディディ。
此処は何処なのか、『過去』なのかも判らない。
やがて世界は真っ黒になった。
報告を受け現場に向かった。
亀裂が生じた氷河の谷に異物が見えたような気がする
との事で、異物を対処できる者が他にいないのも相俟って
向かう以外に選択肢はなかった。
氷河の隙間を掻き分けると丸まった青黒い塊が見え
素手で周囲の氷を割って砕いてくり抜いて、塊を回収···
それは判断と処置に非常に悩まされるものであった。
「···だから私を呼んだのですね?」
静かにだが含みのある問い質しで締めて伺うのは
カルメルタザイトことザイト。
彼の情報を読み取る異能と、フットワークの軽さは
界隈でも広く知れ渡っており、重宝されている。
シリシャスシストも縁を使って彼を当てにした。
「こいつがいると説明の手間が省ける。」
正直すぎる彼に対し当人は微笑んで流すが
「同様に求められ多忙な身の後輩に敬意をだな···」
と苦言を漏らすのは元『此処』の管理者であり現司書長の
フォスフォフィライトことフォスである。
食屍鬼が揃って見詰めていたのは、例の青黒い塊。
外観特徴からして同胞のようだが
食屍鬼シリーズにはいそうでいない異形だった。
異能で正体を探るザイト···
格下相手なら詳細に内部情報を読めるのだが
「解答に悩んでいるというより返答に悩んでいるな?
そいつからは俺にも異様な『数値』が視えている···」
そう口を挟むフォスに対し静かに頷く。
「先ずは言葉にして整理してみるんだ。」
「何も満点取れってんじゃねーんだからよ。」
···ザイトの読みによるとこうだ。
『遺伝子的にも食屍鬼の特徴があるだけでなく
シリーズの遺伝子情報もある』
『それも大量どころでなく、全個体分』
『全とはいってもナンバリング1から64までで0は無い』
『製造に携わったのは博士等ではなく機械による完全な自動操作』
『03006066を自称しグランディディエライトと名付けられた』
『最大の特徴は彼が別時空の存在であること』
『時を翔ける異能力者』
···解凍した青黒い塊ことグランディディエライトにも
話の流れで同様に伝えた。
物腰の柔らかい口調のお陰か
突飛な内容の会話だが、お互い落ち着いた様子で聞き入れる···
『別の未来』と『別の過去』の者達で
自己紹介するよりも自己を詳細に紹介される不思議な一場面。
いつの間にか席を外していたシリシャスシストが
戻ってくると同時に、雑に切り分け焼いた肉塊を振る舞う。
微かにだが独特な刺激臭を放つ···
「喰いな。働き者は喰うべきだぜ。」
言うなり、力任せに引きちぎって口いっぱいに頬張る。
ザイトも後に続くが、小さくちぎり小口で喰む。
「これは命を繋ぐ行為だ、命を頂き、生きる手助けをする。
罪悪感はあっても良いが、次にどうするか考える事のが大事だ。
俺達世代は人肉だけでなく知恵や業もお前に授けられる。
それと、帰る手段もな。」
同じく『数値』が視えるフォスからの
あまりにも頼もしい助言に、躊躇う事を忘れたディディは饗しを受け入れた。
初めての人肉食···硬いが噛みちぎれなくはない。オトナの味。
『何か』が気道や食道に入って、全身に溶け込むのを感じた。
力が湧く。生まれた時以上の力を得た気がする···
後日、ザイトとフォスの手により『数値』を逆算し
『ディディの生まれた時空の数値』が導き出された。
異能による力業···より正確に計算できる者もいるにはいるが···
「レンタル料がキツいからお前等を呼んだんじゃねーか!」
シリシャスシストが一蹴。
彼の言い分にも一理ある、別の未来より近い未来のため···
アザルシス屈指の頭脳を数時間拘束するだけで
この施設は一気に経営難になってしまう。
「十分、とっても助けてもらったよ、ありがとう。
人間は好きだし食屍鬼も好き。
僕の生まれた時空で、皆再起出来るように頑張るね。」
力強い目標を述べながら各自に謝礼と抱擁を交わして
ディディは再び時を翔けた。
「で、実際あいつの正体はどうなんだ?」
「此方の定義で言えば合成生物にあたり食屍鬼と言い難いです。
ですが『別の未来』の定義では必ずしもそうと限りません。
何より皆の意志を継いで生まれ、歓迎された存在なのだから
少なくともあちらでくらい食屍鬼と名乗って良いと思います。」
「俺達の本質がディディにあるのだろうな。
命の共依存···人間が少ないうちはまた此処を宛にしてくれれば良い。
『過去』は変えれないが未来は幾つも作れる。」
「じゃあそれで資料作っといてくれ。」
「シリシャスシスト···苦手な作業だからといって丸投げは···」
「ふふふ、扱いに困らせたのは私も同じです。お手伝いしますよ。」
頭と体をそれ等で支配されたディディ。
此処は何処なのか、『過去』なのかも判らない。
やがて世界は真っ黒になった。
報告を受け現場に向かった。
亀裂が生じた氷河の谷に異物が見えたような気がする
との事で、異物を対処できる者が他にいないのも相俟って
向かう以外に選択肢はなかった。
氷河の隙間を掻き分けると丸まった青黒い塊が見え
素手で周囲の氷を割って砕いてくり抜いて、塊を回収···
それは判断と処置に非常に悩まされるものであった。
「···だから私を呼んだのですね?」
静かにだが含みのある問い質しで締めて伺うのは
カルメルタザイトことザイト。
彼の情報を読み取る異能と、フットワークの軽さは
界隈でも広く知れ渡っており、重宝されている。
シリシャスシストも縁を使って彼を当てにした。
「こいつがいると説明の手間が省ける。」
正直すぎる彼に対し当人は微笑んで流すが
「同様に求められ多忙な身の後輩に敬意をだな···」
と苦言を漏らすのは元『此処』の管理者であり現司書長の
フォスフォフィライトことフォスである。
食屍鬼が揃って見詰めていたのは、例の青黒い塊。
外観特徴からして同胞のようだが
食屍鬼シリーズにはいそうでいない異形だった。
異能で正体を探るザイト···
格下相手なら詳細に内部情報を読めるのだが
「解答に悩んでいるというより返答に悩んでいるな?
そいつからは俺にも異様な『数値』が視えている···」
そう口を挟むフォスに対し静かに頷く。
「先ずは言葉にして整理してみるんだ。」
「何も満点取れってんじゃねーんだからよ。」
···ザイトの読みによるとこうだ。
『遺伝子的にも食屍鬼の特徴があるだけでなく
シリーズの遺伝子情報もある』
『それも大量どころでなく、全個体分』
『全とはいってもナンバリング1から64までで0は無い』
『製造に携わったのは博士等ではなく機械による完全な自動操作』
『03006066を自称しグランディディエライトと名付けられた』
『最大の特徴は彼が別時空の存在であること』
『時を翔ける異能力者』
···解凍した青黒い塊ことグランディディエライトにも
話の流れで同様に伝えた。
物腰の柔らかい口調のお陰か
突飛な内容の会話だが、お互い落ち着いた様子で聞き入れる···
『別の未来』と『別の過去』の者達で
自己紹介するよりも自己を詳細に紹介される不思議な一場面。
いつの間にか席を外していたシリシャスシストが
戻ってくると同時に、雑に切り分け焼いた肉塊を振る舞う。
微かにだが独特な刺激臭を放つ···
「喰いな。働き者は喰うべきだぜ。」
言うなり、力任せに引きちぎって口いっぱいに頬張る。
ザイトも後に続くが、小さくちぎり小口で喰む。
「これは命を繋ぐ行為だ、命を頂き、生きる手助けをする。
罪悪感はあっても良いが、次にどうするか考える事のが大事だ。
俺達世代は人肉だけでなく知恵や業もお前に授けられる。
それと、帰る手段もな。」
同じく『数値』が視えるフォスからの
あまりにも頼もしい助言に、躊躇う事を忘れたディディは饗しを受け入れた。
初めての人肉食···硬いが噛みちぎれなくはない。オトナの味。
『何か』が気道や食道に入って、全身に溶け込むのを感じた。
力が湧く。生まれた時以上の力を得た気がする···
後日、ザイトとフォスの手により『数値』を逆算し
『ディディの生まれた時空の数値』が導き出された。
異能による力業···より正確に計算できる者もいるにはいるが···
「レンタル料がキツいからお前等を呼んだんじゃねーか!」
シリシャスシストが一蹴。
彼の言い分にも一理ある、別の未来より近い未来のため···
アザルシス屈指の頭脳を数時間拘束するだけで
この施設は一気に経営難になってしまう。
「十分、とっても助けてもらったよ、ありがとう。
人間は好きだし食屍鬼も好き。
僕の生まれた時空で、皆再起出来るように頑張るね。」
力強い目標を述べながら各自に謝礼と抱擁を交わして
ディディは再び時を翔けた。
「で、実際あいつの正体はどうなんだ?」
「此方の定義で言えば合成生物にあたり食屍鬼と言い難いです。
ですが『別の未来』の定義では必ずしもそうと限りません。
何より皆の意志を継いで生まれ、歓迎された存在なのだから
少なくともあちらでくらい食屍鬼と名乗って良いと思います。」
「俺達の本質がディディにあるのだろうな。
命の共依存···人間が少ないうちはまた此処を宛にしてくれれば良い。
『過去』は変えれないが未来は幾つも作れる。」
「じゃあそれで資料作っといてくれ。」
「シリシャスシスト···苦手な作業だからといって丸投げは···」
「ふふふ、扱いに困らせたのは私も同じです。お手伝いしますよ。」
PR
Comment
<< 塹壕の守護者 転
| HOME |