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オーダーメイドの衣服を与えた。
尾や翼だけでなく腕まで3本目と
合う服が無いのを良い事に、『趣味』を被せて。

食糧については元から余裕があるし
体格の割に食べないので問題は···
···いや、『肝心な物』が無かった。
それを知るのは『一望の塹壕』内でも
マニアである自分しか知らない。

だから先住民等もハーブウォーターに似た亜人が
突然生まれ出てきた、という認識がほとんどで
食屍鬼だと思っても特性を詳細に知る者はおらず
彼の人懐こい性格も相俟って温かく迎え入れてくれた。

食屍鬼だから保護したのに
食屍鬼でなければ『肝心な物』は必要ないのに
といった矛盾で苦悩しつつ
今日も寝て起き飲食し働き遊び一日過ごした彼を見て
ハーブウォーターは安堵する。
父親目線で世話をする日々。
悪戯される事もあるが、可愛いものである。

彼を『グランディディエライト』と名付けた。
長いので専らディディの愛称で呼ばれるが
本人はこの特別な石の名をとても気に入ってくれた。

このまま平穏無事に過ごせれば良いのに···
そう願っていたが、現実は許してくれない。
徐々にだがディディの体が明らかに縮んでいたのだ。
食欲は変わらないのに、服の余りが増す。
力も衰えてきた。
容易にあらゆる重量を上げたり破いていたのが
筋肉質な成人男性にやや勝る程度に。

本人含めた皆がこの変化に対し首を傾げる中
ハーブウォーターだけは焦燥感を隠すのに必死であった。
ディディもヒトが好きだしヒトから好かれいる。
事実を明かしたら拒絶反応を示すのは目に見えていた。
だから必死に黙っていた。申し訳無いと思いつつも······


そんなハーブウォーターの口を
こじ開けさせる大事件が起こる。
『一望の塹壕』を明らかに意識した視線があるという
不吉な一報から始まり
その威圧感の規模から皆恐怖に怯え狂いながらも
正体を察していた。
深淵の広がる外、遥か底から
巨大であること以外名状しがたい異形が
『一望の塹壕』に注目している···
過去にいた、人間社会に紛れ込む余地を与えられた
社交的でひ弱な個体ではなく
圧倒的な存在感は天災に近い事象を齎すような
人類では到底敵わぬ、原種の異形···!
気紛れに触れられただけで施設は容易に墜ちるだろう。
だから祈りながら怯えてやり過ごすしかなかった。
今までは運が良かったため其れで済んだが
今回は施設の照明で照り返された大きな眼球が
既に見える位置まで来てしまっているらしい。

全滅を覚悟したハーブウォーターは
ディディに真実を告げようと覚悟を決めたが
ディディもまた別の覚悟を決め、告白を一先ず預け···



皆の静止を振り払い、外に飛び出したディディは
剣を抜いて勇ましく異形に対峙した。
剣と言っても金物加工職人が作った
金属製の剣のような形をした物に過ぎず
切れ味も殺傷力も特別な効能等もなく
本能的に構えているだけだが
彼の気迫は明らかに異形に伝わっていた。
いや、恐怖すら与えていたのかもしれない。
夥しい数の触手や唸り声が
ディディを拒んでいるように見える。

防戦一方で余裕もないのに······
誰もがそう思っていたが
しかしディディは抵抗を止めない。
やがて皆が静止を声援に替え始めると
それに応える様に手を掲げ···
自身の内なる力を解放した。
そう形容せざるを得なかった。
ディディ含めた全員に未知の現象である。

敢えて名称するなら『奇跡』や『魔術』だろうか?

全容が判らぬほど大きく、歪な異形が瞬く間に消えたのだ。
飛び立ったとか沈んだとか、ましてや爆ぜたり溶けたり等の動作もない。
気配丸ごと存在が消えた。
ディディが、消したのだ。
数分間確認のため飛行をした後、『一望の塹壕』に帰還。
脅威を消した驚異を皆歓迎し、感謝した。

理想を叶えてくれたディディ···
倒れそうな寸前の所で受け止め、抱き締め
ハーブウォーターは真実を伝える事を決意した。
人間の存続のため?
いや、彼の父親として生き長らえてほしかったからだ。
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