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シフトを詰めに詰めてようやく設けた長期滞在期間。
上司から睨まれ舌打ちもされたが
成果を果たせば気が変わる…事に望みをかけつつ
大先輩サニディンの行方を掴むため
ビスマスは単身、異世界『アルカナ』に降臨した。





「ああ、今日も眩しい…暑い……」

常に曇天の世界から来た身としては
此方の世界はただでさえ眩いのに…
強い日射し、虫の輪唱、夏季に来てしまった。

「北の都ならもう少し穏やかだったかな…」
「大差ねえよ。ていうかあっちは行くな。
豊かじゃああるけど他個体が残した爪痕は深い。」
「ああ〜、やっぱり…?」

やはりこの館に身を寄せて正解であった。
此処には食屍鬼への理解者と同胞が居る。
この人は大先輩レコードキーパー。
サニディンさんと同期であり同行者であり
そして唯一の生存者…当時を知るキーパーソンでもある。

「とは言っても進展が無いんですよねえ。
当時の現場には確かに『切り取られた痕』はあるけど
其処には何も無さそうで…」
「死ぬ間際にそんな細工する事がそもそも可能なのか?
空間や時空に触れる行為はいまいち理解できんな。」
「サニディンさんが生きている時に聞けば…
あ〜そうか…」

あの人は自分が理解できた所で人には説明を省く。
恐らくだが理由は面倒臭いの他ない。
気持ちは判らなくもないが、せめて
何が起きてるかくらい説明するべきだと俺は思う。

「理論上じゃあ可能です、が
死ぬ事を悟った上で実行できるかは
サニディンさんの技量もしくは別因子に関わりますね。」
「お前が追究してんのがその別因子ってわけか?」
「そ、そんな所です。」

歯切れが悪いが此処までようやく結論付けれたのは
とある知識人の助力があったからであり
それが断定できる程に自身もまだ理解が及んでいないからだ。
今は恐らく、式を解くための理論というレールに乗っている段階…

「ようするに暇なわけだ。」
「どう解釈したらそうなりました?!」
「カコが出張しに行くから付いて行ったらどうだ?」

どうしてそう行き着くのだろうか?
カコとは同胞のカコクセナイトの事であり友人である。
口は悪いが、医療の腕前と愛想が良い医師見習いと評判。
出張要請はその実力が遠方にまで伝わっている証拠だ。
だが同行を勧める理由が判らない。
こちらは血肉を見たら腹の音を聴かれるだけなのに。

「出張先はそこそこの規模の集落なんだが遺跡がある。」
「観光スポットです?」
「そして『俺達』がシャンタク鳥に乗って
境目を超えて初めてアルカナに現れた地点でもある。」
「えっ」
「地点とはいったが上空だがな。
広がる森の中で遺跡が目に入ったから間違いない。
超高速で飛んでいたが野鳥にしてはデカくておかしいからと
微かに当時の目撃情報も残り伝わってるから間違いないぞ。」
「め、め、めちゃめちゃ重要な情報じゃないですか!
なんで黙っていたのおおお?!」
「最近思い出したし、素人が関連付けれると思うか?」

最もである。
わからないが判らない、不知から情報を導き出すのは難儀。
有識者が情報を収集するしかない
其れこそがこの俺に今課せられている使命…

「OK判りました、それでいつ行きます?」
「3日後には発つ。
デカい馬車数台出すからお前が一人増えた所で問題はない。
ゲロ吐かずに大人しく出来るのが前提なくらいで。」
「山超える感じかな…
俺が苦手なのは船の横揺れの方だから多分大丈夫…
許可取ってきます、情報感謝します。」
「ブレた存在のあいつを正せんのはお前くらいだ。
しっかり果たせよな。」

期待されているかはともかく大先輩から託されるくらいには
信頼を得ていたかな?気合が入った。



アルカナは機械文明がまだない。
一部にかろうじて蒸気やらの機関が存在する程度か。
遠距離移動のための車両は馬車に限る。
当然飛行機などない…鳥や竜等の搭乗用生物はいるにはいるが
それは集落とは縁のない都会や大国での代物だとか。
そんな中小型機サイズの巨鳥シャンタク鳥を見たら
それは驚き伝わるに決まっている。
……揺れに支障が無いと今度は暇が現れる。
友人に話題を振ってみた。

「カコは異能を使って境界越えしたんだよな?
よく辿り着けたな。」
「そんな難しい事なのか?
俺は行けそうな所を夢中で駆け込んだから
細かいこたぁ判らねえよ。」

運と勘が良いのが伺える。
理(ルール)が切り替わる瞬間である世界と世界の境界線跨ぎは
危険が伴うどころではない。
様々な非常識な事故・異変が発生したり
脱出を試みて半端に裂け目でも作ろうものなら
ティンダロスの猟犬に見つかり、無限に追いかけられる始末。
…のはずだが、それらを掻い潜り境界跨ぎを本当に果たした?

「『行けそうな所』って言ったけど何か目安でも?」
「あ?だから細かい所はわかんねえって。
色々建物があったり、おかしな野郎もいたけど
直感的にどれも触れたらやべーと思って。
で、『あっち』から『こっちの光景』が見える所を
見つけたから飛び込んだ。」
「待って、そんな具体性のある空間があったのか?!」
「いやだから難しい事はわからん。
俺は鏡写しの向こう側に潜む異能で辿り着いただけだから。」

レコードキーパーさんといい、身近に重要な情報があったなんて。

異世界アルカナには裏側に空間があった。
いや、アルカナには元から裏側もあった、が正しい。
なんせ『アルカナ』なんだから。
此方が表側とすれば、あちらは裏側差し詰め『アルカナの逆位置』。

思えばカコは童話と絡むあの世界でも『赤の女王』と縁があったりと
ヒントは散りばめられていたのだ…

「そろそろ着くぞ。」

小屋や家屋が点々と見えてきた。

「俺は此処で散策したことないから地理もろくにわからん。
遺跡だとか色々聞きたかったら案内人に聞きな。」
「案内人がいるなんて観光が栄えてるってこと?」
「栄えていたらもっと若い奴がいただろうな…
ボランティアでやってる物好きだよ。
スフェーンって奴、タッパもお前と同じくらいですぐ判る。」

それは人間なのか?
身長222cm重さはまだ成長中の俺は訝しんだ。
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