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1桁No.の同胞達と飲み交わしていた時。
なぜその解呪方法にしたのか何気なく尋ねられ
スーパーセブンが出した真面目な答え。

「毒を毒と定義づけられたのも、役目を果たした廃棄物も、呪いも、皆ヒトが生み出したもの。一方的に忌み嫌い、利用し或いは突き放すのも『かわいそう』だと思ってねえ。だから私は抱えて愛しむだなんて、ちょっと回りくどい真似をしてみてるだけさ。」




巨大な尾を玄関で引っ掛けたビクスバイトは、『八塩折の酒亭』で酒を引っ掛けていた。
夜も更けに更け、一人だけの客を相手どっていたのはマスターであるダイオプテーズのみ。

「お前は本当に酒選びが上手いな」
「君の顔に呑みたい物が書いてあるだけだよ」
「そんな単純かね、俺は?」
「どうかなあ、単純だったらビールジョッキ出すし」
「純違いだろそれは」

ようやく、綻んだ。

最近の激しい変化の波に逸早く危機を感じていたのだろう。

彼は根が真面目である。
混沌を深く噛み締め、深刻な自体をまともな精神で伝えるのが己の役目であると…遊郭でたまにハメは外しはするが。

そんな彼に差し出したのは吟醸酒であった。澄んで、旨くて、そして重い。




赤ワインを注がれたグラスをゆっくりと…半時計回りにスワリング。

「おや、珍しい」

珍しい客ルビーに対して、これまた珍しい事をしたなと素直な感想である。

「少し渋みが増したかなと」
「ボトルキープを始めてから十余年経っちゃったからなあ」
「ふふ、すぐに飲み切ると当時は思ったんですがね」

忘れていた訳でも嫌いになった訳でも無い。
ただ、飲み切るのが惜しいのだとルビーは今ようやく気がつけたのだ。
息を吹き返した赤ワインを一口、舌鼓…

「マスター、私は過去にこだわりすぎなのでしょうか?
たまに、皆の再起の足枷になっていないかと不安になるのですよ…」
「じゃあまずは私のために飲み切ってほしいな」
「え?」
「贈られてきたワインには『祝福』『労い』の意味があってさあ。でもせっかくなら良いのをやりたいと、より年代物であったりより新しいのだったりととにかく順番待ちが多くてねえ」
「一体何の事です?」
「ルビー、君に感謝したいヒトで渋滞中なんだよ。数で言えばあの親子が相当だし、次点でファミリーからだし、最新だと例の個体のコが贈りたがってさ〜」
「いつの間に…そんな………

判りました、マスターの足枷になりたくないですしどんどん飲み尽くしてしまいましょうか」




そわそわきょろきょろと落ち着かない巨漢。
その目は好奇に溢れ、澄んで輝いている。

「こういう建物は珍しかったかな?
スティヒタイト…じゃなかった、サッちゃん」
「サッちゃん!」

呼び方が余程気に入ったのか、満面の笑みを浮かべて足をばたつかせている。
耐震性の強さには定評なのに揺れる揺れる。

この男、スティヒタイトという暴漢だったのだが…転生の呪いの影響でサーペンティンなる幼き少女に体の主導権を奪われたようだ。

「おじちゃんはなんておなまえ?」

虚空に向かって話し掛けた。

「あれ?どうしたの?
…どっかいっちゃったあ」
「ごめんね、あのおじちゃん静かに呑むのが好きなんだよ」
「そうなの?なんかききたいのかなとおもってきいたのに」
「女のコが来るのはうちじゃあ珍しいからね〜、つい見ちゃったの」

共に小首を傾げる

「はい、サイドカーもどきジュース。サービスだよ」
「あ!このまるくてきらきらのきいろ、なぁに?!」
「レモンだよ。ちょっと漬けておいたね。それは食べてもいい物だよ」

喜んで頬張る彼女を、物陰から見つめる小さい常連客は微笑んでいた。




「だいぶご無沙汰だったねえ。
部下は?
ああ、あのホテルなら金払い良い客には仕事してくれるもんね」

独り言ではなく、これでも客と対話をしているのだ。
首周りを覆っていた帯状のモノがゆるりと解けると、あらわになるのは人の輪郭を失った顎である。

「噂通りマフラーじゃなくなったんだ、よく動くねソレ。」

だが『ソレ』の詳細は判っていない。
崇拝する邪神からの恩恵の延長である事以外は。

「変化とか進化とか色々表現はあるだろうけど、トーリが『成長』した証じゃないのかい?」

アーモンドの香りがするウイスキーが濃厚なカクテルを差し出した。

「氷たっぷりにしといたよ、普通の倍入れちゃった。

なんの酒かって?マフィアの酒さ。
『薔薇』はウイスキー強めを好むし、『蝶々』は甘めを好む」

トリフェーンにとって、ダイオプテーズはいつまでも誰よりも強い味方であり敵だ。

だから安心して呑める。
ゴッドファーザーを味わうゴッドファーザーであった。



「はい、甘酒」
「えっ?!これもお酒なんですか?!」
「立派な酒だよ。嘗ての人間なんか、幼少期にドリンク変わりに嗜んだそうだよん」
「そんなにアルコールに強いヒトがいたんですか?!」
「まあ同じ甘酒でもそっちは酒粕が無い方の甘酒だけどね」

あわあわと翻弄されている少年は、大きい帽子と花を模した耳飾りが特徴的。

「大人だってアルコールが体質的に受け付けない人がいるし、同胞も例外じゃないよ」
「お酒が呑めない食屍鬼がいたんですか?!」
「ああ、だからクリソコラ君に出せるおすすめの呑みやすい酒といったら先ず甘酒しかないのよ」
「な、なるほど…おいしい…」

ちみちみと呑んで麹の食感を堪能している。
これでも彼も同じ食屍鬼なのだが、未成熟のまま世に放たれたのである。
他の個体にはない不安や危機感を抱くのは極自然な事だ。

「お嫁さ…いや、伴侶もできて、住まいも決まって、これから大人達と付き合う事も増えるだろうと思って、飲み慣れるなら何から飲むのが良いかなと思って……」
「大人の定義も近年益々曖昧になってきたからなあ」
「ぼ、僕はまだ大人じゃないんでしょうか?」
「さあ?でも努力してる旦那さんだとは思うよ。良い旦那かどうかはお嫁さんのジャッジ次第だけどね。」

おどおどとおっかなびっくりだった男の肩の力が抜けたのが判った。




「判った、日付が変わったらそちらに向かおう。
…ああ、どちらにせよだ。現場を見ておかないとおちおち寝てもいられないからな。」

ようやく端末をしまった。
ミントがたっぷり入ったモヒートを一口、喉を潤す。
この青々しさはアザルシスにおいては細やかな贅沢か…

「目が冴えちゃわないかい?」
「あれは言葉のアヤだよ、マスター。
私は何時何処でもすぐ眠れるし、起きれる。」
「現役軍人顔負けの特技だね。」
「商売だって立派な戦場さ。」
「じゃあさしづめ軍師かな?」
「どちらかと言えばそうか。
思い通りに事が運ぶと…」
「気持ち悪いよねえ」
「ふっ、さすが名軍師。
よく判っている。」
「『名』じゃなくて『元』だよ。」
「それは失敬。」

くくっ、と苦笑。

「そうだ、私はどう動くのか読むのが楽しくて続けているのかもな。」
「へー、じゃあ以前は退屈だった?」
「あまり記憶に残っていないから、きっとそうだ。」
「エメラルドはアメジストの事好きね〜」
「あまり適当な事を言ってもらいたくないな?」
「だから『元』って言ったじゃん?」




「よお、マスター。
一杯引っかけに来てやったぞ。」
「一杯だけなの?」
「相っ変わらずだな」

お互い目の笑ってない笑顔で始まるいつもの応対である。
食屍鬼も肉体派ばかりではないが、口で負かす事に徹底した個体はこのサファイアくらいだろう。

「酒が旨いのは認めるけどよ〜、スタイル維持と話術のため深酒しないって言ってんじゃねーか」
「判ってるって、君にとっての貴重な一杯だって事は」
「そりゃどーも」

はいどーぞ、と差し出されたカクテルはブラッディメアリーだ。

「…マスター、隠し味は『誰』だ?」
「卸したての20代女性のだよ。賭博場で撃たれたみたいだけど本人も状態もそりゃあ綺麗なもんだったね」
「……濃いなあ、いや旨い濃さだけどよ」

心の臓直搾りの血は、トマトの酸味をほとんど吹き飛ばしていた。見た目では気づけないくらいなのにどんな配合をしたかは、いつもの『企業秘密』だろう。

「とんだ偶然だよな?賭博場にたまたま来たっていう誠実な男から依頼が来たんだけどよ、一目で惚れた女が20代でな、結婚やらを提案して賭博場から離そうと必死になったらしいが、女は金よりも勝利が欲しいから生涯此処に巣食うって聞かなくてな」
「勝負師〜」
「最期まで勝ったんだよ、だから女に勝てねえ馬鹿が躍起起こして撃って勝った気でいやがってよ。で、しかもやらかしたのが客じゃなくて役員側ときたもんだ。」
「おやおや、そう言えば私に安く提供してくれたからお釣りはいらないと言ったら『癡』から頼まれたって配達のバイト君が言ってくれたんだよね」
「揉み消す気満々じゃねーか、雑魚がよ。…良いこと思い着けたぜ、これで痛い目に遭わせてやるか」
「誠実くんからどれくらい詰まれたんだい?」
「そりゃあもう…。あ、報酬貰ったら今度はいっぱい呑んでやるわ」
「それはそれは。私も『女王』も楽しみに待ってるからね」




テキーラをジョッキで呑めるのも嗜めるのも彼くらいだろう。

普段は、酒の勢いに任せて罵倒暴言をする者の酒の席に付き合う事が多く『酒は神も好んで呑む夢見る毒』と称するくらいであったから酒は苦手かと思ったのだが…

「嫌いと苦手と出来ない、は全て似ているようで違うのだよ」
「毒が好きなヒトもいるもんね」
「今回の展示品の一つに彼をモデルにした物もあったのだが、気迫があるとウケが良かったね」
「あの人の毒は神も殺せそうだしなあ」

と、会話の最中さり気なく煽ってジョッキを瞬く間に空にしてしまった。
展示会のため正装をした上品な身形に反して、体型通りの豪快な呑み方をしてくれたものだ。

「新入りの二人がとても良く働いてくれるお陰で、今回はいつもより作品を多く出せたね」
「ワイルドホースにとって、あの壁画は作品の対象外?」
「あれを描いたのは…私であって私でないのだよ。
薬毒に負けて暴走した、哀れな化物さ」
「薬も酒も、頭からじゃなくて口から飲みたいよね」

ああ、だからショット(射つ物)は避けたのかな?
とふと思ったダイオプテーズであった。




「確かにビックスは常連客の中でも特に来る方だけど、今日は来てないなあ」
「なんだあ、会えると思ったのに」
「彼も忙しいんだよ」
「えー?」
「遊ぶのに忙しいんだよ」
「え〜」

納得してない様子。
未成熟の食屍鬼も何人かいるが、この子は特に幼いような気がする。
額の広さがベビーフェイスに拍車をかける。

「なんか頼んだ方が良いのか?俺、一人で店来るの初めてなんだよ」
「おやおや、ビックスは大事なことを教えてくれなかったんだね」
「いっつも先に何か頼んでくれるからなあ」
「例えば?」
「ん〜黄色っぽい透明のやつをよく見た気がする…」
「じゃあこれかな」

ホワイトラム、ホワイトキュラソー、レモンジュースを容れてシェイクしたカクテルを差し出した。

「……あっ、そうそうこんな感じ!
俺が来るとビックスは皆にこれ奢ってんだ!」
「ちなみにXYZっていうカクテルだよ」
「何だそれ、薬みてーな名前なんだな」
「お酒だよ」

こんな事を言うあたり、ビクスバイトが見てぬ所で薬物の交換をしていた輩がいたのを小耳に挟んだのだろう。

「それにしてもクリソベリルはビックスが好きだねえ」
「だって一番カッコいいし」

最上級の笑みを見せてくれた、無邪気で可愛い後輩であった。
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