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祭典に向けて空気が張り詰め緊張感が増していたそんな時期。
空気の読めぬ訪問者が来た。

人身を生業にしていたデザートローズにはすぐに判った。
いつまでも副院長の座を譲らず、歳を重ね過ぎた
複製魔族製造スタッフ・カッセの、手土産にしては
大き過ぎて強固過ぎる金属製の箱が
『何か』を潜ませた檻であると。

「何用ですかな?そちらから来られるとは珍しい。」
「お前に、助力を受けたくてなあ…
なあ、研究所と資金、わしに投資するか貸してくれんかあ…?」
「カッセ氏、それはどちらも意味に大差はありませんな。
ですがまあ話は聞きましょうか?
…研究対象は『これ』ですかな?」
「あっ!ちょっ…」

箱に手を掛け、力任せにこじ開けた。
狂った機械音声が響いたがそれもすぐに鳴き止む。
そして中から這い出てきたのは……
デザートローズよりも更に巨体の、青肌の男。
薬剤と思わしき液体の入った筒が幾多も体に刺さっており
何より特徴的なのが頭部を覆うように撒かれた布。
男が抱える『塊』も布に撒かれて、頭部を合わせているように見える。

「…名前は?」
「ぅ……あうぅ…………」
「ツイン、ツインというんだそいつは」

知性を感じられない呻き声を上げるだけのツインに代わり
カッセが答えたが、デザートローズは首を横に振り…

「『どちら』が?
カッセ氏、交流だけでなく親交深い(と自分では思っている)私には判る。
彼等はユークレースとターフェアイトを模した生命体だろう?」

シワの深い顔に焦りの色が見え始めた。
ツインだけでなくこの老体もまともに舌が廻るか怪しいので
デザートローズは淡々と、壊した箱の内部を観察する。

「生命維持装置も兼ねていたのかこれは。
しかし外装に対して内部の作りは老朽化もいい所だ。
私が手を掛けなくとも今日にでも壊れていただろう。
…だから彼のため、いや貴方自身のために私の財力・権力をアテに?」
「お、お前に何が判る…!
歳を重ねる毎に追いやられるわしの何が判る…!
複製物に…!!」
「だがその複製物を造り、頼り、縋るしか能が無かった。」
「だ、だまぁれえええ!!」

声を上げ、細腕を振り上げた。
其の様子に驚いたのか、防衛心でも働いたのか、或いは…?

「ひっ?!
は、はな…ぃぎ?!」

心情は定かでないが、ツインは老体を掴むと
頭から丸かじりをして口に押し込む様に
あっという間に、跡形も無く、喰い尽くした。

「ははは、長旅で腹を空かせていたかね?
衣服まで丸呑みするとは………ん?」

激しく苦しみ悶え始めた。
その場で周囲の物を破壊散らして暴れる。
屋内いっぱいに響く絶叫。瓦礫と吐瀉物が飛び散る。
騒ぎを聞きつけた組員が兵器片手に続々集まってきたが
デザートローズはそれを制止。
死相がもう、見えていたのだ。

思った通り、数分でツインは事切れた。

「………ああ、腹が突き破れているな。他にも諸々。
消化しきれず、臓物が傷付いて亡くなったか。
巨体に反して中は非常にデリケートだね。」

丸で誰かさんのよう…





「………という事が先日あってだね。」

一連の録画映像を鑑賞していたのは
ユークレースとターフェアイト当人である。
防犯目的でいくつもの隠しカメラを設置しており
精巧な解像度で惨状を鮮明に映し出していた。

「アイアゲートから不穏な動きがあると聞いてから
胸騒ぎがしていたけど、まさか…想像以上だった…」
「気分はどうかね?
話の続きは休んでからでも良いのだよ?」
「ありがとう、でも今のうちに状況整理したいんだ。」

その強い意志に応えるように、一連の出来事を
ターフェアイトはしっかり胸に、頭に、刻んでいた。

カッセは、『二人』を製造した当時のスタッフの唯一の生き残り。
人間ではあるが、外法で寿命を伸ばし続け生き長らえていた。
しかし世間は彼の技術力と熱意に関心を示さず
副院長という肩書きしかもう新世代に敵わなず
その肩書きすら窓際族の象徴と化し
追いやられ、落ちぶれていた。

「外法にも違法にも触れ、挙げ句糧にすらなれなかった者の末路。
なんと憐れな。
棄てる手間が省けたとも言うが。」
「所で、ツインの遺体はどうしたんだい?」
「棺に納めている。
死亡解剖なりしてしまったがまだまだ原型は留めているよ。
何せ6人…いや12人分
一度に調査対象が大量に現れたものだから手間が掛かってね。」

さり気なく、いやわざとらしく、判りやすく
察するには虫酸が走る数字を出してきた。

「同じ博士から造られた個体の遺伝子情報が
一人除いて使われていた…?」
「その通り。12/13人分、私も含め使われていた。
ではこれから説明するとしよう。」
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