蟹〜
「ギベオンは遠征したばかりだし
報復するにはリスクが多過ぎて見返りに合わない。
それに嵐が今西から東に向かってゆっくり横断している。」
報復するにはリスクが多過ぎて見返りに合わない。
それに嵐が今西から東に向かってゆっくり横断している。」
「ふむ、では動きたくとも動けないわけだな。なるほど。
では此方側に武力を割く必要はなさそうだ。
まあ三日間の祭典を凌げれば良いだけだが
百年に一度の催しだからと張り切ってる富裕層が多くてね。」
百年に一度の催しだからと張り切ってる富裕層が多くてね。」
「用心するには越したこと無いけど君なら大丈夫だよ」
「ふふふ、ユークレースのお墨付きとはこれは光栄だね。
どれ今夜は………」
どれ今夜は………」
他国の軍制について語り合っていた二人の会話を
黙って聞いていたターフェアイトが
鬼の形相で睨みつけてきたところで話は終わった。
鬼の形相で睨みつけてきたところで話は終わった。
竜王ユークレースはこうして知恵を与えているが
それは勢力に関係なく分け隔てない。
今回偶々、相手が砂漠域の象徴たる者デザートローズだっただけのこと。
悪路を抜けた疲れも相まって
竜王ユークレースは一足先に眠りにつく……
「彼が彼でいられるのはあとどれくらいかね?」
「およそ6分。」
「寝顔は拝まなくても良かったのかい?」
「寝息は確認出来ました。」
現状のシチュエーションが最も安泰と捉え
二人で酒を飲み交わしていた。
「ところでユークレースに関する事で一つ気になったのだが
君の意見が聞きたいな」
尋ね方が巧妙な奴だと、眉間にシワ寄せた顔が物語る。
「君達、愛称で呼びあわんのだな。
彼は君をアイトと呼んではいるが」
「愛称というと?」
「ん、名前の略称だが」
ターフェアイトは愚直である。
言葉そのまま記憶はするが、内容への理解は
実は常人よりも劣っている。
実は常人よりも劣っている。
今こうして会話が叶っているのは
想像がつかないほどの自他の努力の積み重ねの賜物だろう。
想像がつかないほどの自他の努力の積み重ねの賜物だろう。
「そうだな……ユークレースだ、ユーとか呼んだ事は?」
「ありますね。あれが愛称でしたか。」
「どうやら私が想定していた場面とは違いそうだな」
「ユークレースをユーと呼んだのは
彼から言葉を学んでいた時に遡ります。」
彼から言葉を学んでいた時に遡ります。」
それは二人が分離を終え、意識を取り戻し、初めて対面した時に遡る。
厚く巻かれた包帯の隙間からユークレースの歪んだ表情が見えた。
激痛だったのだろう。
激痛だったのだろう。
それでも身振り手振りで、懸命にアイトに学びを得させたのだ。
「私が初めて発した言葉がユーでした。」
「彼から感想は聞けたかい?」
「それが声になっていませんでしたね。
ただ、とても嬉しそうなのは伝わりました。」
「まるで赤子からの呼び声のようだね。」
「赤子のような格好をして何を言いますか。」
「ふふ、とにかく君達が丹念に知恵を回し記憶をし続ける理由が
少しばかり判った気がするよ。
少しばかり判った気がするよ。
特別感も一際強いのだな。」
上機嫌に酒を煽る。
氷も入れていないそれは透き通った渦を見せながら飲まれた。
「もしもですが。」
「もしも?」
「同じような場面が来たら、ユーと呼ぼうとは思っていました。」
「もしも、が来ないのだね?」
「おおよそが想定できてしまうのです。」
「世界は廻り続けている、未知が君達と縁がないだけさ。
君達の初心な愛らしいやりとり、私も拝んでみたいものだね。」
「ふん、ユークレースにしか見せませんよ。」
酒をちび、と喉を潤す程度に飲むに留めるアイトであった。
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