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「実のところ……どうなんだ?」
「何がです?」
「俺を嫌になったり…それこそ恨んだりしていないか?」

不安な顔で尋ねるのも最早3桁回。
眠る前に最も多く投げかけられる問いの
なんとか弱く愛らしい事か。

ユークレースはおよそ72時間しか記憶が保たない。
記憶障害のせいではあるが
それを私が含む周囲が完治させないのは
その繊細な性格故に生じる鬱のリセットにも貢献しているから。

なので彼の不安と知識を埋め合わせる事こそ
この私のターフェアイトの使命。
彼から自由と命を与えられたのだから
他を投げ売ってでも全てを捧げ支えるのは当然のこと。

今日もとっておきの笑みと答えを返してやる。

「恨むなんてとんでもない、私は貴方に尽くせる事に
最大の歓びを感じているのです。」
「ええ……?そう、なのか?」
「そうですよ、嘘偽り無く。」
「だとしたらどうしてそういう感情が湧くんだい…?」
「どうしてでしょうかね。
貴方の喜怒哀楽を拝めるだけで楽しくて仕方ないのは確かです。」
「喜楽はともかく怒哀も…??
俺はお前を困らせているだけだろうに、なんか、むず痒いな。」
「困った事もありませんよ。」

なんて愛しい。
ころころと変わる表情と
逆に歪みないその想いやる気立てがなんて愛しい。
昂ぶる気持ちを堪える必要がない今、私は存分に口角を歪めている。

「ふふふ、すいませんね。
つい顔が綻んでしまいます、不快に感じたら申し訳ない。」
「ふ、不快だなんてとんでもない。
俺はともかくアイトみたいな美人こそ
どんな顔しても良いんじゃないか?
それでも、悲しい顔だけはさせたくないけどな……」
「悲しませたくないのは私も同じなのですよ、ユークレース。」

そう、泣きそうな顔も愛しいが
泣かせたいかと言われたら別である。
むしろそんな輩が現れたらその輩を泣かせる。

「ごめんな………いや、ありがとう。
いつもありがとう、アイト。」
「いいえ、どう致しまして。」
「お陰様で眠気が来た気がする…」
「そうですか、ではおやすみなさい。ユークレース。」

安らかな顔になったのを確認し、私は部屋を後にした。
彼が目覚める頃にはもうこの楽しい一時も『また』終わる。
その一時という糧のために、私はまた
同じ日々を送りつつ新たな情報を記憶していく。
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