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「実のところ、どうなのです?」
「何が?」
「覚えていた事や思い出せた事はありますか?」

やっと静かになった所で今度は返答に困る尋問が来た。
いつ眠りにつけるやら……

俺の名はユークレースというらしい。
らしい、というのは情けない事に何も覚えていないからだ。
当然、帰る場所も。
だからこの見知らぬ大所帯の見知らぬ家で軟禁…
いや監禁状態だが体裁を整えている間は大人しくしている。

ターフェアイトとかいうこの男。
きっちりこちらの世話を焼いてると思いきや
突然どうしようもなく強引になり強制を迫ったりと
無表情なのも相俟って機械的で奇妙この上ない。

ヒトの寝床にまでいつまでも居座って
尋問してきたのもこいつだ。

「覚えていた、かは判らんが
大体目的に添った場所には滞りなく辿り着けてるな。
この家、バカでかくて部屋数も多いのに
表示もなくてトイレどうしようかと思った瞬間もあったが。」
「すぐに処理しますから安心なさってください。」
「そういう問題じゃねえだろ?!
俺が漏らす前提で考えんな!!?!」

恐らく本気で言ってるから恐ろしい。
それは俺の尊厳が死ぬ。

「はあ、全く……それで
思い出せた事、なあ………
無いというか思い出せないというか
思い出そうとするともやもやしだして
頭痛やら吐き気を催したりやらして、思い出したくなくなる。
結果何も残らない、だから過去の話は判らん。」
「なるほど。」
「………これで納得したか?」
「ええ、それが答えならば。」
「何の参考になるんだか、ったく。」
「大いに参考になります。
貴方から発せられる物は全て私の生きる糧となります。」
「お、大袈裟な。
なんでお前の糧になんなきゃならねえんだっ」

………
…?
今まで即答してきたのに、不可解な間を置いてきた?

「私の務めです。」
「な、なんだ。思ったよりシンプルな……
誰かに俺の情報でも垂れ込むのがお前の仕事か?」
「ええ。」
「ええって、マジか……」

糧ってそういう事なのか?
俺の身にどんな価値があるか判らんが
脱走を決意させるには十分な問題発言だこれは。

「…ならもう言う事はねえな。」
「そうですか、ではおやすみなさい。ユークレース。」

眠れるわけないだろう、こんな会話交えた後に……
それでもあいつが潔く退室したのが幸いか。

…一日中あいつの顔を見ていた気がするが
あいつの本職は一体何なんだ?
隙がないが、なければ作らねば。
でないと此処で搾り尽くされる。

「…にしても、実のところってなんだよ。
俺が忘れたふりでもしてると思ったのか?
ったく……」

俺は本当に何も覚えてないし
お前の事だって何も判っちゃいないのに。
こんな中身の無い奴の何が糧になるんだか……
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