蟹〜
「あの人、組の中でも大人気で、彼氏がいるって噂だけど誰かはまだ判らないんだ。
組長の愛娘だから公にはしにくいんだろうねえ。フォシデはどう?」
あ?興味ねえな、彫師としては腕が立つようだが。
気に入ったらそりゃヒトの女でも『奪う』かもしれねえが、美人だが好みじゃねえし。
それに乳がでかすぎてバイクに乗せれねえよ。
それじゃあそろそろ出発するぞ。
しっかり捕まってろよ、今晩は雨雲から逃げるような旅路になる。
臭くなりたくなかったらお前も加速の手立てしてくれよな。
プルペラ鉄工場。多分深夜。
作業員が優秀なのを良い事に肥溜めみたいな環境で働かせている最悪の工場だ。
無休の重労働、ノルマはバカ高く給料はアホみたいに低い、頭がイカれて狂った性癖に目醒める奴が出る始末。
食屍鬼である俺は更に過酷な作業環境に置かれていた。
二徹三徹どころじゃねえ、週徹だ。
工場長兼社長のマクロンハーツは稼ぎは巧いらしいが、金とヒト使いが粗過ぎる。
飯を食ってるだけでサボり扱いするのはどうなんだ?
トイレ休憩がなかったら油カスとクソの区別がつかなくなるぞ?
なんで俺はこんな奴に従っていたんだったかな···
あ、駄目だ頭が回らねえ······
……何か遠方から聴こえた気がしたが無視した。
部品をセットしてプログラム起動して製作開始、開始……始まらねえ。
エラー表示も出来ないくらいロボットが過労とか世話ねえな…
まあイカれる箇所は大体解っているから構わんが。
タッパと腕力と異能がある俺だからこそ、深く潜り込んで直せるわけで…
ああだが、なんでこいつは俺から手当てしてもらってんのに俺に手当は出ないんだ…
足先に何か引っ掛かった?いや、誰か裾を掴んでいやがるな?
邪魔くさ…マジで邪魔くさい。なんで離さねえんだ?
しつこ過ぎる、パンツが脱げる、気になって仕方ねえ…!
堪らず電盤から頭を離して何処の馬鹿が手を出してんのか
その面拝んでやろうとしたが、妙にもつれて立つ事叶わず尻餅を着かされる。
···馬鹿の正体は職場の中でも俺の次にガタイの良く
頭は悪い方から数えた方が早い野郎ユジャウだという事だけは判った。
判らないのは理由だけ、俺はキレ気味なのを抑えきれずキレながら問い質す。
「ふぉ、フォシデさ。
お…お前、人を殺った濡れ衣被るのと、オレと口裏合わせんのどっちがいい?」
頭の狂った2択を突きつけてきたが、口裏を合わせるとはどういう事なんだ?
「実はよお、ついさっき其処で飛び降り自殺した奴がいんだよ。
多分オレのうっかり発言が原因だと思うんだが
このままオレが逃げたら次は間違いなくあんたが疑われる。
だからアリバイ作りのために抱き合って愛し合うってのはどうだあ?
オレ実はあんたの後ろ姿見ていつもむらむらしてい…」
思わず、工具を持つその手で頭をかち割っちまった。
人の頭って思ったより脆いんだな。中身は電子回路よりシンプルなのに。
下の毛が見えるくらいまでずり降ろされたパンツを戻しつつ…俺は決意した。
まずこの馬鹿の財布と端末を奪う。端金でも多少の足しにはなる。
工具器具備品は高い物から順に奪う。高級品は高耐久軽量と高性能が相場だ。
ロッカールームで私物を回収して他人の物も奪う。
誰か薬物の取引でもしていたか?纏まった現金もあって助かる。
燃料庫から一斗缶を放り出す。全部、球でも投げるかの様に。
鼻を刺すような化学薬品の臭いを間に挟み、臭い油塗れになる一帯。
此処に先程ついでに盗ったライターを点火し放り投げる。
此処は工場の低層フロア…人が居たら人が炙り出されるか焼け死ぬ。
マクロンハーツは最上層で金庫と共にいたはずだがもう知らん。
主だろうが上役だろうがもう俺は人には従わんし助けなんてしない。
金庫を開けに行ってもよかったが逃げ遅れたくもないし
最後まで未踏のエリアでセキュリティも判ったもんじゃない。
なのでそのまま最寄りの窓から飛び降りる。…楽に着地出来た。
以前、無茶な外壁修繕をやらされて屋上から落下したが
無事だったのはまぐれじゃなかったんだな。
…此処に着地したのは駐輪場に近いという理由だったが
どうやら先客が此処にいたようだ。
ユジャウ程じゃ無いが、頭が割れて歪んで首の曲がった女が倒れている。
若作りのババアのくせに色目を使って擦り寄る気持ち悪いババアだったな。
直前のやり取りを考えたくもない。触れたくもないから何も奪わずに離れた。
さて、車両選びだが大体目星は付けている。
人の乗る車は窮屈で嫌だからバイク一択、中でも一番でかい物を探す。
…あれで良いか。少し古臭いがこの場を離れる脚になれば十分。
奪った大量の鍵の中に正解はあるとみて総当りで挿す。挿さった。
蹴って一発でエンジンが掛かった。上物じゃないか。
即座に駆けた。アクセル全開、車線なんて気にしていられん。
うるさいエンジン音も、後ろで焼け爆ぜる音で掻き消されて都合が良い。
工場から警報が鳴らないのは好都合だが
マクロンハーツの野郎がせこい手抜きをしていたのが伺える。
………当面は俺を追うものを払い退ける生活が続くだろう。
同じ場に留まって働くのももう馬鹿らしいから必要なものは奪って食い繋ぐ旅をする。
俺はもう、自由だ…!!
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楽しい。この解放感、癖になる。
追手を気にする以外は時間を気にせず飲み食いして
スキあらば金品のみならず寝床も命も強奪。
そういえばこの生活をし始めて気づいたのは、死にたての奴の肉の旨さだな。
たまに食わされたクソ不味いミートプレートは
食わなきゃ死ぬと言われたから仕方なく食っていたが
消毒液の味しかしなくて歯応えも微妙で死ぬ程不味かった。
あの消毒はあくまで人間への感染症防止のためであり
食屍鬼である俺の体調管理のためではなかったんだ。
現に何も発症していないし、それどころか力が湧いている。
嫌な奴は喰い殺せば良かったんだと、学習させたくなかったんだろうな。
…と、かつての職場が鎮火した後違う意味で炎上しているのを
ラジオで優雅に聴きながら耽っていた。
黙って派手な単独行動したからな、騒ぎの元を辿るのも手間取っていたんだろう。
だから俺は足を伸ばして寛いでいたんだが…
慌ただしく階段を駆け上がる足音がそれを遮る。
追手にしては早いもんだ、だが俺も無策ではない。既に仕掛けている。
「動くな!警さ…」
「うっ…あ…息が……」
拳銃を突きつけながら突撃してきたポリスマンどもが、入室するなり倒れる。
目の前で事実を教えてやった。
ライターを着火…が、油はあるのに火は点かない。
部屋一帯の酸素を俺が奪ったからだ。
『奪う』事に特化した俺の異能。
俺自身に悪影響がないかわりに効果は遅れてやってくるのが難点か。
以前はこの力で冷却や真空を起こして仕事に役立てていたが
今はこうして新たな稼業のために役立てていた。
部屋を後にし、非常階段から外に出る。
このまま飛び降りてバイクに…と思ったが踏み留まった。
バイクの近くに黒コートの男が待機していたからだ。
青肌の巨漢だが、直感で判った。あれは、あれも食屍鬼。
初めて見る別の個体だ。
複製の存在がいるらしいって噂で聞いたが事実だったんだな。
此処から飛び降りて着地したスキをあいつに狙われたら非常にまずい。
…まあいい、乗り回してガタがきていたところだ。
屋上や屋根を飛び移り、俺は逃げた。
「第3部隊がようやく部屋の進入を果たしましたが、もぬけの殻でした。
進入した者が皆意識朦朧の体調不良を訴えたものでして…」
「何か仕掛けたのだろうな。」
「密室とはいえ広いのでガスや毒等での即効性は…」
「それにそれ等を使えば使用者自身も危うくなる。
そもそもガス漏れ検知くらいするんじゃないのか?」
「となると?」
「酸欠状態、生き物にとってはこれもまた無味無臭の猛毒だろう?
加えて仕掛けた側が無傷と都合の良い状態ならば」
「異能、ですかね?」
その通り、と言わんばかりに人差し指を突き出す。
多少たじろいたが恐れはしない。
このポリスマンはこの食屍鬼に敬意を払い信頼を寄せていた。
「ああ、ブラックスターさん。
入室制限さえなければ貴方にスマートに解決してもらえたかもしれないのに…」
「仕方ないさ、其処で僕が強行したら奴と同列に扱われてしまう。
しかし一縷の望みを賭けて待機はしていたが、脚を捨てるとはなかなかやるな。
建物の上で跳ぶ影が見えたという話も聞いたし、すばしっこい奴だ。」
「な、なんですって?!くそっ蝗みたいな奴だな…!」
「ふふ、まさしくそうだな。食い荒らして飛び去る。
だが飛蝗と違ってまだ独り身だ、遅かれ早かれ世間の厳しさを知るだろうよ。
続報に期待しているぞ。」
頭を下げるポリスマンを尻目に、黒コートを靡かせながら立ち去る。
俺は工場に引き篭もりっぱなしで世間知らずな上に
どういう経緯でああなったか忘れるような記憶障害を起こしている。
情弱でい続けるのも流石にまずいな。
俺のように異能を巧く使う奴が現れたらヤバいのでは?
今度から強奪して殺す前に情報も吐かせてみるか?
調べるための端末はあっても、情報を辿る為の知識や知恵が俺は疎い。
あの黒コートは俺に会ったことも無いのに足跡を辿れたのは、きっとその差だ。
…と、一つ目的が出来た所で一寝入りするか。眠い。
酒が回ったな。度数だけ高い安酒を置きやがって。
この眼鏡と拳銃は高級品っぽいのによ、どうせなら全部拘れってんだ。
…さて、程々に離れた所で都合の良さそうな部屋を見つけた。
此処を寝床にするか。如何にも男一人暮らしっぽい物で溢れた部屋。
こういう所は足跡も辿られにくくて良い。邪魔な物を壁側に蹴り飛ばせば十分広いし。
空いた所に寝転がる……なんだこれ肌触りの良いシーツだな……
追手を気にする以外は時間を気にせず飲み食いして
スキあらば金品のみならず寝床も命も強奪。
そういえばこの生活をし始めて気づいたのは、死にたての奴の肉の旨さだな。
たまに食わされたクソ不味いミートプレートは
食わなきゃ死ぬと言われたから仕方なく食っていたが
消毒液の味しかしなくて歯応えも微妙で死ぬ程不味かった。
あの消毒はあくまで人間への感染症防止のためであり
食屍鬼である俺の体調管理のためではなかったんだ。
現に何も発症していないし、それどころか力が湧いている。
嫌な奴は喰い殺せば良かったんだと、学習させたくなかったんだろうな。
…と、かつての職場が鎮火した後違う意味で炎上しているのを
ラジオで優雅に聴きながら耽っていた。
黙って派手な単独行動したからな、騒ぎの元を辿るのも手間取っていたんだろう。
だから俺は足を伸ばして寛いでいたんだが…
慌ただしく階段を駆け上がる足音がそれを遮る。
追手にしては早いもんだ、だが俺も無策ではない。既に仕掛けている。
「動くな!警さ…」
「うっ…あ…息が……」
拳銃を突きつけながら突撃してきたポリスマンどもが、入室するなり倒れる。
目の前で事実を教えてやった。
ライターを着火…が、油はあるのに火は点かない。
部屋一帯の酸素を俺が奪ったからだ。
『奪う』事に特化した俺の異能。
俺自身に悪影響がないかわりに効果は遅れてやってくるのが難点か。
以前はこの力で冷却や真空を起こして仕事に役立てていたが
今はこうして新たな稼業のために役立てていた。
部屋を後にし、非常階段から外に出る。
このまま飛び降りてバイクに…と思ったが踏み留まった。
バイクの近くに黒コートの男が待機していたからだ。
青肌の巨漢だが、直感で判った。あれは、あれも食屍鬼。
初めて見る別の個体だ。
複製の存在がいるらしいって噂で聞いたが事実だったんだな。
此処から飛び降りて着地したスキをあいつに狙われたら非常にまずい。
…まあいい、乗り回してガタがきていたところだ。
屋上や屋根を飛び移り、俺は逃げた。
「第3部隊がようやく部屋の進入を果たしましたが、もぬけの殻でした。
進入した者が皆意識朦朧の体調不良を訴えたものでして…」
「何か仕掛けたのだろうな。」
「密室とはいえ広いのでガスや毒等での即効性は…」
「それにそれ等を使えば使用者自身も危うくなる。
そもそもガス漏れ検知くらいするんじゃないのか?」
「となると?」
「酸欠状態、生き物にとってはこれもまた無味無臭の猛毒だろう?
加えて仕掛けた側が無傷と都合の良い状態ならば」
「異能、ですかね?」
その通り、と言わんばかりに人差し指を突き出す。
多少たじろいたが恐れはしない。
このポリスマンはこの食屍鬼に敬意を払い信頼を寄せていた。
「ああ、ブラックスターさん。
入室制限さえなければ貴方にスマートに解決してもらえたかもしれないのに…」
「仕方ないさ、其処で僕が強行したら奴と同列に扱われてしまう。
しかし一縷の望みを賭けて待機はしていたが、脚を捨てるとはなかなかやるな。
建物の上で跳ぶ影が見えたという話も聞いたし、すばしっこい奴だ。」
「な、なんですって?!くそっ蝗みたいな奴だな…!」
「ふふ、まさしくそうだな。食い荒らして飛び去る。
だが飛蝗と違ってまだ独り身だ、遅かれ早かれ世間の厳しさを知るだろうよ。
続報に期待しているぞ。」
頭を下げるポリスマンを尻目に、黒コートを靡かせながら立ち去る。
俺は工場に引き篭もりっぱなしで世間知らずな上に
どういう経緯でああなったか忘れるような記憶障害を起こしている。
情弱でい続けるのも流石にまずいな。
俺のように異能を巧く使う奴が現れたらヤバいのでは?
今度から強奪して殺す前に情報も吐かせてみるか?
調べるための端末はあっても、情報を辿る為の知識や知恵が俺は疎い。
あの黒コートは俺に会ったことも無いのに足跡を辿れたのは、きっとその差だ。
…と、一つ目的が出来た所で一寝入りするか。眠い。
酒が回ったな。度数だけ高い安酒を置きやがって。
この眼鏡と拳銃は高級品っぽいのによ、どうせなら全部拘れってんだ。
…さて、程々に離れた所で都合の良さそうな部屋を見つけた。
此処を寝床にするか。如何にも男一人暮らしっぽい物で溢れた部屋。
こういう所は足跡も辿られにくくて良い。邪魔な物を壁側に蹴り飛ばせば十分広いし。
空いた所に寝転がる……なんだこれ肌触りの良いシーツだな……
建物は多いくせに人が少なくて妙な寒気が漂っている。何なんだ此処は。
下水や街灯が機能している辺り無人じゃあないと思うんだが、今は逆に困るな。
温かい飯と情報が欲しいんだよ。
…これは、匂う。アルコール、微かに紛れた脂、諸々。
何より其処は灯りが付いている。
階段から下がった、他だと地下に当たる位置に酒場があった。
…ヒトがいるのを確信した途端、出会い頭につい癖で金を要求したが
今はむしろ金以外が欲しかった。
まあこのでかめの拳銃で脅せばなんか出すだろう。
例え相手が食屍鬼でもだ。
「いやあ、そんな名前のカクテルあったかな」
あぁ?!ふざけてんのは表情だけにしとけよこいつ?!
鼻の上の傷かっぴろげてやろうかおいゴルァ?!
「ん〜、多分それ撃たれても私は死なないと思うな」
いやいや、いくら丈夫でも当たりどころってもんがあるだろ?!
何か尖った物を投げた、のは判るが物の名称は判らないし何よりなんだあの速さ?!
とにかくその尖った物が銃口を塞いで中まで深く刺さっちまった。
もう使い物にならねえなこれも…
ていうか、俺に当たっていたら死んでなかったか…?
「で、どうするんだい?銃の損害分として一杯奢るよ?」
なんなんだこいつ……舌打ちしつつ、俺は流されるように着席した。
ヒトって諦めがつくと妙に素直になれちまうんだな。
元々、俺が欲しかったのは温かい飯と情報だ。
フォスフォシデライトという名前を明かしたのも久々だ。
「蝗みたいな生活してるんだねえ」
差し出されたカクテルを飲みつつ会話を…え、なんだこれは、今まで酒とは次元が違う…
「それにしても今までよく生きてこれたねえ」
じょ、冗談じゃねえ!ハメやがったなこの野郎?!
下水や街灯が機能している辺り無人じゃあないと思うんだが、今は逆に困るな。
温かい飯と情報が欲しいんだよ。
…これは、匂う。アルコール、微かに紛れた脂、諸々。
何より其処は灯りが付いている。
階段から下がった、他だと地下に当たる位置に酒場があった。
…ヒトがいるのを確信した途端、出会い頭につい癖で金を要求したが
今はむしろ金以外が欲しかった。
まあこのでかめの拳銃で脅せばなんか出すだろう。
例え相手が食屍鬼でもだ。
「いやあ、そんな名前のカクテルあったかな」
あぁ?!ふざけてんのは表情だけにしとけよこいつ?!
鼻の上の傷かっぴろげてやろうかおいゴルァ?!
再度銃口を突きつけるが反応に代わり映えが無い。
「ん〜、多分それ撃たれても私は死なないと思うな」
いやいや、いくら丈夫でも当たりどころってもんがあるだろ?!
「でもどんな弾入れてるか判らないから一応防衛するね」
何か尖った物を投げた、のは判るが物の名称は判らないし何よりなんだあの速さ?!
とにかくその尖った物が銃口を塞いで中まで深く刺さっちまった。
もう使い物にならねえなこれも…
ていうか、俺に当たっていたら死んでなかったか…?
「で、どうするんだい?銃の損害分として一杯奢るよ?」
なんなんだこいつ……舌打ちしつつ、俺は流されるように着席した。
ヒトって諦めがつくと妙に素直になれちまうんだな。
元々、俺が欲しかったのは温かい飯と情報だ。
フォスフォシデライトという名前を明かしたのも久々だ。
ああ話が止まらない、おかしいな…逆に情報出してねえか?
工場勤務に嫌気がさして火をつけて逃げた事から始まり
強盗で食い繋いで旅している事まで喋っちまった。
工場勤務に嫌気がさして火をつけて逃げた事から始まり
強盗で食い繋いで旅している事まで喋っちまった。
「蝗みたいな生活してるんだねえ」
差し出されたカクテルを飲みつつ会話を…え、なんだこれは、今まで酒とは次元が違う…
いやビビるな、主導権をこれ以上こいつに握らせるな、俺…!!
「それにしても今までよく生きてこれたねえ」
あぁ?こいつ俺の事なめてんな?俺には異能があんだぞ?
そうだ今まさしく呑みながら室温を奪っていた所だ。
じきに凍えてちびりながら侘びてくるだろう。
そうだ今まさしく呑みながら室温を奪っていた所だ。
じきに凍えてちびりながら侘びてくるだろう。
「奇遇だねえ、今まさに私も条件満たしたから私も出来るよ」
え?
え?
「饗した者を掌握するの。抗いようの無い死に至る苦痛を与えて。試してみる?」
じょ、冗談じゃねえ!ハメやがったなこの野郎?!
「おとなしくしていれば普通に酒作って呑んでもらうだけだよ。おとなしくしていれば」
本当なんなんだこいつ……でも酒が旨いからつい呑んじまう。
ダイオプテーズと名乗ったこの食屍鬼、食屍鬼のための憩いの場を設けたと言っている。
酔狂って言葉はこいつの為にあるんじゃねえのか?
これは…ああ、ハムはハムでも人肉のハムだなこりゃ。
獣肉には無い筋っぽさを巧く誤魔化し旨くしている。
通しと同時に色々有用な話を聞けてしまった。
味方とは言い難いが、敵でも無いなこいつは…
酔狂って言葉はこいつの為にあるんじゃねえのか?
これは…ああ、ハムはハムでも人肉のハムだなこりゃ。
獣肉には無い筋っぽさを巧く誤魔化し旨くしている。
通しと同時に色々有用な話を聞けてしまった。
味方とは言い難いが、敵でも無いなこいつは…
ダイオプテーズの助言通りに辿り着いたそこは、きな臭い連中ばかりで空気も違った。
屋外だってのに煙たいのは相当だ。この柔らかく酸っぱい感じの臭い、薬物か。
立ち止まらないように目星を付けて、手頃な相手を捜す。
複数人固まっていたり、少人数でも明らかに手練っぽい奴等がいたりで接触が難しい。
ヒトを喰って力を付けた俺だが、まだまだ喧嘩は慣れていない。
屋内なら持久戦勝ち確なんだがなあ。
「ねえねえ、そこのおにーさん。」
甘ったるいアニメ声が俺を呼び留める。
振り向いた先にいたのは青肌…だが食屍鬼じゃない?角と翼と尻尾が生えてる。
何より線が細くてめちゃめちゃかわいいな?初めて見るタイプの亜人種だ。
屋根の端から此方を見下ろしてるのが気に喰わないが。
「初めて見るヒトだけど、どしたの?迷子?
ボクはイマチヅキっていうの。おにーさんは?」
良く言えばフレンドリーなのかもしれないが笑顔がかわい過ぎて怪しい。
ていうかこんな所の常連なら只者じゃあねえよな。
地元のガキだとしても肝が座り過ぎだ。
とりあえず質問を返すとしよう。名はともかく迷子というのは微妙に困る表現だが。
なんたって俺は自由の身ではあるが、スムーズな旅への活路が見えてない。
ある意味迷子になっているし、それもこれも他の食屍鬼だとか強い奴が多いせいだ…!
「え〜、フォスフォシデライトさんもすごいんじゃない?
強くないと相手の強さってわかんないもんだよ?
プルペラ鉄工場だなんて遠い所からこっちまで逃げ続けてるわけだし。
素人なのにやっぱりすごいってえ。」
笑顔でべた褒めして…
ん?俺はまだ何処から来たかまで言っていないし、素人だと?
背中に細く鋭い物が刺さり、『何か』が注入された。
振り払うと、雑に引き抜かれて地面に放り投げだされたそれが見えた。注射器だ。
一体何を仕込んだ?!雑に射ちやがって…ヤバい目が回る……力が入らん…
「眼鏡の食屍鬼っつーからビビったけど、見た事ねえなこいつ?」
「こらこら、雑に扱わない。」
何処からともなく群がるチンピラ達。
倒れて動かない食屍鬼の頭を足蹴にする者を、イマチヅキが制止する。
「組長が気に入ったらどうすんのさ」
「ははは、あの人は尻があれば他は十分だろ」
「とりあえず運んで『処理』しとこうぜ。おい、そっち持てよ」
「重…おいあと1人か2人手伝えよ、こいつ重いわ〜」
結局4人がかりで四肢を持って、ワンボックスカーに押し込む。
イマチヅキはというと、運ぶのは手伝わずにバックパックを回収してから後に続いた。
誰にも聴こえない溜め息を吐きつつ。
…なんか、ヒヤッとする。外側だけ…体の内側は熱いのに。
頭はぼんやりするし…ん?なんか視界が妙だな?
なんだこの圧迫感…何かに覆われている?何か頭に被っていたのか俺は?
頭の方を掴もうとしたが球状の物に阻まれているのが判った。
ヘルメットか何かか?このままだと周りも見えねえしとりあえず外してみるか。
「あ!駄目だよ、それ取ったら禿げちゃうよ!」
聞き覚えのある特徴的な声……イマチヅキだ。野郎、何処から喋ってんだ。
「今の君は薬槽に全身浸かって脱毛していた所なんだよ。
でもそろそろ良いかな?抜くね。」
下から吸引される感触が足元に伝わり、水位が下がっていく。
真緑で気付かなかったが、俺は真っ裸だった。
しかも毛が、無いだと…跡形も無い。
まるで元から生えていなかったかのように綺麗に…ガキでもこんなつるつるじゃないだろ…
「わ〜フィルターが詰まってる〜やっぱり食屍鬼って剛毛だな〜」
俺の見えない所で何やってんだあいつは?!俺の抜け毛を見てはしゃぐな?!
もう脱毛の原因らしき緑色の液体も失くなった事だし、ヘルメットを取って投げ捨てた。
出口は何処だ?通気口はあるから必ず何処かで外に通じているはずだ。
如何にも何かありそうな鉄板を剥がす。
この雑な配電は素人が見様見真似でやった感が強いな。
此処の『電流を奪い取って』その状態で此処を捻って…手応えありだ。
「ありゃ?!開いちゃった?!」
俺の背後に出入り口があったようだ。
ロックもセキュリティも馬鹿になって馬鹿みたいに口を開けた。
開いてるうちにとっとと出る。服は何処だ…
なんなら真っ先に来た野郎をぶっ倒して奪い取るか?
「ね、待って。」
のこのこ現れたのはイマチヅキだった。あざとい上目遣いをしやがって…
「そんな怖い顔しないでよう、ハメたのは確かだけどさ〜。ね?ほら、君の荷物。」
と、差し出したのは確かに俺のバックパック。畳まれた衣服付き…なんのつもりだ?
「警戒するのも無理ないけどボクね、君に興味持っちゃってさ。ね、一緒に出ない?」
協力するのか?
だとしてもこいつの狙いが判らない以上やっぱり素直に飲めねえ。罠かもしれん。
だがとりあえず荷物を奪い返して服を着た。
毛がないと寒くて仕方ないしもろ出しで外に出れん。
…俺が着衣する様子を楽しそうに見てなんのつもりだ?
「やっぱり服は着れた方が良いよね。組長は服が着れないからさあ。」
どんな変態だよ…。
いや待てよ、こいつ組長クラスの顔知ってんのか?これは使えるかもな…
よし、連れて行くか。妙な真似したらその時点で切り離せば良し。
俺主体に旅をする事を前提の絶対条件を設けつつ許可した。
「やったー!無難なバイトに退屈してたんだあ!」
ふん、こき使ってやるから覚悟しな。
屋外だってのに煙たいのは相当だ。この柔らかく酸っぱい感じの臭い、薬物か。
立ち止まらないように目星を付けて、手頃な相手を捜す。
複数人固まっていたり、少人数でも明らかに手練っぽい奴等がいたりで接触が難しい。
ヒトを喰って力を付けた俺だが、まだまだ喧嘩は慣れていない。
屋内なら持久戦勝ち確なんだがなあ。
「ねえねえ、そこのおにーさん。」
甘ったるいアニメ声が俺を呼び留める。
振り向いた先にいたのは青肌…だが食屍鬼じゃない?角と翼と尻尾が生えてる。
何より線が細くてめちゃめちゃかわいいな?初めて見るタイプの亜人種だ。
屋根の端から此方を見下ろしてるのが気に喰わないが。
「初めて見るヒトだけど、どしたの?迷子?
ボクはイマチヅキっていうの。おにーさんは?」
良く言えばフレンドリーなのかもしれないが笑顔がかわい過ぎて怪しい。
ていうかこんな所の常連なら只者じゃあねえよな。
地元のガキだとしても肝が座り過ぎだ。
とりあえず質問を返すとしよう。名はともかく迷子というのは微妙に困る表現だが。
なんたって俺は自由の身ではあるが、スムーズな旅への活路が見えてない。
ある意味迷子になっているし、それもこれも他の食屍鬼だとか強い奴が多いせいだ…!
「え〜、フォスフォシデライトさんもすごいんじゃない?
強くないと相手の強さってわかんないもんだよ?
プルペラ鉄工場だなんて遠い所からこっちまで逃げ続けてるわけだし。
素人なのにやっぱりすごいってえ。」
笑顔でべた褒めして…
ん?俺はまだ何処から来たかまで言っていないし、素人だと?
背中に細く鋭い物が刺さり、『何か』が注入された。
振り払うと、雑に引き抜かれて地面に放り投げだされたそれが見えた。注射器だ。
一体何を仕込んだ?!雑に射ちやがって…ヤバい目が回る……力が入らん…
「眼鏡の食屍鬼っつーからビビったけど、見た事ねえなこいつ?」
「こらこら、雑に扱わない。」
何処からともなく群がるチンピラ達。
倒れて動かない食屍鬼の頭を足蹴にする者を、イマチヅキが制止する。
「組長が気に入ったらどうすんのさ」
「ははは、あの人は尻があれば他は十分だろ」
「とりあえず運んで『処理』しとこうぜ。おい、そっち持てよ」
「重…おいあと1人か2人手伝えよ、こいつ重いわ〜」
結局4人がかりで四肢を持って、ワンボックスカーに押し込む。
イマチヅキはというと、運ぶのは手伝わずにバックパックを回収してから後に続いた。
誰にも聴こえない溜め息を吐きつつ。
…なんか、ヒヤッとする。外側だけ…体の内側は熱いのに。
頭はぼんやりするし…ん?なんか視界が妙だな?
なんだこの圧迫感…何かに覆われている?何か頭に被っていたのか俺は?
頭の方を掴もうとしたが球状の物に阻まれているのが判った。
ヘルメットか何かか?このままだと周りも見えねえしとりあえず外してみるか。
「あ!駄目だよ、それ取ったら禿げちゃうよ!」
聞き覚えのある特徴的な声……イマチヅキだ。野郎、何処から喋ってんだ。
「今の君は薬槽に全身浸かって脱毛していた所なんだよ。
でもそろそろ良いかな?抜くね。」
下から吸引される感触が足元に伝わり、水位が下がっていく。
真緑で気付かなかったが、俺は真っ裸だった。
しかも毛が、無いだと…跡形も無い。
まるで元から生えていなかったかのように綺麗に…ガキでもこんなつるつるじゃないだろ…
「わ〜フィルターが詰まってる〜やっぱり食屍鬼って剛毛だな〜」
俺の見えない所で何やってんだあいつは?!俺の抜け毛を見てはしゃぐな?!
もう脱毛の原因らしき緑色の液体も失くなった事だし、ヘルメットを取って投げ捨てた。
出口は何処だ?通気口はあるから必ず何処かで外に通じているはずだ。
如何にも何かありそうな鉄板を剥がす。
この雑な配電は素人が見様見真似でやった感が強いな。
此処の『電流を奪い取って』その状態で此処を捻って…手応えありだ。
「ありゃ?!開いちゃった?!」
俺の背後に出入り口があったようだ。
ロックもセキュリティも馬鹿になって馬鹿みたいに口を開けた。
開いてるうちにとっとと出る。服は何処だ…
なんなら真っ先に来た野郎をぶっ倒して奪い取るか?
「ね、待って。」
のこのこ現れたのはイマチヅキだった。あざとい上目遣いをしやがって…
「そんな怖い顔しないでよう、ハメたのは確かだけどさ〜。ね?ほら、君の荷物。」
と、差し出したのは確かに俺のバックパック。畳まれた衣服付き…なんのつもりだ?
「警戒するのも無理ないけどボクね、君に興味持っちゃってさ。ね、一緒に出ない?」
協力するのか?
だとしてもこいつの狙いが判らない以上やっぱり素直に飲めねえ。罠かもしれん。
だがとりあえず荷物を奪い返して服を着た。
毛がないと寒くて仕方ないしもろ出しで外に出れん。
…俺が着衣する様子を楽しそうに見てなんのつもりだ?
「やっぱり服は着れた方が良いよね。組長は服が着れないからさあ。」
どんな変態だよ…。
いや待てよ、こいつ組長クラスの顔知ってんのか?これは使えるかもな…
よし、連れて行くか。妙な真似したらその時点で切り離せば良し。
俺主体に旅をする事を前提の絶対条件を設けつつ許可した。
「やったー!無難なバイトに退屈してたんだあ!」
ふん、こき使ってやるから覚悟しな。
外に出てようやく全容が判った。
思ったよりチンケな小屋に俺は連れられていたようだ。
拉致するに当たって段取り毎に施設と配役を分散して
不慮の事故を想定して尻尾切りしやすくした、というのはまあ納得した。
尻尾切りか、そういやプルペラ鉄工場でも…
辞めさせたい奴にはどうでもいい超重労働をさせて、クビにしやすくする流れがあったな…
そんなクソみたいな環境を思い出しつつ、手頃なバイクを見つけ『逆カスタマイズ』を施す。
ゾクの車両っぽいが無駄な改造が多いのが気に喰わない。
「あ、そのバイク…まあいいか。大丈夫大丈夫」
含みのある言い方が少々気になるが、お前がいいならまあいいか。
このマフラーはあるだけうるさくて邪魔だし
こんな長椅子だと荷物もヒトも載せれなくて邪魔だし
ライトは無駄に多いし変な棘はあるしとにかく邪魔だ邪魔だ!
ていうかなんだこのクラッチは!クラッチ板が一枚足りなくて代用品で奇跡的にハマってるんじゃねーか!!
…なんとか納得いく形まで整えられた。バイクも原型を取り戻せたんじゃないのか?
「荷物が重いと思ったら工具入れてたんだね、それにしても本当に器用だなあ」
やたらと楽しそうに見ているな、何がいいんだ?そんな珍しいのか?
「珍しいよお、だって皆壊すのばっかだから、君みたいに直せるヒトは本当珍しいよ。
だからボク、君に尚更興味湧いたのかも。
…ねえ、フォスフォシデライトって長いから愛称付けるよ。
フォスって呼びたい所だけど、別個体と被るからフォシデにするね。」
別個体と?誰の事だ?
「フォスフォフィライトの事だよ。え?知らないの?
食屍鬼って同胞同士で情報共有してないんだ?てか、君のNo.なに?」
No.だって?知らん。ナンバリングするほど多いのか?
「ええ〜?名前はあって、自分の番号忘れてる?変なの、なんかされた?」
なんかされたと言われても否定しきれねえな…
何処から来てどうしてあのクソみたいな工場にいたのか判らねえし。
「知りたくないの?ボクは気になるなあ。」
そう言われると俺も気になってきたじゃねーか……
そうだな、新たに1つ目標を建てるか。俺の出自について。
バイクに跨りエンジンを掛けると、イマチヅキは飛びついて俺の肩にしがみつく。
邪魔にならないどころか軽く走れている気がするぞ?
「ボクねえ、『与える』異能使いなの!
今君に追い風与えていたんだあ。どう?走りやすい?」
『奪う』俺とは逆に『与える』のか、こりゃあいい。細工の幅が更に広がるぞ。
2人になったことだし強盗も少し大胆に仕掛けてみるか。
物を盗んで換金する際の質屋利用でもイマチヅキは役に立つ。
アウトロー特有のディープな繋がりの賜物か、異形相手でも交渉できてる。
換金率がやや気紛れな事を除けば資金源として十分アテになる。
「このお金もすぐに使っちゃうんだよね?フォシデは纏まったお金は持たない主義?」
そう、金は必要な時に必要なだけ作って即使う。貯金はしない。
ぶっちゃけ物々交換でも良いくらいだが、世の中は金じゃないと得られない物も割とあって困る。
目の前にある物が俺には全てだ。
イマチヅキも納得した所で、携帯食と燃料の補充を済ませ、バイクで駆る。
…一本道に差し掛かった瞬間、遠方で行く手を阻む存在に逸早く気づき、同時に危険を感じた。
あれは、食屍鬼だ。何か黒くてでかい物が2つ?3つ?まとわりついている?
一気に加速をして壁伝いに駆けてそいつを避けようとしたが、黒くてでかい物が大口を開けて行く手を阻む!
「わー?!」
俺は放り投げだされ瓦礫に埋もれる形で着地したが
イマチヅキとバイクが飲み込まれただと…
化物め。
よく見たら黒くてでかい物と食屍鬼は尾のように繋がっている。
どういう生態してんだ、あいつ?
「よう、出れんか?手伝ってやろうか?今ケツひっぱたいてやるからよ。」
別の黒くてでかい物が鞘を咥えて…ナイフ、じゃないな?なんだあの長いエモノは?
斑模様の金属はただの鉄じゃあない、鋼か何かの混ざり物か?
若干弧になっていて鈍く輝く様が鋭さを醸し出す。職人業が光っているな。
あれで斬られたら防ぎようがない、死ねる。そう直感した俺は…
当然、奴が振り下ろした瞬間に強引にその場から跳んで避けた。崩れる瓦礫の山。
なんなんだこいつは、マフィアの回し者か?
「いや、俺はいつも独断の単独で動いている。
お前みたいなやんちゃ坊主を見ると挨拶したくなってなあ」
何言ってんだ、初対面のくせに。
「ああ、俺が一方的にお前を知っているんだ。
フォスフォシデライト、お前あちこち食い荒らしてんじゃねえよ。
たまに小悪党に痛い目に遭わせてるみてえだが、大体は文字通り火事場泥棒しやがって。」
って、喋りながら振り回すなよ?!薙ぐ音がやべぇ。
タイミング悪く着地点で振り下ろされた…!
刃を側面両側から挟んで、寸での所で止め…られなかった。
刃先への絶妙な力加減の変化が肌に伝わる。手を強引に抜けた刃先が俺の肩に食い込む。
このままだと真っ二つにされる、俺は必死で後退して抜け出した。
飛び散る血を見て激痛が走る……痛みで腕に力が入らん…
「…そうだなあ。
足が1つ欠けた鼈甲の櫛とか、お前は使うように見えねえな。何処にトバした?」
いきなりなんだ?
ああ確か、素材に価値があるからって他のと纏めてイマチヅキが換金したはずだな…
「やっぱりてめえ等が盗ったんだな、最寄りだとあの蛙みたいな店主の質屋か。
ならまだ間に合うか、あいつ顔はアレだが物の扱いは丁寧だから即横流しはしねえし。」
そういうあんたも使いそうにねえがな?
楽に獲れる物を狙ったつもりだが、割りに合わねえ相手に巡り会ったもんだ…
「ほらよ。返すぜ。
お前が仲間も見捨てる屑だったらまとめて斬り捨てていたが、今回は特別だ。」
黒くてでかい物から吐き出され、イマチヅキとバイクは解放された。
太くなって留まっていたからもしやとは思っていたが、消化されずに済んだようだな…
立ち去る食屍鬼…なんなんだあいつ?
のったり歩いて、物に執着があるのか無いのか判らん。
「ああ〜!死ぬかと思った!フォシデ、大丈夫?!」
大丈夫なわけあるか。腕が痺れてきたから神経辺り傷付いたかもな。
応急措置をしながら奴について尋ねてみる。
ビクスバイトとかいう古株の食屍鬼で
あの異様な尾は信仰している神から授かった物だと。
後天性の異形でも改造手術した奴とは異なり、物理的にあり得ない構造や力を備えている。
「通称『モル信』って言われていてえ、ああいう赤黒い色服を着た個体が大体そうだから注意ね。」
なんだよ、食屍鬼ってやべぇ奴ばかりじゃねーか?!
組長に官憲に信者になんでもありすぎだろ?!
「だってえ、君達それが目的で造られたんでしよ。
色んな強みがあって、色んなヒトの助力になってるんだってさ。」
思ったよりチンケな小屋に俺は連れられていたようだ。
拉致するに当たって段取り毎に施設と配役を分散して
不慮の事故を想定して尻尾切りしやすくした、というのはまあ納得した。
尻尾切りか、そういやプルペラ鉄工場でも…
辞めさせたい奴にはどうでもいい超重労働をさせて、クビにしやすくする流れがあったな…
そんなクソみたいな環境を思い出しつつ、手頃なバイクを見つけ『逆カスタマイズ』を施す。
ゾクの車両っぽいが無駄な改造が多いのが気に喰わない。
「あ、そのバイク…まあいいか。大丈夫大丈夫」
含みのある言い方が少々気になるが、お前がいいならまあいいか。
このマフラーはあるだけうるさくて邪魔だし
こんな長椅子だと荷物もヒトも載せれなくて邪魔だし
ライトは無駄に多いし変な棘はあるしとにかく邪魔だ邪魔だ!
ていうかなんだこのクラッチは!クラッチ板が一枚足りなくて代用品で奇跡的にハマってるんじゃねーか!!
…なんとか納得いく形まで整えられた。バイクも原型を取り戻せたんじゃないのか?
「荷物が重いと思ったら工具入れてたんだね、それにしても本当に器用だなあ」
やたらと楽しそうに見ているな、何がいいんだ?そんな珍しいのか?
「珍しいよお、だって皆壊すのばっかだから、君みたいに直せるヒトは本当珍しいよ。
だからボク、君に尚更興味湧いたのかも。
…ねえ、フォスフォシデライトって長いから愛称付けるよ。
フォスって呼びたい所だけど、別個体と被るからフォシデにするね。」
別個体と?誰の事だ?
「フォスフォフィライトの事だよ。え?知らないの?
食屍鬼って同胞同士で情報共有してないんだ?てか、君のNo.なに?」
No.だって?知らん。ナンバリングするほど多いのか?
「ええ〜?名前はあって、自分の番号忘れてる?変なの、なんかされた?」
なんかされたと言われても否定しきれねえな…
何処から来てどうしてあのクソみたいな工場にいたのか判らねえし。
「知りたくないの?ボクは気になるなあ。」
そう言われると俺も気になってきたじゃねーか……
そうだな、新たに1つ目標を建てるか。俺の出自について。
バイクに跨りエンジンを掛けると、イマチヅキは飛びついて俺の肩にしがみつく。
邪魔にならないどころか軽く走れている気がするぞ?
「ボクねえ、『与える』異能使いなの!
今君に追い風与えていたんだあ。どう?走りやすい?」
『奪う』俺とは逆に『与える』のか、こりゃあいい。細工の幅が更に広がるぞ。
2人になったことだし強盗も少し大胆に仕掛けてみるか。
物を盗んで換金する際の質屋利用でもイマチヅキは役に立つ。
アウトロー特有のディープな繋がりの賜物か、異形相手でも交渉できてる。
換金率がやや気紛れな事を除けば資金源として十分アテになる。
「このお金もすぐに使っちゃうんだよね?フォシデは纏まったお金は持たない主義?」
そう、金は必要な時に必要なだけ作って即使う。貯金はしない。
ぶっちゃけ物々交換でも良いくらいだが、世の中は金じゃないと得られない物も割とあって困る。
目の前にある物が俺には全てだ。
イマチヅキも納得した所で、携帯食と燃料の補充を済ませ、バイクで駆る。
…一本道に差し掛かった瞬間、遠方で行く手を阻む存在に逸早く気づき、同時に危険を感じた。
あれは、食屍鬼だ。何か黒くてでかい物が2つ?3つ?まとわりついている?
一気に加速をして壁伝いに駆けてそいつを避けようとしたが、黒くてでかい物が大口を開けて行く手を阻む!
「わー?!」
俺は放り投げだされ瓦礫に埋もれる形で着地したが
イマチヅキとバイクが飲み込まれただと…
化物め。
よく見たら黒くてでかい物と食屍鬼は尾のように繋がっている。
どういう生態してんだ、あいつ?
「よう、出れんか?手伝ってやろうか?今ケツひっぱたいてやるからよ。」
別の黒くてでかい物が鞘を咥えて…ナイフ、じゃないな?なんだあの長いエモノは?
斑模様の金属はただの鉄じゃあない、鋼か何かの混ざり物か?
若干弧になっていて鈍く輝く様が鋭さを醸し出す。職人業が光っているな。
あれで斬られたら防ぎようがない、死ねる。そう直感した俺は…
当然、奴が振り下ろした瞬間に強引にその場から跳んで避けた。崩れる瓦礫の山。
なんなんだこいつは、マフィアの回し者か?
「いや、俺はいつも独断の単独で動いている。
お前みたいなやんちゃ坊主を見ると挨拶したくなってなあ」
何言ってんだ、初対面のくせに。
「ああ、俺が一方的にお前を知っているんだ。
フォスフォシデライト、お前あちこち食い荒らしてんじゃねえよ。
たまに小悪党に痛い目に遭わせてるみてえだが、大体は文字通り火事場泥棒しやがって。」
って、喋りながら振り回すなよ?!薙ぐ音がやべぇ。
タイミング悪く着地点で振り下ろされた…!
刃を側面両側から挟んで、寸での所で止め…られなかった。
刃先への絶妙な力加減の変化が肌に伝わる。手を強引に抜けた刃先が俺の肩に食い込む。
このままだと真っ二つにされる、俺は必死で後退して抜け出した。
飛び散る血を見て激痛が走る……痛みで腕に力が入らん…
「…そうだなあ。
足が1つ欠けた鼈甲の櫛とか、お前は使うように見えねえな。何処にトバした?」
いきなりなんだ?
ああ確か、素材に価値があるからって他のと纏めてイマチヅキが換金したはずだな…
「やっぱりてめえ等が盗ったんだな、最寄りだとあの蛙みたいな店主の質屋か。
ならまだ間に合うか、あいつ顔はアレだが物の扱いは丁寧だから即横流しはしねえし。」
そういうあんたも使いそうにねえがな?
楽に獲れる物を狙ったつもりだが、割りに合わねえ相手に巡り会ったもんだ…
「ほらよ。返すぜ。
お前が仲間も見捨てる屑だったらまとめて斬り捨てていたが、今回は特別だ。」
黒くてでかい物から吐き出され、イマチヅキとバイクは解放された。
太くなって留まっていたからもしやとは思っていたが、消化されずに済んだようだな…
立ち去る食屍鬼…なんなんだあいつ?
のったり歩いて、物に執着があるのか無いのか判らん。
「ああ〜!死ぬかと思った!フォシデ、大丈夫?!」
大丈夫なわけあるか。腕が痺れてきたから神経辺り傷付いたかもな。
応急措置をしながら奴について尋ねてみる。
ビクスバイトとかいう古株の食屍鬼で
あの異様な尾は信仰している神から授かった物だと。
後天性の異形でも改造手術した奴とは異なり、物理的にあり得ない構造や力を備えている。
「通称『モル信』って言われていてえ、ああいう赤黒い色服を着た個体が大体そうだから注意ね。」
なんだよ、食屍鬼ってやべぇ奴ばかりじゃねーか?!
組長に官憲に信者になんでもありすぎだろ?!
「だってえ、君達それが目的で造られたんでしよ。
色んな強みがあって、色んなヒトの助力になってるんだってさ。」