蟹〜
役割か、ふん。人工物なんてそんなもんか。
俺を造った奴は俺の才能に後悔するがいい。
便利能力のつもりで人様に迷惑かけてるだなんて思いもしてないだろう?
…痛む肩を堪えてバイクの容態を診る。
雑に飲み込まれたから電気系統とか特に不安だったが、無事なようだ。
ミラーやブレーキレバー部分といった先端部分にストレスかかった程度で済んでいる。
なんだよ軽傷じゃねーか……イマチヅキは無傷だし、一番負傷したの俺か…
…よし、広い道に出るか。街の外側目指してバイクで駆る。
「あ、フォシデひょっとして『ウロボロステイル』目指していた?」
そうそれ。
いつぞや工場にいた時、運搬業者が言っていたのをふと思い出した。
開けた道なら見通しも良いし官憲や何やらが追っても逃げ切りやすいだろうと。
…地平線が見える、もうすぐだ。
「もしもーし」
ん?イマチヅキか?いや、首を横に振って否定してんな?
「おにーさん、許可証ないでしょ。駄目だよ『そっち』行ったら」
このスピードで並行して声を掛けてくる奴だと?
フルフェイスヘルメットで素顔が判らん、革スーツの黒ずくめだ。
ゴツい高級バイクに乗ってやがるし、なんか気に喰わねえな…
「えっ、ま、まさか…?!」
「あらぁ後ろのかわいこちゃんが聞こえてるなら、私の声も届いているはずだよねえ?」
更に加速をしたかと思えば、先回りをして行く手を阻んできた。
此方も既にスピード出しきってるからもう避けれん、轢くしかないぞ?
激しく衝突、と思いきやこいつ…片足で前輪を止めやがった?!
反動でこちら側は一瞬宙に浮かび、激しくバウンド。
ケツを打ったのは俺だけでイマチヅキは飛んで衝撃を避けた。また俺だけ被害か。
「いいかい?『ウロボロステイル』は物流と要人を運んで支える大事な道。
許可なく割り込むと罰則が来ちゃうの。
私達のように同じ顔の者がやらかすと連帯責任負わされかねないんだよお?」
「ああっや、やっぱり?!同じ顔って事は食屍鬼…
しかも上位存在として公認でバイク乗りの個体、スーパーセブン?!」
「当たりぃ、私ってそんな有名人だったあ?」
ヘルメットを脱ぎあらわになった顔は、確かに青肌黒白目で同様の銀髪だが…
俺よりずっと顔色悪いし、にちゃっとして気持ち悪いぞこいつ…
なんでイマチヅキはこんな畏まってんだ?あと許可証が要るだと?
なら…こいつから許可証とやらを奪えば話は早いんじゃねえか?
と、脅してみるも動揺する素振りもなく、粘り気のある笑みを返してきやがった。
「お勉強させてもらえなかったのかな、かわいそうにねえ。」
そう来たかこの野郎、俺に喧嘩を売るのか?
「や、やめた方がいいよフォシデ!触ったら呪われちゃうかもしれないよ?!
呪いに掛かると死ぬほど厄介なんだよ、治す手段も滅多に無いの!」
は?呪い?いや確かに幸薄そうな面はしているが、まさか異能か?
「ああ〜、なんか中途半端に私の事伝わっているのね。まあいいけど。
とにかく『あっち』に君を渡らせるつもりはないよ。
仮に突破した所でえ、無許可で走ってる所見つけたら私がめっしちゃうよ?」
何を偉そうに…む?奴の荷台に見覚えのあるシルエットが…
鞘か?!長いエモノの?!ビクスバイトを連想した、が、こいつは強いのか?
いや、厄介な存在であるだけで十分強いか…
「と、とりあえず引き返そうよフォシデ〜!」
ちっ、イマチヅキも逃げ腰になっちまったな。
悔しいがエモノに加えてマジで呪われでもしたら厄介だ。
Uターンして別の道を探し始める事にした。
赤っ恥かいちまったなちくしょうめ···
「『ウロボロステイル』知ってて許可証持ってないとは思わなかったよ、も〜
あの人の言う通り、物流のための大事な道だからセキュリティが一際厳しいんだよ。」
なんだって、じゃあ運搬業やってる奴等はそれを予め備えていたってわけか。
…よく考えてみたらそうでもしないと野盗の格好の餌食になるか。
「そういうこと。知らずに走っていたら僕達木っ端微塵にされてたかも。」
容赦ねえな、見せしめのつもりか?
命拾いしたのは確かかもしれねえが、あの野郎に感謝したくねえや。
くそ、当時どうせ資格取るならそれを真っ先に取りたかったぜ。
マクロンハーツの事だから俺が逃げる術を失くすために黙っていやがったんだろうな。
俺を造った奴は俺の才能に後悔するがいい。
便利能力のつもりで人様に迷惑かけてるだなんて思いもしてないだろう?
…痛む肩を堪えてバイクの容態を診る。
雑に飲み込まれたから電気系統とか特に不安だったが、無事なようだ。
ミラーやブレーキレバー部分といった先端部分にストレスかかった程度で済んでいる。
なんだよ軽傷じゃねーか……イマチヅキは無傷だし、一番負傷したの俺か…
…よし、広い道に出るか。街の外側目指してバイクで駆る。
「あ、フォシデひょっとして『ウロボロステイル』目指していた?」
そうそれ。
いつぞや工場にいた時、運搬業者が言っていたのをふと思い出した。
開けた道なら見通しも良いし官憲や何やらが追っても逃げ切りやすいだろうと。
…地平線が見える、もうすぐだ。
「もしもーし」
ん?イマチヅキか?いや、首を横に振って否定してんな?
「おにーさん、許可証ないでしょ。駄目だよ『そっち』行ったら」
このスピードで並行して声を掛けてくる奴だと?
フルフェイスヘルメットで素顔が判らん、革スーツの黒ずくめだ。
ゴツい高級バイクに乗ってやがるし、なんか気に喰わねえな…
「えっ、ま、まさか…?!」
「あらぁ後ろのかわいこちゃんが聞こえてるなら、私の声も届いているはずだよねえ?」
更に加速をしたかと思えば、先回りをして行く手を阻んできた。
此方も既にスピード出しきってるからもう避けれん、轢くしかないぞ?
激しく衝突、と思いきやこいつ…片足で前輪を止めやがった?!
反動でこちら側は一瞬宙に浮かび、激しくバウンド。
ケツを打ったのは俺だけでイマチヅキは飛んで衝撃を避けた。また俺だけ被害か。
「いいかい?『ウロボロステイル』は物流と要人を運んで支える大事な道。
許可なく割り込むと罰則が来ちゃうの。
私達のように同じ顔の者がやらかすと連帯責任負わされかねないんだよお?」
「ああっや、やっぱり?!同じ顔って事は食屍鬼…
しかも上位存在として公認でバイク乗りの個体、スーパーセブン?!」
「当たりぃ、私ってそんな有名人だったあ?」
ヘルメットを脱ぎあらわになった顔は、確かに青肌黒白目で同様の銀髪だが…
俺よりずっと顔色悪いし、にちゃっとして気持ち悪いぞこいつ…
なんでイマチヅキはこんな畏まってんだ?あと許可証が要るだと?
なら…こいつから許可証とやらを奪えば話は早いんじゃねえか?
と、脅してみるも動揺する素振りもなく、粘り気のある笑みを返してきやがった。
「お勉強させてもらえなかったのかな、かわいそうにねえ。」
そう来たかこの野郎、俺に喧嘩を売るのか?
「や、やめた方がいいよフォシデ!触ったら呪われちゃうかもしれないよ?!
呪いに掛かると死ぬほど厄介なんだよ、治す手段も滅多に無いの!」
は?呪い?いや確かに幸薄そうな面はしているが、まさか異能か?
「ああ〜、なんか中途半端に私の事伝わっているのね。まあいいけど。
とにかく『あっち』に君を渡らせるつもりはないよ。
仮に突破した所でえ、無許可で走ってる所見つけたら私がめっしちゃうよ?」
何を偉そうに…む?奴の荷台に見覚えのあるシルエットが…
鞘か?!長いエモノの?!ビクスバイトを連想した、が、こいつは強いのか?
いや、厄介な存在であるだけで十分強いか…
「と、とりあえず引き返そうよフォシデ〜!」
ちっ、イマチヅキも逃げ腰になっちまったな。
悔しいがエモノに加えてマジで呪われでもしたら厄介だ。
Uターンして別の道を探し始める事にした。
赤っ恥かいちまったなちくしょうめ···
「『ウロボロステイル』知ってて許可証持ってないとは思わなかったよ、も〜
あの人の言う通り、物流のための大事な道だからセキュリティが一際厳しいんだよ。」
なんだって、じゃあ運搬業やってる奴等はそれを予め備えていたってわけか。
…よく考えてみたらそうでもしないと野盗の格好の餌食になるか。
「そういうこと。知らずに走っていたら僕達木っ端微塵にされてたかも。」
容赦ねえな、見せしめのつもりか?
命拾いしたのは確かかもしれねえが、あの野郎に感謝したくねえや。
くそ、当時どうせ資格取るならそれを真っ先に取りたかったぜ。
マクロンハーツの事だから俺が逃げる術を失くすために黙っていやがったんだろうな。
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誰かさんの事務所を占拠して休憩していた。
時間帯によっては一人で留守を預かる奴もいるから楽勝。
首を捻るのは古錆びた手回しジャッキを回すより楽だ。
イマチヅキからヤバい奴を教えてもらいながら地図を照らし合わせて見て
なんとなくだがヤバさは伝わった。
国境越えはまあなんとかなりそうだが、大陸跨ぎの難易度が桁違いに高い。
片や大砂漠でただでさえ移動手段に制限があるのにマフィアの巣窟だし
片や陸を繋ぐ橋の前後に『モル信』がいるらしい。前後にって、もう2人いるのかよ…
『無明の繭』とまではいかないが周辺国には行きたかったんだがな。
こちら側は良く言えば平凡、悪く言えば地味。あちら側は魅力に溢れている。
「まあね〜。会社やお店が沢山あって充実してるし、遊び場にも困らないよ。」
やはりそうか。
マクロンハーツの小言からちらっと聞いた事あるんだが
あちら側にもプルペラ鉄工場系列の工場があって、いつかそちらを本拠点にするとか。
稼業にするにはうってつけの環境がある、即ち人が多い、即ち財産に溢れている。
「フォシデは時々慎重なのか大胆なのかわかんないねえ」
基本的に慎重で素直だが、無知だから無謀に思われてるんだよ俺は。
「んっふふ、そこまで自分の事判っていて出生だけ判ってないのが不思議だよ。」
全くだ。
なんだか俺も巷で噂になっているようだし、俺について詳しい奴が現れたりしないものか。
「あ、でもね。もしあっち側に着いたとしてもギベオンにだけは絶っっっ対会わないようにね!
食屍鬼の中でもトップクラスに超危険人物なんだ、見た目もヤバいけど頭もヤバい。
あいつと会ってめちゃめちゃにされた人は数知れないよ。」
これは………マジな奴だな。もうヤバさを説明しきれないくらいヤバいのか。
そこまでいくともう勝っても負けてもヤバいな。
負けは死に直結だし、勝つと目立って他のヤバい奴に注目されちまう。逃げるが最適。
…さて、人肉も十分食い漁ったし金品も盗ったから出るか。
息を殺したつもりの人の息使いが増すのを俺は聞き逃さない。
鼓膜がイカれる様な環境に元いた身としては、これだけ静かだと針一本落ちても聞き分けれる。
窓から出てバイクに即跨り、即壁を走る。
イマチヅキがいるから屋根や壁伝いの柔軟な移動も容易なのは助かるぜ。
車道利用していると待ち伏せされる事が多いからな。
「あっ!フォシデ、あのもやもやしてる所!絶対避けて!!」
なんだそんなに必死になって。その緊迫感に応えるように、大きく避けた。
その拍子に屋台の屋根が2つ3つ壊れたが不可抗力不可抗力。
「稀にある野生の歪曲空間だよ。あれに引っかかるとロクな目に合わないんだ。
知らない世界に飛ばされたり変なのが出てきたり、最悪バラバラになって死んじゃう。」
とんでもねえデストラップだな、なんでそんなのがこんな下町にあるんだ?!
「下町だからこそ、かなあ。
アザルシスって基本的に歪みまくってるけど専門家が修繕や調整してるらしくて
お金持ちは逆に歪曲空間を利用して異世界から資源を仕入れているみたいよ。
でも有益な物を抜き取れるパターンってそう多くもなくてえ
逆に怪物や疫病が飛び出す原因になる事のが普通だよ。」
手付かずの空間に歪みはあり得るって事か?
なんだよ、ヒトに限らず地形にまで気を付けねえといけないのか。
旅を初めて数ヶ月経ったが、今まで鉢合わなかったのは運が良かったんだな。
「運も立派な実力だよお、色んなジャンルで『力持ち』を見てきたけどね
事故や災害であっさり逝ったヒトも結構いたもの。」
『力持ち』…財力、権力、武力ってとこか?
無さ過ぎたら人権ねえし、あり過ぎても叩かれるし、あってもなくても死ぬときは死ぬ。
やっぱり好きな時に飲み食い強奪して、殺したい奴は殺して殺されそうになったら逃げるに限るな。
さて、今夜は…想定外の豪勢な食卓だ。
質素な外装と裏腹にサービスの行き届いた高級ホテルだったようだ。
それでも楽に侵入出来たから雑魚しかいないと思っていたんだが
襲った相手はどうもマフィアの幹部クラスの親父だったらしい。
教えてくれたイマチヅキはシャワールーム。
俺は肴を雑にかっ食らって赤ワインをデカいグラスに波々注いでがぶ飲みしていた。
…渋すぎる。正直言って不味い。高いから美味いとも限らねえんだな。
ダイオプテーズの作る酒が少し恋しい。
蓄音器で音楽も聴いていたようだが止めた。興味ない音楽は騒音と変わりない。成金め。
「フォシデ〜、今夜どうする?」
湯上がりのイマチヅキの唐突な問いかけ。
タオルで頭は拭いているくせに下は隠さねえんだもんなこいつ。
無駄毛もなけりゃ起伏も無い、男の勲章はある。
「ああ、そういう意味でなく今夜此処で一晩過ごすのかって。
このおじさん、部下や警護がいてもおかしくないからさあ。」
ああ、そういう事か。時間差でこいつの取り巻きに寝込みを襲われないか、と?
万が一を考慮して毎回俺が異能で仕掛けておいてから寝てるだろ、今夜もそのつもりだ。
だからとっととぶら下がってるの隠して寝床に付きな。明日は早いんだ。
…………どうやら先に目が覚めたのは俺のようだな。
俺の耳が捉えた異音は密着しているイマチヅキの寝息より
『まだ』小さいはずなのに、はっきり響いて聴こえた。
消灯した部屋は、異能で室内の音と臭いを『奪って』おいたがかえって怪しまれたか?
そういえば整髪剤臭い親父だったな。空調機でも吸いきれないくらい臭かった。
生々しい音が更に近付いてくる。自分の心臓の爆音がうるせえ…
この這って肉が擦れるような音、俺は蛇を連想した。
ピット器官とやらで熱感知、赤外線センサー的な機能があるやつ。
もしこの施設に、或いは室外にいる奴にそれが備わっていたとしたら音も臭いも関係ない…
そっとイマチヅキを起こして、俺の予測含め一連の状況説明を施した。
「ど、どうする?此処の窓は開閉できないタイプだよ…?」
とりあえず工作だ。
俺は、俺とお前の体温を室温同等まで『奪い』
イマチヅキはあの親父を生前並に体温を『与える』
物音を立てないように、且つ素早く異能で工作し始める俺達の前に、あいつは現れた。
隙間の無い扉の隙間から強引に、爪か?触手か?
とにかく異形の物が割り込んで扉を握り潰しながら入室。
外灯りで頭部のシルエットだけ辛うじて見えた。目から…角が生えてる。
食屍鬼の形をした化け物だ。
「……おい、イワロ。床で寝るなんてらしくねえな?」
イワロ、多分俺が殺ったあのマフィアのおっさんの名だろう。
俺の予想通り、状況が見えてないあたりあいつは『熱』で形を捉えているようだな。
気づかれないうちに俺もイマチヅキも窓側にゆっくり、音を立てないように歩み寄る。
「返事がねえな、クラシック好きの奴が静かにしてらしくねえなあ?」
違和感に勘付き始めた、こうなると非常に拙い…!!
「誰かいるなら答えやがれおるぁぁぁあ!!」
体を大きく歪ませたかと思えば、鎌のように鋭利な切っ先の触手を複数生やして室内いっぱい振りましてきた。
思った通り、やけクソで攻撃してきやがった!複数箇所浅くも深くも斬られた。
ああこれはもうバレたな。
俺は窓に駆け寄ると手を当て、局所的に空気を『奪い』真空による窓破壊をした。
でかい窓のでかい穴、余裕で二人行ける。俺達は外へ飛んで逃げた。
着地。滴り落ちる血の雨。俺の体から出た血だ。
見上げると少々服と髪を切られたイマチヅキと、あの部屋から飛び出す巨腕が見えた。
あの掌、俺達を握り潰すのに十分なサイズだ…とっととバイクに跨り俺達はホテルを後にした。
あちこち抉るように斬られて痛え。
だがじっとしているわけにはいかんな、俺が運転している間に応急措置をさせる。
くそ、今度は服探しするか。ブランド生地がボロ切れになっちまった。
「あいつがね、ギベオンなんだよ。ボクもうっかりしていたな。
『無明の繭』の軍人だけど、ブローカーでもあるから
こっちで商人とつるんでいても不思議じゃなかったね…」
死ぬかと思ったぜ。あんな化物、勝ち負け以前の問題だ。
屋内を肉体で圧迫されたら俺にはどうしようもない。対抗できる奴が存在するのか?
時間帯によっては一人で留守を預かる奴もいるから楽勝。
首を捻るのは古錆びた手回しジャッキを回すより楽だ。
イマチヅキからヤバい奴を教えてもらいながら地図を照らし合わせて見て
なんとなくだがヤバさは伝わった。
国境越えはまあなんとかなりそうだが、大陸跨ぎの難易度が桁違いに高い。
片や大砂漠でただでさえ移動手段に制限があるのにマフィアの巣窟だし
片や陸を繋ぐ橋の前後に『モル信』がいるらしい。前後にって、もう2人いるのかよ…
『無明の繭』とまではいかないが周辺国には行きたかったんだがな。
こちら側は良く言えば平凡、悪く言えば地味。あちら側は魅力に溢れている。
「まあね〜。会社やお店が沢山あって充実してるし、遊び場にも困らないよ。」
やはりそうか。
マクロンハーツの小言からちらっと聞いた事あるんだが
あちら側にもプルペラ鉄工場系列の工場があって、いつかそちらを本拠点にするとか。
稼業にするにはうってつけの環境がある、即ち人が多い、即ち財産に溢れている。
「フォシデは時々慎重なのか大胆なのかわかんないねえ」
基本的に慎重で素直だが、無知だから無謀に思われてるんだよ俺は。
「んっふふ、そこまで自分の事判っていて出生だけ判ってないのが不思議だよ。」
全くだ。
なんだか俺も巷で噂になっているようだし、俺について詳しい奴が現れたりしないものか。
「あ、でもね。もしあっち側に着いたとしてもギベオンにだけは絶っっっ対会わないようにね!
食屍鬼の中でもトップクラスに超危険人物なんだ、見た目もヤバいけど頭もヤバい。
あいつと会ってめちゃめちゃにされた人は数知れないよ。」
これは………マジな奴だな。もうヤバさを説明しきれないくらいヤバいのか。
そこまでいくともう勝っても負けてもヤバいな。
負けは死に直結だし、勝つと目立って他のヤバい奴に注目されちまう。逃げるが最適。
…さて、人肉も十分食い漁ったし金品も盗ったから出るか。
息を殺したつもりの人の息使いが増すのを俺は聞き逃さない。
鼓膜がイカれる様な環境に元いた身としては、これだけ静かだと針一本落ちても聞き分けれる。
窓から出てバイクに即跨り、即壁を走る。
イマチヅキがいるから屋根や壁伝いの柔軟な移動も容易なのは助かるぜ。
車道利用していると待ち伏せされる事が多いからな。
「あっ!フォシデ、あのもやもやしてる所!絶対避けて!!」
なんだそんなに必死になって。その緊迫感に応えるように、大きく避けた。
その拍子に屋台の屋根が2つ3つ壊れたが不可抗力不可抗力。
「稀にある野生の歪曲空間だよ。あれに引っかかるとロクな目に合わないんだ。
知らない世界に飛ばされたり変なのが出てきたり、最悪バラバラになって死んじゃう。」
とんでもねえデストラップだな、なんでそんなのがこんな下町にあるんだ?!
「下町だからこそ、かなあ。
アザルシスって基本的に歪みまくってるけど専門家が修繕や調整してるらしくて
お金持ちは逆に歪曲空間を利用して異世界から資源を仕入れているみたいよ。
でも有益な物を抜き取れるパターンってそう多くもなくてえ
逆に怪物や疫病が飛び出す原因になる事のが普通だよ。」
手付かずの空間に歪みはあり得るって事か?
なんだよ、ヒトに限らず地形にまで気を付けねえといけないのか。
旅を初めて数ヶ月経ったが、今まで鉢合わなかったのは運が良かったんだな。
「運も立派な実力だよお、色んなジャンルで『力持ち』を見てきたけどね
事故や災害であっさり逝ったヒトも結構いたもの。」
『力持ち』…財力、権力、武力ってとこか?
無さ過ぎたら人権ねえし、あり過ぎても叩かれるし、あってもなくても死ぬときは死ぬ。
やっぱり好きな時に飲み食い強奪して、殺したい奴は殺して殺されそうになったら逃げるに限るな。
さて、今夜は…想定外の豪勢な食卓だ。
質素な外装と裏腹にサービスの行き届いた高級ホテルだったようだ。
それでも楽に侵入出来たから雑魚しかいないと思っていたんだが
襲った相手はどうもマフィアの幹部クラスの親父だったらしい。
教えてくれたイマチヅキはシャワールーム。
俺は肴を雑にかっ食らって赤ワインをデカいグラスに波々注いでがぶ飲みしていた。
…渋すぎる。正直言って不味い。高いから美味いとも限らねえんだな。
ダイオプテーズの作る酒が少し恋しい。
蓄音器で音楽も聴いていたようだが止めた。興味ない音楽は騒音と変わりない。成金め。
「フォシデ〜、今夜どうする?」
湯上がりのイマチヅキの唐突な問いかけ。
タオルで頭は拭いているくせに下は隠さねえんだもんなこいつ。
無駄毛もなけりゃ起伏も無い、男の勲章はある。
「ああ、そういう意味でなく今夜此処で一晩過ごすのかって。
このおじさん、部下や警護がいてもおかしくないからさあ。」
ああ、そういう事か。時間差でこいつの取り巻きに寝込みを襲われないか、と?
万が一を考慮して毎回俺が異能で仕掛けておいてから寝てるだろ、今夜もそのつもりだ。
だからとっととぶら下がってるの隠して寝床に付きな。明日は早いんだ。
…………どうやら先に目が覚めたのは俺のようだな。
俺の耳が捉えた異音は密着しているイマチヅキの寝息より
『まだ』小さいはずなのに、はっきり響いて聴こえた。
消灯した部屋は、異能で室内の音と臭いを『奪って』おいたがかえって怪しまれたか?
そういえば整髪剤臭い親父だったな。空調機でも吸いきれないくらい臭かった。
生々しい音が更に近付いてくる。自分の心臓の爆音がうるせえ…
この這って肉が擦れるような音、俺は蛇を連想した。
ピット器官とやらで熱感知、赤外線センサー的な機能があるやつ。
もしこの施設に、或いは室外にいる奴にそれが備わっていたとしたら音も臭いも関係ない…
そっとイマチヅキを起こして、俺の予測含め一連の状況説明を施した。
「ど、どうする?此処の窓は開閉できないタイプだよ…?」
とりあえず工作だ。
俺は、俺とお前の体温を室温同等まで『奪い』
イマチヅキはあの親父を生前並に体温を『与える』
物音を立てないように、且つ素早く異能で工作し始める俺達の前に、あいつは現れた。
隙間の無い扉の隙間から強引に、爪か?触手か?
とにかく異形の物が割り込んで扉を握り潰しながら入室。
外灯りで頭部のシルエットだけ辛うじて見えた。目から…角が生えてる。
食屍鬼の形をした化け物だ。
「……おい、イワロ。床で寝るなんてらしくねえな?」
イワロ、多分俺が殺ったあのマフィアのおっさんの名だろう。
俺の予想通り、状況が見えてないあたりあいつは『熱』で形を捉えているようだな。
気づかれないうちに俺もイマチヅキも窓側にゆっくり、音を立てないように歩み寄る。
「返事がねえな、クラシック好きの奴が静かにしてらしくねえなあ?」
違和感に勘付き始めた、こうなると非常に拙い…!!
「誰かいるなら答えやがれおるぁぁぁあ!!」
体を大きく歪ませたかと思えば、鎌のように鋭利な切っ先の触手を複数生やして室内いっぱい振りましてきた。
思った通り、やけクソで攻撃してきやがった!複数箇所浅くも深くも斬られた。
ああこれはもうバレたな。
俺は窓に駆け寄ると手を当て、局所的に空気を『奪い』真空による窓破壊をした。
でかい窓のでかい穴、余裕で二人行ける。俺達は外へ飛んで逃げた。
着地。滴り落ちる血の雨。俺の体から出た血だ。
見上げると少々服と髪を切られたイマチヅキと、あの部屋から飛び出す巨腕が見えた。
あの掌、俺達を握り潰すのに十分なサイズだ…とっととバイクに跨り俺達はホテルを後にした。
あちこち抉るように斬られて痛え。
だがじっとしているわけにはいかんな、俺が運転している間に応急措置をさせる。
くそ、今度は服探しするか。ブランド生地がボロ切れになっちまった。
「あいつがね、ギベオンなんだよ。ボクもうっかりしていたな。
『無明の繭』の軍人だけど、ブローカーでもあるから
こっちで商人とつるんでいても不思議じゃなかったね…」
死ぬかと思ったぜ。あんな化物、勝ち負け以前の問題だ。
屋内を肉体で圧迫されたら俺にはどうしようもない。対抗できる奴が存在するのか?
ようやく傷口も塞がってきたか?
堪え性のない俺は顰めっ面で血を出し続けていたが、痛みと共にようやく治まった。
医療機関利用できねえのは地味に辛い。
正確には利用できるかもしれんが、食屍鬼は食屍鬼専用の病院に押し込められるらしい。
それ即ち束縛。俺の正体が知れる好機と天秤に掛けるまでもなく嫌だ。
「道すがらで良いから誰でも入れる病院とか診てくれる医者が見つかると良いね。
怪我だけならともかく、感染症とかになったらボク達確定死だよ。」
世の中敵が多すぎる………
ん?イマチヅキ、お前も複製魔族なんだろ?医療機関利用できねえのか?
「ボクはねえ、デザートローズ…
もとい組長と同じ医療機関に契約されているからさあ…」
ああ、出戻り状態になって何されるか判らんか。
うーむ………まあ必要になったら医者でも脅迫して診てもらうわ。
そのつもりで怪我も病気も罹るんじゃねーぞ、いいな?重症or重傷=死だ。
………だが今回は慎重になりすぎたかもしれない。
此処は個人の家のはずだが屋内の9割は倉庫で、1割しかない生活圏も生活感がない。
飲食物の蓄えも金の貯えもなければ、燃料もない。
イマチヅキ曰く此処は魔術師の家なのではないかと、その根拠に見せつけたのは…
うん?長方形の物だと思いきやよく見ると薄い生地が層になっているな?
なんだこれ?記号や図説がびっちり載っているが。
「本だよ、紙媒体の本!確実に高いし、引き取り手もいるんだよ!」
本?これがか?初めて見たな。
じゃあこのよく判らん記号の羅列も何かのマニュアルかメモ書きなのか?
薄いとはいえデータ取る度に紙とやらを重ねていたら重くなって嵩張るだろ。
価値が判らんがこれが高価なのか……じゃあ3つか4つ盗って売るか。
その引き取り手とやらが図書館とかいう、俺には馴染みの無い施設だ。
どんな奴からも本を取り扱うらしい。貸し借りメインだが売り買いもする。
「そこにいる偉い人がフォスフォフィライトなんだよ。」
なんか聞いた事あるな……ああそうだ、俺と名前が似ている食屍鬼か。
客として入ったなら無下には扱わんだろ、ついでだから俺の事を尋ねてみるかな。
外装からとんでもなくでかい施設だとは思っていたが、中は更に広かった。
広すぎないか?天井も見えない。イマチヅキ曰く空間歪ませているかも、とのこと。
「当館に何用だ。」
何処からともなくふらりと現れた巨漢、食屍鬼だ。ただしオッドアイで片目は緑眼。
魔術師って体型じゃねえな、これは軍人あがりの筋肉質だ。
「どうした、お前も何か『視えてる』のか?
どちらにせよ自己紹介しておこう、此処で司書長を務めているフォスフォフィライトだ。」
何言ってんだこいつ?ああ、あんたがフォスフォフィライトなんだな。
筋肉が勿体ねぇ仕事しているようだが、まずは本を買い取ってもらおうかね。
と、差し出した本を受け取るなり少し開いて即閉じた。今ので何か確認したつもりか??
「ふむ、時間はあるかな?個室に案内したいのだが。
連れの方は司書達と遊んで待っていてほしい。」
「はぁ〜い?」
俺の顔色を伺いつつ承諾したか、無難な対応だ。
俺もこいつが何を企んでるか判らんから刺激し難いが、密室なら俺にも部はあるだろう。
招かれるがまま個室に入る。
テーブルを挟んで厚みのあるソファがあり、お互い対面する形で腰掛ける。
厚みのある生地にケツが吸い込まれそうだ…上質だ…照明といい、一流だな。
「俺に何か尋ねたい事はあるのか?まずは本以外で。」
………どういう事だ?顔にでも書いてあったか?
「…不快に思わせたら申し訳ないが、俺の異能は自動で発揮されるんだ。
お前について知り得る限り語るぞ。
いらないならこの話は聞かなかった事にしてかまわないし、料金に影響も無い。」
へえ、まあ減るものでもないし聞いておくか。
「お前の製造番号は03003033。
俺の前に造られた個体で、携わった博士もウォリック博士同様だ。」
ウォリック博士?聞いた事ねえな。
「なんだと?………なるほど、それであの『数値』か。では教えよう。
食屍鬼シリーズを造ることを許された数ある博士のうち一人で、唯一の人間だ。
俺達をより人間社会に近しい存在として造ることを目標としている。」
なんだと、近すぎて奴隷みたいに扱われるのがオチじゃねえか?
「少なくともウォリック博士に限ってそんな事はない。
あの方は人間ではあるが食屍鬼を理解してくれている。
お前は恐らく、博士の知らぬ所で何者かに記憶操作をされ良い様に扱われたんじゃないか?」
記憶操作だと?
確かに俺はどういう経緯で工場に閉じ込められていたか判らんが……
「心当たりが2つある。
1つは強い外傷を受けたことによる記憶障害。
俺達は丈夫で死ににくいが、頭部に致命傷を負うと後遺症で記憶を失ったり人格が変わる。
もう1つは…此方は当人をまだ見た事がないから確証はないが、俗に言われる洗脳手術。
治療を施すふりをして、脳になんらかの細工をして本人の意思に関係なく従わせる。」
どちらもあり得そうで特定し難いな…
常人なら死にかけるような労災には何度も遭ったし、洗脳もありえそうだし。
「お前も相当苦労してきたようだな。
強奪を稼業に過ごしてきたようだが、異能を駆使していたのか?」
知れ渡ってんな俺も。
「この本、2年前にとある魔術師殿が当館から購入した物だ。
…外傷もなく妙な仕掛けも施されていないから、今回は大目に見てやろう。」
…この野郎、俺はただ売り値を崩したくないから保管には配慮していただけだ。
普段は雑に『奪って』いるからな?
「………お前の異能は『奪う』のではなく『逃がす』ためのものじゃないか?
ウォリック博士ならそんな力を授けてくれそうな気がするんだ。
………ふふ、そんな顔をするな。さて、まあこの本はお前から買い取らないとな。」
「ま、まさかネットバンク使う事になるなんてボクも思いもしなかったよ〜!
ねね、あの大金どう使うんだいフォシデ?」
さあな、とりあえず図書館が見えない所まで移動だ。ふん。
堪え性のない俺は顰めっ面で血を出し続けていたが、痛みと共にようやく治まった。
医療機関利用できねえのは地味に辛い。
正確には利用できるかもしれんが、食屍鬼は食屍鬼専用の病院に押し込められるらしい。
それ即ち束縛。俺の正体が知れる好機と天秤に掛けるまでもなく嫌だ。
「道すがらで良いから誰でも入れる病院とか診てくれる医者が見つかると良いね。
怪我だけならともかく、感染症とかになったらボク達確定死だよ。」
世の中敵が多すぎる………
ん?イマチヅキ、お前も複製魔族なんだろ?医療機関利用できねえのか?
「ボクはねえ、デザートローズ…
もとい組長と同じ医療機関に契約されているからさあ…」
ああ、出戻り状態になって何されるか判らんか。
うーむ………まあ必要になったら医者でも脅迫して診てもらうわ。
そのつもりで怪我も病気も罹るんじゃねーぞ、いいな?重症or重傷=死だ。
………だが今回は慎重になりすぎたかもしれない。
此処は個人の家のはずだが屋内の9割は倉庫で、1割しかない生活圏も生活感がない。
飲食物の蓄えも金の貯えもなければ、燃料もない。
イマチヅキ曰く此処は魔術師の家なのではないかと、その根拠に見せつけたのは…
うん?長方形の物だと思いきやよく見ると薄い生地が層になっているな?
なんだこれ?記号や図説がびっちり載っているが。
「本だよ、紙媒体の本!確実に高いし、引き取り手もいるんだよ!」
本?これがか?初めて見たな。
じゃあこのよく判らん記号の羅列も何かのマニュアルかメモ書きなのか?
薄いとはいえデータ取る度に紙とやらを重ねていたら重くなって嵩張るだろ。
価値が判らんがこれが高価なのか……じゃあ3つか4つ盗って売るか。
その引き取り手とやらが図書館とかいう、俺には馴染みの無い施設だ。
どんな奴からも本を取り扱うらしい。貸し借りメインだが売り買いもする。
「そこにいる偉い人がフォスフォフィライトなんだよ。」
なんか聞いた事あるな……ああそうだ、俺と名前が似ている食屍鬼か。
客として入ったなら無下には扱わんだろ、ついでだから俺の事を尋ねてみるかな。
外装からとんでもなくでかい施設だとは思っていたが、中は更に広かった。
広すぎないか?天井も見えない。イマチヅキ曰く空間歪ませているかも、とのこと。
「当館に何用だ。」
何処からともなくふらりと現れた巨漢、食屍鬼だ。ただしオッドアイで片目は緑眼。
魔術師って体型じゃねえな、これは軍人あがりの筋肉質だ。
「どうした、お前も何か『視えてる』のか?
どちらにせよ自己紹介しておこう、此処で司書長を務めているフォスフォフィライトだ。」
何言ってんだこいつ?ああ、あんたがフォスフォフィライトなんだな。
筋肉が勿体ねぇ仕事しているようだが、まずは本を買い取ってもらおうかね。
と、差し出した本を受け取るなり少し開いて即閉じた。今ので何か確認したつもりか??
「ふむ、時間はあるかな?個室に案内したいのだが。
連れの方は司書達と遊んで待っていてほしい。」
「はぁ〜い?」
俺の顔色を伺いつつ承諾したか、無難な対応だ。
俺もこいつが何を企んでるか判らんから刺激し難いが、密室なら俺にも部はあるだろう。
招かれるがまま個室に入る。
テーブルを挟んで厚みのあるソファがあり、お互い対面する形で腰掛ける。
厚みのある生地にケツが吸い込まれそうだ…上質だ…照明といい、一流だな。
「俺に何か尋ねたい事はあるのか?まずは本以外で。」
………どういう事だ?顔にでも書いてあったか?
「…不快に思わせたら申し訳ないが、俺の異能は自動で発揮されるんだ。
お前について知り得る限り語るぞ。
いらないならこの話は聞かなかった事にしてかまわないし、料金に影響も無い。」
へえ、まあ減るものでもないし聞いておくか。
「お前の製造番号は03003033。
俺の前に造られた個体で、携わった博士もウォリック博士同様だ。」
ウォリック博士?聞いた事ねえな。
「なんだと?………なるほど、それであの『数値』か。では教えよう。
食屍鬼シリーズを造ることを許された数ある博士のうち一人で、唯一の人間だ。
俺達をより人間社会に近しい存在として造ることを目標としている。」
なんだと、近すぎて奴隷みたいに扱われるのがオチじゃねえか?
「少なくともウォリック博士に限ってそんな事はない。
あの方は人間ではあるが食屍鬼を理解してくれている。
お前は恐らく、博士の知らぬ所で何者かに記憶操作をされ良い様に扱われたんじゃないか?」
記憶操作だと?
確かに俺はどういう経緯で工場に閉じ込められていたか判らんが……
「心当たりが2つある。
1つは強い外傷を受けたことによる記憶障害。
俺達は丈夫で死ににくいが、頭部に致命傷を負うと後遺症で記憶を失ったり人格が変わる。
もう1つは…此方は当人をまだ見た事がないから確証はないが、俗に言われる洗脳手術。
治療を施すふりをして、脳になんらかの細工をして本人の意思に関係なく従わせる。」
どちらもあり得そうで特定し難いな…
常人なら死にかけるような労災には何度も遭ったし、洗脳もありえそうだし。
「お前も相当苦労してきたようだな。
強奪を稼業に過ごしてきたようだが、異能を駆使していたのか?」
知れ渡ってんな俺も。
「この本、2年前にとある魔術師殿が当館から購入した物だ。
…外傷もなく妙な仕掛けも施されていないから、今回は大目に見てやろう。」
…この野郎、俺はただ売り値を崩したくないから保管には配慮していただけだ。
普段は雑に『奪って』いるからな?
「………お前の異能は『奪う』のではなく『逃がす』ためのものじゃないか?
ウォリック博士ならそんな力を授けてくれそうな気がするんだ。
………ふふ、そんな顔をするな。さて、まあこの本はお前から買い取らないとな。」
「ま、まさかネットバンク使う事になるなんてボクも思いもしなかったよ〜!
ねね、あの大金どう使うんだいフォシデ?」
さあな、とりあえず図書館が見えない所まで移動だ。ふん。
誰かさんの小屋を占拠し、雑魚寝の昼寝をしていたがイマチヅキに安眠妨害をされた。
「フォシデ!ねえ、これ見てっ」
端末に映るニュース記事を見せつけてきた。
タイトルは……『新プルペラ鉄工場、襲撃に遭う?!』だと?
やっぱり別工場をメインに移したけど其処でもアクシデントが起きたか、ざまぁねえ。
「もっとよく見て、その襲撃したってのが
名前は出てないけどやり方からギベオンって判るよ!」
なんだと……
『伸縮自在に大量に肉体を生やす異形が押し入り
車両を振り払い玄関ホールを破壊したが
食屍鬼(アメジスト氏)が立ちはだかり、内部侵入を阻止。
搭乗していた警護ロボごと握り潰されはしたが
直後別の食屍鬼(エメラルド氏)の加勢により異形は退散した。
と現場を見ていた従業員は語る。
(※詳細は後日コラム欄で綴ります)』
なんだと、新工場になってからも食屍鬼を雇ったのか?
しかも現場を語った奴が従業員なあたり
ついに工場も捨てて逃げやがったのか、マクロンハーツの野郎。
「ギベオンが出てきたから、もしかしたら裏金に手を出しちゃったのかもね。
取り立て代理として脅迫しにきた、でも自分に恐れず歯向かう奴もとい
雇われ食屍鬼が現れてギベオンもムキになった。って、とこじゃない?」
なるほど、だが1つ腑に落ちねえ事がある。
なんでこんな、しょうもない所で化物相手に命懸けで抵抗したんだ?
握り潰されたって、あの時の巨腕を思い出させるな…
馬鹿か、このアメジストって奴…
「ボクも知らない個体だなあ、少なくともアウトローなヒトではなさそう。
でもどうやってあいつ相手に粘れたんだろうね?」
それは俺も気になるが。
てか、逃げりゃあいいのによ。人間なんてほっといて。
どうせプルペラ鉄工場が新しくなったって、優秀な屑の集まりに違いねえ。
人間を守る義理なんて…
…こいつももしかしてウォリック博士に造られた個体か?
「フォシデ、アメジストが気になる?
死んだとは書いてないから多分まだ生きてるけど死にかけてるとは思うよ。
ほらここ、治療費募金願いが出ている。」
は?金が足りないのか?どういう事だよ、医療機関はどうした?
まさかマクロンハーツの野郎、そもそもまともに諸々手続きしないまま契約したとか?
だとしたらザル手続きが過ぎる、足元見られ過ぎてる、ざけんな。
アメジストも大馬鹿野郎だ、金もろくに貰えてねえのに命を懸けて本当に馬鹿だ。
この馬鹿に加勢しにきたエメラルドって奴も馬鹿だよちくしょうめ…
「ええ、そんな馬鹿馬鹿言うと思わなかったな。
ボクもいつもフォシデに庇ってもらえてたから
無傷で済んでいたのを思い出していたのにい。」
イマチヅキ、大馬鹿野郎以上の馬鹿の表現知らねえか?
あったらそれを匿名に使って金振り込んでくれねえか。
ほらあのネットバンクに入れたあの端金だよ。
とある病院、の会議室。
医療関係者以外が諸事情で大人数集まっているため急遽間借りしていた。
端末相手ににらめっこしている者複数人、泣きながら狼狽えてる者複数人。
皆に共通していたのは、ある者への存命を願い危機を脱するという願い。
「此処まで管理不十分なのは想定外だ。
マクロンハーツの仲介無しで直接的な援助さえ出来ないように仕組まれているな。
この徹底ぶり、見える金は全て触れておきたい欲が見て取れる。それはさておき…」
と、表情こそ至ってクールだがこの食屍鬼もぶ厚い眼鏡の底には焦りの色が出ていた。
「エメラルドさんでも難しいか……」
「関係者以外からの募金活動が唯一の望み…だけど
関係者以外がアメちゃんにどれだけ尽くしてくれるんだあ……」
ありがたい事にリアルタイムで募金は増え続けている。1や2、たまに10…
現実はこんなものである。
ありがたいが、このまま待っていたら何百年待っても足りない。
しかし他人に割ける金は庶民にまず無いのでやはりこれが現実。
アザルシスでもほんの一握りな物好きな富豪が
この慈善活動が目に留まらない限り達成は叶わない。
だが富豪は多くの者に求められている。
何より造られた存在への使い捨て意識が世間は強い。
「オレだって出せたら出したいのに、見殺しにしたくないの…に……え?あれ?
ちょ、ちょっと皆見てくれ。オレの見間違いかもしれないから…!」
目を何度も擦っては凝視を繰り返す一同。
数値の表示に変化が生じている、即ちそれは募金額に達していたのを意味していた。
「間違いない、関係者にこの事を報せてすぐに治療のステップを進ませるとしよう。
それで、誰が入れてくれたか調べられるか?」
「えっと、多分このID『175silly』で『ワタリバッタ』ってアカウントのヒトですね!」
「一人でこの金額入れてくれたのか?!何者なんだろ……」
「アメジストに聞いてみたらどうだ?顔は広いらしいからな。」
「アメちゃんは超広いですよ〜。何せ世界一周したみたいですから。
お金なくなったから働きにきたって言っていたし。」
「ふふ、回復したらインフルエンサーでも任せてみるかな。」
悲愴感から一変、皆笑顔に変わり活気付いたのである。
『逃がす』だなんて冗談じゃない。
盗みたい物は盗んで、壊したい物は壊して、殺したい奴は殺す。
『奪う』事に特化した、俺はじっとしていられないイナゴみてえな食屍鬼だ。
「それってえ、逆に言えば〜
大事にしたい物は大事にして、直したい物は直して、生きてほしい人は生かすんだよね?」
ええいわざわざ逆に言うんじゃねえ、何ニヤけてやがんだ!
ったく、次は何しようかな…
そうだな、入れ墨でも挿れてみるか。渋い柄でハクを付けてえ。
腕の立つ彫師とか知ってるか?イマチヅキ。其処が次の目的地だ。
「フォシデ!ねえ、これ見てっ」
端末に映るニュース記事を見せつけてきた。
タイトルは……『新プルペラ鉄工場、襲撃に遭う?!』だと?
やっぱり別工場をメインに移したけど其処でもアクシデントが起きたか、ざまぁねえ。
「もっとよく見て、その襲撃したってのが
名前は出てないけどやり方からギベオンって判るよ!」
なんだと……
『伸縮自在に大量に肉体を生やす異形が押し入り
車両を振り払い玄関ホールを破壊したが
食屍鬼(アメジスト氏)が立ちはだかり、内部侵入を阻止。
搭乗していた警護ロボごと握り潰されはしたが
直後別の食屍鬼(エメラルド氏)の加勢により異形は退散した。
と現場を見ていた従業員は語る。
(※詳細は後日コラム欄で綴ります)』
なんだと、新工場になってからも食屍鬼を雇ったのか?
しかも現場を語った奴が従業員なあたり
ついに工場も捨てて逃げやがったのか、マクロンハーツの野郎。
「ギベオンが出てきたから、もしかしたら裏金に手を出しちゃったのかもね。
取り立て代理として脅迫しにきた、でも自分に恐れず歯向かう奴もとい
雇われ食屍鬼が現れてギベオンもムキになった。って、とこじゃない?」
なるほど、だが1つ腑に落ちねえ事がある。
なんでこんな、しょうもない所で化物相手に命懸けで抵抗したんだ?
握り潰されたって、あの時の巨腕を思い出させるな…
馬鹿か、このアメジストって奴…
「ボクも知らない個体だなあ、少なくともアウトローなヒトではなさそう。
でもどうやってあいつ相手に粘れたんだろうね?」
それは俺も気になるが。
てか、逃げりゃあいいのによ。人間なんてほっといて。
どうせプルペラ鉄工場が新しくなったって、優秀な屑の集まりに違いねえ。
人間を守る義理なんて…
…こいつももしかしてウォリック博士に造られた個体か?
「フォシデ、アメジストが気になる?
死んだとは書いてないから多分まだ生きてるけど死にかけてるとは思うよ。
ほらここ、治療費募金願いが出ている。」
は?金が足りないのか?どういう事だよ、医療機関はどうした?
まさかマクロンハーツの野郎、そもそもまともに諸々手続きしないまま契約したとか?
だとしたらザル手続きが過ぎる、足元見られ過ぎてる、ざけんな。
アメジストも大馬鹿野郎だ、金もろくに貰えてねえのに命を懸けて本当に馬鹿だ。
この馬鹿に加勢しにきたエメラルドって奴も馬鹿だよちくしょうめ…
「ええ、そんな馬鹿馬鹿言うと思わなかったな。
ボクもいつもフォシデに庇ってもらえてたから
無傷で済んでいたのを思い出していたのにい。」
イマチヅキ、大馬鹿野郎以上の馬鹿の表現知らねえか?
あったらそれを匿名に使って金振り込んでくれねえか。
ほらあのネットバンクに入れたあの端金だよ。
とある病院、の会議室。
医療関係者以外が諸事情で大人数集まっているため急遽間借りしていた。
端末相手ににらめっこしている者複数人、泣きながら狼狽えてる者複数人。
皆に共通していたのは、ある者への存命を願い危機を脱するという願い。
「此処まで管理不十分なのは想定外だ。
マクロンハーツの仲介無しで直接的な援助さえ出来ないように仕組まれているな。
この徹底ぶり、見える金は全て触れておきたい欲が見て取れる。それはさておき…」
と、表情こそ至ってクールだがこの食屍鬼もぶ厚い眼鏡の底には焦りの色が出ていた。
「エメラルドさんでも難しいか……」
「関係者以外からの募金活動が唯一の望み…だけど
関係者以外がアメちゃんにどれだけ尽くしてくれるんだあ……」
ありがたい事にリアルタイムで募金は増え続けている。1や2、たまに10…
現実はこんなものである。
ありがたいが、このまま待っていたら何百年待っても足りない。
しかし他人に割ける金は庶民にまず無いのでやはりこれが現実。
アザルシスでもほんの一握りな物好きな富豪が
この慈善活動が目に留まらない限り達成は叶わない。
だが富豪は多くの者に求められている。
何より造られた存在への使い捨て意識が世間は強い。
「オレだって出せたら出したいのに、見殺しにしたくないの…に……え?あれ?
ちょ、ちょっと皆見てくれ。オレの見間違いかもしれないから…!」
目を何度も擦っては凝視を繰り返す一同。
数値の表示に変化が生じている、即ちそれは募金額に達していたのを意味していた。
「間違いない、関係者にこの事を報せてすぐに治療のステップを進ませるとしよう。
それで、誰が入れてくれたか調べられるか?」
「えっと、多分このID『175silly』で『ワタリバッタ』ってアカウントのヒトですね!」
「一人でこの金額入れてくれたのか?!何者なんだろ……」
「アメジストに聞いてみたらどうだ?顔は広いらしいからな。」
「アメちゃんは超広いですよ〜。何せ世界一周したみたいですから。
お金なくなったから働きにきたって言っていたし。」
「ふふ、回復したらインフルエンサーでも任せてみるかな。」
悲愴感から一変、皆笑顔に変わり活気付いたのである。
『逃がす』だなんて冗談じゃない。
盗みたい物は盗んで、壊したい物は壊して、殺したい奴は殺す。
『奪う』事に特化した、俺はじっとしていられないイナゴみてえな食屍鬼だ。
「それってえ、逆に言えば〜
大事にしたい物は大事にして、直したい物は直して、生きてほしい人は生かすんだよね?」
ええいわざわざ逆に言うんじゃねえ、何ニヤけてやがんだ!
ったく、次は何しようかな…
そうだな、入れ墨でも挿れてみるか。渋い柄でハクを付けてえ。
腕の立つ彫師とか知ってるか?イマチヅキ。其処が次の目的地だ。