蟹〜
外に出てようやく全容が判った。
思ったよりチンケな小屋に俺は連れられていたようだ。
拉致するに当たって段取り毎に施設と配役を分散して
不慮の事故を想定して尻尾切りしやすくした、というのはまあ納得した。
尻尾切りか、そういやプルペラ鉄工場でも…
辞めさせたい奴にはどうでもいい超重労働をさせて、クビにしやすくする流れがあったな…
そんなクソみたいな環境を思い出しつつ、手頃なバイクを見つけ『逆カスタマイズ』を施す。
ゾクの車両っぽいが無駄な改造が多いのが気に喰わない。
「あ、そのバイク…まあいいか。大丈夫大丈夫」
含みのある言い方が少々気になるが、お前がいいならまあいいか。
このマフラーはあるだけうるさくて邪魔だし
こんな長椅子だと荷物もヒトも載せれなくて邪魔だし
ライトは無駄に多いし変な棘はあるしとにかく邪魔だ邪魔だ!
ていうかなんだこのクラッチは!クラッチ板が一枚足りなくて代用品で奇跡的にハマってるんじゃねーか!!
…なんとか納得いく形まで整えられた。バイクも原型を取り戻せたんじゃないのか?
「荷物が重いと思ったら工具入れてたんだね、それにしても本当に器用だなあ」
やたらと楽しそうに見ているな、何がいいんだ?そんな珍しいのか?
「珍しいよお、だって皆壊すのばっかだから、君みたいに直せるヒトは本当珍しいよ。
だからボク、君に尚更興味湧いたのかも。
…ねえ、フォスフォシデライトって長いから愛称付けるよ。
フォスって呼びたい所だけど、別個体と被るからフォシデにするね。」
別個体と?誰の事だ?
「フォスフォフィライトの事だよ。え?知らないの?
食屍鬼って同胞同士で情報共有してないんだ?てか、君のNo.なに?」
No.だって?知らん。ナンバリングするほど多いのか?
「ええ〜?名前はあって、自分の番号忘れてる?変なの、なんかされた?」
なんかされたと言われても否定しきれねえな…
何処から来てどうしてあのクソみたいな工場にいたのか判らねえし。
「知りたくないの?ボクは気になるなあ。」
そう言われると俺も気になってきたじゃねーか……
そうだな、新たに1つ目標を建てるか。俺の出自について。
バイクに跨りエンジンを掛けると、イマチヅキは飛びついて俺の肩にしがみつく。
邪魔にならないどころか軽く走れている気がするぞ?
「ボクねえ、『与える』異能使いなの!
今君に追い風与えていたんだあ。どう?走りやすい?」
『奪う』俺とは逆に『与える』のか、こりゃあいい。細工の幅が更に広がるぞ。
2人になったことだし強盗も少し大胆に仕掛けてみるか。
物を盗んで換金する際の質屋利用でもイマチヅキは役に立つ。
アウトロー特有のディープな繋がりの賜物か、異形相手でも交渉できてる。
換金率がやや気紛れな事を除けば資金源として十分アテになる。
「このお金もすぐに使っちゃうんだよね?フォシデは纏まったお金は持たない主義?」
そう、金は必要な時に必要なだけ作って即使う。貯金はしない。
ぶっちゃけ物々交換でも良いくらいだが、世の中は金じゃないと得られない物も割とあって困る。
目の前にある物が俺には全てだ。
イマチヅキも納得した所で、携帯食と燃料の補充を済ませ、バイクで駆る。
…一本道に差し掛かった瞬間、遠方で行く手を阻む存在に逸早く気づき、同時に危険を感じた。
あれは、食屍鬼だ。何か黒くてでかい物が2つ?3つ?まとわりついている?
一気に加速をして壁伝いに駆けてそいつを避けようとしたが、黒くてでかい物が大口を開けて行く手を阻む!
「わー?!」
俺は放り投げだされ瓦礫に埋もれる形で着地したが
イマチヅキとバイクが飲み込まれただと…
化物め。
よく見たら黒くてでかい物と食屍鬼は尾のように繋がっている。
どういう生態してんだ、あいつ?
「よう、出れんか?手伝ってやろうか?今ケツひっぱたいてやるからよ。」
別の黒くてでかい物が鞘を咥えて…ナイフ、じゃないな?なんだあの長いエモノは?
斑模様の金属はただの鉄じゃあない、鋼か何かの混ざり物か?
若干弧になっていて鈍く輝く様が鋭さを醸し出す。職人業が光っているな。
あれで斬られたら防ぎようがない、死ねる。そう直感した俺は…
当然、奴が振り下ろした瞬間に強引にその場から跳んで避けた。崩れる瓦礫の山。
なんなんだこいつは、マフィアの回し者か?
「いや、俺はいつも独断の単独で動いている。
お前みたいなやんちゃ坊主を見ると挨拶したくなってなあ」
何言ってんだ、初対面のくせに。
「ああ、俺が一方的にお前を知っているんだ。
フォスフォシデライト、お前あちこち食い荒らしてんじゃねえよ。
たまに小悪党に痛い目に遭わせてるみてえだが、大体は文字通り火事場泥棒しやがって。」
って、喋りながら振り回すなよ?!薙ぐ音がやべぇ。
タイミング悪く着地点で振り下ろされた…!
刃を側面両側から挟んで、寸での所で止め…られなかった。
刃先への絶妙な力加減の変化が肌に伝わる。手を強引に抜けた刃先が俺の肩に食い込む。
このままだと真っ二つにされる、俺は必死で後退して抜け出した。
飛び散る血を見て激痛が走る……痛みで腕に力が入らん…
「…そうだなあ。
足が1つ欠けた鼈甲の櫛とか、お前は使うように見えねえな。何処にトバした?」
いきなりなんだ?
ああ確か、素材に価値があるからって他のと纏めてイマチヅキが換金したはずだな…
「やっぱりてめえ等が盗ったんだな、最寄りだとあの蛙みたいな店主の質屋か。
ならまだ間に合うか、あいつ顔はアレだが物の扱いは丁寧だから即横流しはしねえし。」
そういうあんたも使いそうにねえがな?
楽に獲れる物を狙ったつもりだが、割りに合わねえ相手に巡り会ったもんだ…
「ほらよ。返すぜ。
お前が仲間も見捨てる屑だったらまとめて斬り捨てていたが、今回は特別だ。」
黒くてでかい物から吐き出され、イマチヅキとバイクは解放された。
太くなって留まっていたからもしやとは思っていたが、消化されずに済んだようだな…
立ち去る食屍鬼…なんなんだあいつ?
のったり歩いて、物に執着があるのか無いのか判らん。
「ああ〜!死ぬかと思った!フォシデ、大丈夫?!」
大丈夫なわけあるか。腕が痺れてきたから神経辺り傷付いたかもな。
応急措置をしながら奴について尋ねてみる。
ビクスバイトとかいう古株の食屍鬼で
あの異様な尾は信仰している神から授かった物だと。
後天性の異形でも改造手術した奴とは異なり、物理的にあり得ない構造や力を備えている。
「通称『モル信』って言われていてえ、ああいう赤黒い色服を着た個体が大体そうだから注意ね。」
なんだよ、食屍鬼ってやべぇ奴ばかりじゃねーか?!
組長に官憲に信者になんでもありすぎだろ?!
「だってえ、君達それが目的で造られたんでしよ。
色んな強みがあって、色んなヒトの助力になってるんだってさ。」
思ったよりチンケな小屋に俺は連れられていたようだ。
拉致するに当たって段取り毎に施設と配役を分散して
不慮の事故を想定して尻尾切りしやすくした、というのはまあ納得した。
尻尾切りか、そういやプルペラ鉄工場でも…
辞めさせたい奴にはどうでもいい超重労働をさせて、クビにしやすくする流れがあったな…
そんなクソみたいな環境を思い出しつつ、手頃なバイクを見つけ『逆カスタマイズ』を施す。
ゾクの車両っぽいが無駄な改造が多いのが気に喰わない。
「あ、そのバイク…まあいいか。大丈夫大丈夫」
含みのある言い方が少々気になるが、お前がいいならまあいいか。
このマフラーはあるだけうるさくて邪魔だし
こんな長椅子だと荷物もヒトも載せれなくて邪魔だし
ライトは無駄に多いし変な棘はあるしとにかく邪魔だ邪魔だ!
ていうかなんだこのクラッチは!クラッチ板が一枚足りなくて代用品で奇跡的にハマってるんじゃねーか!!
…なんとか納得いく形まで整えられた。バイクも原型を取り戻せたんじゃないのか?
「荷物が重いと思ったら工具入れてたんだね、それにしても本当に器用だなあ」
やたらと楽しそうに見ているな、何がいいんだ?そんな珍しいのか?
「珍しいよお、だって皆壊すのばっかだから、君みたいに直せるヒトは本当珍しいよ。
だからボク、君に尚更興味湧いたのかも。
…ねえ、フォスフォシデライトって長いから愛称付けるよ。
フォスって呼びたい所だけど、別個体と被るからフォシデにするね。」
別個体と?誰の事だ?
「フォスフォフィライトの事だよ。え?知らないの?
食屍鬼って同胞同士で情報共有してないんだ?てか、君のNo.なに?」
No.だって?知らん。ナンバリングするほど多いのか?
「ええ〜?名前はあって、自分の番号忘れてる?変なの、なんかされた?」
なんかされたと言われても否定しきれねえな…
何処から来てどうしてあのクソみたいな工場にいたのか判らねえし。
「知りたくないの?ボクは気になるなあ。」
そう言われると俺も気になってきたじゃねーか……
そうだな、新たに1つ目標を建てるか。俺の出自について。
バイクに跨りエンジンを掛けると、イマチヅキは飛びついて俺の肩にしがみつく。
邪魔にならないどころか軽く走れている気がするぞ?
「ボクねえ、『与える』異能使いなの!
今君に追い風与えていたんだあ。どう?走りやすい?」
『奪う』俺とは逆に『与える』のか、こりゃあいい。細工の幅が更に広がるぞ。
2人になったことだし強盗も少し大胆に仕掛けてみるか。
物を盗んで換金する際の質屋利用でもイマチヅキは役に立つ。
アウトロー特有のディープな繋がりの賜物か、異形相手でも交渉できてる。
換金率がやや気紛れな事を除けば資金源として十分アテになる。
「このお金もすぐに使っちゃうんだよね?フォシデは纏まったお金は持たない主義?」
そう、金は必要な時に必要なだけ作って即使う。貯金はしない。
ぶっちゃけ物々交換でも良いくらいだが、世の中は金じゃないと得られない物も割とあって困る。
目の前にある物が俺には全てだ。
イマチヅキも納得した所で、携帯食と燃料の補充を済ませ、バイクで駆る。
…一本道に差し掛かった瞬間、遠方で行く手を阻む存在に逸早く気づき、同時に危険を感じた。
あれは、食屍鬼だ。何か黒くてでかい物が2つ?3つ?まとわりついている?
一気に加速をして壁伝いに駆けてそいつを避けようとしたが、黒くてでかい物が大口を開けて行く手を阻む!
「わー?!」
俺は放り投げだされ瓦礫に埋もれる形で着地したが
イマチヅキとバイクが飲み込まれただと…
化物め。
よく見たら黒くてでかい物と食屍鬼は尾のように繋がっている。
どういう生態してんだ、あいつ?
「よう、出れんか?手伝ってやろうか?今ケツひっぱたいてやるからよ。」
別の黒くてでかい物が鞘を咥えて…ナイフ、じゃないな?なんだあの長いエモノは?
斑模様の金属はただの鉄じゃあない、鋼か何かの混ざり物か?
若干弧になっていて鈍く輝く様が鋭さを醸し出す。職人業が光っているな。
あれで斬られたら防ぎようがない、死ねる。そう直感した俺は…
当然、奴が振り下ろした瞬間に強引にその場から跳んで避けた。崩れる瓦礫の山。
なんなんだこいつは、マフィアの回し者か?
「いや、俺はいつも独断の単独で動いている。
お前みたいなやんちゃ坊主を見ると挨拶したくなってなあ」
何言ってんだ、初対面のくせに。
「ああ、俺が一方的にお前を知っているんだ。
フォスフォシデライト、お前あちこち食い荒らしてんじゃねえよ。
たまに小悪党に痛い目に遭わせてるみてえだが、大体は文字通り火事場泥棒しやがって。」
って、喋りながら振り回すなよ?!薙ぐ音がやべぇ。
タイミング悪く着地点で振り下ろされた…!
刃を側面両側から挟んで、寸での所で止め…られなかった。
刃先への絶妙な力加減の変化が肌に伝わる。手を強引に抜けた刃先が俺の肩に食い込む。
このままだと真っ二つにされる、俺は必死で後退して抜け出した。
飛び散る血を見て激痛が走る……痛みで腕に力が入らん…
「…そうだなあ。
足が1つ欠けた鼈甲の櫛とか、お前は使うように見えねえな。何処にトバした?」
いきなりなんだ?
ああ確か、素材に価値があるからって他のと纏めてイマチヅキが換金したはずだな…
「やっぱりてめえ等が盗ったんだな、最寄りだとあの蛙みたいな店主の質屋か。
ならまだ間に合うか、あいつ顔はアレだが物の扱いは丁寧だから即横流しはしねえし。」
そういうあんたも使いそうにねえがな?
楽に獲れる物を狙ったつもりだが、割りに合わねえ相手に巡り会ったもんだ…
「ほらよ。返すぜ。
お前が仲間も見捨てる屑だったらまとめて斬り捨てていたが、今回は特別だ。」
黒くてでかい物から吐き出され、イマチヅキとバイクは解放された。
太くなって留まっていたからもしやとは思っていたが、消化されずに済んだようだな…
立ち去る食屍鬼…なんなんだあいつ?
のったり歩いて、物に執着があるのか無いのか判らん。
「ああ〜!死ぬかと思った!フォシデ、大丈夫?!」
大丈夫なわけあるか。腕が痺れてきたから神経辺り傷付いたかもな。
応急措置をしながら奴について尋ねてみる。
ビクスバイトとかいう古株の食屍鬼で
あの異様な尾は信仰している神から授かった物だと。
後天性の異形でも改造手術した奴とは異なり、物理的にあり得ない構造や力を備えている。
「通称『モル信』って言われていてえ、ああいう赤黒い色服を着た個体が大体そうだから注意ね。」
なんだよ、食屍鬼ってやべぇ奴ばかりじゃねーか?!
組長に官憲に信者になんでもありすぎだろ?!
「だってえ、君達それが目的で造られたんでしよ。
色んな強みがあって、色んなヒトの助力になってるんだってさ。」
PR
Comment