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「最近はあんたがよく顔を出すようになったんだな。」
「王が君にそんなに会いに来ていたのかね?」

指差す方に視線を見遣ると、極細の鮮やかな針が数本落ちているのが判った。
それは王ことセプタリアンの体から髪の毛の様に抜け落ちる毒針である。
これくらい細い物だと虫刺され程度の毒性しかなくほぼ無害。
ちなみに針は細くて脆く、ピッキングには向かない。
その点だけは安心して良い。
…が、問題はそうではなく。
抜け針の量からして僕の想定よりも頻繁に訪問していたようだ。
一国の王が、罪人のいる牢屋の前にだ。


「聞きてえのは俺の方だ、俺がなんか珍しいのか?」
「それはどうかな」
「ちっ、同じ顔で同じ台詞言いやがって……」

この青年は…今はノゼアンと呼ぼうか。
人間だが青肌スキンパックを付けて食屍鬼を自称している。
(尚、魔術の一環で自力でパックは外せない。)
そう、我々複製の食屍鬼とは種族からして違うのだ。
生まれも……

「飯の時間もバラバラでここにいると時間の感覚が狂っちまうや。
外じゃあ何が起きているんだ?」
「めでたくない事ばかりさ。」
「例えば?」
「行方不明者、おそらくは難民化した者が2割からなかなか変動しない事とか。」
「へっ、あんた等が喰った量じゃねえの?」
「僕達は飯の時間と量はきっちりしている方でね。
だから特定に困っている。」

煽った側が軽く舌打ち。
人間の不明者が現れると人食い種である食屍鬼が疑われやすい。
そうでもないと言い切れる理解者は近年増加しつつあるが
やはり固定概念は拭えないし、かといって否定もしきれない。

「変わらないモノなんてねえんだよ。
俺がガキの頃過ごしたみてえに」
「此処より南西側とは聞いたが
君も素性がはっきり判らんのだよな」
「俺が俺自身判ってねえし当たり前だろ?!」

彼は捨て子だ。生まれて間もない状態で拾われた。
育て親が人間屈指の盗賊と、食屍鬼屈指の策士という。
ノゼアンは賊のハイブリッド…

「お陰様でしぶとく生き延びれるようにはなったけどよ。
災害ばっかりで地形がしょっちゅう変わるから
よそ者は来ねえし、悪いことしても逃げ隠れし放題。」
「足腰が強いわけだ。」

獣のようだに、と言いかけたのは飲み込んだが
逆に核心突く事を吐いてみた。

「……変幻谷育ちか。」
「なんだ、知ってんのかよ。
都会育ちと縁がないと思っていたのに。」
「以前まではそうだったが今はそうもいかない。
『縢りの手』の領土圏内に認定されたんだ。」
「ぅん?」
「そこを拠点にし、難民を無給の労働力
所謂奴隷化している輩がいるとの話がある。」
「…『縢り』の奴が囚われてるってか?」
「細かく言えば『縢りの手』になる以前の国の者。
それと変幻谷の先住民が対象だ。」
「んだと………」

目の色が変わってきた。
なるほど、そういう事か。

「見せしめのつもりか?俺にそんな話ふっかけて」
「難民救出にあたって君の力を借りたい。君の力が必要だ。」

目を丸くし、呆気にとられた様子。
なんとも表情豊かな。

「は?俺に?」
「君の身のこなしと経験値への評価は折り紙付きだよ。」
「別に嬉しかねーな、それに手助けした所で俺が得する事が無えし。」
「言い換えよう。王は武人だ、武人として君を評した。
評価に見合う報酬も当然用意する。
減刑、褒賞金、その他君のリクエストに応える等。」

食い付いてきたのが判る。
そして肝心な事は僕は暈し、ノゼアンに言わせた。

「リクエストかよ、土地寄越せっつったら寄越すのか?」
「可能だ。」
「親父を返せつったら返すのか?」
「可能だ。例の件を聞いてから王が即身柄を確保したからな。」
「マジかよ………」

育て親に未練があったのか判らなかったが、これではっきりした。
冷凍保存された育て親の行方……生存確認できれば良し
死亡即ち食屍鬼による捕食と見て、全個体対象に仇討ちも良し。
そんな所だろう。

「やるか?やるなら3日後には発つぞ。
体が鈍っているんじゃないか?」
「悠長な事言ってねえで、明日からでも構わんぞ俺は。
変幻谷育ちは変化に対応できる奴だ。」
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