蟹〜
「スー、たまには付き合いな。
あんた伴侶が出来てから益々顔を見せなくなったじゃないの。」
「あらぁ、キヨノ様。」
拠り所を持たぬこの男、用でも無いと主の前ですら姿を現さない。
世の移り変わりを観るのが好きであるとか、求めている人を捜しに出ているだとか
様々な噂が立つが真相は定かでない。数百年経った今尚そう。
腹の中を探るのは無駄であると、主であるキヨノは悟る。
理解すべきではなく、かと言って退けるものではなく、把握すべきその思想。
茶の甘い香りに釣られて、男の懐から白いモノが出てきた。蟹だ。
この個室は茶室。招かれざる者入るべからず。
この蟹は招かれざる者でありある意味招く者である怪異。
「死招を飼ってるのはあんたくらいさね。」
「かわいいもんですよお」
「そう言って呪いを抱えてばっかいて。
結婚も人生の墓場とか言ったもんだけど、あんたどれだけ抱える気なんだい。
抱え過ぎて腰曲がっちゃってんじゃないのさ。」
「お互い様ですよお」
生菓子よりずっと粘り気のある笑み。
喰らいついて離さなさそうな牙が見える。
「肉は?」
「一昨日頂きました。」
「そうかい、まだ生にしがみついてるようで何よりだよ。
で、未だにあんたにしがみついてるのと最近のも教えてくんないかい。」
「おや、言わずともお判りかと思いましたわあ」
「喧しい、そんだけ憑いてると何がなんだか見分けんのも一苦労なんだよ。」
「では振り返るとしますかね。」
呪いとは
絶対的なものであり
一際厄介なものであり
耐え難いものであり
それがアザルシスにおいての常識であったが
この腰曲がりで青白い肌をした食屍鬼スーパーセブンは
呪いを『人の手によりこの世に生まれた無垢なる存在』として
抱えて、愛で、解呪する風変わりな異能力者である。
もう幾つ抱えて幾つ解呪をしたかも忘れたが
今尚体と記憶に残る呪いについて振り返る事にした。

あんた伴侶が出来てから益々顔を見せなくなったじゃないの。」
「あらぁ、キヨノ様。」
拠り所を持たぬこの男、用でも無いと主の前ですら姿を現さない。
世の移り変わりを観るのが好きであるとか、求めている人を捜しに出ているだとか
様々な噂が立つが真相は定かでない。数百年経った今尚そう。
腹の中を探るのは無駄であると、主であるキヨノは悟る。
理解すべきではなく、かと言って退けるものではなく、把握すべきその思想。
茶の甘い香りに釣られて、男の懐から白いモノが出てきた。蟹だ。
この個室は茶室。招かれざる者入るべからず。
この蟹は招かれざる者でありある意味招く者である怪異。
「死招を飼ってるのはあんたくらいさね。」
「かわいいもんですよお」
「そう言って呪いを抱えてばっかいて。
結婚も人生の墓場とか言ったもんだけど、あんたどれだけ抱える気なんだい。
抱え過ぎて腰曲がっちゃってんじゃないのさ。」
「お互い様ですよお」
生菓子よりずっと粘り気のある笑み。
喰らいついて離さなさそうな牙が見える。
「肉は?」
「一昨日頂きました。」
「そうかい、まだ生にしがみついてるようで何よりだよ。
で、未だにあんたにしがみついてるのと最近のも教えてくんないかい。」
「おや、言わずともお判りかと思いましたわあ」
「喧しい、そんだけ憑いてると何がなんだか見分けんのも一苦労なんだよ。」
「では振り返るとしますかね。」
呪いとは
絶対的なものであり
一際厄介なものであり
耐え難いものであり
それがアザルシスにおいての常識であったが
この腰曲がりで青白い肌をした食屍鬼スーパーセブンは
呪いを『人の手によりこの世に生まれた無垢なる存在』として
抱えて、愛で、解呪する風変わりな異能力者である。
もう幾つ抱えて幾つ解呪をしたかも忘れたが
今尚体と記憶に残る呪いについて振り返る事にした。
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袖を捲れば異様な蚯蚓腫れ…俗に言う異形腫れの右腕があらわになる。
呪いの痕だ。
「これはねえ、右筆(ゆうひつ)さん。」
「希少な字書きがあんたに憑いていたんだったわ。」
「まあねえ、剣を握る手と同じなもので。」
「これだよ、肉体言語。偶に筆も握ったらどうだい、端末叩いてばかりで勿体ない。
ラピスラズリのがずっと達筆だよ。」
「あらぁ、それは確かに負けていられませんねえ。やはり活字は強い。」
アザルシスで筆を使う者と言われれば
絵師や設計士、美容師等描く側の印象が一般的。
書く側となると話は別。小説家や記録係は滅多にいない。
世に出ている文字のほとんどは替えが容易な印刷物。
だからこそ肉筆の重みは際立ち、時が経つにつれそれは顕著となる。
そもそもアザルシスは、文化圏や語学力読解力に幅があり過ぎた。
その字の意味が伝わる者にしか伝わらない事は、最大の弱みでもあり強みでもあり
時に無知は死を意味するその有り様は、正しく呪いを体現していたのであった。
右筆というのは身分の高い者の秘書役であり、文章の代筆が主な職務の文官である。
時代が進むにつれて事務官僚としての任務を担うようにもなり
とある右筆はその才知から主の口代わりと言っても過言ではなく
それを誇りに思い健気に応えてきた。
だが逆に、口答えは許されなかった。愚直にならざるをえない環境。
口を縫い付けられた。痩せ細る身体。脚より腕のが太く筋肉質。
抜け落ちる毛も失くなってきた。爪は伸びなくなってきた。
やがて人と直接触れ合う事もなくなった。人恋しくなる想いも失われていた。
閉ざされた個室、扉の上の口に文書の投函し、下の口から食器の出し入れ。
開けられたのは火災が発生し鎮火してからである。
延焼こそしていないが、満遍なく広がった黒い煙を皆大なり小なり吸わされた。
右筆の安否を確認しに来たが
其処にいたのは激臭と黒い廃材に囲まれ、人の形を失った異形だけであった。
恐怖した人々は異形を銃殺したが、爆ぜて飛び散った体液が壁や床に字を遺した。
『私の価値が活字にあるとならば字として生きましょう』
異形の字は不意に壁や床に浮かび上がっては
見る者の文化圏や語学力読解力に添った字で見えて
その内容はひたすら闇深く、目を閉じても脳内にまで及び
止まない悪夢で精神を病ませ、死に至らせた。
これを呪いとみた一同は、スーパーセブンに解呪を依頼。
字をも殺すのかと周りに皮肉を言いつつ
スーパーセブンは字に向かって
『貴方の名と字が変えてくれた世界をお見せしよう』
そう説得すると、相手は多少なりとも気を許したのか身を委ねたのであった。
醜く腫れ上がる右腕、其処に右筆がいる。
ヒトの記憶を刻んできた、字を書く喜びだけは失いきれなかった健気な文官。
余談だがバイクで駆っていると右腕が疼くので
事故だけは起こしてもらいたくはないものだ。
上着を脱げば、疣のような異形腫れの左肩があらわになる。
呪いの痕だ。
「これはねえ、左官(さかん)さん達。」
「一時期一部地域で流行ったやつだね。」
「そうそう」
「…左官『達』?」
「ええ、一人で家は成り立ちませんもの。」
戦による縄張り争いで潤う商いも多い。
左官もその一つ。
建築物が崩落した際は建築士による再建築が妥当だが
半壊以下、言うなれば蘇生が可能な建築物を蘇生するのが彼等の役目。
仕事は塗りだけに留まらない。
穴を塞ぎ、ヒビを閉じて、色褪せた壁を塗り替え、強度と彩りを与える。
破壊を得意とする者が多いアザルシスにおいて
創造、修復、治療行為等『なおす』力は尊ぶべき重要な力である。
とある左官の男は自身の仕事に誇りを持つ。
依頼が来れば念入りに時間と金を掛けて塗り壁作業を施す。
時間をかけ過ぎて無精者と誤解を受けたり
金を掛け過ぎて詐欺を疑われたりもしたが
最後にはお互い笑って誤解を解き明かす。
毎回自身が納得がいくまで力の限りを尽くしていた。
それにしても何故こんなに壁の塗材を用意できるのか?
それは不足が無いよう、大量に手作りして作り置きしているからだと。
木っ端微塵で資材回収が捗らず苦戦する事もあるんだとか。
廃材利用と言われれば少々訳が違う。
その左官は人骨を砕き、カルシウム粉末にして、塗材の足しにしていたのだ。
それはアザルシスにおいてはよくある話ではあるし
むしろ賢い再利用法とまで言う者までいる始末。
ある日の事。
紛争もおさまり、平穏を取り戻してから早数年、傷んでも尚立ち続けていた
我が家を労うために雄姿を整えてやりたいのだと、とある富裕者が依頼してきた。
いつものように労力を尽くして仕上げた左官。
依頼主である富裕者もその出来映えに満足していたが
その出来映えを一番見せたかった家族がいない。
家事でもしていたのか?内職でもしていたのか?
そう思い直前まで捜して廻っていたがついに見つからなかった。
左官にも行方を尋ねた。
愚痴も吐かず倹約に励み家計を支えてくれた妻。
延命は望まず次世代に協力を惜しまない両親。
我儘も言わず幼くも賢い我が子達。
特徴を聞いて、悪怯れなく左官は答えた。砕いて塗材に混ぜましたよ、と。
平和な此処だと資材がどうしても不足してしまうから、必要だからやったのだと。
事を知った周囲から罵詈雑言を受けながら
激怒した依頼主から拘束された上で火を点けられ
左官は自分が修復した家の中で絶命した。
…かのように思われたが、後日その家が丸ごと異形と化していた。
無数の孔や触手が生えた肉塊のような異形。
唸りながら畝って、周囲の物を破壊しながら取り込み、膨らみ続ける。
これを呪いとみた富裕者は、スーパーセブンに解呪を依頼。
皆貴方に尽くした身だろうにと皮肉を言いつつ
スーパーセブンは肉塊に向かって
『もう仕事は終わったんだよ、皆お疲れ様。』
そう説得すると、相手は気を許したのか身を委ねたのであった。
大きく腫れ上がった左半身、すぐに左肩に収束したが其処に左官達がいる。
愚かで素直な左官と、死人と見分けがつかぬほど尽力した一家が。
呪いの痕だ。
「これはねえ、右筆(ゆうひつ)さん。」
「希少な字書きがあんたに憑いていたんだったわ。」
「まあねえ、剣を握る手と同じなもので。」
「これだよ、肉体言語。偶に筆も握ったらどうだい、端末叩いてばかりで勿体ない。
ラピスラズリのがずっと達筆だよ。」
「あらぁ、それは確かに負けていられませんねえ。やはり活字は強い。」
アザルシスで筆を使う者と言われれば
絵師や設計士、美容師等描く側の印象が一般的。
書く側となると話は別。小説家や記録係は滅多にいない。
世に出ている文字のほとんどは替えが容易な印刷物。
だからこそ肉筆の重みは際立ち、時が経つにつれそれは顕著となる。
そもそもアザルシスは、文化圏や語学力読解力に幅があり過ぎた。
その字の意味が伝わる者にしか伝わらない事は、最大の弱みでもあり強みでもあり
時に無知は死を意味するその有り様は、正しく呪いを体現していたのであった。
右筆というのは身分の高い者の秘書役であり、文章の代筆が主な職務の文官である。
時代が進むにつれて事務官僚としての任務を担うようにもなり
とある右筆はその才知から主の口代わりと言っても過言ではなく
それを誇りに思い健気に応えてきた。
だが逆に、口答えは許されなかった。愚直にならざるをえない環境。
口を縫い付けられた。痩せ細る身体。脚より腕のが太く筋肉質。
抜け落ちる毛も失くなってきた。爪は伸びなくなってきた。
やがて人と直接触れ合う事もなくなった。人恋しくなる想いも失われていた。
閉ざされた個室、扉の上の口に文書の投函し、下の口から食器の出し入れ。
開けられたのは火災が発生し鎮火してからである。
延焼こそしていないが、満遍なく広がった黒い煙を皆大なり小なり吸わされた。
右筆の安否を確認しに来たが
其処にいたのは激臭と黒い廃材に囲まれ、人の形を失った異形だけであった。
恐怖した人々は異形を銃殺したが、爆ぜて飛び散った体液が壁や床に字を遺した。
『私の価値が活字にあるとならば字として生きましょう』
異形の字は不意に壁や床に浮かび上がっては
見る者の文化圏や語学力読解力に添った字で見えて
その内容はひたすら闇深く、目を閉じても脳内にまで及び
止まない悪夢で精神を病ませ、死に至らせた。
これを呪いとみた一同は、スーパーセブンに解呪を依頼。
字をも殺すのかと周りに皮肉を言いつつ
スーパーセブンは字に向かって
『貴方の名と字が変えてくれた世界をお見せしよう』
そう説得すると、相手は多少なりとも気を許したのか身を委ねたのであった。
醜く腫れ上がる右腕、其処に右筆がいる。
ヒトの記憶を刻んできた、字を書く喜びだけは失いきれなかった健気な文官。
余談だがバイクで駆っていると右腕が疼くので
事故だけは起こしてもらいたくはないものだ。
上着を脱げば、疣のような異形腫れの左肩があらわになる。
呪いの痕だ。
「これはねえ、左官(さかん)さん達。」
「一時期一部地域で流行ったやつだね。」
「そうそう」
「…左官『達』?」
「ええ、一人で家は成り立ちませんもの。」
戦による縄張り争いで潤う商いも多い。
左官もその一つ。
建築物が崩落した際は建築士による再建築が妥当だが
半壊以下、言うなれば蘇生が可能な建築物を蘇生するのが彼等の役目。
仕事は塗りだけに留まらない。
穴を塞ぎ、ヒビを閉じて、色褪せた壁を塗り替え、強度と彩りを与える。
破壊を得意とする者が多いアザルシスにおいて
創造、修復、治療行為等『なおす』力は尊ぶべき重要な力である。
とある左官の男は自身の仕事に誇りを持つ。
依頼が来れば念入りに時間と金を掛けて塗り壁作業を施す。
時間をかけ過ぎて無精者と誤解を受けたり
金を掛け過ぎて詐欺を疑われたりもしたが
最後にはお互い笑って誤解を解き明かす。
毎回自身が納得がいくまで力の限りを尽くしていた。
それにしても何故こんなに壁の塗材を用意できるのか?
それは不足が無いよう、大量に手作りして作り置きしているからだと。
木っ端微塵で資材回収が捗らず苦戦する事もあるんだとか。
廃材利用と言われれば少々訳が違う。
その左官は人骨を砕き、カルシウム粉末にして、塗材の足しにしていたのだ。
それはアザルシスにおいてはよくある話ではあるし
むしろ賢い再利用法とまで言う者までいる始末。
ある日の事。
紛争もおさまり、平穏を取り戻してから早数年、傷んでも尚立ち続けていた
我が家を労うために雄姿を整えてやりたいのだと、とある富裕者が依頼してきた。
いつものように労力を尽くして仕上げた左官。
依頼主である富裕者もその出来映えに満足していたが
その出来映えを一番見せたかった家族がいない。
家事でもしていたのか?内職でもしていたのか?
そう思い直前まで捜して廻っていたがついに見つからなかった。
左官にも行方を尋ねた。
愚痴も吐かず倹約に励み家計を支えてくれた妻。
延命は望まず次世代に協力を惜しまない両親。
我儘も言わず幼くも賢い我が子達。
特徴を聞いて、悪怯れなく左官は答えた。砕いて塗材に混ぜましたよ、と。
平和な此処だと資材がどうしても不足してしまうから、必要だからやったのだと。
事を知った周囲から罵詈雑言を受けながら
激怒した依頼主から拘束された上で火を点けられ
左官は自分が修復した家の中で絶命した。
…かのように思われたが、後日その家が丸ごと異形と化していた。
無数の孔や触手が生えた肉塊のような異形。
唸りながら畝って、周囲の物を破壊しながら取り込み、膨らみ続ける。
これを呪いとみた富裕者は、スーパーセブンに解呪を依頼。
皆貴方に尽くした身だろうにと皮肉を言いつつ
スーパーセブンは肉塊に向かって
『もう仕事は終わったんだよ、皆お疲れ様。』
そう説得すると、相手は気を許したのか身を委ねたのであった。
大きく腫れ上がった左半身、すぐに左肩に収束したが其処に左官達がいる。
愚かで素直な左官と、死人と見分けがつかぬほど尽力した一家が。
猫背を更に丸めるスーパーセブン。
傍から見れば急に転寝を始めたように見えるだろう。
言わずとも異変を即座に見破ったキヨノは頭上を平手で振り払う。
首元をよく見れば、紐で強く締め付けられたような痕が判る。
それも3つ。
これも呪いの痕である。
「ああ〜、助かりました。三つ子ちゃんはいっぺんに来ましてねえ」
「密になった御子様は重いさね。あんたいつもどうしていたんだい」
「う〜ん。気を失って、目が覚めたら散ってるみたいな」
「あんた今までよく生きていたね?」
「おこさまにはおこさまですよう。しおちゃんや子供等が散らしてくれるのです。」
三つ子は皆同じ顔をしている。
複製といった人工物でなく、人が産んだ奇跡。
ただ、奇跡を産んだ母はいない。父もいない。
死別したのか置いていったのかは、誰も語らないので判らなかった。
親族の家に引き取られているようだが
保護者はいつも顰めっ面でシワだらけで、誰に似ているかも判らない。
三つ子は何をするにも同じ事をしていた。
同じ物を見て触れて、同じ衣服を身に着け、同じ量の飲食を摂り、同じ時間に寝る。
病で伏す時も、怪我をする時も、同じ。
とある日、知らない男を見つけた。若いが大人だ。
何者かは判らない。三つ子は男がそもそも事切れているのも判っていない。
男は首に紐を括り付けて宙吊りになっていて、足元には粗末な板材で出来た土台が転がっていた。
男を放っておいて三つ子は部屋に戻る。
何をしていたかの推理ごっこが始まった。
あれこれ他愛もない事を言い合いながら、状況再現してみようと紐と台を用意した。
試しに一人が紐を首に絡めると、紐はあっさり解けた。
形を保ちながら上手く固く紐の輪を作り
屋内の丈夫な上部を探し当て、固定に成功する。
そしてその時は、偶然にだがすぐに訪れた。
偶々足を滑らせた子、度重なる負荷で台が崩れた子、飛び乗った拍子に台が倒れた子。
同時に首が締まる。3人とも声が出ない。見る見るうちに赤い顔が青褪めてゆく。
そして動かなくなった。3人同時に。
保護者が3人の行方を知ったのは男の処理が済んでからである。
男は、3人の父親だが一方的に突き放された身。
大家主の生まれの嫁が婚約者がいたにも関わらず
気が浮つき、男と一夜を過ごし、3人同時に宿して身重になるも
三つ子は切開により3人同時に生み出された。
臍の緒が首に絡み付いたような異様な状態で
同時に引き上げないと危険であったらしい。
しかし負担が強かったようで生みの母は亡くなった。
細かく言えば、苦しみ悶ていたらベッドから転げ落ちて
器具の配線が首を締めたのが原因だと言われている。
保護者は、その生みの母の母親だ。
世間に娘の粗相を隠すために、娘に関わるものを屋内に封印してきた。
男が我が子の顔見たさに全てを擲って義母に交渉し続けたが
叶わぬ思いだと決心すると、その表明と言わんばかりに首を吊った。
婚約者も首を吊って自害したのを聞いたので
その懺悔でもあったのかもしれない。
だが、大家主には堪ったものではなかった。
立て続けに身内が同じ死に方をしたのだ。
最近は自身だけでなく来客さえも紐や台を見るだけで連想してしまい
三つ子の声の幻聴が脳内に響き、喉が詰まり苦しい日々が続く。
隠しきれなくなった風評により、ぎりぎりの経営が更に圧迫されるも
歳もあり今更家を手放す事も出来ない。
これを呪いとみた大家主は、スーパーセブンに解呪を依頼。
私を呼んで益々首が締まったでしょうと皮肉を言いつつ
スーパーセブンは風もないのに紐が揺らめく部屋に向かって
『どれ、どんな遊びをしたのかな。私も混ぜてくれないかい。』
そう提案すると、相手は気が乗ったのか身を委ねたのであった。
太い首に走る三つの締め痕、其処に三つ子がいる。
この子達はお互いがいる限り生死にも頓着が無く
3人がいる環境こそが3人にとっての世界である。
さて、三子の魂百までとは言ったものだが
100年とうに過ぎても遊び心が尽きないようだ。
不意に首を締められても困るが、屋内限定なのがまだ救いか。
天井知らずのがこの子達に合っているのかもしれない。
傍から見れば急に転寝を始めたように見えるだろう。
言わずとも異変を即座に見破ったキヨノは頭上を平手で振り払う。
首元をよく見れば、紐で強く締め付けられたような痕が判る。
それも3つ。
これも呪いの痕である。
「ああ〜、助かりました。三つ子ちゃんはいっぺんに来ましてねえ」
「密になった御子様は重いさね。あんたいつもどうしていたんだい」
「う〜ん。気を失って、目が覚めたら散ってるみたいな」
「あんた今までよく生きていたね?」
「おこさまにはおこさまですよう。しおちゃんや子供等が散らしてくれるのです。」
三つ子は皆同じ顔をしている。
複製といった人工物でなく、人が産んだ奇跡。
ただ、奇跡を産んだ母はいない。父もいない。
死別したのか置いていったのかは、誰も語らないので判らなかった。
親族の家に引き取られているようだが
保護者はいつも顰めっ面でシワだらけで、誰に似ているかも判らない。
三つ子は何をするにも同じ事をしていた。
同じ物を見て触れて、同じ衣服を身に着け、同じ量の飲食を摂り、同じ時間に寝る。
病で伏す時も、怪我をする時も、同じ。
とある日、知らない男を見つけた。若いが大人だ。
何者かは判らない。三つ子は男がそもそも事切れているのも判っていない。
男は首に紐を括り付けて宙吊りになっていて、足元には粗末な板材で出来た土台が転がっていた。
男を放っておいて三つ子は部屋に戻る。
何をしていたかの推理ごっこが始まった。
あれこれ他愛もない事を言い合いながら、状況再現してみようと紐と台を用意した。
試しに一人が紐を首に絡めると、紐はあっさり解けた。
形を保ちながら上手く固く紐の輪を作り
屋内の丈夫な上部を探し当て、固定に成功する。
そしてその時は、偶然にだがすぐに訪れた。
偶々足を滑らせた子、度重なる負荷で台が崩れた子、飛び乗った拍子に台が倒れた子。
同時に首が締まる。3人とも声が出ない。見る見るうちに赤い顔が青褪めてゆく。
そして動かなくなった。3人同時に。
保護者が3人の行方を知ったのは男の処理が済んでからである。
男は、3人の父親だが一方的に突き放された身。
大家主の生まれの嫁が婚約者がいたにも関わらず
気が浮つき、男と一夜を過ごし、3人同時に宿して身重になるも
三つ子は切開により3人同時に生み出された。
臍の緒が首に絡み付いたような異様な状態で
同時に引き上げないと危険であったらしい。
しかし負担が強かったようで生みの母は亡くなった。
細かく言えば、苦しみ悶ていたらベッドから転げ落ちて
器具の配線が首を締めたのが原因だと言われている。
保護者は、その生みの母の母親だ。
世間に娘の粗相を隠すために、娘に関わるものを屋内に封印してきた。
男が我が子の顔見たさに全てを擲って義母に交渉し続けたが
叶わぬ思いだと決心すると、その表明と言わんばかりに首を吊った。
婚約者も首を吊って自害したのを聞いたので
その懺悔でもあったのかもしれない。
だが、大家主には堪ったものではなかった。
立て続けに身内が同じ死に方をしたのだ。
最近は自身だけでなく来客さえも紐や台を見るだけで連想してしまい
三つ子の声の幻聴が脳内に響き、喉が詰まり苦しい日々が続く。
隠しきれなくなった風評により、ぎりぎりの経営が更に圧迫されるも
歳もあり今更家を手放す事も出来ない。
これを呪いとみた大家主は、スーパーセブンに解呪を依頼。
私を呼んで益々首が締まったでしょうと皮肉を言いつつ
スーパーセブンは風もないのに紐が揺らめく部屋に向かって
『どれ、どんな遊びをしたのかな。私も混ぜてくれないかい。』
そう提案すると、相手は気が乗ったのか身を委ねたのであった。
太い首に走る三つの締め痕、其処に三つ子がいる。
この子達はお互いがいる限り生死にも頓着が無く
3人がいる環境こそが3人にとっての世界である。
さて、三子の魂百までとは言ったものだが
100年とうに過ぎても遊び心が尽きないようだ。
不意に首を締められても困るが、屋内限定なのがまだ救いか。
天井知らずのがこの子達に合っているのかもしれない。
引っ掻き傷が交差し格子状になった物が2つ程、背中に見えた。
呪いの痕だ。
「それはある女性から受けた呪いだねえ」
「あんたに女ねえ」
「手弱女(たおやめ)でしたよ」
「よく言うよ、あんたが女に弱いだけだ。」
「まったく、敵いませんねえ」
手弱女(たおやめ)、なよなよとした女性を示す。
この長身の女を見ればその表現は間違ってはいない。
何せ蛇のように狭い路地からぬらりと現れ
蛞蝓のようにぬるりと動いて露出した肌を強調し
蛙のように口角を大きく歪ませる。
雨の日にその姿を見せる。
アザルシスの臭くて汚い雨に打たれ続けている辺り、傘が無いのは間違いない。
そんな手弱女の前に巨躯の男が立ちはだかる。
青肌で黒白目で銀髪。同じく素手で、雨に打たれていた。
「私を喰らいに来ましたか?」
「生憎、既に喰らってきたもんでねえ」
「あらぁそんな、では私が喰ろうてしまいましょうか」
粘り気のある笑みを浮かべながら…
ぬらりと近づき、ぬるりと纏わり付く。
不気味ではあるが艶めかしい。
しかし男の後ろ手が弄ったのは、そんな卑しい肌に触れるためではなく
女が隠し持っていた匕首である。
「成る程、人を刺し殺すには十分な刃渡りだねえ」
目をギョロつかせ驚き戸惑う女。
「おやすみ。」
匕首を背中に深々刺す。肺を貫いたのだろう、女は血を吐く。
何か訴えるように口をパクパク開けるも声にならず。
「皆からケダモノの様に扱われ、除け者にされ
それが悔しくて雨に乗じて殺して廻っていたんだねえ。
まあ此処までは私の憶測混じりだけど、さっきので一つ確信した。
君は人らしく扱ってほしかったんだねえ。」
そっと抱き締める。男の背中に多少の痛みが走ったが構わずに。
それからすぐにずるりと腕から抜け落ち、女は倒れた。
「かわいそうにねえ……」
土の中に女を埋めて、その上に墓標代わりに匕首を刺した。
人らしく埋葬してやりたかったのだ。
依頼を果たした証拠として、それを回収するのは一晩経ってからにしよう。
雨が上がったのを皮切りに、一旦その場を後にする。
その晩、男の身に不思議な事が起きていた。
雨で汚れはしたが服も何処も裂けてもいないのに、背中に傷痕があったのだ。
引っ掻き傷が格子状になった傷痕で、瘡蓋具合からして極最近の物。
そして翌朝にも不思議な事が起きていた。
埋葬した場所を見たら匕首が無い。
替わりに刀が刺さっていたのだ。透けた紫色の刀身の妖美な刀である。
「あらぁ、美人さんだねえ」
にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら刀の柄を掴む。
尚、依頼主に解説のため刀を見せたが、気味悪がって受け取りを拒否したため
この刀に『蕭蕭村時雨』と名付けお供として加えたのだった。
縫目は右肩から始まり右肩で終わっている、体を一周した大きな切り傷。
呪いの痕だ。
「言うなれば元・益荒男(ますらお)のものですかねえ」
「それはよく覚えてるよ。あんたに向かって一番怒った日だったわ。」
「いやあ、面目無い」
「強く在り続けるってのはそもそもあんた達食屍鬼に架せられたモノじゃないのさ。」
「ええ、だからこそスキがある事に私は誇りに思いますよ。」
その男は逞しかった。
中背中肉でそれなりの筋肉質。
ひたすら戦っていて、殺し合いも日常的。
挑まれたから、頼まれたから、巻き込まれたから、必要だったから。
成り行きだけで命を懸ける日々。
生きるために、明日のために、勝つために、様々な物に手を付けた。
やがて男は自分の歳や、外観すら忘れた。
判っているのは叩き潰せば何者でも動かなくなる事。
「ねえ」
声を掛けたのは肌が青く、黒白目。人外だ。
「そういう貴方はもう地肌の色が文字通り地肌色だねえ。
ねえ、戦うのはお好き?」
好きか嫌いかなんて感覚はない。
「そんな気がしたよ。じゃあ益荒男の座、私が貰っちゃお」
その男は小さいのにとてつもなく強かった。
殴打の手応えはあるのにすぐに立ち上がって斬りにかかる。
此方の手を掻い潜り、腕を切り落とし
踏み潰そうにもするりと避けて、脚を切り落とす。
ならばと思いその身で体当たりを仕掛けたら、腹を割つ捌いて腸を切り落とす。
「人は感謝を忘れやすい、それでも君に助けてもらって
恩義を感じた人から君の居場所まで導いてもらえたんだよ。
君を利用するだけして化け物扱いする者がほとんどだったけど
一握りの英雄視が、私が依頼を受ける原動力になった。
間違いなく強かったけど、おやすみ。益荒男。」
目が合ったが、最早生気はなかった。
肉体も精魂も既に朽ちていたようだ…
押し潰される前に腸を掻き分けながらその場から逃げる。
負傷して血塗れの体が益々血に塗れる。脂や腐臭も纏わり付く。
どろどろになった体、すぐに洗い落とすべきなのだが
疲弊が溜まりに溜まった体は重く、腰を落としてしまった。
しばらく考える事を止めていた時に、ふと動く物が横目に入った。
まさか復活でもしたのか?
振り向いた先に見えたのは、真っ白で小さいもの。
虫だと思ったが蟹だ。血肉をつまみ食いする瞬間だったらしい。
海も川も無いのにただの蟹が現れるわけがなく
この子は死招と言われる死の匂いに誘われる怪異の一種だ。
不吉の象徴として忌み嫌われている。
そんなかわいそうな死骸の掃除屋と目が合った。
「可愛いねえ」
「え?!あっしが怖くないんスか?!」
「怖いと愛でたいは別枠さあ。ああ可愛い」
「最近ごはんが少なくて、あっしは必死だったんスよ〜!!」
「そうだねえ、平和な証拠だねえ。私がごはんをやろうかい?」
「え?!ほ、本当に?!」
「ああこのスーパーセブン、余計な事は言うけど嘘はあまりつかないよ」
にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら
この小さなパートナーに『しおちゃん』と名付けて歓迎した。
呪いの痕だ。
「それはある女性から受けた呪いだねえ」
「あんたに女ねえ」
「手弱女(たおやめ)でしたよ」
「よく言うよ、あんたが女に弱いだけだ。」
「まったく、敵いませんねえ」
手弱女(たおやめ)、なよなよとした女性を示す。
この長身の女を見ればその表現は間違ってはいない。
何せ蛇のように狭い路地からぬらりと現れ
蛞蝓のようにぬるりと動いて露出した肌を強調し
蛙のように口角を大きく歪ませる。
雨の日にその姿を見せる。
アザルシスの臭くて汚い雨に打たれ続けている辺り、傘が無いのは間違いない。
そんな手弱女の前に巨躯の男が立ちはだかる。
青肌で黒白目で銀髪。同じく素手で、雨に打たれていた。
「私を喰らいに来ましたか?」
「生憎、既に喰らってきたもんでねえ」
「あらぁそんな、では私が喰ろうてしまいましょうか」
粘り気のある笑みを浮かべながら…
ぬらりと近づき、ぬるりと纏わり付く。
不気味ではあるが艶めかしい。
しかし男の後ろ手が弄ったのは、そんな卑しい肌に触れるためではなく
女が隠し持っていた匕首である。
「成る程、人を刺し殺すには十分な刃渡りだねえ」
目をギョロつかせ驚き戸惑う女。
「おやすみ。」
匕首を背中に深々刺す。肺を貫いたのだろう、女は血を吐く。
何か訴えるように口をパクパク開けるも声にならず。
「皆からケダモノの様に扱われ、除け者にされ
それが悔しくて雨に乗じて殺して廻っていたんだねえ。
まあ此処までは私の憶測混じりだけど、さっきので一つ確信した。
君は人らしく扱ってほしかったんだねえ。」
そっと抱き締める。男の背中に多少の痛みが走ったが構わずに。
それからすぐにずるりと腕から抜け落ち、女は倒れた。
「かわいそうにねえ……」
土の中に女を埋めて、その上に墓標代わりに匕首を刺した。
人らしく埋葬してやりたかったのだ。
依頼を果たした証拠として、それを回収するのは一晩経ってからにしよう。
雨が上がったのを皮切りに、一旦その場を後にする。
その晩、男の身に不思議な事が起きていた。
雨で汚れはしたが服も何処も裂けてもいないのに、背中に傷痕があったのだ。
引っ掻き傷が格子状になった傷痕で、瘡蓋具合からして極最近の物。
そして翌朝にも不思議な事が起きていた。
埋葬した場所を見たら匕首が無い。
替わりに刀が刺さっていたのだ。透けた紫色の刀身の妖美な刀である。
「あらぁ、美人さんだねえ」
にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら刀の柄を掴む。
尚、依頼主に解説のため刀を見せたが、気味悪がって受け取りを拒否したため
この刀に『蕭蕭村時雨』と名付けお供として加えたのだった。
縫目は右肩から始まり右肩で終わっている、体を一周した大きな切り傷。
呪いの痕だ。
「言うなれば元・益荒男(ますらお)のものですかねえ」
「それはよく覚えてるよ。あんたに向かって一番怒った日だったわ。」
「いやあ、面目無い」
「強く在り続けるってのはそもそもあんた達食屍鬼に架せられたモノじゃないのさ。」
「ええ、だからこそスキがある事に私は誇りに思いますよ。」
その男は逞しかった。
中背中肉でそれなりの筋肉質。
ひたすら戦っていて、殺し合いも日常的。
挑まれたから、頼まれたから、巻き込まれたから、必要だったから。
成り行きだけで命を懸ける日々。
生きるために、明日のために、勝つために、様々な物に手を付けた。
やがて男は自分の歳や、外観すら忘れた。
判っているのは叩き潰せば何者でも動かなくなる事。
「ねえ」
声を掛けたのは肌が青く、黒白目。人外だ。
「そういう貴方はもう地肌の色が文字通り地肌色だねえ。
ねえ、戦うのはお好き?」
好きか嫌いかなんて感覚はない。
「そんな気がしたよ。じゃあ益荒男の座、私が貰っちゃお」
その男は小さいのにとてつもなく強かった。
殴打の手応えはあるのにすぐに立ち上がって斬りにかかる。
此方の手を掻い潜り、腕を切り落とし
踏み潰そうにもするりと避けて、脚を切り落とす。
ならばと思いその身で体当たりを仕掛けたら、腹を割つ捌いて腸を切り落とす。
「人は感謝を忘れやすい、それでも君に助けてもらって
恩義を感じた人から君の居場所まで導いてもらえたんだよ。
君を利用するだけして化け物扱いする者がほとんどだったけど
一握りの英雄視が、私が依頼を受ける原動力になった。
間違いなく強かったけど、おやすみ。益荒男。」
目が合ったが、最早生気はなかった。
肉体も精魂も既に朽ちていたようだ…
押し潰される前に腸を掻き分けながらその場から逃げる。
負傷して血塗れの体が益々血に塗れる。脂や腐臭も纏わり付く。
どろどろになった体、すぐに洗い落とすべきなのだが
疲弊が溜まりに溜まった体は重く、腰を落としてしまった。
しばらく考える事を止めていた時に、ふと動く物が横目に入った。
まさか復活でもしたのか?
振り向いた先に見えたのは、真っ白で小さいもの。
虫だと思ったが蟹だ。血肉をつまみ食いする瞬間だったらしい。
海も川も無いのにただの蟹が現れるわけがなく
この子は死招と言われる死の匂いに誘われる怪異の一種だ。
不吉の象徴として忌み嫌われている。
そんなかわいそうな死骸の掃除屋と目が合った。
「可愛いねえ」
「え?!あっしが怖くないんスか?!」
「怖いと愛でたいは別枠さあ。ああ可愛い」
「最近ごはんが少なくて、あっしは必死だったんスよ〜!!」
「そうだねえ、平和な証拠だねえ。私がごはんをやろうかい?」
「え?!ほ、本当に?!」
「ああこのスーパーセブン、余計な事は言うけど嘘はあまりつかないよ」
にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら
この小さなパートナーに『しおちゃん』と名付けて歓迎した。
背中に刻まれた彼岸花を見るといつも顰めっ面がより深くなる。
これも呪いの痕だ。
「いつまでそれを抱えてるつもりなんだい」
「いやあ、どうしてなかなか見つからないものでして。」
「本気で探しているのかい?やれやれ本当に女に弱いんだから」
「ちなみにどれくらい咲いていました?」
「えらく半端だね。三分咲きくらいが少し涸れている様だ。」
「はて………
遺体と連動していると思われましたが、どういった状態なんでしょうかねえ」
「あんたに根付いたはずなのに様子がおかしいって事は
遺体も異変があったって事でしょ。
死霊術師だっているんだからなんら不思議な事じゃないね。」
「なーるほど…お花が判定に困るような蘇生を施された可能性があると。」
アザルシスにおいての亡者への扱いは基本的に粗雑である。
身包みを剥がしたり、臓器売買をしたり
指先や頭部だけ解体して認証システムを悪用したり
死霊術で下僕化したりと……
ある繊細な男はその現実に嘆き、遺体を安置できる墓地を設けた。
普通の墓地では掘り起こされたり、稀に起こる地殻変動に巻き込まれ潰れてしまう。
なので独自の空間を築いて其処に墓地を設けたのだ。
草木や花に囲まれた、儚くも美しい墓地……
ある繊細な男ことフォスフォフィライトは
墓地と植物園を兼ねた施設『大禮園』を建て
亡者を尊重し丁重に弔うため…その無垢なる想いを礎に
遺体を護るための呪いを墓地に施した。
正確には管理を任せた仲間による力合わせの呪術になるが
遺体を元に戻さねば、肉体が血肉を爆ぜ散らしながら墓荒らしは死ぬという
なんとも恐ろしい内容で抑止力を出していた。
その死に様や呪い痕から通称『彼岸花の呪い』と呼ばれていたが
これを持ってしても遺体が盗まれた案件が発生した。
スーパーセブンは犯人を知っている。
そもそも犯人から呪いの請け負いを頼まれたからだ。
「敵対関係のマフィア同士ながらも抜け駆けした身だと…
なるほどねえ、確かにお父さんには言い難い話だねえ。」
金髪と豊満な身体を揺らす、青い肌ながらも艶めかしい女性が
返事替わりに首を縦に振って答える。
「でもいけない事をした自覚あるかな?
あちらの御家族が供養したんだからねえ。」
やはり涙目で、首を縦に振る。
「マフィアの内情はあまり知りたくはないけども
でもお嬢さんが利用された節があるのは同情しちゃうねえ。
遺体を持ち出した身なのに遺体の行方が判らないんだもの。」
「だから彼を捜したいんです、お願いします。
どうか私に時間を…」
腹には自ら彫った青い薔薇の入れ墨に
重なるように真っ赤な彼岸花が刻まれている。
「なるほど確かに、タイムリミットは近そうだ。
しかしこれはだいぶ強い呪いだよ、さすが大禮園だ。
純粋に亡者を護りたい思いがとても強い。」
「ああ、お金でも体でもいくらでも払いますから…」
「い、いやいや脱がなくても良いから。
私が言いたいのは呪いが強すぎて
解呪をしきる前に呪いが発動しかねないって話さ。」
「前向きに検討してくださるのですか?」
「お嬢さん、私がこんな回りくどい解呪の仕方をしているのは
呪いは人が生み出した無垢なるモノにて
一方的に忌み嫌うのは可愛そうだからという思いからなんだよ。
…もっと判りやすく言うと、君達が世に放った赤ん坊を私が預かっている。
あやすと気が安らんで眠りについてくれる。
けど彼岸花は夜泣きが激しく眠りの浅い暴れん坊だね。
これをどう捉えるかい?」
複雑な表情で黙り込んだ。
「協力はしよう、だけど根本的な解決は君にしてもらうよ。
そうだな、10年以上は無理だけど数年は保つだろう。失礼」
「あっ」
不意に腹部に手を当てられ、思わず声が出た。
異性に触れられる事に抵抗感は無いが
何かが抜け落ちるような妙な感覚に驚いたのだ。
そしてその大きな手が離れると、彼岸花が消えて青薔薇だけになった。
「今度は時間差で私の体の何処かに出てくると思う。
抱えてる呪いが多いもんで、皆戸惑ってるのかもねえ。
いつもそうなんだ。」
「……あ、ありがとうございます。絶対探し当ててきます。
何かあったらショウビという名前を使ってくださいな。」
粘り気のある笑みに対して爽やかな笑顔を見せる。
背中に彼岸花を生やして早数年。
遺体はまだ見つからない。
ショウビとは定期的に連絡をしていたが、最近は音信不通である。
裏切ったとは思えない。
何せ青い薔薇の花言葉は『夢かなう』だし
赤い彼岸花の花言葉は『また会う日を楽しみに』だ。
これも呪いの痕だ。
「いつまでそれを抱えてるつもりなんだい」
「いやあ、どうしてなかなか見つからないものでして。」
「本気で探しているのかい?やれやれ本当に女に弱いんだから」
「ちなみにどれくらい咲いていました?」
「えらく半端だね。三分咲きくらいが少し涸れている様だ。」
「はて………
遺体と連動していると思われましたが、どういった状態なんでしょうかねえ」
「あんたに根付いたはずなのに様子がおかしいって事は
遺体も異変があったって事でしょ。
死霊術師だっているんだからなんら不思議な事じゃないね。」
「なーるほど…お花が判定に困るような蘇生を施された可能性があると。」
アザルシスにおいての亡者への扱いは基本的に粗雑である。
身包みを剥がしたり、臓器売買をしたり
指先や頭部だけ解体して認証システムを悪用したり
死霊術で下僕化したりと……
ある繊細な男はその現実に嘆き、遺体を安置できる墓地を設けた。
普通の墓地では掘り起こされたり、稀に起こる地殻変動に巻き込まれ潰れてしまう。
なので独自の空間を築いて其処に墓地を設けたのだ。
草木や花に囲まれた、儚くも美しい墓地……
ある繊細な男ことフォスフォフィライトは
墓地と植物園を兼ねた施設『大禮園』を建て
亡者を尊重し丁重に弔うため…その無垢なる想いを礎に
遺体を護るための呪いを墓地に施した。
正確には管理を任せた仲間による力合わせの呪術になるが
遺体を元に戻さねば、肉体が血肉を爆ぜ散らしながら墓荒らしは死ぬという
なんとも恐ろしい内容で抑止力を出していた。
その死に様や呪い痕から通称『彼岸花の呪い』と呼ばれていたが
これを持ってしても遺体が盗まれた案件が発生した。
スーパーセブンは犯人を知っている。
そもそも犯人から呪いの請け負いを頼まれたからだ。
「敵対関係のマフィア同士ながらも抜け駆けした身だと…
なるほどねえ、確かにお父さんには言い難い話だねえ。」
金髪と豊満な身体を揺らす、青い肌ながらも艶めかしい女性が
返事替わりに首を縦に振って答える。
「でもいけない事をした自覚あるかな?
あちらの御家族が供養したんだからねえ。」
やはり涙目で、首を縦に振る。
「マフィアの内情はあまり知りたくはないけども
でもお嬢さんが利用された節があるのは同情しちゃうねえ。
遺体を持ち出した身なのに遺体の行方が判らないんだもの。」
「だから彼を捜したいんです、お願いします。
どうか私に時間を…」
腹には自ら彫った青い薔薇の入れ墨に
重なるように真っ赤な彼岸花が刻まれている。
「なるほど確かに、タイムリミットは近そうだ。
しかしこれはだいぶ強い呪いだよ、さすが大禮園だ。
純粋に亡者を護りたい思いがとても強い。」
「ああ、お金でも体でもいくらでも払いますから…」
「い、いやいや脱がなくても良いから。
私が言いたいのは呪いが強すぎて
解呪をしきる前に呪いが発動しかねないって話さ。」
「前向きに検討してくださるのですか?」
「お嬢さん、私がこんな回りくどい解呪の仕方をしているのは
呪いは人が生み出した無垢なるモノにて
一方的に忌み嫌うのは可愛そうだからという思いからなんだよ。
…もっと判りやすく言うと、君達が世に放った赤ん坊を私が預かっている。
あやすと気が安らんで眠りについてくれる。
けど彼岸花は夜泣きが激しく眠りの浅い暴れん坊だね。
これをどう捉えるかい?」
複雑な表情で黙り込んだ。
「協力はしよう、だけど根本的な解決は君にしてもらうよ。
そうだな、10年以上は無理だけど数年は保つだろう。失礼」
「あっ」
不意に腹部に手を当てられ、思わず声が出た。
異性に触れられる事に抵抗感は無いが
何かが抜け落ちるような妙な感覚に驚いたのだ。
そしてその大きな手が離れると、彼岸花が消えて青薔薇だけになった。
「今度は時間差で私の体の何処かに出てくると思う。
抱えてる呪いが多いもんで、皆戸惑ってるのかもねえ。
いつもそうなんだ。」
「……あ、ありがとうございます。絶対探し当ててきます。
何かあったらショウビという名前を使ってくださいな。」
粘り気のある笑みに対して爽やかな笑顔を見せる。
背中に彼岸花を生やして早数年。
遺体はまだ見つからない。
ショウビとは定期的に連絡をしていたが、最近は音信不通である。
裏切ったとは思えない。
何せ青い薔薇の花言葉は『夢かなう』だし
赤い彼岸花の花言葉は『また会う日を楽しみに』だ。