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引っ掻き傷が交差し格子状になった物が2つ程、背中に見えた。
呪いの痕だ。

「それはある女性から受けた呪いだねえ」
「あんたに女ねえ」
「手弱女(たおやめ)でしたよ」
「よく言うよ、あんたが女に弱いだけだ。」
「まったく、敵いませんねえ」




手弱女(たおやめ)、なよなよとした女性を示す。
この長身の女を見ればその表現は間違ってはいない。
何せ蛇のように狭い路地からぬらりと現れ
蛞蝓のようにぬるりと動いて露出した肌を強調し
蛙のように口角を大きく歪ませる。

雨の日にその姿を見せる。
アザルシスの臭くて汚い雨に打たれ続けている辺り、傘が無いのは間違いない。

そんな手弱女の前に巨躯の男が立ちはだかる。
青肌で黒白目で銀髪。同じく素手で、雨に打たれていた。

「私を喰らいに来ましたか?」
「生憎、既に喰らってきたもんでねえ」
「あらぁそんな、では私が喰ろうてしまいましょうか」

粘り気のある笑みを浮かべながら…
ぬらりと近づき、ぬるりと纏わり付く。
不気味ではあるが艶めかしい。
しかし男の後ろ手が弄ったのは、そんな卑しい肌に触れるためではなく
女が隠し持っていた匕首である。

「成る程、人を刺し殺すには十分な刃渡りだねえ」

目をギョロつかせ驚き戸惑う女。

「おやすみ。」

匕首を背中に深々刺す。肺を貫いたのだろう、女は血を吐く。
何か訴えるように口をパクパク開けるも声にならず。

「皆からケダモノの様に扱われ、除け者にされ
それが悔しくて雨に乗じて殺して廻っていたんだねえ。
まあ此処までは私の憶測混じりだけど、さっきので一つ確信した。
君は人らしく扱ってほしかったんだねえ。」

そっと抱き締める。男の背中に多少の痛みが走ったが構わずに。
それからすぐにずるりと腕から抜け落ち、女は倒れた。

「かわいそうにねえ……」

土の中に女を埋めて、その上に墓標代わりに匕首を刺した。
人らしく埋葬してやりたかったのだ。
依頼を果たした証拠として、それを回収するのは一晩経ってからにしよう。
雨が上がったのを皮切りに、一旦その場を後にする。

その晩、男の身に不思議な事が起きていた。
雨で汚れはしたが服も何処も裂けてもいないのに、背中に傷痕があったのだ。
引っ掻き傷が格子状になった傷痕で、瘡蓋具合からして極最近の物。

そして翌朝にも不思議な事が起きていた。
埋葬した場所を見たら匕首が無い。
替わりに刀が刺さっていたのだ。透けた紫色の刀身の妖美な刀である。

「あらぁ、美人さんだねえ」

にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら刀の柄を掴む。


尚、依頼主に解説のため刀を見せたが、気味悪がって受け取りを拒否したため
この刀に『蕭蕭村時雨』と名付けお供として加えたのだった。



縫目は右肩から始まり右肩で終わっている、体を一周した大きな切り傷。
呪いの痕だ。

「言うなれば元・益荒男(ますらお)のものですかねえ」
「それはよく覚えてるよ。あんたに向かって一番怒った日だったわ。」
「いやあ、面目無い」
「強く在り続けるってのはそもそもあんた達食屍鬼に架せられたモノじゃないのさ。」
「ええ、だからこそスキがある事に私は誇りに思いますよ。」



その男は逞しかった。
中背中肉でそれなりの筋肉質。
ひたすら戦っていて、殺し合いも日常的。
挑まれたから、頼まれたから、巻き込まれたから、必要だったから。
成り行きだけで命を懸ける日々。
生きるために、明日のために、勝つために、様々な物に手を付けた。
やがて男は自分の歳や、外観すら忘れた。
判っているのは叩き潰せば何者でも動かなくなる事。


「ねえ」

声を掛けたのは肌が青く、黒白目。人外だ。

「そういう貴方はもう地肌の色が文字通り地肌色だねえ。

ねえ、戦うのはお好き?」

好きか嫌いかなんて感覚はない。

「そんな気がしたよ。じゃあ益荒男の座、私が貰っちゃお」

その男は小さいのにとてつもなく強かった。
殴打の手応えはあるのにすぐに立ち上がって斬りにかかる。
此方の手を掻い潜り、腕を切り落とし
踏み潰そうにもするりと避けて、脚を切り落とす。
ならばと思いその身で体当たりを仕掛けたら、腹を割つ捌いて腸を切り落とす。

「人は感謝を忘れやすい、それでも君に助けてもらって
恩義を感じた人から君の居場所まで導いてもらえたんだよ。
君を利用するだけして化け物扱いする者がほとんどだったけど
一握りの英雄視が、私が依頼を受ける原動力になった。

間違いなく強かったけど、おやすみ。益荒男。」





目が合ったが、最早生気はなかった。
肉体も精魂も既に朽ちていたようだ…
押し潰される前に腸を掻き分けながらその場から逃げる。
負傷して血塗れの体が益々血に塗れる。脂や腐臭も纏わり付く。
どろどろになった体、すぐに洗い落とすべきなのだが
疲弊が溜まりに溜まった体は重く、腰を落としてしまった。


しばらく考える事を止めていた時に、ふと動く物が横目に入った。
まさか復活でもしたのか?
振り向いた先に見えたのは、真っ白で小さいもの。



虫だと思ったが蟹だ。血肉をつまみ食いする瞬間だったらしい。
海も川も無いのにただの蟹が現れるわけがなく
この子は死招と言われる死の匂いに誘われる怪異の一種だ。
不吉の象徴として忌み嫌われている。

そんなかわいそうな死骸の掃除屋と目が合った。

「可愛いねえ」
「え?!あっしが怖くないんスか?!」
「怖いと愛でたいは別枠さあ。ああ可愛い」
「最近ごはんが少なくて、あっしは必死だったんスよ〜!!」
「そうだねえ、平和な証拠だねえ。私がごはんをやろうかい?」
「え?!ほ、本当に?!」
「ああこのスーパーセブン、余計な事は言うけど嘘はあまりつかないよ」

にちゃあ、と粘り気のある笑みを浮かべながら
この小さなパートナーに『しおちゃん』と名付けて歓迎した。
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