蟹〜
封が開けられない酒があるから専門家に解呪を依頼した。
「やあ、今日は階段で転ばずに済んだよ。」
「その変わり何もないトコで転んじゃったのね。」
「判っちゃった?
ふふふ、脚がちょっと痛いし早く座っちゃお。」
ふふふ、脚がちょっと痛いし早く座っちゃお。」
この、やたら猫背で顔色が悪く幸薄い感じの食屍鬼は
スーパーセブンという。
彼こそが貴重な解呪の異能力者である。
「で、例のモノは何処かな?」
「おっと、今出すね。」
ごとり、と目の前に置いたのは…
「あら?これって…」
「強い呪いが掛かってるみたいでさあ。
誰にも開けられないんだよね〜」
「そうかいそうかい…。
ところで、持ち帰っても良いかな?
これは手間が掛かりそうだから
私のパートナーに協力してもらおうと思うんだ。」
これは手間が掛かりそうだから
私のパートナーに協力してもらおうと思うんだ。」
「どうぞどうぞ。
あ、ちなみに報酬はその酒で良かったかな?」
「構いませんよう、ではでは…」
にちゃあ、と粘度の高い気持ち悪い笑みを見せながら
酒を抱えて退店していった。
あれは呪われてなどいない
とんでもない集金額で買われた特撰の和酒である。
新婚・スーパーセブンは夫婦揃って仲間達から祝われたのだ。
着席もしないで酒を頼むのは
受け取るとすぐにボトルをひっくり返して
「も〜普通に開けてもらいたいんだけどなあ」
そのまま煽ってすぐに飲み干す。
「ああ、そういえばね。末尾No.58のコが
役目を果たしたボトルに酒代を入れ
それを此方に押し付け退店した。
「………ちょっと足りない。
なので素なのか敢えてなのかは今回に限って定かでないが
サービスをして建て替えておいた。
「最近飲みに来る回数増えたねえ」
そのオッドアイはあまり目を合わせようとしない。
「……此処に居ると落ち着く。
彼は、英雄的な働きをした一方で
同期の仲間を一度に失った過去がある。
彼ももうヒトの域を逸脱したのだ。
琥珀色の酒を煽る、虎魄館の司書長……
「マスター、いつものヤツ置いたからな」
「はいよ、こちらもいつもの出しといたからね」
「あー、一本追加。今飲みたくなった」
着席もしないで酒を頼むのは
雪焼けの類の粗い肌焼けをした一際大きい食屍鬼シリシャスシスト。
諸事情で欠かせない肉を
彼から卸してもらっている変わりに、此方は酒を卸す。
彼から卸してもらっている変わりに、此方は酒を卸す。
何を出すかと言えばこれだ、50度以上はあるウォッカ。
今彼が追加要求したのもこれだ。
杯は出さずにボトルだけ渡す…
受け取るとすぐにボトルをひっくり返して
底を鷲掴み、捻り、開けた。
キャップなど無い、単純な握力で捻り開けたのだ。
底は握り潰され硝子の塵と化す。
底は握り潰され硝子の塵と化す。
「も〜普通に開けてもらいたいんだけどなあ」
「上だと飲み口が小さ過ぎる」
そのまま煽ってすぐに飲み干す。
型に囚われない飲み方だ。
いつものことながら再利用できなくなったボトルを
無造作に返されいつも困っている。
無造作に返されいつも困っている。
「ああ、そういえばね。末尾No.58のコが
『うち』のトコに入ったんだ」
「58?誰だっけ?」
「ほら、偽物が君の縄張りに来たじゃないか。
本物の方を保護したんだ」
本物の方を保護したんだ」
「へー」
「反応が淡白だねえ」
「俺ぁ仕事しただけだ」
役目を果たしたボトルに酒代を入れ
それを此方に押し付け退店した。
「………ちょっと足りない。
あの人いつも細かい勘定が雑だよなあ」
なので素なのか敢えてなのかは今回に限って定かでないが
サービスをして建て替えておいた。
他に客もいるのに、この男は
周囲の雑音すら消してしまうんじゃないかと思うくらい
静寂が似合い哀愁が漂っている。
周囲の雑音すら消してしまうんじゃないかと思うくらい
静寂が似合い哀愁が漂っている。
「最近飲みに来る回数増えたねえ」
「出先の用事が増えたからだろうな」
「すっかりビジネス側のヒトになっちゃったんだね」
「お互い様じゃないか?」
そのオッドアイはあまり目を合わせようとしない。
後天的に生えてきた?らしい緑眼により『見え過ぎる』んだとか。
視力云々ではなく、『情報』が見えてしまう。
そして『触れられる』。
視力云々ではなく、『情報』が見えてしまう。
そして『触れられる』。
神性(チート)に近いと言っても過言ではない。
そんな異能により人生を大幅に狂わされたのが
この食屍鬼フォスフォフィライトだ。
そんな異能により人生を大幅に狂わされたのが
この食屍鬼フォスフォフィライトだ。
「……此処に居ると落ち着く。
昔を思い出す。」
「おや、楽しい思い出もあったんだ」
「波乱ばかりじゃないさ。
本を介して異界に渡った時の話だ」
本を介して異界に渡った時の話だ」
「ああ貴重な司書時代」
「貴重……何もかもが貴重な体験であったな。
彼処では誰とも対等になれた。亡者ともな」
彼処では誰とも対等になれた。亡者ともな」
「死人と仲良くなれたって?」
「気づいたのは後からだった。
生者となんら変わらず、活き活きとしていたしな……
生者となんら変わらず、活き活きとしていたしな……
そんなのが何人もいた。
俺の周りには死人しかいないんじゃないかと思えるくらい。
俺の周りには死人しかいないんじゃないかと思えるくらい。
……その時から俺の中の価値観や論理が
善くも悪くも崩れていった。
死霊術に手を伸ばし始めたのもその頃だ」
善くも悪くも崩れていった。
死霊術に手を伸ばし始めたのもその頃だ」
彼は、英雄的な働きをした一方で
同期の仲間を一度に失った過去がある。
繊細な性格にそれは相当堪える事案だったようで
難病を患ったのも相俟って心身瀕死の時期が
長く長く続いたという。
難病を患ったのも相俟って心身瀕死の時期が
長く長く続いたという。
彼ももうヒトの域を逸脱したのだ。
だが精神がその力に追いつかず、崩壊を起こした。
琥珀色の酒を煽る、虎魄館の司書長……
あの大図書館にはアザルシス中の知識と歴史
そして彼の思い出に満ちている……
なんにせよ、来店しても同行している主含めて着席する用事はない。
「はい、ミサ用のパンとワイン」
一つ頷いて、現金とそれを交換する。
「うちでも色々産業しとるのだけど
何故だかクリスタルは此処で買い取ったもんしか供えないのよなあ」
彼の主であるのに、相変わらず、潔いくらい、骨以外への関心が薄い。
「信心深い亡者もクリスタルくらいだよねえ」
此方を見詰めるクリスタル…
「丸で私のようだね」
無自覚の主の肩を優しく引いて退店………
の前に、一礼を済ますクリスタルであった。
律儀な男である。
そして彼の思い出に満ちている……
この男は無口だが、生前と違い飲食をしなくなったため
その口が開く事が失くなった…
その口が開く事が失くなった…
と言いたい所だがやはり死んでも食屍鬼
修繕しきれない肉体を補うために屍肉を貪る事もあるらしい。
修繕しきれない肉体を補うために屍肉を貪る事もあるらしい。
なんにせよ、来店しても同行している主含めて着席する用事はない。
だが注文はあるにはあるのだ。
「はい、ミサ用のパンとワイン」
一つ頷いて、現金とそれを交換する。
「うちでも色々産業しとるのだけど
何故だかクリスタルは此処で買い取ったもんしか供えないのよなあ」
「エリーちゃん、これは彼の教団でちゃんと聖別された
小麦と葡萄で作られてるのよ」
小麦と葡萄で作られてるのよ」
「へ〜え」
彼の主であるのに、相変わらず、潔いくらい、骨以外への関心が薄い。
「信心深い亡者もクリスタルくらいだよねえ」
「神聖な力使って自滅しないくらいには信心深いぞ」
「神に愛されてるねえ」
此方を見詰めるクリスタル…
鉄板付きのバンダナを巻いているため
影がかった半目で、威圧感が強い。腕っ節も強いが。
影がかった半目で、威圧感が強い。腕っ節も強いが。
「丸で私のようだね」
「随分自信があるのう」
「皆そう思っているさ、無償の愛」
「ふ~ん」
「そうなるとエリーちゃんも神様みたいなもんだね」
「は?」
無自覚の主の肩を優しく引いて退店………
の前に、一礼を済ますクリスタルであった。
律儀な男である。
頷く度に頭がズレてしまわないか
傍から見ている此方の方が気になってしまう……
傍から見ている此方の方が気になってしまう……
何せ、頭半分を横一文字に切り落とされて亡くなった身。
そんな亡くなり方をしておいて
生前の記憶そのままに死後の世界を過ごせているのだから
やはり愛する神に愛されてるとしか思えない。
「今日はもう誰も居ないし来る予定は無いよ。どうだい?」
グラスに向かって独り言を言い放つ。
「そうだなあ………」
ドライジンにドライベルモットで………
「こっちにしようか」
シェイクし、パールオニオンを添える。
「はい、ギブソン」
パールオニオンが沈んだ、微かに白濁したカクテル。
ただ、その顔には鼻上の横一文字痕が無い。
「レコから君の事はよ〜く聞いてるよ、カコちゃん」
途端に、目の前に着席する者が現れた。
「『あっち』にはだいぶ馴染んだかな?」
無愛想に返すが、実は聞くまでもなく成果が出ているのは
生前の記憶そのままに死後の世界を過ごせているのだから
やはり愛する神に愛されてるとしか思えない。
グラスを磨いていた。
丹念に、顔がくっきり映るくらいに……
「今日はもう誰も居ないし来る予定は無いよ。どうだい?」
グラスに向かって独り言を言い放つ。
「そうだなあ………」
ドライジンにドライベルモットで………
「こっちにしようか」
シェイクし、パールオニオンを添える。
「はい、ギブソン」
パールオニオンが沈んだ、微かに白濁したカクテル。
グラスを置いて波紋が立つ…
少しすればそれはおさまり、水面が平面となり
鏡の様に顔を映し出す。
少しすればそれはおさまり、水面が平面となり
鏡の様に顔を映し出す。
ただ、その顔には鼻上の横一文字痕が無い。
「レコから君の事はよ〜く聞いてるよ、カコちゃん」
途端に、目の前に着席する者が現れた。
その顔色の悪い顰めっ面は
食屍鬼を鏡合わせをしたかのように反転している。
食屍鬼を鏡合わせをしたかのように反転している。
彼もれっきとした食屍鬼で、名はカコクセナイト。
「『あっち』にはだいぶ馴染んだかな?」
「まあな…」
「博士とは聞くまでもないか」
「うるせえな…」
「そろそろ殺した数より救った数のが上回って来たかな」
「さあな…」
無愛想に返すが、実は聞くまでもなく成果が出ているのは
レコードキーパーから聞いている。
苦痛がまとわりつく荒んだ出生から
今や静かに酒を嗜められる大人になった。
今や静かに酒を嗜められる大人になった。
彼は異界で、安息と医術を博士から学んだのだ。
そう言いつつカクテルを差し出す。
「偶々だ、中心地に何があるかと興味が湧いて
これである、有識者なら誰しもが当てにしたくなる
「ところで、何の帰りだったの?」
彼は、記憶力が壊滅状態なのだ。
「それにしてもこのカクテル旨いな
味覚は記憶に刻まれるものだ。
「よく来れたよねえ」
そう言いつつカクテルを差し出す。
相手は食屍鬼、ユークレース。
移植痕だとはっきり判る直線的に荒れた肌、ボサボサの長髪。
対して首から下は最高級のスーツを
ぱつぱつになりながらも着こなしているという
ちぐはぐファッションである。
対して首から下は最高級のスーツを
ぱつぱつになりながらも着こなしているという
ちぐはぐファッションである。
「偶々だ、中心地に何があるかと興味が湧いて
辿ったら此処だったってだけ」
「中心地?」
「ん?
立地上、風水的にも年代的にも統一された規則性があって
尚且つそれで形成された円陣が出来ているとなったらなあ。
立地上、風水的にも年代的にも統一された規則性があって
尚且つそれで形成された円陣が出来ているとなったらなあ。
次に気になったのはあっちの廃ビルだな。
直線的に丸きり意味のない空間が存在してるから
妙で気になんだが、入る隙間無くてさすがに行くの諦めた。
誰かを迎え入れる風ではあったんだがなあ」
直線的に丸きり意味のない空間が存在してるから
妙で気になんだが、入る隙間無くてさすがに行くの諦めた。
誰かを迎え入れる風ではあったんだがなあ」
これである、有識者なら誰しもが当てにしたくなる
彼の潜在的な恐ろしいまでの数学力。
魔術や空間術等は専門外だが、彼は演算で答えを導き出すし
割り出して表明化した式を専門家が逆輸入することも度々ある。
割り出して表明化した式を専門家が逆輸入することも度々ある。
が
「ところで、何の帰りだったの?」
「それが……覚えてねえんだよ。
気づいたらタクシーに乗せられていたんだが
帰り道も判らんから、何かの報酬額の7割位を
ドライバーに渡してから飛び出して此処に……
って流れだ」
気づいたらタクシーに乗せられていたんだが
帰り道も判らんから、何かの報酬額の7割位を
ドライバーに渡してから飛び出して此処に……
って流れだ」
「リッチな乗客だねえ」
彼は、記憶力が壊滅状態なのだ。
特異な出生で、手荒な手術を受けた際に
脳を激しく揺さぶられたせいで記憶障害を起こしたとかなんとか。
脳を激しく揺さぶられたせいで記憶障害を起こしたとかなんとか。
「それにしてもこのカクテル旨いな
どういう内容なんだ?」
「黒ビールにシャンパンを混ぜた物だよ
ブラックベルベットっていうんだ。
ブラックベルベットっていうんだ。
君なら馴染みのある味だと思ってねえ」
「どういうわけか確かに馴染みがあるな?」
「多分私の次に作るのが上手い人が出し続けたからじゃないかな」
味覚は記憶に刻まれるものだ。
ダイオプテーズの次に作るのが上手い人は
ユークレースがこの後最寄りのホテルで寝込んでいる所を
拐いに遣ってくるだろう。
リクエストされたカクテルを作り、差し出す。
注文した客はそれを一口そっと呑み、静かに頷く……
「暑い夏の甘酸っぱい思い出の味………」
人によってはビンタされかねない
「やはり他の食屍鬼もここの旨い酒を楽しみにしているのかい?」
そしてまた一口呑む。
彼の素顔は『こちら』なのだろう。
彼はゆっくり、ゆっくり雪辱を果たしている最中だ。
ユークレースがこの後最寄りのホテルで寝込んでいる所を
拐いに遣ってくるだろう。
ダイオプテーズはよく
何を考えているか判らないと言われるが
この男もなかなか…負けず劣らずそう言われるようだ。
何を考えているか判らないと言われるが
この男もなかなか…負けず劣らずそう言われるようだ。
リクエストされたカクテルを作り、差し出す。
それは非常に美しい茜色をしており
ウォッカベースにメロン、フランボワーズリキュールに
パインジュースととても甘くさわやかなカクテルで
フルーツのデコレーションがあるので
見た目にも華やかで明るいカクテルだ。
ウォッカベースにメロン、フランボワーズリキュールに
パインジュースととても甘くさわやかなカクテルで
フルーツのデコレーションがあるので
見た目にも華やかで明るいカクテルだ。
注文した客はそれを一口そっと呑み、静かに頷く……
「暑い夏の甘酸っぱい思い出の味………」
「うん、女性ウケは良いね」
「やはりか」
「味の話ね」
人によってはビンタされかねない
極めてセクシーなカクテルである。
この食屍鬼はどういうわけかこういった色物を
密かではなく公にしかし静かに嗜む傾向にある。
密かではなく公にしかし静かに嗜む傾向にある。
ブラックスターという名が示す通り
黒いキャスケット帽と黒コートがトレードマーク。
黒いキャスケット帽と黒コートがトレードマーク。
「やはり他の食屍鬼もここの旨い酒を楽しみにしているのかい?」
「お陰様で」
「……食屍鬼のフリをしている奴は?」
「65人以上の同じ顔は今の所見てないよ」
「そうか……」
そしてまた一口呑む。
渋い顔をより一層渋くしながら
彼の素顔は『こちら』なのだろう。
ちょっとスケベでクールな黒星は表向きの面にて
意志とともに引き継いだ面。
意志とともに引き継いだ面。
彼はゆっくり、ゆっくり雪辱を果たしている最中だ。
復讐心を煮えたぎらせながらも
亡き人の癖を引き継ぎ、演じている。
だから真意が判りにくい。
亡き人の癖を引き継ぎ、演じている。
だから真意が判りにくい。
ダイオプテーズは曲者だが、彼は癖を被った真っ直ぐな男だ。
来店してきたのは食屍鬼ラピスラズリ。
眼鏡の下の眼が物語るように、悪童と名高い強かな男だ。
そんな彼が手に持つのは『人の生首』である。
「騒がしいねえ、とりあえず席について」
膝を叩いて笑う。
「『今度は』何があったのかな」
彼の親友ルチルによる呪いは
程々に作用させればその集客力から店の持ち直しに貢献できる。
「ゆ、許してくれ助けてくれ頼むっ」
数ヶ月前に調子が悪いと聞いていたような。
鮮度に不安が残るが、あるにはあるようだ。
「それじゃあ分割払いしたらどうかな」
食屍鬼達の不気味な酒宴に巻き込まれるこの中年
自業自得とは言え少々気の毒ではあった。
その食屍鬼の初対面の第一声がそれだった。
「いやあ、そんな名前のカクテルあったかな」
怒号と共に再度銃口を突きつける。
「ん〜、多分それ撃たれても私は死なないと思うな」
手元のアイスピックを投げると
ジャストフィットで刺さり銃口を塞いだ。
観念したのか、使い物にならなくなった銃をしまい
カウンターに着席…なかなか調子の良い男だ。
この食屍鬼はフォスフォシデライトという。
「蝗みたいな生活してるんだねえ」
差し出されたカクテルを飲みつつ…
「それにしても今までよく生きてこれたねえ」
驚愕の事実を聞かされて尚…或いは無意識かもしれないが
酒をまた一口呑む。
「はひぃっはひっ………
ああああんた助けてくれえええっ」
「ようマスター、一杯引っかけに来たぜ」
来店してきたのは食屍鬼ラピスラズリ。
眼鏡の下の眼が物語るように、悪童と名高い強かな男だ。
そんな彼が手に持つのは『人の生首』である。
額に札を貼られており、食屍鬼程ではないが
青褪めた顔で此方に助けを乞う、人間の中年。
生きた心地はしていないだろうけども
あれで生きているのだ……
青褪めた顔で此方に助けを乞う、人間の中年。
生きた心地はしていないだろうけども
あれで生きているのだ……
「騒がしいねえ、とりあえず席について」
「『こいつ』どうしよ」
「私が聞きたいくらいだけど、そうだねえ。
転げ落ちてもなんだし、今皿持ってくる」
転げ落ちてもなんだし、今皿持ってくる」
「ひゃははは皿だってよ!
何だっけそんな豚肉の郷土料理あったよな!
何だっけそんな豚肉の郷土料理あったよな!
丁度いいや、ソコの酒持ってきてくれよ」
「ひぃぃいい喰わないでくれえええっ」
「食わねーよバーカ!」
膝を叩いて笑う。
札はラピスラズリの異能により作られた物で
それを貼っている間は体がバラバラになっても生き続けるという
呪われた札だ。逆に言えば、剥がした瞬間に死ぬ。
それを貼っている間は体がバラバラになっても生き続けるという
呪われた札だ。逆に言えば、剥がした瞬間に死ぬ。
「『今度は』何があったのかな」
「あ?
こいつがよお、ルチルを利用した癖に
店を持ち直した途端手の平返しやがったから
腹が立ってバラしてやったんだ」
こいつがよお、ルチルを利用した癖に
店を持ち直した途端手の平返しやがったから
腹が立ってバラしてやったんだ」
「あらら」
彼の親友ルチルによる呪いは
程々に作用させればその集客力から店の持ち直しに貢献できる。
それをあえて利用する者も少なからずいて
この生首中年もその一人。
この生首中年もその一人。
「ゆ、許してくれ助けてくれ頼むっ」
「そうは言われてもねえ。
ちなみに首から下は?」
「手足とはらわたバラしてクーラーボックスに詰めといた」
数ヶ月前に調子が悪いと聞いていたような。
鮮度に不安が残るが、あるにはあるようだ。
「それじゃあ分割払いしたらどうかな」
「ぶ ん か つ」
「呪いも生き物みたいなものでしてねえ
手伝ってもらったらお返ししてやらなきゃ」
手伝ってもらったらお返ししてやらなきゃ」
「そうだ、お前は楽して持ち直そうとしたから悪ぃんだ。
借金するか、借金が嫌ならハラワタ売ってでも工面しな!
今なら膵臓がトレンドだぜ」
借金するか、借金が嫌ならハラワタ売ってでも工面しな!
今なら膵臓がトレンドだぜ」
「酒が飲めなくなっちゃうよ」
食屍鬼達の不気味な酒宴に巻き込まれるこの中年
自業自得とは言え少々気の毒ではあった。
「有り金全部出しな!!」
その食屍鬼の初対面の第一声がそれだった。
その手に合う大きめの……
何処かしらの軍が牽制のためにしかし人間相手ならば
脅威的な威力になるであろう口径の拳銃を向けてきた。
何処かしらの軍が牽制のためにしかし人間相手ならば
脅威的な威力になるであろう口径の拳銃を向けてきた。
「いやあ、そんな名前のカクテルあったかな」
「あぁ?!
ふざけてんじゃねえぞ、死にてえのか?!」
怒号と共に再度銃口を突きつける。
「ん〜、多分それ撃たれても私は死なないと思うな」
「…なんだと?」
「でもどんな弾入れてるか判らないから一応防衛するね」
手元のアイスピックを投げると
ジャストフィットで刺さり銃口を塞いだ。
「で、どうするんだい?
銃の損害分として一杯奢るよ?」
「ちっ…なんなんだあんた……」
観念したのか、使い物にならなくなった銃をしまい
カウンターに着席…なかなか調子の良い男だ。
この食屍鬼はフォスフォシデライトという。
当初は普通に勤務していたが、冷遇に嫌気が差し
物を盗んでは燃やして逃げ、物を盗んでは燃やして逃げの
泥棒旅で過ごしていた。
先程ダメにした物も盗品だし、伊達眼鏡も盗品。
物を盗んでは燃やして逃げ、物を盗んでは燃やして逃げの
泥棒旅で過ごしていた。
先程ダメにした物も盗品だし、伊達眼鏡も盗品。
「蝗みたいな生活してるんだねえ」
「よく言われるが、俺ぁ物だって人だって
食い潰してやるからな」
食い潰してやるからな」
差し出されたカクテルを飲みつつ…
威勢のいいセリフも、カクテルの旨さにより遮られた。
三種のリキュールをステアした、三種の旨味を味わえる
そんなカクテルに舌鼓…
三種のリキュールをステアした、三種の旨味を味わえる
そんなカクテルに舌鼓…
「それにしても今までよく生きてこれたねえ」
「あぁ?あんた、俺の事なめてんな?
その気になれば抗いようの無い異能で苦しませれるんだぜ俺は」
「奇遇だねえ、今まさに私も条件満たしたから私も出来るよ」
「え?」
「饗した者を掌握するの。抗いようの無い死に至る苦痛を与えて。
試してみる?」
「じょ、冗談じゃねえ!
ハメやがったなこの野郎!!」
「おとなしくしていれば普通に酒作って呑んでもらうだけだよ。
おとなしくしていれば」
おとなしくしていれば」
「ちっ…本当なんなんだあんたは………」
驚愕の事実を聞かされて尚…或いは無意識かもしれないが
酒をまた一口呑む。
昨日の敵は今日の友といったものだが
強盗でも同胞でも客と見做せばダイオプテーズは酒を作り続ける……
「討ち取った相手を喰らう、を
当時頻繁に実行していたからな」
最底辺を乗り越えた者。
「出番も減ってきたかな?」
ウォッカ・ベルノをまた一口飲む。
「ヒトを動かすことは?」
そういう物なのか?と眉間に皺を寄せ
渋い顔を更に渋くしながら酒を飲む…
「でもねえ」
渋い顔のまま頬染める。
強盗でも同胞でも客と見做せばダイオプテーズは酒を作り続ける……
食屍鬼ダイヤモンドは
ストレートなスタンダードタイプではあるがやや大きい。
ストレートなスタンダードタイプではあるがやや大きい。
「討ち取った相手を喰らう、を
当時頻繁に実行していたからな」
「君の存在が知れ渡る前は国境間の治安最悪だったもんねえ」
「最底辺だった」
最底辺を乗り越えた者。
他に同胞や仲間がいなかった訳ではないが
確固たる強さを持つ彼が先頭に立つ場面があまりにも多すぎた。
確固たる強さを持つ彼が先頭に立つ場面があまりにも多すぎた。
今も治安は褒められた物ではないが
それでも人喰いする必要頻度が激減し血腥さも薄れ……
それでも人喰いする必要頻度が激減し血腥さも薄れ……
「出番も減ってきたかな?」
「今の主役はお前達のような生産性のある個体だ。
俺は不器用だ、直したり作ったりはできん」
俺は不器用だ、直したり作ったりはできん」
「まあねえ」
ウォッカ・ベルノをまた一口飲む。
非常にゆっくりしたペースで飲むため
ロックグラスに当たる氷の音も微かなもの。
ロックグラスに当たる氷の音も微かなもの。
「ヒトを動かすことは?」
「もっと苦手だ。
誰をどう動かせば良いか、どう動くかなんて判らんよ」
「管理職皆そう思ってるよ」
「そうか?」
「予測はあくまで予測だよ。
自分が思ってるよりヒトは働くし或いは働かない。
自分が思ってるよりヒトは働くし或いは働かない。
だから君の言う事は案外的を得てるかと」
そういう物なのか?と眉間に皺を寄せ
渋い顔を更に渋くしながら酒を飲む…
「でもねえ」
「………ん?」
「不動ってそもそも難しいんだよ。言い換えれば安定してる。」
「ふむ………」
「生産性と言えばさ、奥さんとはどうなの」
「やめろ、また唐突に………」
渋い顔のまま頬染める。
不動不変の名を持つ男、これからも変わらないでほしい。
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