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一方的な約束を守ると思えないのはその通り。
イチゴを連行させるのは、人身売買主犯の濡れ衣を着せるため。
チカに匿われてから風評被害がなくなったのは確かだったが
一連の犯行をしていたため世間的に大人しく見せていた···
等と言ってしまえば、あちらはいくらでも偽装できてしまう。
だが逆に言えばそれを証明するための物証は一部でも現場に確実にあると読んだ。
真の主犯格もだ。

「偽装工作のための囮を空港にあえて残し
本命となるモノを抱えて密輸しつつ
主犯格は俺が囚われたのを確認した後、国境の向こうまで飛び立つ。」
「十分あり得る流れだねえ。
組長に心酔しているなら、玫瑰は食屍鬼である君の事も気に入ってそうだ。
近くで君を見たがる可能性は高い。」
「人間にはオーバーキルのトラップ残したくらいだしな。
意識してんのは違いねえ。なんだっけ、玫瑰は白髪野郎なんだよな?」
「なんなら血で染めても引き抜いても構わないぞ。」
「血気盛んだな、俺ぁそんな野蛮なやり方はしねえよ。ひひひ。
それにあんたがあんたの手でそうしたいんだろ?」
「まあな。俺はまた手加減を忘れかけているからな···」

そう、優しく触れたい最愛の人はもういない。
トゲ(手足)だけでなく命まで刈り取った玫瑰、花弁の様に散らしても足りる気がしない。

狭い部屋の中、男3人は決意をキメた。



来る日。空港目指して食屍鬼を乗せて高級車で駆る。
月季のロサは単独行動も多く、自ら運転する事のが多い。
部下に任せると目的地に着けないから。
···等と他愛もない雑談を交えて和気藹々とはいかない。
ラジオが天気予報を報せる声しか響いていない車内。風はそこそこの飛行日和。


空港に着くとグランドスタッフの出迎えから始まり
奥に行くにつれ通路も案内人も柄が悪くなり
最終的に、場内マップには存在しない階層に連れられた。
埃っぽく砂っぽく、壁にはシミや円形のひび割れが点在。
チンピラとスーツ姿のマフィアが複数人、肝心の白髪野郎はいない。

「此処が集合場所なんだね。」
「定番の場所だ、あんたが覚える必要は無え。
此処で商品に付け足されるからな。」
「待て、用があるのは俺にだけだろう?
この人には世話になったんだ、無事に返さなければ抵抗させてもらう。」
「抵抗だってえ?病み上がりで立ってるのもギリギリそうじゃねえか。
脚もなんだか細いしよお。」
「·········いや、マジで細くないか?こいつ別の奴じゃねえよな?」

ざわつき始める大衆。食屍鬼の猛々しさは周知の認識。
筋骨隆々の見た目通りの豪腕であった···はずだが、病み上がりとはいえ筋肉が薄い。
疑ったチンピラの一人がギプスを掴んで拳銃の持ち手で叩き割った。
やはり腕が妙に細い、そして肩に至っては包帯の下から見えたのは傷痕ではなく···

「な、なんだこりゃ?絵?入れ墨?」
「それは地獄界の鬼だな、お前達の案内人さ。」
「何を···って、え?おい、どうなってんだ?」

視界が下がる、訳ではなく体ごと、足場ごと下がっている。
絶叫が轟音に、体は瓦礫に飲まれる。広間一帯の床が突如崩壊したのだ。
ただし、サファイアと月季のロサの立ち位置は除いて。

「なな、なんだいなんだい何をしたんだあ?!」
「俺の異能さ、はったりが現実になる。
ま、老朽化によるタダの不幸な事故かもしれねえがな?」
「君の前じゃあ悪い事はできないねえ···」
「そう、あくまで俺の声が届く範囲に限る。
話の通じない奴はあの人が直接叩き潰す。
目には目を、歯には歯を、人外には人外を。」

外を見遣ると砂漠方面に飛び立つ飛行機が2機見えた。
片やそのまま空の向こうに消えたが、もう1機は様子がおかしい。
蛇行に加えて速度も高度も不規則不安定。

「今光ったな、救難信号なんて出せるわけねえから···」
「えっ?!まさかダンナは外側から攻めてた?!」
「袋小路にして捕えるのは定石。
食屍鬼にとっちゃ車両や機体は弁当箱みたいなもんだぜ?
食い散らかすのが先か堕ちるのが先か、どっちかねえ。」

にたりと笑うと純白の鋭い牙が覗き見えた。
これぞ人成らざるものによる圧倒的暴力···!



大混乱の機内。
右手で飛行機にしがみつき、左手で延々撃ち続けるイチゴ。
正面窓硝子に穴が空いただけでなく、ヒビが全面走り視界を阻まれ、終いには砕けて散った。

「うわあああああ?!」

操縦士が一人、外に吸い込まれる。
中にいる者は皆しがみつくのが手一杯で操縦の補助はできない。
ならばと無理矢理マシンガンを発砲して、食屍鬼の撃退を試みる者がいたが
数発被弾させるもまるで手応えがない。
効いていないのか、怒りで我を忘れているのか。

「あ"っ」

一閃が口を貫く。射撃手も空に吸われた。

「ひいいい何とかしてくれよ玫瑰いいい」

人体蒐集はするのにいざ自分の死が見えると狂乱する哀れな男が
泣いてしがみついてる相手は白髪の青年、玫瑰だ。
動揺する周囲を気にも留めず微動だにもせず、イチゴに視線が釘付けである。

「人の業で簡単にくたばらず、圧倒する力強さが本当素晴らしい!
私を追ってきてくれて嬉しいなあ、イチゴくん!」

爽やかな笑顔で悪怯れなく歓迎の意を示した。

「その名で俺を···呼ぶなあああ!!」

激昂し、発狂しながら、乱雑な閃光が機体ごと、玫瑰の至る所を貫く。
その勢いのまま突撃を試みたが機体が大きく傾いてしまった。
玫瑰はグロッシュナー諸共機内の奥に滑り落ち、イチゴは空に吸われた。



そして···空港から辛うじて見える距離に、一機墜落したのであった。



「あったあった。は〜力仕事は俺の専門外なのによ!」

仮置き倉庫。
ホコリ被った荷箱を前にカモフラージュされた、人体入りコンテナを発見した。

「此方には丁寧に積み込まれた輸送機が見つかったよ。」
「これで後出しだが大義名分ができたな···って言ってる側から来やがったな。」

遠方が騒がしい。
様々な公共機関車両が警笛を鳴らしながら群がってきたようだ。

「おっさんはあの人回収しに行っといて。絶対生きてる。」
「え、オレは構わないけどあんたは一人であれ等を捌ききる気かい?!」
「なぁに、こういうのが正しく俺の(戦場)持ち場さ。」

任侠の食屍鬼サファイアは、世間を言い包めるために玄関方向へ単身向かう。
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