蟹〜
以前から興味を持っていたが、此処で巡り合ったのは偶然。
その毒々しい見た目から他の客から反感を買いそうなので、と店員に追いやられたそうだ。
一見手足はある様だが両腕片足が欠損、病ではない。
異形の体質で補えるようだが専ら車椅子移動をしているらしい。
車椅子が入る幅があれば何処までも駆けるようで
実は付き人を置いて抜け出してきたようだ。
「今尚逞しい、感服致します···」
「そう固くなるな、肩の力を抜いてくれ。」
お言葉に甘えて着席する。
厳格で高潔な剣士だと聞いていたが、鋭い眼光に反して穏やかであった。
「『基金』のシステムもワクチンも非常に出来が良いな。お前の指南か?」
「多少は意見しましたが、僕は遺産を使っただけです。」
「遺産?近藩魅氏の事か?差し支えなければもう少し詳しく教えてほしい。」
他の客が此方を避けているのを良い事に、ブラックスターは語った。
昨日の事のように全てを。
初対面であるのに、自分でも不思議なくらい流暢に想いを伝えられる···
「···なるほど、最愛の人が遺した物にお前は応えていたのだな。」
「ええ。」
「それと同時に、玫瑰への想いも晴れぬままだと。」
「···はい。」
空気に緊張感が走る。玫瑰の名を出しただけで怒りが沸き立つ。
「対峙はしたものの討ち取った手応えがない、だから気が晴れない。」
「直前まで追い詰めはしました、普通の人間なら亡くなっているでしょう。
しかし奴は···普通じゃない、人間でもない。
奴は最初から最後まで微笑っていた···馬鹿にしやがって···!」
荒れ始めたブラックスターを制止せず、静観。
そのうち、独りでに鎮まった。
「···お見苦しい所を、申し訳無い。」
「謝らなくて良い、私はむしろ感動した。」
まさかの発言に耳を疑った。
こうして荒れると、物も人も信頼も壊してしまっていた。褒められた物ではない。
「お前は自制できている。荒んでいるのは玫瑰と、玫瑰を赦す環境の方だ。
その闘志を忘れるな、否定するな。
お前は近藩魅が出来なかった事を成そうとしているし、成せる。」
「セ、セプタリアンさ···」
「ブラックスター、撃ち落とすならより高く広く動けるようにしたくないか?
我々『縢りの手』は『赫怒の牙』とも連携を取り始めた。
もしお前が加わってくれたら、これ程頼もしい事はない。」
北欧寄りの国と南米寄りの国だ、一体どういう縁で繋がったのだろうか?
位置的にちょうど、砂漠の本拠地を挟む形となり非常に都合が良い。
「しかし、『縢りの手』···新国ですよね。
失礼ですが貴方はどういった立ち位置で···」
「国王だ。」
「こ、国王···?!どうやって王位を?!」
「継いだのだ、主から。
色々あったが、人が生み出した狂気に応える立場となるとお前と同じだな。
国の名の通り、私は手を取り合って助け合い、栄えさせたい。」
「権威だけでなく器量ももう王そのものだ···
だが貴方は僕の事を買いかぶり過ぎでは···」
「ヒトには何が必要か、お前はよく学んだはずだ。」
新国の国王から熱烈なスカウトを受けるだなんで、思いもしなかった。
言葉に詰まるブラックスター。
見かねたセプタリアンは話題を止めて、茶を啜った。
「急かしてしまってすまないな、肩の力を抜けと言った側から。」
「いえ···」
先程まで熱く語り合ったとは思えないくらいしんと静まり返る。
だが静寂を切ったのは、取り巻き数人を従え歩み寄ってきた男。
乱暴に台を叩く。茶が跳ねる。
「何用かな?」
「とぼけてんじゃねえ!俺の飯に妙な物を入れたのてめえだろ?!
お陰様で下痢でう○こが出尽くしたんだよ!!」
「下品な···。」
「まーだ痛くて腹が捩れそうだな、こりゃ病院に診てもらわねえと駄目そうだわ!」
なんとも判りやすく品の無い因縁付けをしてきた。
セプタリアンが横切ったのを理由に、劇物が紛れ込んだのだと主張する。
肝心の飯は完食済。
「此処で喰えるのはフィッシュアンドチップスでしたな。」
「あ?そうだ。」
「緑色の物は見えたかね?」
「あったな、そいつのせいで腐っちまったんじゃねーか?」
「稀に芽の出過ぎた芋が紛れる事があり、まだ腐る前だが毒性は強い。
緑色に変色していたらそれが目安になる。
揚げ物で傷む事はまずないが、食中りがあるとすれば
加熱不足の肉に残留する細菌のせいだ。
この店は飲料の種類は豊富だが食物は一品のみ、肉は無い。
考えられる原因は芋しかない。
所でカウンターテーブルは高く、客も隙間なくいる中でどうやって氏が君の飯に触れたのかね?」
顔の引きつる男は何か言いたそうだったが何も言えず、取り巻きを連れて去った。
店から出る間際に店長から出禁を言い渡されていた。
飲食店であの発言はさすがに許されなかったようだ。
男は金は奪わなかったが皆の食欲を奪ったのだ。
「ふふ、車椅子に乗る前は絡まれる事もなかったんだがな。礼を言う。」
「付ける薬が無い輩が多くて困りますな。」
「全く。」
どうしてだろう、この人は決してか弱くはない。むしろ誰よりも強い。
なのに気に掛かる。庇ってやりたくなる。
この感覚に何故か懐かしささえ感じられる···
「······そうか、判りました。」
「どうした?」
妥当な評価を受けていない場面を見て、チカを思い出していたのだ。
「···僕で解決出来る事があれば、なんなりと申して下さい。」
「来てくれるか、感謝しよう。
お前で解決出来る事は星の数ほどあるよ、ブラックスター。」
その毒々しい見た目から他の客から反感を買いそうなので、と店員に追いやられたそうだ。
一見手足はある様だが両腕片足が欠損、病ではない。
異形の体質で補えるようだが専ら車椅子移動をしているらしい。
車椅子が入る幅があれば何処までも駆けるようで
実は付き人を置いて抜け出してきたようだ。
「今尚逞しい、感服致します···」
「そう固くなるな、肩の力を抜いてくれ。」
お言葉に甘えて着席する。
厳格で高潔な剣士だと聞いていたが、鋭い眼光に反して穏やかであった。
「『基金』のシステムもワクチンも非常に出来が良いな。お前の指南か?」
「多少は意見しましたが、僕は遺産を使っただけです。」
「遺産?近藩魅氏の事か?差し支えなければもう少し詳しく教えてほしい。」
他の客が此方を避けているのを良い事に、ブラックスターは語った。
昨日の事のように全てを。
初対面であるのに、自分でも不思議なくらい流暢に想いを伝えられる···
「···なるほど、最愛の人が遺した物にお前は応えていたのだな。」
「ええ。」
「それと同時に、玫瑰への想いも晴れぬままだと。」
「···はい。」
空気に緊張感が走る。玫瑰の名を出しただけで怒りが沸き立つ。
「対峙はしたものの討ち取った手応えがない、だから気が晴れない。」
「直前まで追い詰めはしました、普通の人間なら亡くなっているでしょう。
しかし奴は···普通じゃない、人間でもない。
奴は最初から最後まで微笑っていた···馬鹿にしやがって···!」
荒れ始めたブラックスターを制止せず、静観。
そのうち、独りでに鎮まった。
「···お見苦しい所を、申し訳無い。」
「謝らなくて良い、私はむしろ感動した。」
まさかの発言に耳を疑った。
こうして荒れると、物も人も信頼も壊してしまっていた。褒められた物ではない。
「お前は自制できている。荒んでいるのは玫瑰と、玫瑰を赦す環境の方だ。
その闘志を忘れるな、否定するな。
お前は近藩魅が出来なかった事を成そうとしているし、成せる。」
「セ、セプタリアンさ···」
「ブラックスター、撃ち落とすならより高く広く動けるようにしたくないか?
我々『縢りの手』は『赫怒の牙』とも連携を取り始めた。
もしお前が加わってくれたら、これ程頼もしい事はない。」
北欧寄りの国と南米寄りの国だ、一体どういう縁で繋がったのだろうか?
位置的にちょうど、砂漠の本拠地を挟む形となり非常に都合が良い。
「しかし、『縢りの手』···新国ですよね。
失礼ですが貴方はどういった立ち位置で···」
「国王だ。」
「こ、国王···?!どうやって王位を?!」
「継いだのだ、主から。
色々あったが、人が生み出した狂気に応える立場となるとお前と同じだな。
国の名の通り、私は手を取り合って助け合い、栄えさせたい。」
「権威だけでなく器量ももう王そのものだ···
だが貴方は僕の事を買いかぶり過ぎでは···」
「ヒトには何が必要か、お前はよく学んだはずだ。」
新国の国王から熱烈なスカウトを受けるだなんで、思いもしなかった。
言葉に詰まるブラックスター。
見かねたセプタリアンは話題を止めて、茶を啜った。
「急かしてしまってすまないな、肩の力を抜けと言った側から。」
「いえ···」
先程まで熱く語り合ったとは思えないくらいしんと静まり返る。
だが静寂を切ったのは、取り巻き数人を従え歩み寄ってきた男。
乱暴に台を叩く。茶が跳ねる。
「何用かな?」
「とぼけてんじゃねえ!俺の飯に妙な物を入れたのてめえだろ?!
お陰様で下痢でう○こが出尽くしたんだよ!!」
「下品な···。」
「まーだ痛くて腹が捩れそうだな、こりゃ病院に診てもらわねえと駄目そうだわ!」
なんとも判りやすく品の無い因縁付けをしてきた。
セプタリアンが横切ったのを理由に、劇物が紛れ込んだのだと主張する。
肝心の飯は完食済。
「此処で喰えるのはフィッシュアンドチップスでしたな。」
「あ?そうだ。」
「緑色の物は見えたかね?」
「あったな、そいつのせいで腐っちまったんじゃねーか?」
「稀に芽の出過ぎた芋が紛れる事があり、まだ腐る前だが毒性は強い。
緑色に変色していたらそれが目安になる。
揚げ物で傷む事はまずないが、食中りがあるとすれば
加熱不足の肉に残留する細菌のせいだ。
この店は飲料の種類は豊富だが食物は一品のみ、肉は無い。
考えられる原因は芋しかない。
所でカウンターテーブルは高く、客も隙間なくいる中でどうやって氏が君の飯に触れたのかね?」
顔の引きつる男は何か言いたそうだったが何も言えず、取り巻きを連れて去った。
店から出る間際に店長から出禁を言い渡されていた。
飲食店であの発言はさすがに許されなかったようだ。
男は金は奪わなかったが皆の食欲を奪ったのだ。
「ふふ、車椅子に乗る前は絡まれる事もなかったんだがな。礼を言う。」
「付ける薬が無い輩が多くて困りますな。」
「全く。」
どうしてだろう、この人は決してか弱くはない。むしろ誰よりも強い。
なのに気に掛かる。庇ってやりたくなる。
この感覚に何故か懐かしささえ感じられる···
「······そうか、判りました。」
「どうした?」
妥当な評価を受けていない場面を見て、チカを思い出していたのだ。
「···僕で解決出来る事があれば、なんなりと申して下さい。」
「来てくれるか、感謝しよう。
お前で解決出来る事は星の数ほどあるよ、ブラックスター。」
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