蟹〜
しがみついて離さない···
寂しくて仕方なかったらしい。
「悪いな、遅くなってしまった。」
「もう一人暮らしできないかも···」
『一区切りついたら結婚を前提に付き合ってくれないか』
と喉まで出かけたか飲んだ。
チカが主の現状だと当人のプライドも相俟って
イチゴの資産を換算して生活してくれない。
夫婦として対等な立場になれば財産分与できる。
この狭くて古い安アパートにも愛着はあるが
彼女には良質な衣食住を与えたい。
「···だがお陰様で実入りが多かったぞ。」
「ご飯食べながら教えてっ」
「朝飯も食ってなかったのか···判った。」
アザルシスの飲食は基本的に面白みが無い。
サプリメントの塊のような物をそのまま喰うか蒸かす程度で
栄養価に添った五味は付いてはいるが、旨味は無い。
居酒屋の酒肴等は、異次元から輸入できる異形の業の賜物である。
団子状にした物を齧りながら、イチゴの膝の上で話を聞きながら
チカは何やら熱心に計算や入出力をしていた。
「あまり見ない端末を使ってるな?」
「危ない所をアクセスする時はこれを使ってるんだ。
此方の身元バレや、ウイルス感染予防は勿論
異能による妨害行為も阻めるようにしているんだよ。」
「随分高性能にカスタマイズしたな···」
「あのPWBCのお墨付きのソフトさ、僕の中で一番高い買い物したよ。
······よし、解けたみたいだ!」
アクセスに必要な暗号の解析を果たした。
幾度となく挑んではいたが、あと一歩が至らず
しかし各方面から集めた情報からの関連付けでどうにかなった。
関心して無意識に頭を撫でると、デレデレに喜ぶチカ。
そんな事をしながら長い読み込みを経て、ようやく明かされたのは
玫瑰の詳細であった。
『本名は司馬曜。『魃の蹄』出身のアジア系の人間』
『富裕層の生まれだが11歳の時に盗賊団の襲撃にあい帰る所と家族を失う』
『盗賊団にそのまま拐われ、雑用係をしていた』
『13歳の時に、盗賊団は食屍鬼デザートローズの手により壊滅された。
頭領と共に新たに結成されたマフィア『貪』の一員に加わる』
『捕虜として助けられた身だが、自ら志願して加わった。
幼いながらも起用されたのは、熱意と整った容姿からだと思われる』
『15歳時の強盗誘拐を初陣を機に、誘拐犯担当として活躍し続け
16歳で玫瑰の名との座を貰う。以後は本名を名乗らなくなった』
『好色家のマッチェ、人体蒐集家のグロッシュキー、美食家の八雲文弥
(※以下省略)と繋がりが確定している』
『テロリストとの繋がりも噂されている』
『人当たりがよく気配りもでき礼儀正しく、真面目だが柔軟性ある性格で
純白の頭髪と純黒の瞳が特徴的。砂漠地帯育ちの割に肌色が薄い。
初対面との好感度は間違いなく高く、平時も交渉の緩衝役としてよく呼ばれる程。
だが感情の起伏が非常に乏しく不気味に思う者もいる』
詳細が明らかになったが、チカが指差し注目したのは
人体蒐集家のグロッシュキーの記述。
様々な人繋がりを持っているようだが遡ると彼が玫瑰と一番付き合いが長い。
「本職は操縦士、某空港会社オーナーの息子···
ふ、輸送し放題じゃないか?」
「実際、色んな人や物をこっそり運んだ前科があるみたいだね。」
「こんなことをされたら俺達人外も立場が無いな。」
ふと、イチゴの脳裏に過ぎったのは
『人が引き起こした事件なら、人を辿れば辿り着くものさ。』
『人間だけどその敏腕っぷりは人外並、メンタルは異形ってとこかな···』
···という、二人の言葉。
チカが相手をしているのは人の皮を被った化け物だ。
嘗ての友の安否確認が済むまで気が済まないだろうけども
死んだら元も子もない。引き際の舵取りをせねばならない···
「顔が引き締まってると益々かっこいいよ?イチゴくん。」
「···あー、奴の拠点探しで茶店があったら寄らないか?
情報収集と此方の仮拠点を兼ねて。」
眩しい笑顔が返事代わり。
後輩には塩対応だが恋人にはとことん甘い。
巧妙に隠していたようだが、協力者の甲斐あり確実に追い詰めている···
協力者というのは月季のロサやサファイアだけでなく
先日捕らえたチンピラみたく忠誠心に欠ける者も含まれる。
それも少なくはない。わざわざ出向いてチップと引き換えにした者までいた。
暴力で物を云う輩が多い中で暴力を使わずのし上がった弊害か?
そうして辿り着いたのは環境変化により生じたとある小さな砂漠近隣の町。
『貪』の活動範囲は砂漠地帯が鉄則、条件を満たした土地だ。
茶店で一番高い茶と軽食を頼んで嗜みつつ、情報整理をしていた。
治安は悪いが、食屍鬼を前に喧嘩を売らない賢い者ばかりで助かる。
「聞いてると廃墟っぽいんだよね。家のはずなに···」
「元から廃墟なのを家と言い張った、もしくはもぬけの殻。」
「廃墟って言っても程度や主観もあるから判りにくいよね。僕ん家も大概だし。」
「自覚はあったのか···とにかく、行かない事には判らんな。」
誰もいない方が実は都合が良い。
此処で期待しているのは痕跡を辿る事、被害者がいた場合の救出。
欲しいのは情報で、まだ玫瑰を捕らえに来た訳ではない。
そしてやって来たのは、質素な石壁の···家というより小屋だ。
人一人が寝床にする程度の大きさ、あまりにも質素。
近所もおらず、晒され気味な外観がより貧相さを際立たせている。質素だ。
「隠れアジトにするにうってつけじゃないかな?」
「中も見てないのに根拠はあるのか?」
「砂漠って言っても砂は地表だけで地盤は硬いんだ。
だから地下まで伸ばす事が出来ると思う。」
「なるほどな···確かに地殻変動ならともかく
風の流れで堆積しただけの砂山らしいからな。」
ノック3回、返事がないのを確認してゆっくり扉を開ける。
中は埃っぽく砂っぽくもあり、最低限の家具は配置されてるが
同じく狭い住まいに居るチカだからこそ違和感に気づいた。
「ベッドなのに枕が無い。マットの弾力が新品みたい。土台枠が床を貫通してる。
日曜大工なら凝り性だけど、ちぐはぐ過ぎない?」
「捲くるか。」
マットをそっくりそのまま持ち上げると鉄網の蓋が現れた。
その下には深い穴が覗ける···梯子代わりと思われる乱雑な突起もあった。
読み通り地下が存在したのだ。
チカを背中にしがみつかせて、地下を降る···背中に当たる柔らかい感触···
広すぎる通路。コンテナを台車付きで載せて運ぶ幅や高さは余裕である。
出入り口が点在。扉のない部屋を覗き見すると
薬物、酒の空き瓶、血で錆びたナイフ等が散乱しているのが見えた。
「豪邸だな。低俗な物で穢れてる以外は良物件じゃないか?」
「休憩スペースを入りやすく、且つ何してるのかお互い見やすくしてるね。
だから扉のある側の機密性に期待できちゃうな。」
「倉庫を見つけて物証に肖りたい所だが、さて何が出るやら。」
奥に奥にと行くと、一回り広い丁字路に突き当たる。
行き止まりが見える方に行くと、其処には積み上げられた箱が並んでいた。
型の古いフォークリフトまである。
「この臭い···まさか···」
適当な箱の表面を乱雑に剥いで、断片的にだが中を見た。
「な、何があったんだい?僕には臭いを嗅ぎ取れなかったんだけど。」
「···もうミイラになっている。ざっと見て半ダース分くらい入っているな。」
「なんだって?!6人入るには狭すぎないかい?!」
「乾いている上に手足が無い。大人だろうと詰め込めるさ···」
此処にチカの友がいない事を願うしかなかったが
それを確かめるためにも探せる所は探して証拠や情報を掴まねば。
始めは地下道の冷気で冷房要らずと思っていたが
今はもう、この冷気も忌まわしい。
寂しくて仕方なかったらしい。
「悪いな、遅くなってしまった。」
「もう一人暮らしできないかも···」
『一区切りついたら結婚を前提に付き合ってくれないか』
と喉まで出かけたか飲んだ。
チカが主の現状だと当人のプライドも相俟って
イチゴの資産を換算して生活してくれない。
夫婦として対等な立場になれば財産分与できる。
この狭くて古い安アパートにも愛着はあるが
彼女には良質な衣食住を与えたい。
「···だがお陰様で実入りが多かったぞ。」
「ご飯食べながら教えてっ」
「朝飯も食ってなかったのか···判った。」
アザルシスの飲食は基本的に面白みが無い。
サプリメントの塊のような物をそのまま喰うか蒸かす程度で
栄養価に添った五味は付いてはいるが、旨味は無い。
居酒屋の酒肴等は、異次元から輸入できる異形の業の賜物である。
団子状にした物を齧りながら、イチゴの膝の上で話を聞きながら
チカは何やら熱心に計算や入出力をしていた。
「あまり見ない端末を使ってるな?」
「危ない所をアクセスする時はこれを使ってるんだ。
此方の身元バレや、ウイルス感染予防は勿論
異能による妨害行為も阻めるようにしているんだよ。」
「随分高性能にカスタマイズしたな···」
「あのPWBCのお墨付きのソフトさ、僕の中で一番高い買い物したよ。
······よし、解けたみたいだ!」
アクセスに必要な暗号の解析を果たした。
幾度となく挑んではいたが、あと一歩が至らず
しかし各方面から集めた情報からの関連付けでどうにかなった。
関心して無意識に頭を撫でると、デレデレに喜ぶチカ。
そんな事をしながら長い読み込みを経て、ようやく明かされたのは
玫瑰の詳細であった。
『本名は司馬曜。『魃の蹄』出身のアジア系の人間』
『富裕層の生まれだが11歳の時に盗賊団の襲撃にあい帰る所と家族を失う』
『盗賊団にそのまま拐われ、雑用係をしていた』
『13歳の時に、盗賊団は食屍鬼デザートローズの手により壊滅された。
頭領と共に新たに結成されたマフィア『貪』の一員に加わる』
『捕虜として助けられた身だが、自ら志願して加わった。
幼いながらも起用されたのは、熱意と整った容姿からだと思われる』
『15歳時の強盗誘拐を初陣を機に、誘拐犯担当として活躍し続け
16歳で玫瑰の名との座を貰う。以後は本名を名乗らなくなった』
『好色家のマッチェ、人体蒐集家のグロッシュキー、美食家の八雲文弥
(※以下省略)と繋がりが確定している』
『テロリストとの繋がりも噂されている』
『人当たりがよく気配りもでき礼儀正しく、真面目だが柔軟性ある性格で
純白の頭髪と純黒の瞳が特徴的。砂漠地帯育ちの割に肌色が薄い。
初対面との好感度は間違いなく高く、平時も交渉の緩衝役としてよく呼ばれる程。
だが感情の起伏が非常に乏しく不気味に思う者もいる』
詳細が明らかになったが、チカが指差し注目したのは
人体蒐集家のグロッシュキーの記述。
様々な人繋がりを持っているようだが遡ると彼が玫瑰と一番付き合いが長い。
「本職は操縦士、某空港会社オーナーの息子···
ふ、輸送し放題じゃないか?」
「実際、色んな人や物をこっそり運んだ前科があるみたいだね。」
「こんなことをされたら俺達人外も立場が無いな。」
ふと、イチゴの脳裏に過ぎったのは
『人が引き起こした事件なら、人を辿れば辿り着くものさ。』
『人間だけどその敏腕っぷりは人外並、メンタルは異形ってとこかな···』
···という、二人の言葉。
チカが相手をしているのは人の皮を被った化け物だ。
嘗ての友の安否確認が済むまで気が済まないだろうけども
死んだら元も子もない。引き際の舵取りをせねばならない···
「顔が引き締まってると益々かっこいいよ?イチゴくん。」
「···あー、奴の拠点探しで茶店があったら寄らないか?
情報収集と此方の仮拠点を兼ねて。」
眩しい笑顔が返事代わり。
後輩には塩対応だが恋人にはとことん甘い。
巧妙に隠していたようだが、協力者の甲斐あり確実に追い詰めている···
協力者というのは月季のロサやサファイアだけでなく
先日捕らえたチンピラみたく忠誠心に欠ける者も含まれる。
それも少なくはない。わざわざ出向いてチップと引き換えにした者までいた。
暴力で物を云う輩が多い中で暴力を使わずのし上がった弊害か?
そうして辿り着いたのは環境変化により生じたとある小さな砂漠近隣の町。
『貪』の活動範囲は砂漠地帯が鉄則、条件を満たした土地だ。
茶店で一番高い茶と軽食を頼んで嗜みつつ、情報整理をしていた。
治安は悪いが、食屍鬼を前に喧嘩を売らない賢い者ばかりで助かる。
「聞いてると廃墟っぽいんだよね。家のはずなに···」
「元から廃墟なのを家と言い張った、もしくはもぬけの殻。」
「廃墟って言っても程度や主観もあるから判りにくいよね。僕ん家も大概だし。」
「自覚はあったのか···とにかく、行かない事には判らんな。」
誰もいない方が実は都合が良い。
此処で期待しているのは痕跡を辿る事、被害者がいた場合の救出。
欲しいのは情報で、まだ玫瑰を捕らえに来た訳ではない。
そしてやって来たのは、質素な石壁の···家というより小屋だ。
人一人が寝床にする程度の大きさ、あまりにも質素。
近所もおらず、晒され気味な外観がより貧相さを際立たせている。質素だ。
「隠れアジトにするにうってつけじゃないかな?」
「中も見てないのに根拠はあるのか?」
「砂漠って言っても砂は地表だけで地盤は硬いんだ。
だから地下まで伸ばす事が出来ると思う。」
「なるほどな···確かに地殻変動ならともかく
風の流れで堆積しただけの砂山らしいからな。」
ノック3回、返事がないのを確認してゆっくり扉を開ける。
中は埃っぽく砂っぽくもあり、最低限の家具は配置されてるが
同じく狭い住まいに居るチカだからこそ違和感に気づいた。
「ベッドなのに枕が無い。マットの弾力が新品みたい。土台枠が床を貫通してる。
日曜大工なら凝り性だけど、ちぐはぐ過ぎない?」
「捲くるか。」
マットをそっくりそのまま持ち上げると鉄網の蓋が現れた。
その下には深い穴が覗ける···梯子代わりと思われる乱雑な突起もあった。
読み通り地下が存在したのだ。
チカを背中にしがみつかせて、地下を降る···背中に当たる柔らかい感触···
広すぎる通路。コンテナを台車付きで載せて運ぶ幅や高さは余裕である。
出入り口が点在。扉のない部屋を覗き見すると
薬物、酒の空き瓶、血で錆びたナイフ等が散乱しているのが見えた。
「豪邸だな。低俗な物で穢れてる以外は良物件じゃないか?」
「休憩スペースを入りやすく、且つ何してるのかお互い見やすくしてるね。
だから扉のある側の機密性に期待できちゃうな。」
「倉庫を見つけて物証に肖りたい所だが、さて何が出るやら。」
奥に奥にと行くと、一回り広い丁字路に突き当たる。
行き止まりが見える方に行くと、其処には積み上げられた箱が並んでいた。
型の古いフォークリフトまである。
「この臭い···まさか···」
適当な箱の表面を乱雑に剥いで、断片的にだが中を見た。
「な、何があったんだい?僕には臭いを嗅ぎ取れなかったんだけど。」
「···もうミイラになっている。ざっと見て半ダース分くらい入っているな。」
「なんだって?!6人入るには狭すぎないかい?!」
「乾いている上に手足が無い。大人だろうと詰め込めるさ···」
此処にチカの友がいない事を願うしかなかったが
それを確かめるためにも探せる所は探して証拠や情報を掴まねば。
始めは地下道の冷気で冷房要らずと思っていたが
今はもう、この冷気も忌まわしい。
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