蟹〜
告白をしてから益々距離感が縮まった。
聞けば、チカにとって食屍鬼は高嶺の花。
上流階級の従者か或いは独立し、高潔或いは硬派で
恵まれた体格と人外特有の長命から
異性に靡かず性に興味を示さず
人一人喰らえば一騎当千の強さを見せつける猛将だと。
なのでウォリック博士から招待を受けた時には耳を疑ったとか。
話を聞いて苦笑いをするイチゴ。
「そんな高尚な存在ではない、もっと俗っぽいと思うぞ。感性は人間と大差ない。
他の個体も巧く隠しながら活躍しているんだろうな。」
「そうなの?!」
「そうだ。···ああ、言われてみれば
博士もその先入観を拭おうと努めていたようだった。
これから改良も重なれば俺よりもフランクで強い奴もできるんじゃないか?」
「同じ顔でもイチゴくんが一番強くてかっこいいんだい!!」
そうもストレートに惚気けられると調子が狂う···
厳つい見た目も相俟って硬派に思われていたようだが
普通に色を知っているし、伴侶がいる個体だっている。
ヒモのような生活もしている個体もいるとも噂が···
「色といえば···」
「ん?」
趣味に素直なチカがひた隠しにしていた一角があり···
触れないようにはしてきたが、偶然見つけてしまったのだ···
「そ、それはっ?!」
「好青年同士の友情に愛情が加わる名作『鴉と鳩』···」
の、コピーROM。ジャンク品でも買い漁ったのだろう。
他2点類似品を確認、チカの嗜好趣味と断言できる。
「あわっあわわわ······紛れもなく僕のだけども···」
「チカ、あくまで趣味なんだろう?判っている。」
「うう、イチゴくん···」
「俺もエロいのは普通に嗜むしな。」
「えっ?!」
まさしくハトが豆鉄砲を喰らったかのような顔をした。
先日の騒ぎもあり、性的表現に嫌悪感を抱く先入観を与えたようだが
そんな事はない。少なくともイチゴは違う。
「そ、そう···そっかあ······」
途端によそよそしくなる。
「チカ?」
「ぼ、僕では駄目かな···満足させれないかな···」
明らかにいつもと違う上目遣い···誘っている。
「······チカ、無防備な格好のお前を前にして
俺は常日頃抑えるのに必死だったんだぞ。」
「ご、ごめん。」
「満足させれないかだって?此方の台詞だ。」
先ず、唇を重ねた······
瞬く間に夜が更ける···
アザルシスに昼夜を知らせる日差しが無いとはいえ
二人共夢中になり、時間を忘れていた。
この日に何の予定も無いのが幸いである。
起き上がれない。
チカが寝ながらも無意識に抱き付いて離さない。
なので手を伸ばして自分の端末を取り、暇を潰すのに徹する···
これはあくまで趣味、本命はチカ、と自身に言い聞かせながら動画を嗜む。
音を消した分、画により集中できた。
···なので、見つけてしまったとある物。咄嗟にチカを揺さぶり起こす。
「う、うぅん···どしたの?」
「見ろ、この背中。縫い目も無い横一文字の切り傷···」
「こ、これは?!それに黄金の瞳に毛色!
間違いない、シイちゃんだ!!!!助けないと!!」
チカの友達の一人、シイちゃん。
容姿端麗で目立つ風貌とは裏腹に、臆病が過ぎて本性を表に出さない
護りたくなる哀しい演技派だったが、真っ先に拐われた人物。
背中の切り傷は逆上した軟派男にナイフで切られた痕で
貧困生活で工面叶わず医師の治療も受けれなかったため
縫合されないまま、心の傷と共に残ってしまった物。
いざという時のためにと友達各位の特徴は聞いて
記憶していたのが功を成したようだ。発見のきっかけはともかく。
未加工を良い事に画像から撮影現場や投稿者を辿りつつ
少々気恥ずかしいが月季のロサにも頼り
望まぬ売春婦を特定し対象を絞っていく···
とある廃ビル。内部一角に判りやすく手の行き届いた一室がある。
ここは6階、飛び降り逃げる事は人間には出来ない。
それは被害者だけでなく加害者にも言える事。
迷わず扉を開けた。食屍鬼の怪力の前に施錠は役目を果たせない。
「なっ···食屍鬼?!ビクスバイト?!」
「個体違いだ。」
光る指先が取り巻きの男二人の膝を撃ち、出鼻をくじかせる。
驚き竦み上がる肥えた男は、女性にのしかかって離れないため首を掴んで持ち上げた。
自らの重みで首が締まり、もがき苦しむ···動かなくなってから手を離した。
「シイちゃん!」
「えっ?!···チ、チカちゃん?!」
「そうだよ!助けに来たよ!遅くなってしまってごめんよ!」
「そんな、私助かるの?あ、ありがとう······」
泣きながら抱き合う二人。十数年ぶりの再会。
女同士の感動的な友情を尻目に、イチゴは男を脅迫していた。
膝を撃たれた男の髪を掴み上げると、相手は痛がりつつも拳銃を突き出す。
だがそれすら空いた手で掴み、握り潰したのだ。
「ひっ···」
「発砲した所で俺を殺すに至らないがな、こんな小さい銃。
それで、お前達は誰の指示で小遣い稼ぎをしていたんだ?」
「い、言えるわけねえだろそんなの···!」
「じゃあ足先からゆっくりお前を喰うとするかな。」
「わああああ判った言えば良いんだろ?!マイカイ、玫瑰だよ!
飛び級でトップクラスになって最近調子に乗ってる白髪野郎だ!
どうせ気に入らなかったし言ってやらぁ!!」
月季のロサでも知り得なかった、トップ層幹部の通り名。
こんなチンピラが知っているのは恐らく組織内でも派閥があり
独自の人選で小間使いしていたからであろう。
手柄を独占するためだとか、理由は様々考えられる。
「玫瑰···!そいつが誘拐魔なんだね?!」
「そう···あの人がそうなの、あの人に拐われてるの。皆。
すごく優しくて善い人だと思って、誘われて、穏やかに過ごしていたのに
気づいたら怖い人に囲まれて乱暴されるようになって···」
絶句しながらもチカは、泣き崩れる友を宥める為背中を優しく擦る。
皆というからには他の友或いは被害者も見てきたのか
お互い無力なまますれ違った、といった所だろう。
「へっ、お前なんてまだ運が良い方だぜ···」
この期に及んで減らず口か?
男の腹部を蹴り上げ、血反吐を吐かす。もう動かない。
「ああっイチゴくん何て事を···」
「生きてるだけでも運が良い。と、こいつも言っただろ?
病院にぶち込んで詳しい事は月季のロサに吐かせよう。」
と、男二人を両脇に抱え連行しようとするも、チカは慌てて阻止する。
「ま、まだあそこにもう一人いるではないか?!」
「らしくないな?落ち着け、あいつはもう事切れてる。」
恐る恐る倒れた男に近づき確認すると、舌を噛み切っていたのが判った。
人食いともなると死相がすぐに判るのだ。
聞けば、チカにとって食屍鬼は高嶺の花。
上流階級の従者か或いは独立し、高潔或いは硬派で
恵まれた体格と人外特有の長命から
異性に靡かず性に興味を示さず
人一人喰らえば一騎当千の強さを見せつける猛将だと。
なのでウォリック博士から招待を受けた時には耳を疑ったとか。
話を聞いて苦笑いをするイチゴ。
「そんな高尚な存在ではない、もっと俗っぽいと思うぞ。感性は人間と大差ない。
他の個体も巧く隠しながら活躍しているんだろうな。」
「そうなの?!」
「そうだ。···ああ、言われてみれば
博士もその先入観を拭おうと努めていたようだった。
これから改良も重なれば俺よりもフランクで強い奴もできるんじゃないか?」
「同じ顔でもイチゴくんが一番強くてかっこいいんだい!!」
そうもストレートに惚気けられると調子が狂う···
厳つい見た目も相俟って硬派に思われていたようだが
普通に色を知っているし、伴侶がいる個体だっている。
ヒモのような生活もしている個体もいるとも噂が···
「色といえば···」
「ん?」
趣味に素直なチカがひた隠しにしていた一角があり···
触れないようにはしてきたが、偶然見つけてしまったのだ···
「そ、それはっ?!」
「好青年同士の友情に愛情が加わる名作『鴉と鳩』···」
の、コピーROM。ジャンク品でも買い漁ったのだろう。
他2点類似品を確認、チカの嗜好趣味と断言できる。
「あわっあわわわ······紛れもなく僕のだけども···」
「チカ、あくまで趣味なんだろう?判っている。」
「うう、イチゴくん···」
「俺もエロいのは普通に嗜むしな。」
「えっ?!」
まさしくハトが豆鉄砲を喰らったかのような顔をした。
先日の騒ぎもあり、性的表現に嫌悪感を抱く先入観を与えたようだが
そんな事はない。少なくともイチゴは違う。
「そ、そう···そっかあ······」
途端によそよそしくなる。
「チカ?」
「ぼ、僕では駄目かな···満足させれないかな···」
明らかにいつもと違う上目遣い···誘っている。
「······チカ、無防備な格好のお前を前にして
俺は常日頃抑えるのに必死だったんだぞ。」
「ご、ごめん。」
「満足させれないかだって?此方の台詞だ。」
先ず、唇を重ねた······
瞬く間に夜が更ける···
アザルシスに昼夜を知らせる日差しが無いとはいえ
二人共夢中になり、時間を忘れていた。
この日に何の予定も無いのが幸いである。
起き上がれない。
チカが寝ながらも無意識に抱き付いて離さない。
なので手を伸ばして自分の端末を取り、暇を潰すのに徹する···
これはあくまで趣味、本命はチカ、と自身に言い聞かせながら動画を嗜む。
音を消した分、画により集中できた。
···なので、見つけてしまったとある物。咄嗟にチカを揺さぶり起こす。
「う、うぅん···どしたの?」
「見ろ、この背中。縫い目も無い横一文字の切り傷···」
「こ、これは?!それに黄金の瞳に毛色!
間違いない、シイちゃんだ!!!!助けないと!!」
チカの友達の一人、シイちゃん。
容姿端麗で目立つ風貌とは裏腹に、臆病が過ぎて本性を表に出さない
護りたくなる哀しい演技派だったが、真っ先に拐われた人物。
背中の切り傷は逆上した軟派男にナイフで切られた痕で
貧困生活で工面叶わず医師の治療も受けれなかったため
縫合されないまま、心の傷と共に残ってしまった物。
いざという時のためにと友達各位の特徴は聞いて
記憶していたのが功を成したようだ。発見のきっかけはともかく。
未加工を良い事に画像から撮影現場や投稿者を辿りつつ
少々気恥ずかしいが月季のロサにも頼り
望まぬ売春婦を特定し対象を絞っていく···
とある廃ビル。内部一角に判りやすく手の行き届いた一室がある。
ここは6階、飛び降り逃げる事は人間には出来ない。
それは被害者だけでなく加害者にも言える事。
迷わず扉を開けた。食屍鬼の怪力の前に施錠は役目を果たせない。
「なっ···食屍鬼?!ビクスバイト?!」
「個体違いだ。」
光る指先が取り巻きの男二人の膝を撃ち、出鼻をくじかせる。
驚き竦み上がる肥えた男は、女性にのしかかって離れないため首を掴んで持ち上げた。
自らの重みで首が締まり、もがき苦しむ···動かなくなってから手を離した。
「シイちゃん!」
「えっ?!···チ、チカちゃん?!」
「そうだよ!助けに来たよ!遅くなってしまってごめんよ!」
「そんな、私助かるの?あ、ありがとう······」
泣きながら抱き合う二人。十数年ぶりの再会。
女同士の感動的な友情を尻目に、イチゴは男を脅迫していた。
膝を撃たれた男の髪を掴み上げると、相手は痛がりつつも拳銃を突き出す。
だがそれすら空いた手で掴み、握り潰したのだ。
「ひっ···」
「発砲した所で俺を殺すに至らないがな、こんな小さい銃。
それで、お前達は誰の指示で小遣い稼ぎをしていたんだ?」
「い、言えるわけねえだろそんなの···!」
「じゃあ足先からゆっくりお前を喰うとするかな。」
「わああああ判った言えば良いんだろ?!マイカイ、玫瑰だよ!
飛び級でトップクラスになって最近調子に乗ってる白髪野郎だ!
どうせ気に入らなかったし言ってやらぁ!!」
月季のロサでも知り得なかった、トップ層幹部の通り名。
こんなチンピラが知っているのは恐らく組織内でも派閥があり
独自の人選で小間使いしていたからであろう。
手柄を独占するためだとか、理由は様々考えられる。
「玫瑰···!そいつが誘拐魔なんだね?!」
「そう···あの人がそうなの、あの人に拐われてるの。皆。
すごく優しくて善い人だと思って、誘われて、穏やかに過ごしていたのに
気づいたら怖い人に囲まれて乱暴されるようになって···」
絶句しながらもチカは、泣き崩れる友を宥める為背中を優しく擦る。
皆というからには他の友或いは被害者も見てきたのか
お互い無力なまますれ違った、といった所だろう。
「へっ、お前なんてまだ運が良い方だぜ···」
この期に及んで減らず口か?
男の腹部を蹴り上げ、血反吐を吐かす。もう動かない。
「ああっイチゴくん何て事を···」
「生きてるだけでも運が良い。と、こいつも言っただろ?
病院にぶち込んで詳しい事は月季のロサに吐かせよう。」
と、男二人を両脇に抱え連行しようとするも、チカは慌てて阻止する。
「ま、まだあそこにもう一人いるではないか?!」
「らしくないな?落ち着け、あいつはもう事切れてる。」
恐る恐る倒れた男に近づき確認すると、舌を噛み切っていたのが判った。
人食いともなると死相がすぐに判るのだ。
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