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博士が何故詳細を伏せて紹介したのかよく判った。
知り合いのツテとは言ったが、その知り合いは厄介払いのつもりだ。
適当な人物に任せたらこの探偵気取りも誘拐の被害に遭いかねない。
無闇な人食いイメージを拭うためのカモフラージュも兼ねて
食屍鬼を警護に当てた、そんな所だろう。

「···で、君の意見はどうなんだい?」

顔が迫る。澄んだ碧い瞳に映るのは青肌の顔。

「···俺を呼ぶなら一先ずその『イチゴ』でいい。」
「おおっ?!それってもしや」
「俺の管轄の中にお前の行動範囲がある以上放っておけない。」
「うわ〜やった〜!よろしく頼むよ、イチゴくん!」

体いっぱい抱きついて歓喜を示す、そんなチカの行動に動揺を隠せない。
だが、そういえば···殴り合う以外で触れ合うのは初めてかもしれない···
生きた人間はこうも温かいものか。それと柔らかい。

「···あ!このままだと狭くて動きにくいよね!今片付けるよ!」

後ろ手を回す間もなく離れると周囲にある物をまとめ始めた。
部屋が狭い自覚はあったようだ。
前以て片付けなかったのは恐らく、断られる可能性も考慮したから。
···散乱していた物を見るに
安価な私物が多い一方で趣味と思われる物が多数と言うことは
衣食住よりも趣味に生きる性分なのが伺える。
薄着というかほぼ下着姿であるし、線が細い。
飯は食えているのだろうか?
住まいだけでなく体調管理も怪しい···

疑問は尽きないが、不安や不満は無い。
むしろ···『何か』が軽くなった。

それが求めていたモノだとイチゴが気づくのは、もう少し後になってから···


「チカ、ドライヤーは?」
「無いよ〜勿体無いから買ってないよ〜」
「風邪ひいたらどうすんだ全く···」

タオルでわしわし拭くとぐわんぐわん動く頭。

「ああ〜画面が見えない押し損ねる〜」
「後でやったらどうだ?」
「今ログボに期間限定モノがあってえ
って?!あああ水滴が勝手にポチッてキャンセルしちゃったああ」

阿鼻叫喚、後頭部をイチゴの胸部に押し付ける。
イチゴの膝はもうチカの特等席だ。
高さや硬さがちょうど良い。狭い部屋で偶に共同作業もするので何かと都合が良い。



「どういう訳か今回は報酬が多かったので
今度のショッピングは奮発するよ!」
「妥当じゃないか?鮮やかだったぞ、チカの推理。」
「イチゴくんのフォローがあったからさ!」
「大した事はしてないぞ、俺は。」

難聴を悪用され強盗殺人の濡れ衣を着せられそうになった被害者の
無実の罪を晴らし真犯人を特定しただけでなく
長年身内からの冷遇が続いていた事まで見事に暴いてみせた。
彼女の鋭い洞察力と純粋な推理力が功を成したのだ。
イチゴがやった事と言えば所々の補助と
報酬を出し渋ろうとした依頼主を睨みつけた程度。

「それにしても、お前は本当に異能抜きでやり通すんだな。」
「普通の事じゃない?」
「そうか···?正直俺はお前から初めて話を聞いた時から
奥の手でも隠しているのだと思い続けていたんだが」
「えっそう来たか〜!僕は本当に特別な力は無いよ。
人よりちょっと頭が冴えてちょっと雑学に触れてる程度だよ。
それでも解決できる事は世の中沢山あるんだ。」
「そういうものかね···」
「そういうものだよ。
人が引き起こした事件なら、人を辿れば辿り着くものさ。
異能は手段の一つ、僕は動機の方に重きを置いているんだ。」
「そうか···そうかもな。」

言い得て妙である。
確かに事件を起こすのは人間か。
人成らざるものが起こすのは異変や災害であり、チカの出る幕ではない。

「でも否定するわけじゃないよ。やっぱり便利だろうし。
ねえ、イチゴくんは異能あるのかい?」
「まあな。」
「どんなタイプ?戦う系?便利系?大体でいいから教えてほしいな。
異能による超常現象が起きた場合君も疑わなくちゃならないから。」
「ふふ、そう来たか。俺のは戦う系だ。それも割とシンプルな物。」

びっちり落書きされ役目を果たしていない標識を指差す。
チカが不思議そうに見詰める中、突如光る指先。
轟音が鳴ったとほぼ同時に標識は宙を舞い、棒立てだけが残った。
その時、チカの瞳もときめきにより輝いていた···!

「溜め無し即射ちだとこんな所か。俺のは射撃だ。
貫通力はある程度調整できるとして
特徴的なのは一度マーキングした箇所を再度撃つ度に威力や精度が増す。」
「す、凄いじゃないか!かっこいい!!
ねえねえ、一体何を飛ばしてるんだい?!霊力?気?オーラ?」
「魔力。」
「魔力と来たか〜!君は本当凄いな!
ただでさえ誰よりも腕力が強いのに遠距離までカバーできるのか!
スキがなくて最強じゃないか!!」

スキはあるし最強でもない。
現にチカの前で曝け出してしまっている。
しかしこうして、無邪気に燥いで抱き付くチカを見ていると
彼女の前では最強であり続けたいと思えた。



衣服を買う···
というから市場に向かうものだとばかり思っていたが
通信販売で済ますらしい。そしていざ届いた物は

「···でかすぎないか?」
「これで良いのだ!」

オーダーメイドの黒いキャスケット帽に黒いコート。
帽子はがばがばに垂れ下がり、裾は床を這う。
チカの体型に対して明らかに大きすぎる。

「これで探偵っぽく見えるだろう?!」
「ああ···まあ、そうだな···」
「なんだか微妙な反応だなあ?!」
「いや、ええと···気にしていたのか···」
「そりゃあもう!
君が探偵で僕が助手、という誤解が広まりつつあったしね!」

助手どころかチカを養子と勘違いされた事も何度かあった。
彼女の名誉のために伏せておくが
本題である推理に入る前に説明を挟むのも億劫になっていた所である。

「黒星探偵チカ、参上!」
「はあ?どうした、自虐か?」
「おっと、言葉足らずで意味が伝わらなかったな!
犯罪者を地に伏せ黒星を与える黒星探偵、チカ参上!」

ポーズなどキメて最高に浮かれている···
本人が気に入ったようなので一先ず良しとした。
ただし、これで一度でも躓いたら脱がすつもりだ。
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