蟹〜
「···と、所で俺は主となる人を聞きつけて遣ってきたのだが」
「僕がそうだよ!」
「な······」
そこでようやく立ち上がる。人種的に成人女性としては平均的···か?
此方のが遥かに厳つく巨体だというのに、食屍鬼は気押しされていた。
脅迫されているわけではない、とにかく威勢が良い。
「僕の事はチカって呼んでほしい。君は?」
「俺にはまだ名が無い。与えられていない。」
「まだ無いの?!でも他のヒトからなんて呼ばれてた?」
「『食屍鬼』だとか製造番号の『No.15』だ。」
「『No.15』···じゅうご、だと愛嬌無いなあ。『イチゴ』とかどう?」
「待て···勝手に話を進めるなよ。」
主として彼女を認めるには早すぎる。
成人にしては幼く、住居を見るに経済力も怪しく、得体が知れなさすぎる。
喋り方も独特だ。唯一大人らしいのは胸囲ぐらいだ。
「ああ、そうか!これはうっかり!
自己紹介の流れで名乗り合うつもりが主の権限を早速使うとこだったよ。」
「主なら確かに命名権もあるが···。」
「だよね〜。一先ず置いといて。」
とりあえずお互い床に腰を下ろす。彼女の首を痛めないように。
腰を据えて話し込むにはあまりにも体格差がありすぎた。
「僕はこう見えて探偵なんだ。
世のため人のため、そして食屍鬼のため事件を解決しようと
探偵を始めてはや数年さ。」
「探偵、ね···。実績は?」
「えーと···最近だと浮気調査だなあ。浮気の浮気の浮気まで見つけた。」
「浮気···ルガリーシ夫人のやつか···?」
「よく知ってるね?!」
「関係者の『遺体の処理』を任されたからな。」
首吊りだったので『処理』は楽な方だった。
だが騒動の中でチカの存在を聞いてはいない。
詳細を把握している以上虚偽とも思えない。
···憶測だが、調査を依頼したはいいが小娘に頼った事実を伏せたくて
それなりの権力者である依頼者がねじ伏せたのだろう。
「一人で突き詰めたならまあまあ···か。どんな異能を使ったんだ?」
「異能?使ってないよ?そもそも無いよ。
僕の知識と経験さ。強いて言えば才能ってとこかな。」
惚けているなら大したものだが。
異能···もとい特殊な力無くして、後ろ盾も特に無い探偵業···
暴力と狂気で支配されたアザルシスではあまりにも無謀だ。
それでも探偵業を始めてから数年、無名とはいえ生きているのだから
細やかな活躍を重ねて食い繋ぐ実力はある。そんな所か。
「···何故かわからないが、俺に感謝していたらしいな?
俺を起用した理由と合わせて真意を教えてくれ。」
「え〜?だって爆破テロリスト壊滅とか、偽呪術師逮捕の件とか
凶悪犯を何人も倒したり捕まえたり無力化したんじゃないか。
悲しいかな、ああいった大きな事件の主犯格って
大体が強い権力に心酔していたり、逆に捨てるのが身しかない人とか
聞く耳も持ってくれないから、話があまり通じないんだ。
でも君は解決してくれた、多くの人が助けられたんだ。
だから皆に代わって感謝したい、ありがとう!
そしてそんな君から協力を得たいし、君を僕は護りたい。」
「護りたい···?」
聞きたい事は聞けたと思った矢先に。
こればかりは予想だにもしていなかった。
痩せ細の女性が骨格逞しい大男を護るとは、どういう風の吹き回しだろうか。
「そんな君の活躍を快く思っていない人等の盲言だと思われるけど
度々耳にする誘拐事件、食屍鬼の犯行だと噂する人がいるようでね。」
「なんだと···他の個体は知らないが俺はやっていないぞ。
人食いはするにはするが素性を知り承諾を得た上で、だ。」
「そもそも犯行に食屍鬼が関わってすらいない可能性もあるよ。
誘拐された人があまりにも見つからない事から
喰われてしまったんだろうって、早とちりな発想さ。」
「そんな無闇に食い漁っていたら俺達は処分されているぞ···」
複製魔族の一種である食屍鬼達は、人食いをせねば衰弱死してしまう。
なので人間の絶対数確保の為に人間を守る事が義務付けられている。
私利私欲で食い漁る個体は今の所(恐らく)いないが
社会貢献も出来ぬ危険因子と見做され殺処分される運命だ。
「でしょ?だから僕は思うんだ。
これは取るに足らない噂か、或いは逆にとても大きな力が動いているか···!
後者だとしたら君を一人にするのは危険だと思って」
「だが囮捜査にも使えそうだと思って手中に収めたいと?」
「うっ···言い方は悪いけどそうなってしまうのかな。」
「危険なのはお前の方だ、その話から降りろ。」
「降りれないよ、これは譲れない!」
頑なだ。そんな彼女に苛立つ食屍鬼。
力業が使えない相手ほど厄介な者はいない。
「僕がまだ無名だからこそ深入りできると思うんだ!
頼むよ、力を貸してほしい!
そして関わったヒトをこれ以上失いたくない!」
「誰かいなくなったのか?なら尚更···」
「僕が探偵を始める前から、友達が消えている。
僕達には親がいない、家族のように仲良くしていたのに。
事件現場に同じ車両や怪しい人はいたはずなのに、全て揉み消された。」
ヒトが起こした闇に既に巻き込まれていたようだ。
···だが、彼女は、独りで戦い続けていた。
「僕がそうだよ!」
「な······」
そこでようやく立ち上がる。人種的に成人女性としては平均的···か?
此方のが遥かに厳つく巨体だというのに、食屍鬼は気押しされていた。
脅迫されているわけではない、とにかく威勢が良い。
「僕の事はチカって呼んでほしい。君は?」
「俺にはまだ名が無い。与えられていない。」
「まだ無いの?!でも他のヒトからなんて呼ばれてた?」
「『食屍鬼』だとか製造番号の『No.15』だ。」
「『No.15』···じゅうご、だと愛嬌無いなあ。『イチゴ』とかどう?」
「待て···勝手に話を進めるなよ。」
主として彼女を認めるには早すぎる。
成人にしては幼く、住居を見るに経済力も怪しく、得体が知れなさすぎる。
喋り方も独特だ。唯一大人らしいのは胸囲ぐらいだ。
「ああ、そうか!これはうっかり!
自己紹介の流れで名乗り合うつもりが主の権限を早速使うとこだったよ。」
「主なら確かに命名権もあるが···。」
「だよね〜。一先ず置いといて。」
とりあえずお互い床に腰を下ろす。彼女の首を痛めないように。
腰を据えて話し込むにはあまりにも体格差がありすぎた。
「僕はこう見えて探偵なんだ。
世のため人のため、そして食屍鬼のため事件を解決しようと
探偵を始めてはや数年さ。」
「探偵、ね···。実績は?」
「えーと···最近だと浮気調査だなあ。浮気の浮気の浮気まで見つけた。」
「浮気···ルガリーシ夫人のやつか···?」
「よく知ってるね?!」
「関係者の『遺体の処理』を任されたからな。」
首吊りだったので『処理』は楽な方だった。
だが騒動の中でチカの存在を聞いてはいない。
詳細を把握している以上虚偽とも思えない。
···憶測だが、調査を依頼したはいいが小娘に頼った事実を伏せたくて
それなりの権力者である依頼者がねじ伏せたのだろう。
「一人で突き詰めたならまあまあ···か。どんな異能を使ったんだ?」
「異能?使ってないよ?そもそも無いよ。
僕の知識と経験さ。強いて言えば才能ってとこかな。」
惚けているなら大したものだが。
異能···もとい特殊な力無くして、後ろ盾も特に無い探偵業···
暴力と狂気で支配されたアザルシスではあまりにも無謀だ。
それでも探偵業を始めてから数年、無名とはいえ生きているのだから
細やかな活躍を重ねて食い繋ぐ実力はある。そんな所か。
「···何故かわからないが、俺に感謝していたらしいな?
俺を起用した理由と合わせて真意を教えてくれ。」
「え〜?だって爆破テロリスト壊滅とか、偽呪術師逮捕の件とか
凶悪犯を何人も倒したり捕まえたり無力化したんじゃないか。
悲しいかな、ああいった大きな事件の主犯格って
大体が強い権力に心酔していたり、逆に捨てるのが身しかない人とか
聞く耳も持ってくれないから、話があまり通じないんだ。
でも君は解決してくれた、多くの人が助けられたんだ。
だから皆に代わって感謝したい、ありがとう!
そしてそんな君から協力を得たいし、君を僕は護りたい。」
「護りたい···?」
聞きたい事は聞けたと思った矢先に。
こればかりは予想だにもしていなかった。
痩せ細の女性が骨格逞しい大男を護るとは、どういう風の吹き回しだろうか。
「そんな君の活躍を快く思っていない人等の盲言だと思われるけど
度々耳にする誘拐事件、食屍鬼の犯行だと噂する人がいるようでね。」
「なんだと···他の個体は知らないが俺はやっていないぞ。
人食いはするにはするが素性を知り承諾を得た上で、だ。」
「そもそも犯行に食屍鬼が関わってすらいない可能性もあるよ。
誘拐された人があまりにも見つからない事から
喰われてしまったんだろうって、早とちりな発想さ。」
「そんな無闇に食い漁っていたら俺達は処分されているぞ···」
複製魔族の一種である食屍鬼達は、人食いをせねば衰弱死してしまう。
なので人間の絶対数確保の為に人間を守る事が義務付けられている。
私利私欲で食い漁る個体は今の所(恐らく)いないが
社会貢献も出来ぬ危険因子と見做され殺処分される運命だ。
「でしょ?だから僕は思うんだ。
これは取るに足らない噂か、或いは逆にとても大きな力が動いているか···!
後者だとしたら君を一人にするのは危険だと思って」
「だが囮捜査にも使えそうだと思って手中に収めたいと?」
「うっ···言い方は悪いけどそうなってしまうのかな。」
「危険なのはお前の方だ、その話から降りろ。」
「降りれないよ、これは譲れない!」
頑なだ。そんな彼女に苛立つ食屍鬼。
力業が使えない相手ほど厄介な者はいない。
「僕がまだ無名だからこそ深入りできると思うんだ!
頼むよ、力を貸してほしい!
そして関わったヒトをこれ以上失いたくない!」
「誰かいなくなったのか?なら尚更···」
「僕が探偵を始める前から、友達が消えている。
僕達には親がいない、家族のように仲良くしていたのに。
事件現場に同じ車両や怪しい人はいたはずなのに、全て揉み消された。」
ヒトが起こした闇に既に巻き込まれていたようだ。
···だが、彼女は、独りで戦い続けていた。
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