蟹〜
施設の一角···
また一人、造り上げられた。
白濁した瞳は確実に此方を意識して見詰めている。
「おはよう、15番目の食屍鬼くん。右手挙げてみて。」
徐に挙げられた右手、半端な広げ方をする掌。
「聞いた通り『素』は控えめそうだねえ。
うんでも聴力と知性が確かにあるのは判ったぞ、よし。
君にはあの地区一帯を護ってもらいたいからねえ。
身体は資本として、掌握するために何が必要かって言ったら知性だからね。」
「掌握···?」
「ん〜。言うなればヒトの悪意への対抗策、かな?
発展の代償に善意を食い潰すヒトが本当多いんだ。
喰うのは君等の領分だろう?頼むよ?」
「はい······えぇと······」
「私はウォリックだ、ウォリック博士でも博士でも構わない。
よろしく。」
右手と右手を合わすハイタッチ。
生まれたての彼に思いを託すこの男は
手入れの行き届いてなさそうな黒いウェーブヘアに
瓶底のように分厚い眼鏡で表情が見えない。
逆らう気が起こらないのは滲み出る人柄か
或いは『そういう』改造を施されたからなのか定かでないが
この思想に基いた使命に抵抗なく従わせた。
経済発展の著しい此処一帯は人口密度が瞬く間に増し
其処で飛び交うのは血腥い金ばかり。
富だけでなく人間自ら混沌を生み出す現状に···
あの博士なら嘆くとまではいかないだろうけど
せいぜい同格に扱われても困ると言った所か。
さて、2m超の巨漢は割といるものだが
人間と異形の合間で自分はどれだけ威厳を示せるのか。
15番目の食屍鬼は······
車両を手動で退ける事も、銃弾を皮1枚で遮る事も
平均的身体能力だと思いながら日々悪漢どもを捕らえていた。
日雇い警備を条件に、仮宿を転々とする日々。
偶に『証拠隠滅』の補助として喰わされる肉で延命。
そんな生活が数年続いた。
「成績は上々だけど手応えはどうかな?」
「手応えと言いますと?」
「充実感?」
「あると思いますか?」
わざと尋ねた事は目に見えていた。
充実感とは真逆、不快感が顔に表れている自覚があったから。
というのも職務をこなし依頼をこなし働けど
感謝の言葉を未だに貰ったことがない。
会話もなく睨まれ、聴こえる陰口もザラである。
「先代のイメージが拭えてないようだな〜」
「剣も振るってなければ奇行にも走っていませんが?」
「先入観は人間同士でも普通に起こる事だからさあ。
でも警戒含めたとしても食屍鬼を嫌悪し過ぎだなあ。
人食い種なんて他にもいるだろうに。」
「···ところで、俺への用件とはなんでしょうか?
こんな実のない近況報告を聞きたいだけではないのでしょう?」
「主がいると実のある生活が出来そうじゃないかい?」
その言い方だと承諾前提に話が進んでいる提案だ。
「私の知り合いからのツテでね。
警護目的で従者になってもらいたいと···
あぁ、通常の職務との優先順位は君の方で決めて構わないって。」
「話が見えてきませんね···」
「本人に会った方が早いかも。私も当人とは面識が無いんだよ〜」
だがそこに遣わすには支障が無い程度の人物なのだと。
主人を持ち、忠誠を払って遣える···
というのは同胞もやっている事だが、大体が名のある権力者の下であり
今回のように直前まで得体が知れない者を信頼に値するかと言われると···
「博士からの紹介でなければ俺は間違いなく断っていましたね。」
「お、行ってくれる?私の面子なんて気にしなくていいんだよ?」
「では何故仲介をなさったんです···?」
「強いて言えば君のためかな〜」
「博士にしては理にかなわない事を···」
「だってその人、君に感謝していたもの。」
···どういう事なのか、聞きに行くだけでも良いかもしれない。
意を決した食屍鬼である。
崩れた足場とゴミに遮られ入り口を見失っていたが
強引に割り込み、指定の部屋の階層に···
足を乗せた途端に腐った足場が一段抜けた。
···本当に此処にヒトがいるのだろうか?
そう思わせる事が隠れ蓑になっているのか?果たして。
疑問しかわかない食屍鬼は該当の部屋の扉を3回ノック。
「あ!入って入って〜!
「えっ······?」
今度は我が耳を疑った。幼ささえ感じられる若い女性の声?
部屋番号も部屋位置も間違いない事を複数回確認し、徐に入室する···
「「うわっ?!」」
お互いがお互いを見て驚愕。
「でっっっか?!思っていた100倍でっか?!」
「お、おんな···のこ?」
「失礼な、僕はこう見えても成人してるよ!」
怒る様も幼い···
物に囲まれた狭い部屋で待ち構えていたのは
黒髪碧眼の少女···いや、女性であった。
また一人、造り上げられた。
白濁した瞳は確実に此方を意識して見詰めている。
「おはよう、15番目の食屍鬼くん。右手挙げてみて。」
徐に挙げられた右手、半端な広げ方をする掌。
「聞いた通り『素』は控えめそうだねえ。
うんでも聴力と知性が確かにあるのは判ったぞ、よし。
君にはあの地区一帯を護ってもらいたいからねえ。
身体は資本として、掌握するために何が必要かって言ったら知性だからね。」
「掌握···?」
「ん〜。言うなればヒトの悪意への対抗策、かな?
発展の代償に善意を食い潰すヒトが本当多いんだ。
喰うのは君等の領分だろう?頼むよ?」
「はい······えぇと······」
「私はウォリックだ、ウォリック博士でも博士でも構わない。
よろしく。」
右手と右手を合わすハイタッチ。
生まれたての彼に思いを託すこの男は
手入れの行き届いてなさそうな黒いウェーブヘアに
瓶底のように分厚い眼鏡で表情が見えない。
逆らう気が起こらないのは滲み出る人柄か
或いは『そういう』改造を施されたからなのか定かでないが
この思想に基いた使命に抵抗なく従わせた。
経済発展の著しい此処一帯は人口密度が瞬く間に増し
其処で飛び交うのは血腥い金ばかり。
富だけでなく人間自ら混沌を生み出す現状に···
あの博士なら嘆くとまではいかないだろうけど
せいぜい同格に扱われても困ると言った所か。
さて、2m超の巨漢は割といるものだが
人間と異形の合間で自分はどれだけ威厳を示せるのか。
15番目の食屍鬼は······
車両を手動で退ける事も、銃弾を皮1枚で遮る事も
平均的身体能力だと思いながら日々悪漢どもを捕らえていた。
日雇い警備を条件に、仮宿を転々とする日々。
偶に『証拠隠滅』の補助として喰わされる肉で延命。
そんな生活が数年続いた。
「成績は上々だけど手応えはどうかな?」
「手応えと言いますと?」
「充実感?」
「あると思いますか?」
わざと尋ねた事は目に見えていた。
充実感とは真逆、不快感が顔に表れている自覚があったから。
というのも職務をこなし依頼をこなし働けど
感謝の言葉を未だに貰ったことがない。
会話もなく睨まれ、聴こえる陰口もザラである。
「先代のイメージが拭えてないようだな〜」
「剣も振るってなければ奇行にも走っていませんが?」
「先入観は人間同士でも普通に起こる事だからさあ。
でも警戒含めたとしても食屍鬼を嫌悪し過ぎだなあ。
人食い種なんて他にもいるだろうに。」
「···ところで、俺への用件とはなんでしょうか?
こんな実のない近況報告を聞きたいだけではないのでしょう?」
「主がいると実のある生活が出来そうじゃないかい?」
その言い方だと承諾前提に話が進んでいる提案だ。
「私の知り合いからのツテでね。
警護目的で従者になってもらいたいと···
あぁ、通常の職務との優先順位は君の方で決めて構わないって。」
「話が見えてきませんね···」
「本人に会った方が早いかも。私も当人とは面識が無いんだよ〜」
だがそこに遣わすには支障が無い程度の人物なのだと。
主人を持ち、忠誠を払って遣える···
というのは同胞もやっている事だが、大体が名のある権力者の下であり
今回のように直前まで得体が知れない者を信頼に値するかと言われると···
「博士からの紹介でなければ俺は間違いなく断っていましたね。」
「お、行ってくれる?私の面子なんて気にしなくていいんだよ?」
「では何故仲介をなさったんです···?」
「強いて言えば君のためかな〜」
「博士にしては理にかなわない事を···」
「だってその人、君に感謝していたもの。」
···どういう事なのか、聞きに行くだけでも良いかもしれない。
意を決した食屍鬼である。
崩れた足場とゴミに遮られ入り口を見失っていたが
強引に割り込み、指定の部屋の階層に···
足を乗せた途端に腐った足場が一段抜けた。
···本当に此処にヒトがいるのだろうか?
そう思わせる事が隠れ蓑になっているのか?果たして。
疑問しかわかない食屍鬼は該当の部屋の扉を3回ノック。
「あ!入って入って〜!
「えっ······?」
今度は我が耳を疑った。幼ささえ感じられる若い女性の声?
部屋番号も部屋位置も間違いない事を複数回確認し、徐に入室する···
「「うわっ?!」」
お互いがお互いを見て驚愕。
「でっっっか?!思っていた100倍でっか?!」
「お、おんな···のこ?」
「失礼な、僕はこう見えても成人してるよ!」
怒る様も幼い···
物に囲まれた狭い部屋で待ち構えていたのは
黒髪碧眼の少女···いや、女性であった。
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