蟹〜
実はアザルシス民ですら地名やら何やらを読めないまま過ごしている者が多い。
【大国名】
阿耨達の池 → あくだちのいけ
八百万の座敷 → やまとのざしき
乱世の書架 → らんせのしょか
郷愁の橋梁 → きょうしゅうのきょうりょう
女神の胎 → めがみのはら
自由の箱庭 →じゆうのはこにわ
鉢特摩の氷室 → はどまのひむろ
太初の聖域 → たいしょのせいいき
天獄の階段 → てんごくのかいだん
黄帝の回廊 → こうていのかいろう
最後の楽園 → さいごのらくえん
契りの指 → ちぎりのゆび
旭輝の掌 → きょくきのたなごころ
艶彩の出窓 → えんさいのでまど
【小国名】
遇いの鉤鼻 → あしらいのかぎばな
八乙女の唇 → やおとめのくちびる
知の蓄髪 → ちのちくはつ
蒐集の額 → しゅうしゅうのひたい
無明の繭 → むめいのまゆ
常闇の翅 → とこやみのはね
薄墨の角 → うすずみのつの
木洩れ日の卓子 → こもれびのたくし
冬将軍の庫 → ふゆしょうぐんのくら
赫怒の牙 → しゃくどのきば
真赭の尾 → まそほのお
鐵の嘴 → てつのくちばし
魃の蹄 → ひでりのひづめ
朧尽世の卵 → おぼろつきよのらん
寵愛の鱗 → ちょうあいのうろこ
旭輝の掌 → きょくきのたなごころ
【施設&観光編】
八塩折の酒 → やしおりのさけ
虎魄館 → こはくかん
大禮園 → だいれいえん
百骸楼 → ひゃくがいろう
黒晶山 → こくしょうざん
肉叢厨 → ししむらちゅう
畜生堂 → ちくしょうどう
縞瑪瑙山 → しまめのうやま
蛆蛇村跡地 → うじへびむらあとち
火神炉 → かしんろ
天津の眼 → あまつのめ
一望の塹壕 → いちぼうのざんごう
【組織名】
懺悔偈 → さんげげ
【大国名】
阿耨達の池 → あくだちのいけ
八百万の座敷 → やまとのざしき
乱世の書架 → らんせのしょか
郷愁の橋梁 → きょうしゅうのきょうりょう
女神の胎 → めがみのはら
自由の箱庭 →じゆうのはこにわ
鉢特摩の氷室 → はどまのひむろ
太初の聖域 → たいしょのせいいき
天獄の階段 → てんごくのかいだん
黄帝の回廊 → こうていのかいろう
最後の楽園 → さいごのらくえん
契りの指 → ちぎりのゆび
旭輝の掌 → きょくきのたなごころ
艶彩の出窓 → えんさいのでまど
【小国名】
遇いの鉤鼻 → あしらいのかぎばな
八乙女の唇 → やおとめのくちびる
知の蓄髪 → ちのちくはつ
蒐集の額 → しゅうしゅうのひたい
無明の繭 → むめいのまゆ
常闇の翅 → とこやみのはね
薄墨の角 → うすずみのつの
木洩れ日の卓子 → こもれびのたくし
冬将軍の庫 → ふゆしょうぐんのくら
赫怒の牙 → しゃくどのきば
真赭の尾 → まそほのお
鐵の嘴 → てつのくちばし
魃の蹄 → ひでりのひづめ
朧尽世の卵 → おぼろつきよのらん
寵愛の鱗 → ちょうあいのうろこ
旭輝の掌 → きょくきのたなごころ
【施設&観光編】
八塩折の酒 → やしおりのさけ
虎魄館 → こはくかん
大禮園 → だいれいえん
百骸楼 → ひゃくがいろう
黒晶山 → こくしょうざん
肉叢厨 → ししむらちゅう
畜生堂 → ちくしょうどう
縞瑪瑙山 → しまめのうやま
蛆蛇村跡地 → うじへびむらあとち
火神炉 → かしんろ
天津の眼 → あまつのめ
一望の塹壕 → いちぼうのざんごう
【組織名】
懺悔偈 → さんげげ
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【あなたのたからもの(ソラ)】
声だけの朧気た不思議な記憶がある
「では、この子には見えているのですね!」
「ああ、普通に見えていると思うぜ。
ていうかお前が特殊なだけだし。
にしてもお前の嫁、マイペースすぎんだろ。
股広げながら始終付き人か仲間に囲まれながら産んだとか
陽キャでもなかなか聞かねーぞ。お嬢様はよくわかんねーな」
「まあ今だけでもそう言わないでやって下さい、博士。」
「所で名前なんだったっけ?」
「エサドワにしました。
人に紛れて生きるには目立つ外観になるでしょう。
それでも自分の血筋に誇りを持って生きてもらいたい。
気高い狼のようにと。」
「女だよな?」
「女だから、です。強く生きてもらいたい。」
「お前の子だからなあ、ナメられたら困るもんなあ!」
「強さは腕力ばかりじゃ掴めませんよ」
「判ってるって、世の中物理で掴み取れねえモノばかりだ。」
【自由思想のシンボル(クレナイ)】
お父さんはお金以外にも色々な物を贈られていた。
私のいる環境では植物はとても高級品。花もそう。
初めて見る種から花ができるのだと教えられた。
日当たりも土も良い場所を選んで植えて、成長を待った。
「あっ!はっぱじゃないのがでてきたよ!」
「ここから花弁になるんだろうね」
「おとうさん、みえてる?」
「ああ、見えてるよ。この色なら私でも判るね。」
【不自然な自然(トキワ)】
あらゆる物に名前や役割が授けられているのだと
お父さんに教えてもらってからは
物を見つける度に尋ねていた。
答えが返ってくる事と、知識が深まるのが楽しかったからだ。
でも、ある物を指差すと…明らかに困って、返事に詰まっていた。
『知っている物かもしれないけど何を示しているか判らない』
「ざっくりしすぎているが、強いて言えば『雑草』か……?」
「エサドワはどういう風に見えた?」
「私には色の濃い何かが
地面から毛が逆立って生えてるようにしか見えないんだ。
今までは物の輪郭や質感で言い当ててきたんだが……」
お父さんの見えてる世界が自分とまるで違うのを
改めて思い知らされた。
【御陽様からの慈(めぐみ)(ミカン)】
寂しくなった時、悲しい時、不安を感じた時…
たくさんあった。
訳もなく近所の男の子から石を投げられたりした事もあったし。
だから泣いてる時と怪我している時は大体セットで
体の傷も心の傷もルビーさんに治してもらっていたんだ。
優しい手付きに優しい言葉に…
そして優しく照らしてくれた。
「あれはね、私の異能なんだ。
患部がよく見えるように光らせる意味もあるけど
出してる一番の理由はヒトの心を穏やかに、落ち着かせる力があるから。」
「ふふ………だからか複製魔族じゃ落ちこぼれになっちゃうんだ。
戦わないと価値が無い。
でもイルドがとても強くて、その補助をしているからなんとか処分は免れ………」
落ち着いて、静かに怒る、お父さんの強さをルビーさんは照らし出してくれてるんだ。
【現で夢見る気狂い水(ヒマワリ)】
私のおじいちゃんは偉い人らしい。
どういう風に偉いかは判らない。
お母さんもよく判ってないし、お父さんは判ってて言いたがらない感じ。
とりあえず皆から『会長』と呼ばれるような人だ。
たまに来ては、夜の間ずーーーっ……と
お父さんと何か飲みながら何か喋っている。
とは言っても喋っているのも怒鳴るのもおじいちゃんばかり。
利き耳を立てているわけじゃないけど
嫌でも声が聴こえてしまうからよく判る。
「あの方はお酒が好きでね…」
「味は勿論だが酔ってる間は気が大きくなるのが良いみたいだ」
「体の大きい私と同じになりたいんじゃないかな」
「だが飲み過ぎて酔い過ぎて、寝て起きたらもうその時言ったことを忘れてしまうらしい」
「私はな……ふふ、既に大きいから酔えないね」
「お酒は神も好んで呑む夢見る毒だよ」
美味しければ毒でも飲んだり食べたりするなんて
聞いたこともあるけど……お酒はいらないや。大人になっても。
だって飲まなくてもお父さんとお話できるじゃないか。
【鉄のような毛玉キーホルダー(ウスニビ)】
弟はお父さんと同じでウスニビ色の毛で、毛深い。
でもごわごわしているのがちょっと気になる。
よく洗うだけじゃなくて、色んなシャンプーを試してみた。
物自体はお父さんの貰い物がたくさんあったから比較しやすかった。
そのうち弟の髪も、体の毛も、ふわふわできらきらになったのだ。
一体何が良かったのか?内容や主成分を調べて……ようやく判った。
「トリミングシャンプー………ペット用のが良いってこと?!」
幼いながらも理解した。
人の形をしていて、魔族の肌色をしていて、獣の毛並があるのがお父さん。
他のヒト(個体)もきっとそう。
弟はお父さんに似ているからより体質が近いのだ。
「いいなあ………かわいいな〜……」
光が反射して光るウスニビ色の毛をふわふわ触りながら
そんな感想が漏れ出た。
【面皮の書(ハダ)】
それにしても本当に贈り物が多いな。
お父さんが帰る度に片付けてもまた山ができる。
だから私はお父さんに変わって片付けていた。
そしたら『変なモノ』が出てきた。
この形は………
「お父さんお父さん、これって『本』だよね?!」
当時の私からしたら大きい、図鑑サイズの重量感ある代物だった。
本は貴重品で高級品なのは知っている、だから
『すごい物貰えてお父さんすごい!』くらいの
そんなテンションで見せた。
だが
お父さんはすごい勢いで本を取った。
勢い良すぎて手を離すタイミングを見失い、軽く宙釣り状態になった。
「エサドワ、良い子だから離すんだ…」
離した。着地した。
「すまない、少々乱暴な取り方をしたが……
たまにな、危ない物もあるんだよ。
それは腕力だけで解決できない事もある。」
「でも私は体が丈夫だから何が起きても良いんだ。
エサドワの身に何かあるのは、とても困るし、悲しい事だからな…」
それから私は贈り物の山に手を付けるのを止めた。
【蒼い心臓の護符(ルリ)】
病院で何かを拾った。長方形の紙だ。
よく見るとルリ色で文字の様な物が書かれていたが
見たことが無い字で調べようもなかったので
こっそり持ち帰ってからルビーさんに尋ねてみた。
ルビーさんもお医者さんだからと思って
何気なく尋ねただけなのだけど
血相を変えて、でも手付きは相変わらず優しく
それを私から奪い取った。
「エサドワちゃん、これはね……
痛みを失くす御札なんだよ。」
「それだけ聞けば良い物の風に聞こえるし
なんならこれは、恐らくだけど……
一部の妊婦さんが利用していたんだろうね。」
「でも無痛分娩と違って、これは
ヒトの在るべき感覚を殺している呪われた御札なんだよ。」
「痛みなく出産を終えた妊婦の
手足がいつの間にか切り取られていた…
血や臓物がいつの間にか抜き取られていた…
そんな事件も何件かあった。」
「その時必ずあったのがこの御札だ。
肉体が欠けても知らないまま生き続けた妊婦さんに
手遅れな事を伝えるのは辛かったね……」
そう言い終えると同時に
役目を終えて効力を失った御札を破り捨てた。
これも触れてはいけない物なのだろうなと、私は把握した。
【満洲のマンジュリカ(スミレ)】
髪色に悩んでいた時期に急に具合が悪くなった事がある。
色んな医者にも機械にも診てもらった。
何もわからないことが判ったのでこれを『呪い』だと診断。
翌日には顔色が悪く腰も曲がっていて胡散臭そうな人が来た。
「これは裕福な子を妬んで苦しませて死なす、貧しい人からの呪いだねえ」
「そんな人いたかな………いたかも。歩道橋の下で小物の露店してた。」
「とても具体的で助かるね、まずは君の呪いは私が預かろうか。」
とは言っても私の手を取って軽く握ってるだけだけど……
怠さや熱っぽさが引いて体が楽になった……?!
「呪いは、縛る力が強いのに儚いもの。
妬みは、心の重石の横流し…」
「よくわからないなあ。
でも体が楽になった、ありがとう。」
「君は素直な子だねえ。どういたしまして」
にちゃあ、となんだか薄気味悪い笑顔だったけどなんだか憎めない。
終始不思議なヒトだった。
そういえばあの時呪いを預けっぱなしだ。
もしかしたら消してくれた…?
あの人が着ていた服の色、縁起の良い色だと思ってスミレ色を選んだんだった。
【ヘイヘイイケイケ蟹シャツ(ワカバ)】
「ワーカンはあのカニちゃんが好きなのねえ」
とある会社のマスコットキャラクターである
ヘイヘイイケイケカニという奇抜な色の蟹を
広告で見つける度にはしゃいで喜ぶ。すんごいかわいい……
会社から公式グッズとしてその蟹モチーフのシャツが
限定販売されたのを知って
家中のネットアクセスできる物(端末機器)をかき集めて
予約を果たした。
無事に購入できたけど幼児サイズなんて無くて
最小のでもまだまだ大きかったから
カニちゃん柄が潰れないように…それから尻尾が出しやすいよう切れ目をいれて…
まさに弟が着るための形に変貌したのだ。
まだワーカンは巧く喋れないけど
毎日着て離さないから嬉しいのは十分伝わっていたよ。
声だけの朧気た不思議な記憶がある
「では、この子には見えているのですね!」
「ああ、普通に見えていると思うぜ。
ていうかお前が特殊なだけだし。
にしてもお前の嫁、マイペースすぎんだろ。
股広げながら始終付き人か仲間に囲まれながら産んだとか
陽キャでもなかなか聞かねーぞ。お嬢様はよくわかんねーな」
「まあ今だけでもそう言わないでやって下さい、博士。」
「所で名前なんだったっけ?」
「エサドワにしました。
人に紛れて生きるには目立つ外観になるでしょう。
それでも自分の血筋に誇りを持って生きてもらいたい。
気高い狼のようにと。」
「女だよな?」
「女だから、です。強く生きてもらいたい。」
「お前の子だからなあ、ナメられたら困るもんなあ!」
「強さは腕力ばかりじゃ掴めませんよ」
「判ってるって、世の中物理で掴み取れねえモノばかりだ。」
お父さんはお金以外にも色々な物を贈られていた。
私のいる環境では植物はとても高級品。花もそう。
初めて見る種から花ができるのだと教えられた。
日当たりも土も良い場所を選んで植えて、成長を待った。
「あっ!はっぱじゃないのがでてきたよ!」
「ここから花弁になるんだろうね」
「おとうさん、みえてる?」
「ああ、見えてるよ。この色なら私でも判るね。」
あらゆる物に名前や役割が授けられているのだと
お父さんに教えてもらってからは
物を見つける度に尋ねていた。
答えが返ってくる事と、知識が深まるのが楽しかったからだ。
でも、ある物を指差すと…明らかに困って、返事に詰まっていた。
『知っている物かもしれないけど何を示しているか判らない』
「ざっくりしすぎているが、強いて言えば『雑草』か……?」
「エサドワはどういう風に見えた?」
「私には色の濃い何かが
地面から毛が逆立って生えてるようにしか見えないんだ。
今までは物の輪郭や質感で言い当ててきたんだが……」
お父さんの見えてる世界が自分とまるで違うのを
改めて思い知らされた。
寂しくなった時、悲しい時、不安を感じた時…
たくさんあった。
訳もなく近所の男の子から石を投げられたりした事もあったし。
だから泣いてる時と怪我している時は大体セットで
体の傷も心の傷もルビーさんに治してもらっていたんだ。
優しい手付きに優しい言葉に…
そして優しく照らしてくれた。
「あれはね、私の異能なんだ。
患部がよく見えるように光らせる意味もあるけど
出してる一番の理由はヒトの心を穏やかに、落ち着かせる力があるから。」
「ふふ………だからか複製魔族じゃ落ちこぼれになっちゃうんだ。
戦わないと価値が無い。
でもイルドがとても強くて、その補助をしているからなんとか処分は免れ………」
落ち着いて、静かに怒る、お父さんの強さをルビーさんは照らし出してくれてるんだ。
私のおじいちゃんは偉い人らしい。
どういう風に偉いかは判らない。
お母さんもよく判ってないし、お父さんは判ってて言いたがらない感じ。
とりあえず皆から『会長』と呼ばれるような人だ。
たまに来ては、夜の間ずーーーっ……と
お父さんと何か飲みながら何か喋っている。
とは言っても喋っているのも怒鳴るのもおじいちゃんばかり。
利き耳を立てているわけじゃないけど
嫌でも声が聴こえてしまうからよく判る。
「あの方はお酒が好きでね…」
「味は勿論だが酔ってる間は気が大きくなるのが良いみたいだ」
「体の大きい私と同じになりたいんじゃないかな」
「だが飲み過ぎて酔い過ぎて、寝て起きたらもうその時言ったことを忘れてしまうらしい」
「私はな……ふふ、既に大きいから酔えないね」
「お酒は神も好んで呑む夢見る毒だよ」
美味しければ毒でも飲んだり食べたりするなんて
聞いたこともあるけど……お酒はいらないや。大人になっても。
だって飲まなくてもお父さんとお話できるじゃないか。
弟はお父さんと同じでウスニビ色の毛で、毛深い。
でもごわごわしているのがちょっと気になる。
よく洗うだけじゃなくて、色んなシャンプーを試してみた。
物自体はお父さんの貰い物がたくさんあったから比較しやすかった。
そのうち弟の髪も、体の毛も、ふわふわできらきらになったのだ。
一体何が良かったのか?内容や主成分を調べて……ようやく判った。
「トリミングシャンプー………ペット用のが良いってこと?!」
幼いながらも理解した。
人の形をしていて、魔族の肌色をしていて、獣の毛並があるのがお父さん。
他のヒト(個体)もきっとそう。
弟はお父さんに似ているからより体質が近いのだ。
「いいなあ………かわいいな〜……」
光が反射して光るウスニビ色の毛をふわふわ触りながら
そんな感想が漏れ出た。
それにしても本当に贈り物が多いな。
お父さんが帰る度に片付けてもまた山ができる。
だから私はお父さんに変わって片付けていた。
そしたら『変なモノ』が出てきた。
この形は………
「お父さんお父さん、これって『本』だよね?!」
当時の私からしたら大きい、図鑑サイズの重量感ある代物だった。
本は貴重品で高級品なのは知っている、だから
『すごい物貰えてお父さんすごい!』くらいの
そんなテンションで見せた。
だが
お父さんはすごい勢いで本を取った。
勢い良すぎて手を離すタイミングを見失い、軽く宙釣り状態になった。
「エサドワ、良い子だから離すんだ…」
離した。着地した。
「すまない、少々乱暴な取り方をしたが……
たまにな、危ない物もあるんだよ。
それは腕力だけで解決できない事もある。」
「でも私は体が丈夫だから何が起きても良いんだ。
エサドワの身に何かあるのは、とても困るし、悲しい事だからな…」
それから私は贈り物の山に手を付けるのを止めた。
病院で何かを拾った。長方形の紙だ。
よく見るとルリ色で文字の様な物が書かれていたが
見たことが無い字で調べようもなかったので
こっそり持ち帰ってからルビーさんに尋ねてみた。
ルビーさんもお医者さんだからと思って
何気なく尋ねただけなのだけど
血相を変えて、でも手付きは相変わらず優しく
それを私から奪い取った。
「エサドワちゃん、これはね……
痛みを失くす御札なんだよ。」
「それだけ聞けば良い物の風に聞こえるし
なんならこれは、恐らくだけど……
一部の妊婦さんが利用していたんだろうね。」
「でも無痛分娩と違って、これは
ヒトの在るべき感覚を殺している呪われた御札なんだよ。」
「痛みなく出産を終えた妊婦の
手足がいつの間にか切り取られていた…
血や臓物がいつの間にか抜き取られていた…
そんな事件も何件かあった。」
「その時必ずあったのがこの御札だ。
肉体が欠けても知らないまま生き続けた妊婦さんに
手遅れな事を伝えるのは辛かったね……」
そう言い終えると同時に
役目を終えて効力を失った御札を破り捨てた。
これも触れてはいけない物なのだろうなと、私は把握した。
髪色に悩んでいた時期に急に具合が悪くなった事がある。
色んな医者にも機械にも診てもらった。
何もわからないことが判ったのでこれを『呪い』だと診断。
翌日には顔色が悪く腰も曲がっていて胡散臭そうな人が来た。
「これは裕福な子を妬んで苦しませて死なす、貧しい人からの呪いだねえ」
「そんな人いたかな………いたかも。歩道橋の下で小物の露店してた。」
「とても具体的で助かるね、まずは君の呪いは私が預かろうか。」
とは言っても私の手を取って軽く握ってるだけだけど……
怠さや熱っぽさが引いて体が楽になった……?!
「呪いは、縛る力が強いのに儚いもの。
妬みは、心の重石の横流し…」
「よくわからないなあ。
でも体が楽になった、ありがとう。」
「君は素直な子だねえ。どういたしまして」
にちゃあ、となんだか薄気味悪い笑顔だったけどなんだか憎めない。
終始不思議なヒトだった。
そういえばあの時呪いを預けっぱなしだ。
もしかしたら消してくれた…?
あの人が着ていた服の色、縁起の良い色だと思ってスミレ色を選んだんだった。
「ワーカンはあのカニちゃんが好きなのねえ」
とある会社のマスコットキャラクターである
ヘイヘイイケイケカニという奇抜な色の蟹を
広告で見つける度にはしゃいで喜ぶ。すんごいかわいい……
会社から公式グッズとしてその蟹モチーフのシャツが
限定販売されたのを知って
家中のネットアクセスできる物(端末機器)をかき集めて
予約を果たした。
無事に購入できたけど幼児サイズなんて無くて
最小のでもまだまだ大きかったから
カニちゃん柄が潰れないように…それから尻尾が出しやすいよう切れ目をいれて…
まさに弟が着るための形に変貌したのだ。
まだワーカンは巧く喋れないけど
毎日着て離さないから嬉しいのは十分伝わっていたよ。
以下、たからものから辿った記憶。
【赫怒の牙の絵画(シャクドウ)】
それは戦車の砲弾も数発は凌げる強化硝子であり
スクリーンでありキャンパスだった。
命懸けで、単身で、己の肉体のみで
ヒト等に代わって侵略者相手に戦っていた父。
それを彼等は、母まで、強化硝子ごしに
父を見ていた………もとい見世物にしていた。
誰よりも強く、それに安心しきって
ついには守られているという立場を忘れて
彼等は刺激を求め始めたのだ。
父に強制的に薬物投与し
より強く、より狂った様を見て
時に賞賛し時に恐怖し娯楽化していた。
だがある日、そう、よりによって
母が幼い弟を連れていった日である。
侵略者の位置が其処の近場だったのだ。
敵はとうに殲滅したけど、尖過ぎた殺意が
彼等まで硝子越しに囚えてしまった。
強化硝子は父の突進と同時に砕け散り、彼等と対面。
真っ先に泣き出した弟は真っ先に狙われた。
部屋全体がシャクドウ色のキャンパスになってしまっていた。
唯一無傷で生き残ってくれた防犯カメラが映してくれた事実。
彼等は、母は、自分達が
画家でもあった父の作品化してどう思ったのだろうか?
知りたくもないね。
【包容ある者を抱擁する物(ニュウハク)】
その人は、『昔』の父にそっくりな人。
いや、複製(クローン)の存在だから似ていて当たり前だし
父は今も昔も優しい人には違いないだろうけど。
『あの日』を境に変貌してしまったから。
「ルビーさん、大丈夫?!」
「なんとかね………」
病室で横たわっていたその人は弱々しい笑みで返す。
身体に厳重に巻かれたニュウハク色の包帯。
さて、何度巻かれ直されたのか。
巻かれた面積は負傷部位と同等だろうから
手酷くやられたのだろうと。
誰にどうされたのか尋ねるが濁す一方である。
「ルビーさん、貴方が困るって事は
私にとって都合の悪い事なんだよね?
いいよ、教えて。
大丈夫、私なんでも受け入れられるから。」
「君は強い子だね…判った、言おう。
でも落ち着いて最後まで聞いてね。」
「判った、約束する。」
意思表示のため彼の優しくも大きい手を取って握った。
「………イルドにやられたんだ。
ばっさりと袈裟斬りみたいに引っ掻かれて…とは言っても
錯乱というか暴走というか、異常な状態だったけど…」
「『あの日』みたいに?!」
「そこまで知っていたのかい……ああ、そうだった。
ごめんよ、私が前線を彼に任せきりなばかりに
悲劇を繰り返させてしまった。私が弱いばかりに…」
「でもまた止めてくれた。それに生き残っててくれた。
ルビーさんは強いよ。」
「ありがとう……君はイルドと同じで優しい子だね……」
【食屍鬼の門出(アマ)】
とてもとても寒くて遠い所までルビーさんと来た。
地理の勉強はしたけど窓は隠され磁石も無いと位置も判ったものじゃない。
護送とは言ってたけどどうなんだか。
何せ食屍鬼の血筋で産まれたからには切り離せない施設とは聞いたけど…
本来は父親同行だけど今回はルビーさんが保護者代行……
「工場?!なんか厳つい外観だけど?!」
「元収容基地だからね。」
『●肉加工場』、この妙な空気と冷気も●肉特有の物か。
大丈夫、もうそういうのは見たし克服したから。
「中は危ないから私の手を離さないように…」
「……あっ!!お、お父さん?!」
「えっ、ちょ」
いるとは聞いていない、だがあの巨体とワイルドに乱れた髪はまさしく…!
両手をいっぱい広げても全然足りない大きな腰回りに抱きついた。
が、見上げたそこに見えた顔は……
「…………え?目が、違う………」
「どこのガキだぁ?」
「すいません、シストさん!
その子はイルドの子で私が保護者代行として連れて来たんです!」
「あ〜なるほど、言われて見りゃあ『片方』親父似だな。よう来たなぁ」
下品に大笑いしながら大きい手で雑に頭を撫で回す。首痛いんだけど
この工場の工場長にて作業員のシリシャスシストさん。
彼も複製の食屍鬼でお父さんと違うのは目の色、と品
食屍鬼として産まれたからには●肉を定期的に摂取しないと衰弱死をするらしい。
肉が体質に合わなかったばかりに摂取できなかった結果
痩せ衰えて亡くなったヒトがいた、という噂話を聞いた事があるが…
「喰わなきゃ死ぬが、喰うほど力が漲る。
ガタイの良い個体は●肉にたくさん有り付けた個体と思っときな」
「だから『あの日』からお父さんも変貌したの?」
「そうなるね……けど」
「おじさん、食べやすく加工してね」
先程にも増して大きく笑った拍子に口から冷気みたいのが漏れてる…
「こいつぁ大したもんだ、本物だ。
そうだ、俺達ぁたまたま生きるのに必要なのが●肉なだけだ。
お前も、お前の親父もヒトには違いねえ。ほらよ餞別だ。」
と渡されたのは中に妙な粒粒の入った濁ったソーダ色のアイスキャンディー。美味しくなぁい何これ…
【二枚の綺麗な金貨(コガネ)】
私は、あえて指紋がはっきり見て取れるくらい手垢の付いた金貨を一枚出した。
「ふむ、お嬢さんはエサドワと言うんだね。」
「なるほど、大した生まれだね。それで勝った時の報酬は…」
「ふむ、わかった。それでは始めようか。」
こうして、当時辛うじてルールを覚えたポーカーで勝負した。
酒場に子供が一人で来ただけでも驚いただろうに
賭けに挑んで更に周りを驚かせただろう。
このヒトがたまに酒場に現れる事を祖父が酒の席で漏らしたのが運の尽き。
目的のために手段を選ばないのは貴方達だけではないのだ。
…そのヒトも食屍鬼だけど体の半分は異形。
特にあの大きい耳…いや、目?
あれがギョロギョロ動く度に私の思っている事をズバリ言い当てる。
このヒトはヒトの心が読める。
だからギャンブルで最強、だからこそ最高の見返りがある。
勝てば必ず要求に応えてくれるが、勝負内容次第でもある。
まあ、その度合いもまず差し出すお金の量にもよるけども。
だから………
「フルハウスだ、私の勝ちだな。」
「だが君は赤いフラッシュに拘ったね?」
「興味が湧いた、要求に応えよう。」
「何?手っ取り早く、悪くなく、一人前であるのを示して独立する方法?
思ったより回りくどいけど返答するだけなら掛け金には見合うか。」
「簡単だよ、今まさに君がやっている事だ。
黄金虫は闇夜から光に向かって飛んでくる。」
「エサドワ、食屍鬼が蔑視されてると言うなら是非見返してやっておくれ。
我々はいつでも歯を立て牙を刺せるが、あえてそうしないだけだとな。
言葉や態度で示さないと退屈がそれを忘れさせてしまうのだよ。」
「さあ、今日の事を忘れないように
今日の日を彫った金貨を君に授けよう。」
【屍突く鳥の落とし物(ロウ)】
ルビーさんが来ない。
早く来る事はあっても遅れる事はなかったのに。
まだ来ない。
その後日。
「あの食屍鬼が来ないと思ったら……」
「しかも二人して………部隊内の別個体達も聞いていないらしく……」
「性格からして蒸発よりかは『空間事故』にでも……」
叔父達の話が断片的に聞こえてしまった。
ルビーさんだけでなく父も行方知れずになったんだ。
また私は留守中に置いていかれたのだろうか?
空をぼんやり眺めていたら烏が数羽飛んできた。
「何もないよ。」
何でもあるけど、欲しい物だけない。失くなる。
この家はいつもそうだ。
不貞腐れていたら、頭に何か落ちたのに遅れて気がつく。
羽根だ。
だけど真上を見ても烏はいない………
誰が落としたんだろうか?
今でも判らないけど、少し落ち着いた記念に取っておいた。
【奇蹟の輝石の軌跡(サンゴ)】
彼は元からアイドルというわけではなかった。
むしろアイドルを支える方、所謂マネージャー。
……とは名ばかりで、薄給と善意で縛られた奴隷であった。
というのも夜鬼という遊翼種のクソガキお子様アイドルは
容姿·歌唱力·舞踏どれもトップクラスで同時にプライドも高かった。
が、ストレスの履け口をあろう事がハイパーシーン一人に負わせていたのだ。
メイクアップもレッスンも特に受けずともポテンシャルの高い彼を
マネージャー業で封殺する事により、その輝きを隠させていたのだ。
だが私に見つかったのが運の尽き。
彼を解放し、同意と同列の立場を得て、磨き上げた。
彼等食屍鬼はトップアイドルが妬く程魅力的なのだ。
私はその原石を徹底的に磨き出してやっただけ。
こうして皆の視線と心を釘付けにする新たなアイドルが誕生したのであった。
「エサドワ〜、大変だよお。
○○が自ら翼を折って、ビルから落ちて
サンゴ色の塊になっちゃっていたよ」
「あらまあ、最近人気低迷していたからって
地獄でライブするつもりだったかな?」
それは戦車の砲弾も数発は凌げる強化硝子であり
スクリーンでありキャンパスだった。
命懸けで、単身で、己の肉体のみで
ヒト等に代わって侵略者相手に戦っていた父。
それを彼等は、母まで、強化硝子ごしに
父を見ていた………もとい見世物にしていた。
誰よりも強く、それに安心しきって
ついには守られているという立場を忘れて
彼等は刺激を求め始めたのだ。
父に強制的に薬物投与し
より強く、より狂った様を見て
時に賞賛し時に恐怖し娯楽化していた。
だがある日、そう、よりによって
母が幼い弟を連れていった日である。
侵略者の位置が其処の近場だったのだ。
敵はとうに殲滅したけど、尖過ぎた殺意が
彼等まで硝子越しに囚えてしまった。
強化硝子は父の突進と同時に砕け散り、彼等と対面。
真っ先に泣き出した弟は真っ先に狙われた。
部屋全体がシャクドウ色のキャンパスになってしまっていた。
唯一無傷で生き残ってくれた防犯カメラが映してくれた事実。
彼等は、母は、自分達が
画家でもあった父の作品化してどう思ったのだろうか?
知りたくもないね。
その人は、『昔』の父にそっくりな人。
いや、複製(クローン)の存在だから似ていて当たり前だし
父は今も昔も優しい人には違いないだろうけど。
『あの日』を境に変貌してしまったから。
「ルビーさん、大丈夫?!」
「なんとかね………」
病室で横たわっていたその人は弱々しい笑みで返す。
身体に厳重に巻かれたニュウハク色の包帯。
さて、何度巻かれ直されたのか。
巻かれた面積は負傷部位と同等だろうから
手酷くやられたのだろうと。
誰にどうされたのか尋ねるが濁す一方である。
「ルビーさん、貴方が困るって事は
私にとって都合の悪い事なんだよね?
いいよ、教えて。
大丈夫、私なんでも受け入れられるから。」
「君は強い子だね…判った、言おう。
でも落ち着いて最後まで聞いてね。」
「判った、約束する。」
意思表示のため彼の優しくも大きい手を取って握った。
「………イルドにやられたんだ。
ばっさりと袈裟斬りみたいに引っ掻かれて…とは言っても
錯乱というか暴走というか、異常な状態だったけど…」
「『あの日』みたいに?!」
「そこまで知っていたのかい……ああ、そうだった。
ごめんよ、私が前線を彼に任せきりなばかりに
悲劇を繰り返させてしまった。私が弱いばかりに…」
「でもまた止めてくれた。それに生き残っててくれた。
ルビーさんは強いよ。」
「ありがとう……君はイルドと同じで優しい子だね……」
とてもとても寒くて遠い所までルビーさんと来た。
地理の勉強はしたけど窓は隠され磁石も無いと位置も判ったものじゃない。
護送とは言ってたけどどうなんだか。
何せ食屍鬼の血筋で産まれたからには切り離せない施設とは聞いたけど…
本来は父親同行だけど今回はルビーさんが保護者代行……
「工場?!なんか厳つい外観だけど?!」
「元収容基地だからね。」
『●肉加工場』、この妙な空気と冷気も●肉特有の物か。
大丈夫、もうそういうのは見たし克服したから。
「中は危ないから私の手を離さないように…」
「……あっ!!お、お父さん?!」
「えっ、ちょ」
いるとは聞いていない、だがあの巨体とワイルドに乱れた髪はまさしく…!
両手をいっぱい広げても全然足りない大きな腰回りに抱きついた。
が、見上げたそこに見えた顔は……
「…………え?目が、違う………」
「どこのガキだぁ?」
「すいません、シストさん!
その子はイルドの子で私が保護者代行として連れて来たんです!」
「あ〜なるほど、言われて見りゃあ『片方』親父似だな。よう来たなぁ」
下品に大笑いしながら大きい手で雑に頭を撫で回す。首痛いんだけど
この工場の工場長にて作業員のシリシャスシストさん。
彼も複製の食屍鬼でお父さんと違うのは目の色、と品
食屍鬼として産まれたからには●肉を定期的に摂取しないと衰弱死をするらしい。
肉が体質に合わなかったばかりに摂取できなかった結果
痩せ衰えて亡くなったヒトがいた、という噂話を聞いた事があるが…
「喰わなきゃ死ぬが、喰うほど力が漲る。
ガタイの良い個体は●肉にたくさん有り付けた個体と思っときな」
「だから『あの日』からお父さんも変貌したの?」
「そうなるね……けど」
「おじさん、食べやすく加工してね」
先程にも増して大きく笑った拍子に口から冷気みたいのが漏れてる…
「こいつぁ大したもんだ、本物だ。
そうだ、俺達ぁたまたま生きるのに必要なのが●肉なだけだ。
お前も、お前の親父もヒトには違いねえ。ほらよ餞別だ。」
と渡されたのは中に妙な粒粒の入った濁ったソーダ色のアイスキャンディー。美味しくなぁい何これ…
私は、あえて指紋がはっきり見て取れるくらい手垢の付いた金貨を一枚出した。
「ふむ、お嬢さんはエサドワと言うんだね。」
「なるほど、大した生まれだね。それで勝った時の報酬は…」
「ふむ、わかった。それでは始めようか。」
こうして、当時辛うじてルールを覚えたポーカーで勝負した。
酒場に子供が一人で来ただけでも驚いただろうに
賭けに挑んで更に周りを驚かせただろう。
このヒトがたまに酒場に現れる事を祖父が酒の席で漏らしたのが運の尽き。
目的のために手段を選ばないのは貴方達だけではないのだ。
…そのヒトも食屍鬼だけど体の半分は異形。
特にあの大きい耳…いや、目?
あれがギョロギョロ動く度に私の思っている事をズバリ言い当てる。
このヒトはヒトの心が読める。
だからギャンブルで最強、だからこそ最高の見返りがある。
勝てば必ず要求に応えてくれるが、勝負内容次第でもある。
まあ、その度合いもまず差し出すお金の量にもよるけども。
だから………
「フルハウスだ、私の勝ちだな。」
「だが君は赤いフラッシュに拘ったね?」
「興味が湧いた、要求に応えよう。」
「何?手っ取り早く、悪くなく、一人前であるのを示して独立する方法?
思ったより回りくどいけど返答するだけなら掛け金には見合うか。」
「簡単だよ、今まさに君がやっている事だ。
黄金虫は闇夜から光に向かって飛んでくる。」
「エサドワ、食屍鬼が蔑視されてると言うなら是非見返してやっておくれ。
我々はいつでも歯を立て牙を刺せるが、あえてそうしないだけだとな。
言葉や態度で示さないと退屈がそれを忘れさせてしまうのだよ。」
「さあ、今日の事を忘れないように
今日の日を彫った金貨を君に授けよう。」
ルビーさんが来ない。
早く来る事はあっても遅れる事はなかったのに。
まだ来ない。
その後日。
「あの食屍鬼が来ないと思ったら……」
「しかも二人して………部隊内の別個体達も聞いていないらしく……」
「性格からして蒸発よりかは『空間事故』にでも……」
叔父達の話が断片的に聞こえてしまった。
ルビーさんだけでなく父も行方知れずになったんだ。
また私は留守中に置いていかれたのだろうか?
空をぼんやり眺めていたら烏が数羽飛んできた。
「何もないよ。」
何でもあるけど、欲しい物だけない。失くなる。
この家はいつもそうだ。
不貞腐れていたら、頭に何か落ちたのに遅れて気がつく。
羽根だ。
だけど真上を見ても烏はいない………
誰が落としたんだろうか?
今でも判らないけど、少し落ち着いた記念に取っておいた。
彼は元からアイドルというわけではなかった。
むしろアイドルを支える方、所謂マネージャー。
……とは名ばかりで、薄給と善意で縛られた奴隷であった。
というのも夜鬼という遊翼種の
容姿·歌唱力·舞踏どれもトップクラスで同時にプライドも高かった。
が、ストレスの履け口をあろう事がハイパーシーン一人に負わせていたのだ。
メイクアップもレッスンも特に受けずともポテンシャルの高い彼を
マネージャー業で封殺する事により、その輝きを隠させていたのだ。
だが私に見つかったのが運の尽き。
彼を解放し、同意と同列の立場を得て、磨き上げた。
彼等食屍鬼はトップアイドルが妬く程魅力的なのだ。
私はその原石を徹底的に磨き出してやっただけ。
こうして皆の視線と心を釘付けにする新たなアイドルが誕生したのであった。
「エサドワ〜、大変だよお。
○○が自ら翼を折って、ビルから落ちて
サンゴ色の塊になっちゃっていたよ」
「あらまあ、最近人気低迷していたからって
地獄でライブするつもりだったかな?」
【混合結晶に困惑する石膏】
「やあ、始めまして。君達が会頭エニア様からの御推薦の」
「どうも、お呼びがかかって光栄だ。『真赭の尾』のオパールだぜ、末尾は16」
「始めまして、『真赭の尾』のカルメルタザイトです。末尾は0」
賑わう街道、その一角。テーブル一つを占領していたのは食屍鬼達。
各自個性的な装いだが青肌と銀髪そして黒白目は同じ。
二人を人伝に呼び集めた個体はジプサムという者で特殊な環境下で生活…
「なんというか、俺の立場が災いしちゃったんだろうねえ。気楽に引き篭もれる〜と思ったらよ。
研究や生産に使う化合物とかがたまに届かない事があってさ。
一度や二度ならまあバイト君のかわいいミスだと思って見逃していたけど、2桁やられちゃったらもう、ね。」
「つまりぃ?」
「つまり、秘匿の存在である貴方だからこそ発生した人為的ミス…或いはミスに見せかけた横行の可能性が?」
ご名答。
ジプサムは鉱山の所有者にて、製造非公開の個体。末尾は53。
だから宛名を間違えるのは普通ありえなく、それが2桁も続いたらうっかりでは済まされないのである。
だが、うっかりさんを殴り飛ばすだけならジプサム本人でも出来るのだがそうもいかない理由もある。
「費用が嵩むだけなら別に構わないけど、相場が偏るイコール資源も偏るだからよろしくないし、犯罪があったとしてもぶっつり商売を切らせるわけにはいかんのよ。」
アザルシスの商売はひたすら自由。だが自由の中にもある程度の秩序は要る。
つまる所、今回の依頼は原因究明をしてやんわり鎮められないかという内容だ。
「経費も報酬も会頭がたっぷり出してくれるよ。頼める?」
「お任せください、動向を探るのは得意ですから」
片や犯罪者の気持ちが判る者、片やフラグ(個人情報)を覗ける者。
探偵顔負けの異能力者コンビは同胞の頼みを承知。
…………そして今に至る。
ここは国境が絶妙な位置にある鉱山。
「…の所有者である末尾No.53、ヒーラーズゴールド」
「誰だよ、思い出して噴いたら化けてても怪しまれちまうじゃねーか」
「それをこれから探りに行くのでしょう?手筈通りに行きましょう」
新米食屍鬼カルメルタザイトが先輩個体への挨拶を兼ねた見学を頼み込む間に、オパールが架空の坑夫や事務員に化けて事務所やらで物証探しをする。
アポ無しでも堂々入れるのはアザルシスの邑楽かさ抜きにしても、セキュリティの雑さが伺える…
「んん?誰だお前」
お前等、と言わない辺り化けが通用したのはまず判った。
所有者たるヒーラーズゴールドは極めて巨躯。
顔は、青肌と銀髪に黒白目と確かに同胞の特徴はあるが果たして。
「私はカルメルタザイトと申しまして…」
「あ!そうか新入りだなあ!
なんも聞いてねーけど、真っ先にオレの所に挨拶しに来たんだな!
気に入った、顔も良いが器量も良い!
よし付いて来い、オレの縄張りを案内してやろう!」
新入り?の肩を掴んで上機嫌で奥へ行く……
「あーあー、あったあった。明らかに此処で採れる物じゃねーから俺でも判ったわ。
でももう全部売約済み、しかも元値の4割増で横流し。ひでえ話だ」
あっさり事務所に侵入して端末から情報を色々盗み見ていたオパール。
パスワードは一番上の引き出しに入っていた合成紙にしっかりメモ書きしてあったのであっさり突破できた。此処は鉱山の収入と従業員の給与が伴っていないのだろう。
もうこれだけでもジプサムの荷物を盗み出した証拠になり得るのだが……
とにかく、日を跨いでから二人は鉱山を後にした。
「ゴールドさんがどうも私を気に入ってくださったらしく、色々と面白い事を聞けましたよ」
「セクハラ王の話か?それとも成金王か?」
「真面目に聞いてください、あと王と付ければ私が何にでも興味を示すと思ったら大間違いですよ」
ヒーラーズゴールドという名は製造番号含めて偽物。
黒人種の人間で『食屍鬼の顔を利かせりゃどんだけ金が動かせると思ってんだ。奴等判ってないのがムカつくぜ。だから俺は話に乗ったんだよ!』
「『白い境界に』と」
「げー、歯糞絡みかよ〜。まあ食屍鬼の嫌がらせするっつったら妥当か」
「そう、そして証言通りなら他の非公開の方も利用されていると」
食屍鬼は計65人いてうち6人が非公開の存在だ。
「許し難いですね。後の5名も暴いてやりたいです…!」
「おいおい、今回はともかく見返りも無いのに何か熱くなってんだよ…」
「兄弟達も話を聞いて疼いてますよ!」
「ああ…はいはい。とりあえずジプサムに報告な」
カルメルタザイトは、5人分の食屍鬼のなりそないをその身に宿して肉体と能力を得てやっと食屍鬼として認められた異形。
食屍鬼に対する想いはどの個体よりも熱い。
【魅惑された魅惑石】
成果はあったらしく、やんわりと相場が戻ってきているようだ。
金銭のみならずジプサムと友好な関係を結べた事が何よりの収穫…
「あの方、すごい潔癖症なんですよ。外に出てくれただけでも信頼してもらえたのが伺えますね」
「ははーだからか、俺のがリーダーだっつってんのにお前としか握手しなかったの」
談笑をしながらまたテーブルを囲んで人待ちをしていた。
失礼の無いよう予定より一時間早くから…
「実績を経たとはいえ会頭エニア様から直々お越しくださるのは本当にすごい事ですよ。どんな方なんでしょうかね?」
「なぁにタダの色物ババアさ。でも下手な人外より長生きしてるしメンタル強いし…」
「あーらよく御存知ね★」
豪快に椅子から転げ落ちるオパール。
ご機嫌な星型サングラスの老婆…いや熟女が現れた。
彼女がアザルシスの商会の頂点であるエニアである。
「貴方達はモーちゃんからの推薦だったんだけどね、でもちゃんとジプちゃんの頼みを叶えてくれたみたいね。さすがだわ〜」
「モーちゃん?」
「モーシッシさんですよ、特殊な条件下で未来予知ができてその精度は私の異能を遥かに凌ぎます。凄い先輩からの御推薦ですよ!」
ご名答。モーシッシの主でもあるエニアは上機嫌だ。
今回もその愛する食屍鬼からの推薦である依頼となる。
「芸能商会の中心になってるトルネンブラ族は御存知?」
「音を生業にしてるんだっけか。楽器や楽譜作りが中心で『音』による暗号生成も売りにしていたとかなんとか」
「あら貴方詳しいわね。そうなの、正しく音を売っていたんだけどどうも最近妙に売れすぎてる楽器に苦言を出しているみたいでね」
売れてるなら良いではないか、と言うのは素人考え。
異形たる彼等は儲け度外視で生産をしている職人肌でもあり、それ故か許し難い事実に直面している。
「楽器を弾きもしないのに大量に買って、中には道中でバラバラにして捨てちゃった輩もいるんですって!」
アザルシスにおいて芸能を娯楽や生業にできる者はかなりの富裕層であり品位も期待できるのだが、それなのに確かに違和感がある。
「客もアレだが、売り子の方で問題ありそうだな。異形は作るだけ作るが、それを売って金に替えて且つ顔を立てるのが人間の役割のはずだ。それが人妖の信頼関係じゃねーのか?」
「そのとーり、それに黒い真似させるわけにはいかないのよね。『そっち』はギベちゃんの管轄だからあまり波風立たせたくないのよ」
顔色を変える二人。
ギベちゃんことギベオンは、あまり聞きたくも関わりたくもない大悪漢である。
つまる所、ギベオンの逆鱗を避けながら楽器の妙な売れ筋を調査してくれとの事。
トルネンブラ族は手先は器用ではあるが交渉においては不器用、そんな彼等に代わって打開策を見出さねばならない。
……というわけで売り子を捜してみて廻った。
オパールは購入者であるセレブな熟女に化け中。
「…あっ見てください、あの方!」
眼鏡を掛けた顔色の悪い食屍鬼がいた。
そして彼と談笑している売り子も顔色の悪い食屍鬼……
「いえ、売り子は食屍鬼ではありません。
ですが仲が良さそう?どういう事でしょう…」
少し揺さぶればわかるさ、と早速オパールが向かった。
やんわり割って入る形で、小話も挟み、小さめの楽器を選んで購入。
弦楽器、打楽器、管楽器…いづれも見事な造り、それをザイトに持たせすぐに退散。
顔色の悪い巨漢達は良い客を見送った事だろう。
「眼鏡の方はラピスラズリさんでしたね。経歴からしてトラブルメーカーのようで…
挨拶出来なかったのは惜しいですねえ」
「ろくでなしで一部界隈じゃ有名だ、関わらなくていい。あっちからもアクション無かったし仲間以外に興味無いんかも。
それはそうと俺はもう違和感に気づいてしまったぞ。
封を空ける際は密室で使い捨ての服装にしようぜ」
というのも、よく消臭は出来ていたが楽器からも売り子からも『薬物』特有の酸味の強い不快な臭みをオパールは瞬時に嗅ぎとっていたのだ。
「たまに公衆便所でよ、残り香がクソの臭いに混じっていたってのが何度かあったから俺には馴染みのある臭いだね。値段も中毒性も程々だったから広い層で使われて流行っていたが、取り締まったのか在庫がなくなったんだかいつの間にかフェードアウトしていたな」
「それがどうして楽器に…」
「どうしてって、内部や隙間に仕込んだ上で『吸う』動作を極自然に出来るから合理的じゃねーか。…まあそんな顔すんなって、お前の言いたいこたぁわかる。こりゃ職人や商人への冒涜だよ。」
持ち帰って検査を掛けた結果、すぐに反応が出た。
想定外の濃度にザイトは愕然とする。
人外基準の強い濃度で、人間が吸い続けたら即中毒、命に関わる。
「なんて事…!」
「ところで、ラピスラズリは共犯者だったりしなかったか?」
「いえ、彼は臓器売買のみで薬物には関与していません。耐性はありましたけど」
「あ、そう。んじゃひょっとしたら商売は偽物同士でやっていたかな。
…実はよ、先日見た鉱山の横流しリストの中に化合物以外にも色々あって、薬物や楽器もあったんだ。あいつぁそんな趣味無かっただろ?グルなんじゃね?」
「可能性は高いですね……」
さらなる調査のために後日再度訪ねたが、二人はすぐに引き返した。
引き返した理由含めてエニアに全容を報せた。
「まあルチルちゃんが来たの!」
「何ヶ月か前からラピスラズリが連れてきたみてえだ。まあダチをダチに紹介したんだろうな」
「そして、というかやはりというか、呪われていましたね……」
「あらあら、大変だわ。ちょっと奥まった所にいたから他の商人が少ないのが幸いだけど、彼には申し訳ないけど彼以外にはやんわり退避させないとね」
ラピスラズリにはルチルという親友にて同胞がいる。
頬にⅩⅦと掘った食屍鬼だ。
彼は近くの者に無自覚に呪いを掛ける異能力者でその内容は『瞬間的な多大な儲けと幸福感の後に、永続的な膨大な貧困と不幸に陥らせる』。
小悪党も大悪漢も呪いには敵わない。アザルシスの呪いは特別強い。
「食屍鬼チャロアイトと名乗る白人種の男性。末尾No.54を謳っていますが当然偽りです、何せ私達はその方を既に知っていますからね。チャロアイトみたいにバイトがてらに薬物を売ってるチンピラとは違います」
「で、売れだしたのは呪いのお陰か。んでもって多分連中は気づいてない、ドギツい栄枯盛衰劇だなこれは。化けの皮どころかケツの毛も亡くなるわ、なっはっは」
「ほっといても成敗されるみたいだし前以て知れて助かったわ〜、貴方達良い仕事するわねえ。顔も良いけど。私もモーちゃんも今後より一層推させてもらうわ。」
「『真赭の尾』をご贔屓に!」